中央改札 交響曲 感想 説明

悠久自由曲PB ご主人さま
蟲田


「えい!」
「続けていきます!」

 バーシアはその裏庭からの声で目を覚ました。気だるそうな動作で頭をかきながら、キョロキョロあたりを見渡すと、メルフィがカタカタとワープロを叩いていた。そこでようやくここが自分の部屋ではなく、事務所であることを思い出す。時刻はだいたい12時前と見当をつけ自分が何をしていたのか思い出す。

(ああ、そういえば反省文を書かされてたんだっけ。)

 昨日の晩、寝煙草でシーツに穴をあけてしまったことで、メルフィに反省文書かされていたのだがのだが、最後の最後でインクツボをひっくり返し、朝一番に書き直しをさせられた。反省文を書き終わったところまでは覚えてはいるのだが、その先のことは覚えