中央改札 交響曲 感想 説明

「悠久自由曲PB 敵討ち、ちょっと前」
蟲田


カララン・・・・・・!

 店のドアに取り付けられたカウベルが、やわらかい音で来客を告げた。

「いらっしゃい!」

 威勢のいい声とともに、ラフな格好の少女、パティは愛想良く声をかけた。

「こんにちは。」
「・・・・・・・・。」

 入ってきた二人組みの客は、ショートの金髪に淡い茶色の瞳を持つ女で、優しい笑みを浮かべている。もう一人はやや癖のある長い薄紫の髪と赤い瞳を持った男だった。鋭い視線で肉厚の剣を持っていなければ、背の高い女性と間違えられてもおかしくはないほど整った顔立ちをしている。15歳のパティから見て女は6〜7年上で、男は3〜4年上のように見える。

「お二人で・・・、宿を取るの、食事だけ?」
「ああ、二部屋な。こいつでどのくらい泊まれる?」

 パティが尋ねると男の方が答え、布袋を放り投げてよこした。結構重い。中をのぞくと金貨が詰まっている二部屋でも二週間は余裕で泊まれるだろう。

「ウチは両親経営だから安心して、15日間分の前払いでいいですね。」
「おう、頼む。リーゼさん、残りの半分を渡しとく。」
「はぁ・・・。」

 男が残りらしいお金を女に渡すと、女(リーゼという名らしい)は複雑そうな顔をして受け取った。

「お客さん、宿帳に名前をお願いします。」
「はい。」
「へいへい。」

(どこかのお嬢様が護衛を雇った?姉弟・・・には見えないか・・・。)

 パティがこの客の関係を勘ぐっていると、二人とも名前を書き終えた。

「ええと、リーゼ・アーキスさんと、ルシード・アトレーさんですね。」
「ええ。」
「ああ。」

 並び番号の部屋の鍵を渡しながら宿の設備の配置などの説明をする。二人は一度部屋の様子を見に行ったがすぐに戻ってくると、食堂で話し込み始めた。

「飯の時間まで結構あるな・・・。」
「これからどうしましょう。」
「さぁな。ゼファーが慌ててなかったからそんなに悲観的になる必要ないんじゃないか?」
「そう、なんですか?」
「ま、図書館かどっか行って調べるつもりだけどな。」
「お金はどうします?まさか、まだ・・・。」
「なんだ、まだ気にしてんのか。悪人から物とっても犯罪じゃねぇからいいんだよ。」
「だからってあそこまでコテンパンにした。強盗さん達から脅し取るのは・・・。」
「しょうがねぇだろ。この時代の金なんて持ってねぇんだし、それともあのまま野宿のほうがよかったのか?」
「・・・・・・・・・・・。」
「一週間して成果がなければ、バイトでも探すしかねぇな。」

 リーゼが黙るとルシードは席を立ちパティに近寄ってきた。目つきが鋭いのでパティは一瞬ドキッとしたが、聞かれた図書館の地図を書いてやると、

「飯時には戻る。ここの飯は美味いらしいじゃねぇか、期待してるぜ。」

 と言って、ニヤッっと笑って出て行った。笑うと言葉使いと眼つきは悪いが案外いい人そうに見えた。

 こうして、このさくら亭は新しい客を迎えた。


      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇

 ルシード達の体感時間で3時間前・・・

「戻ったぜ。」
「お疲れさまです。」
「あ、お帰りなさい。ルシードさん。」

 定時パトロールから帰ってきたルシードを出迎えたのはメルフィと意外な人物だった。

「あ?なんでリーゼさんが事務所にいるんだ?」
「フフッ、今日の私は家庭科の先生なんです。」

 それだけ言うとリーゼは台所に消えていった。

「?」

 ルシードが訳がわからないといった顔をして、メルフィにどういうことか尋ねた。
 メルフィによるとクーロンヌにメルフィとティセの二人が尋ねたときに、ティセが「ケーキ作りを教えてほしい。」とリーゼにねだったところ、「今度の休みの日だったら教えてあげれる」と快く引き受けたそうだ。
 ティセの読み書きの先生をしているメルフィもティセの教育によいと思ったらしい。自分でも買出しの手伝いをしたようだった。ちなみにティセの読み書きは他のメンバーも教えていたが、バーシア、ルーティとビセットには向いておらず、ゼファーは自分の趣味も教え込もうとして、ルシードの教え方は厳しすぎるとみんなに止められ、フローネが配属するまでには自然とメルフィが教えるということになっていた。

「他の連中は?」
「まだ、戻ってません。」
「また寄り道か?」
「・・・ふぅ。」
「よし、ティセのケーキが美味かったら、全部食っちまおう。不味かったら、寄り道した連中に全部食べさせよう。」
「・・・ルシードさん。」

 メルフィは呆れ顔でルシードを見た。

「どっちにしても、日頃の行いのバチがあたったんだろ。」

 ルシードがメルフィの視線を軽く受け流していると、ティセとリーゼが台所から出てきた。ティセはケーキを、リーゼは紅茶を盆に載せて運んでいる。

「あ、お帰りなさい。ご主人さま〜。ティセ、ケーキ作ったんです。」
「ああ、聞いた。わざわざ悪ぃなリーゼさん。」
「いいえ、私も楽しませてもらいましたから。」

 いいながら、リーゼはとりあえず今いる分だけの紅茶をカップに注いだ。

「まず、ご主人さまとリーゼさんが食べてください。」
「ん、俺か?・・・お前の作ったケーキなんて食えるのか?」
「大丈夫ですぅ。」
「お前の大丈夫は信用しねぇ。」

 言いつつも席につき多少歪なケーキを口に運ぶ、紅茶を配り終えたリーゼも一口食べる。

「どうですかぁ。」
「まっ、まずくはねぇな。」
「ええ、おいしいわ。」
「とくに、この青い実が新しい感じだな。」
「この丸いのですね。」

 ルシードとリーゼが感想を言った時、ゼファーが二階から降りてきた。

「戻ったか、ルシード。」
「おう、ゼファー。お前も茶にしろよ。」
「ああ、貰おう。」

 すぐにリーゼが、ゼファーの分の紅茶お用意する。
 ゼファーは席につき言った。

「ハッザン姉弟のアジトの家宅捜索でまだ発見できないアイテムがあるらしい。ルシードお前たちは何か見ていないか?」
「いや、魔力銃以外それっぽのは見てねぇ。何がねぇんだ?」
「『逆行の実』という魔法の木の実と、魔物を封じてあったキャプチャー・カプセルだそうだ。」
「どんな実なんだ?」
「キレイな球体で、青い木の実に見えるらしい。」
「え。」

 ゼファーとティセ以外の声が重なった。

「「「キレイな球体で、青い木の実?」」」

 歪なケーキの端にキレイな球体で、青い木の実がのぞいている。

「おい!ティセ!この実どこで買ってきた!?」

 ルシードの怒り具合から、状況を把握していないティセにも自分が何かやったらしい事に気付いたようだ。泣きそうななりながら言う。

「ごめんなさいですぅ。その実は裏庭拾ったんですぅ。」
「このバカ未満!そんなもの俺に食わすな!」
「あ、あの私も食べてしまったんですけど・・・。」
「と、とりあえず、わ、わたしはどうすれば・・・。」
「落ち着け。人体に影響はない。」

 一人だけ落ち着き払ったゼファーの声に、騒いでいた5人の視線が集まる。

「ただ、過去に跳ばされてしまうだけだ。」
「どこがただ!どこ・・・」

 言い終える前にルシードとリーゼ姿が掻き消えた。


「・・・がっ!」

 ルシードとリーゼが現れたのはどこかの街道のような場所だった。見渡すかぎりの草原にまっすぐ道が続いている。

「ル、ルシードさんここは?」
「俺に聞くなよ。」

 道を眺めると舗装されてはいないが、かなり長い年月踏み固められたのであろう道が続いている。

「まあ、人の通りも多そうだし何処かは聞けばわかるだろう。それより、どっちにいく?」
「え?どっちって。」

 リーゼが尋ね返すと、ルシードは道の先を指差しながら答えた。

「進むべき方角。あっちと、こっち。」
「どっちでもいいんですか?」
「どっちに行っても同じだろ。ここがどこですらわかんねぇんだからよ。」
「じゃあ、・・・これで。」

 リーゼはイタズラを思いついたときの子供のような表情を一瞬だけ見せると、棒キレを拾い上げとまっすぐに立てると手を離した。


      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「あのあと山賊どもが出てきてくれてよかったな。」

 道を歩きながらルシードはボソッと呟いた、ルシード達が棒キレの倒れたほうに歩き始めてしばらくすると山賊たちが襲い掛かってきた。見慣れないルシードの服装を見て金持ちだと勘違いしたらしい、「命が惜しかったなら、金と女を置いていけ。」と定番のセリフを吐いてきた。当然ルシードはそんな脅しに屈するはずもなく、これ幸いとばかりに叩きのめしてあり金を取り上げると、そのまま縛りあげ転がしてきた。

「しっかし、リーゼさんもおっかねぇな。逆らわねぇようにしすっか。」

 縛りあげたあと、隠れさせていたリーゼのもとに行くと「どっちが盗賊ですか。」と言われたので、「悪人から物盗ってもいい」と言い返したのがいけなかった、このエンフィールドにたどり着くまで永延と説教された。

「しかし、まあ、生徒会長みてぇによく説教のネタがつきねぇもんだな。」

 愚痴を言いつつ歩いていると、かなり古いが立派な建物が見えてきた。宿屋の娘が書いてくれた地図によると図書館はここのハズだった。『旧王立図書館』そう看板の出された扉をくぐる。

「ようこそ、どういったご用件でしょうか?」

 受付で接客をしていたのは、黒髪を腰よりも伸ばした娘だった。パティよりも1、2歳年上のようだが、ピシッとした赤いスーツを着ているためもう2、3歳年上に見えた。ルシードが時間に関する魔法か魔法の木の実のことを調べたいと言うと、まったくの無表情のまま魔導書のコーナーに案内し、住民でなければ貸し出しできないことを伝えた。
 ルシードは早速関係ありそうな本に片っ端から目を通していく。さすがに保安学校を優秀な成績で出ただけあってペースがかなり早い、『古代魔術全書』『時の魔道書』などなど次々本が重ねられていく。ルシードの周りでも緑色の魔道師のローブのような服を着た学生らしい男女数人が、同じように本を読んだり、ノートを広げているのでルシードは学生に戻った気分になりながらも、読書に没頭していく。(魔力、集中力、上昇)



「・・・っと、この印を・・・して。こう・・・・。」
「ん?」

 その声が聞こえてきたのはルシードが何冊目かの本に目を通し終えたときのことだった。声に気が付いたのは、かなり日が傾いていて学生達がほとんどいなくなったせいだろう、もともと静かな場所だがほとんど何も聞こえない。

(だれの声だ?)

 ルシードが辺りを見渡していると、案内をしてくれた娘が近寄ってきたてあいわらずの無表情のまま言ってきた。

「申し訳ありませんが、そろそろ閉館時間です。」
「あんたの声じゃねぇな・・・」
「は?」
「いやな、誰かの声を聞いたような気がしてな・・・。」
「声ですか?」
「ああ。」

 言われて娘が耳を澄ます。

「こう・・・て、◇◎#★▽∞∴%」

 今度ははっきりと聞こえた。娘がハッとして駆け出す、声を出した人間に察しが着いたらしい。いままで無表情だった彼女がはじめてほんの少しだけ慌てた様子を見せたのでルシードが着いていくと、魔道書コーナーの一角で金髪をツインテールにした女の子がなんとも不器用な魔法の印をきっていた。

「マリアさん。」
「うぇ!イ、イブ。」
(なんだ、子供のイタズラか。)

 イブと呼ばれた受付の娘が理路整然とマリアというらしい女の子を叱るのを聞きながら、自分のいた時代とは随分違うもんだと考えていた。いつだったか、シェールが魔法の使い方のかかれた魔法の本が無いと騒いでいたのを思い出したからだ。

「ぶ〜☆、そんなことないもん!」
「・・・・・・・・。」

 イブが頭痛をこらえるように額に手を当て、マリアから目を離した瞬間だった。

「し〜んくらびあ〜!」

 マリアが呪文を唱えた。呪文に答え精霊が踊り、空気が震えだす。が、BFでメンバーの魔法の失敗に悩まされていたルシードにはわかった。この魔法は暴発する!
 とっさに反応できずにいるイブを引き寄せ本棚の陰に隠れた瞬間だった。

どかーーーーーーん!!

 爆発音とともに辺りが煙に包まれる。

「げほ、なんなんだいったい。爆発する呪文じゃねぇだろ今の。」
「マリアさんの魔法の89%の確立で失敗します。」
「使わせるな、そんなヤツに魔法を。」

 今まで鬱陶しいと思っていた魔法条例のありがたみが始めて分かった。ルシードが顔を引きつらせているが、魔法を暴発させた本人はしきりに首をかしげている。

「あれぇ、おっかしいなぁー。」
「あれぇ、じゃねぇ!なに考えてんだ、おまえは!」
「ぶ〜☆、ちょっと失敗しただけでしょ!」
「どこがちょっとだ!これが見えねぇのか!」

 周囲には爆発の影響で本が散乱している。

「う、・・・な、何で図書館の人間でもないあんたにそんなこと言われなきゃなんないの!」

 一瞬、言葉に詰まったもののマリアはそう言い返してきた。ルシードの目がいつも以上につり上がった。

ゴツンッ!

「いったぁ〜、マリアのことぶったぁ〜。」
「ああ、それがどうした。あんまり、かわいくねぇーからお仕置きだ。」
「マリアさん」

 ルシードには噛み付いてきたマリアだが、イブに声をかけられるとピンッと背筋を伸ばした。
 イブは一通りマリアに説教すると、罰として散乱した本の整理と掃除を命じた。かなりの量なので女二人では辛いだろうとルシードは手伝いを申し出た。イブはそんなことしてもらう理由が無いと断ったが、ルシードが無視して本の整理を始めると自分の作業に没頭し始めた。
 マリアの手際は悪かったので、結局ルシードとイブがほとんどの仕事を終わらせた。帰り際、イブは「今日は助かったわ。」と礼を言った。あたりはすっかり暗くなっていたが、ルシードは少しいい気分でさくら亭に戻った。


      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 ワイワイ、ガヤガヤ、ザワザワ

「あ、お帰りなさい。」
「おう、悪かったな、遅くなっちまって。メシはもう終わりか?」
「大丈夫よ、適当に座ってて。」

 ルシードが戻ったとき日は暮れていて、さくら亭の客層も食事客から飲み客に変わっり、もっとも忙しい時間帯になっていた。声をかけてきたパティも厨房にルシードの食事を出すように伝えると、あちらにこちらにと走り回り始めた。

「座ってろっつってもなぁ。」

 開いてる席がどこにもない。しょうがないので殻樽を椅子がわりにカウンターに無理矢理座る。しばらくしてカウンター越しに料理が出される。

「はい、今日はパスタ料理だそうですよ。」
「ああ、ありがと・・・、なにやってだ、リーゼさん?」
「見てわかりませんか?お手伝いです。」

 なんだか妙に浮かれ声でリーゼが答えた。

「?なんかあったのか?」
「ルシードさんが出掛けてからすぐに、かわいい子にナンパされちゃったんですよ。」
「ん?誘いに乗ったのか?珍しぃ?」
「あら、気になります。」

 リーゼは年下の男をからかうような視線をルシードに向けた。

「どーせ、ケーキ屋巡りだろ。相手を散財させねぇようにな。」

 子ども扱いされたルシードはムッとして減らず口で返したが、リーゼはくすくす笑いながら話続ける。

「その子はですね。褐色の肌に、白髪で、いつも帽子を・・・」

 ルシードは根負けし、リーゼの方を見ないようにパスタを食べることに没頭し始めた。ふてくされたルシードを見てクスリっと笑ったリーゼは厨房に戻っていった。
 もくもくと食べつずけたルシードが食事を終える頃。

ガシャーーーン!バリーーーン!

「□◇◇▽☆※◎★☆▽☆※〜!」
「☆◇※◎★※×▽ッッ!!」

 酔っ払いどうしで喧嘩が始まったらしい。呂律が回っていないので聞き取れないが口汚く罵り合っている。たまに悪口だけでなく皿と料理も飛んでいる。

「お〜、なかなか激しいな。」
「ホントねぇ〜、あなたはどっちが勝つと思う?」

 独り言に相づちを打たれて横を見ると、いつの間にやら大胆に肌の露出した服を着たライシアンの女がいた年はルシードと同じくらいだろうか。かなり酒が入っているのか呂律が怪しい。ライシアンの女はルシードの腕を取るとグイグイ引っ張ってくる。まるで酔っ払ったバーシアのようだ。

「放せ。酔っ払い。」
「酔っ払いじゃないわ、由羅ちゃんよん。あなた強いんでしょ〜。」
「そりゃ、アイツ等よりはな。」

 ライシアンの女、由羅はさらに体を寄せてきた。強引に振り払って部屋に戻ってしまおうと考え始めた頃。

「ちょっとあんたたち!」

 パティが目を三角形にして喧嘩していた酔っ払いに蹴りを入れた。厨房にいたはずのリーゼも出てきてライシアンの女に抱きつかれているルシードを見て、珍しく不機嫌な顔をすると、「早く止めてきてください。」と有無言わせぬ口調で言い、ライシアンの女を引き剥がした。

「てれえ、おんあのくひになまいひなうなよ。」
同時通訳→(てめぇ、女の癖に生意気なんだよ。)
「そうら、ろんなはひっとんでろ。」
同時通訳→(そうだ、女は引っ込んでろ。)
「ふざけるんじゃないわよ。」

 いつの間にやら喧嘩はパティVS酔っ払い達の喧嘩に変わっている。酔っ払いが手を出すといけないので、しょうがなくルシードが止めに入る。

「おい、オッサン。そのへんにしとけ、せっかく気持ちよく飲んでたんだろ。」
「おおよ、しろとのあとろいっぺいのたらにいきるるんだ。」
同時通訳→(おおよ、仕事の後のいっぱいのために生きているんだ。)
「ややとけろ、こんらおんらみらいらかおのにぃちゅんに、さかのいめさなんへはなんへまかんねぇっへ。」
同時通訳→(やめとけよ、こんな女みたいな顔の兄ちゃんに、酒の美味さなんて分からねぇって。)
「ひがいねぇ〜。」
同時通訳→(違いねぇ〜。)

 所詮は酔っ払いのたわごとと思えるほどルシードは出来た人間ではない。眉がピクピクっと動く。

「喧嘩売ってんのか?」
「けんけ、おんらみらいらかおななにでりのふぁ。」
同時通訳→(喧嘩?女みたいな顔なのにできるのかぁ。)
「おんらみらいなにだしふゃたたまひへぇ。」
同時通訳→(女みたいに泣いちゃたまんないぜぇ。)

 そこまで言うと酔っ払い達はゲラゲラと笑い出した。ルシードの奥底で何かの切れる音がした、擬音にするならばプッツンという音だ。

「上等だお前等!!表へ出ろ!!」



「へ、口ほどにもねぇ。」

 酔っ払いが4人ほどさくら通りにのびている。ルシードが酔っ払い相手に負けるはずもなく勝負は書くのが面倒くさいぐらいあっさりついた。
 ルシードはパティに酔っ払いたちの勘定の額を聞くと、手近にいる男の財布を抜き取りパティの放った。と―

「オラオラオラ〜」
ヒュゴオオ!

 掛け声と共に繰り出された槍が頭の上を通り過ぎていく。とっさに身を屈めていなければ頭が無くなっていたかもしれない。
 槍は斧のような刃とフックがついたハルベルトで普通のものよりかなり長く出来ている。槍の持ち主の青年も槍に劣らぬ立派な体をしており背が190cm近くありそうだ、16、7歳ぐらいに見えるのでまだ身長は伸びるかもしれない。

「てめぇ、何しやがる。」
「黙れ、酔っ払い。この自警団の1番槍アルベルト様の目の黒いうちはこの町で犯罪は起こさせん!!」

 髪の毛を逆立てた青年はジャキッと槍を構えると突進してきた。早いが力任せの攻撃だったのでルシードが簡単にかわすとムキになって槍を振り回し始めた。パティが「アルベルトさん、違う。」と言っているのだが聞く耳を持っていない。しかし、自称とは言え自警団相手に反撃するわけにもいかないと思っていたルシードだが、このままでは埒が明かない。
 しょうがなくルシードは剣を抜き刃を返す。

「なめんじゃねー!」

 ルシードが剣を返したのが気に入らないのか、アルベルトの攻撃がますます大振りになる。一合、二合と攻撃を払いのけ、真上から振り下ろされた攻撃をサッと横に逃れる。

ガギッ

 ハルベルトが地面にめり込んだのを見逃さず、ルシードは素早く槍を踏みつけて相手の動きを止める

「くッ。」

 アルベルトがうめくがいまさら遅い。とどめにこめかみを狙って剣を振る。
 次の瞬間ルシードの体は宙に浮いていた。

「チッ!」

 とっさに相手に蹴りを入れその反動でことで体制を整え着地する。そこで何が起こったのか理解する、アルベルトが槍を上に乗っかったルシードごと振り上げたのだ、恐ろしいまでの膂力だ。

「馬鹿力出しやがって。」
「ふん、オマエもチンピラのわりにはできるようだな。」
「誰がチンピラだ。」

 言いながら走り出し手首を振る、ほんの少しの動作だが手首のしなりで隠し持っていたナイフが飛ぶ。アルベルトが槍で弾いた時にはルシードはすでに剣の間合いにいた。右腕に一太刀入れ、返す刀で左腕を狙う。と―
 急に強いプッレシャーを感じて跳びすさる。バックステップでアルベルトから3歩ほど離れたがプッレシャーは追って来る。慌てて剣の鞘を引き抜き体の前に突き出す。

バキィィイィ!

 盾代わりにした鞘が砕け、衝撃が鞘を持っていた左腕から伝わってくる。

ズザザザザ!

 と靴と地面が擦れ、5mほど滑ってからようやく止まる。鞘を砕いた本人は50歳ほどの男だった白髪を全て後ろに固め、口ひげを生やしている。何者かは知らないがかなりの実力者だ。

(やばいな・・・。)

 一撃を受けただけなのに左腕が痺れて上がらず、無理に踏ん張ってしまったため足にもかなり負担が掛かってしまった。しぶしぶ、ルシードは目の前の初老の男には敵わないことを認めた。剣を放り出し降参のポーズをとる。

「あ〜、負けだ、負け。」
「む?」
「リカルドおじさま。」

そこにパティが出来て事情を説明してくれた。パティがリカルドと呼ぶこの人物は自警団の第一部隊の隊長であるらしい。事情を聞きアルベルトを一喝すると先に病院行くように言うと、こちらに丁寧に詫びを言ってきた。ルシードが「あの状況じゃしかたねぇ。」と言うとホッとしたような顔をした。

「そう言ってもらえるとありがたい。しかし、あの一撃を受けて立っていた者は初めてだ。」
「ふん、それよりも部下に教育に力入れな、警告もなしにいきなり攻撃を仕掛けてくる警察があるか。」
「いや、真に面目無い。」

 リカルドはもう一度わびると「よかったら今度、自警団を身に来てくれ。」と言い残し引き上げていった。




「いてて、まだ痺れてやがる。」
「大丈夫ですか、ルシードさん。」
「ん、まあな。」

 夜もふけ由羅のようなさくら亭びいきの客達も家路につき、さくら亭は夜らしい静けさを取り戻している。
 ちょうど左腕にテーピングをしていたところに、リーゼから声をかけられルシードは顔を上げた。見るとパティも後片付けを終えたのか自分達用にハーブティを用意している。

「あんまり痛むようだったら、クラウド医院に行った方がいいわよ。」
「そこまですることもねぇさ。」

 聞けばクラウド医院というのはこの町一番の名医が開業している医院らしい。ふ〜んとルシードが適当に相づちを打っているとリーゼが図書館での成果を聞いてきた。

「ああ、大丈夫だろ。実自体のことはわかんねぇけど、このての魔法ってのは長続きしないらしい。」
「そうですか。」

 リーゼは安心した。ルシードに任せていれば大丈夫と信頼しているものの、帰れないかもしれないという不安はぬぐえなかった。

「魔法?なんの?それを調べにエンフィールドに来たの?」
「え!」
「ああっと・・・。」

 ルシードは面倒臭くなって今日あった出来事を順に話した。ルシード達が未来から来たと聞いてもパティは半信半疑だったが、図書館での話になると大笑いをした。

「ハハハ、マリアね。あの子らしいわ。」
「笑い事じゃねぇ、魔法条例違反で緊急逮捕されるぞあんなもん。」
「まあ、あの子は確かに酷いけど・・・。そんなに珍しいの魔法って?」

 後半はリーゼに対しての質問である。

「ええ、ルシードさん達に会うまで、魔法使いなんて知り合いにはいなかったわ。」
「へ〜。今とは随分違うのね。」
「でも、変わらない物もあるわ。」

 と言って、リーゼが取り出したのはビールの大瓶。なみなみとジョッキに注ぎ飲み干す。

「ングングング・・・、プハァーッ!あ〜っ、この一杯のために生きてるのよねぇ!」
「じゃあ、おやすみ。」

 バーシアに付き合わされてひどい目を見たことのあるルシードは逃げ出そうとしたが、遅かった。腕をしっかりと掴まれリーゼが満足した朝方までつき合わされた。





 次の日もルシードは図書館に向っていた。腰の剣は真新たらしい鞘に収められた剣が下げられている。
 この鞘を買いに行ったマーシャル武器店では怪しげなホーリナイフなる短剣を進めてくる店主に代わり、対応しきたエルフの女は無愛想ながらも剣がぴったりと収まる鞘を見つけ出してくれた。支給品の武器には勿体無いと思ったルシードだったが、他に代えは無いと言われたので買い取った。
 店を出るとき大きなリボンをつけた少女が入れ替わりに入ってきて、さくら亭で新しく雇った菓子職人がおいしいケーキを作ると噂で聞いたので確かめに行こうと誘い始めた。二日酔いで唸っていた菓子職人のことを考えると彼女がケーキにありつけるのは午後からだろう。

「あのー、すみません。」
「ああ?」

 突然声をかけられてルシードはかなり柄の悪い声を出したが、声をかけてきた本人、青い髪をポニーテールにしたエプロン姿の少女はまったく気にすることなくボケボケっとした声で尋ねてきた。

「ジョートショップは〜、どちらになるのでしょうか〜。」
「ジョートショップ?」

 先ほど通り過ぎてきた店の名前だ職業柄そういったことはすぐに覚えてしまう。今いる学園通りを真っ直ぐ行くといいと、教えると少女は礼をいい教えた方向とまったく反対の方向へと歩き出した。

「違う!」
「はい?」
「そっちじゃねぇ、こっちだ。」
「まぁ〜〜、重ね重ねすみません。」

 ルシードが慌てて言うと少女はもう一度礼を言い、今度はまったく関係ない方向に歩き出した。

「だから、違うって言ってるじゃねぇか!」
「はい?」
「ッ〜〜〜。」

 ルシードが頭を抱えると少女が心配そうに言ってきた。

「どうかしたか?頭が痛いのですか?」

 ルシードは怒鳴る気力も失せてに言った。

「ティセ並みの天然ボケだ。」

 結局、ルシードはジョートショップまで少女を案内した。
 ジョートショップで、優しそうな女性と犬みたいな魔法生物が天然ボケ娘を店の中に招き入れ入れるのを確認すると、ルシードは再び図書館に向った。

「だいぶ寄り道しちまったな。」

 空を見上げれば日がだいぶ高くなっている。ルシードがちょうどこの時代に飛ばされた時間帯だなと、思ったその時、

ガンッ

「ぶッ!」

 見覚えのあるドアに顔面を強打しルシードは奇妙な声を出した、痛みに思わずしゃがみこむ。そのドアがガチャッと開き中から人が顔を出す。

「あら、ルシードさん。戻ってきたんですね。」
「ああ?」

 そこにはいつもと変わらぬメルフィの姿があった。



「で、なんで戻ってこれたんだ?おかげでえらい目見たぞ。」
「私午後から、パティさんとお友達のピアニストさんにケーキの焼き方を教える予定だったんですけど・・・。」

 事務所の食堂でルシードとリーゼが言った。ルシードの鼻はまだちょっと赤い。

「ああ、あの実は丸一日しか効果が無いそうだ。」
「てことは、図書館に缶詰になったのは無駄だったてことかよ。」
「図書館!おお、過去の蔵書か!一体どんなものがあった?」
「あ?ああっと・・・」

      ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
二日前・・・

 ここはエクイナス山のとある洞窟。先日ここで、魔法特性を持つものならなんでも捕獲・封印できるマジックアイテム、キャプチャー・カプセルを使って窃盗を働いていたハッザン姉弟がBFに自首してきた。
 その後、家宅捜索に訪れた保安局員によって殆どの物が押収され、何も残っていないように見える。が、何も無いはずの壁が突然開き、誰かが出てきた。いや、誰かではないナニかだ。猫のようにも見えるが、背中にこうもりの羽が生え宙に浮いている。ハッザン姉弟の使い魔「恋次郎」だ。手?(前足)には卵のようなカプセルが握られている。

「にゅふふふ、このカプセルに封印されているゼグレイドで、ご主人様たちをお助けするにゃり!」

 そう言って気合を入れると恋次郎は洞窟を飛び出した。
 1時間後―

「にゃ〜〜〜、止めるにゃり。」

 恋次郎はカラスに追いまわされていた。持っていた卵のようなカプセルがエサになると勘違いされたらしい。最初は逃げ回っていた恋次郎だが、ふと自分の持っているカプセルを使って追い払えばいい事に気付く。恋次郎は川のそばに降り立つとカプセルのボタンを押すとカプセルを放り投げる。

「出てくるにゃり。ゼグレイド。」

ピカッ

 光とともに出てきた物は! ・・・真ん丸い木の実だった。木の実はころころと転がり川に流されていく。

「あにゃ?カプセル、間違えたにゃりか?」

 カーカーカーとカラスが騒ぐ狙うべきカプセルを見失い、標的を恋次郎に変えたようだ。

「にゃ、にゃ、にゃ、ちょっと待つにゃり。」

 カラスは待たない。

「助けてにゃり〜〜〜。」

 恋次郎の悲鳴がエクイナス山に山彦になって響いた。一方、丸い木の実は川を流れバードソング・リバーを流れていった。


――――――――――――――――――――――――
後書き
 最後まで、読んでいただいた方、ありがとうござました。作者です。
 ハッザン姉弟、結構いい味出しているキャラだと思うのですが、あまり印象に残らないキャラたちでしたので、登場させずに話の種になるマジックアイテムの持ち主ということにしてみました。そして、舞台になるのはエンフィールド。悠久1の主人公が流れ着く2年前という設定です。組曲では悠久1、2のキャラとPBのキャラが共演していますが、悠久学園の中ではなくエンフィールドのなかで出会わせてみたかったなーと思いまして書いてみました、どうだったでしょうか?
 それでは機会がありましたらまた私の駄文にお付き合いください。最後にもう一度、皆さんありがとうございました。


2005年 1月3日 原作 悠久幻想曲3 PerpetualBlueより  「悠久自由曲PB 敵討ち、ちょっと前」 蟲田
中央改札 交響曲 感想 説明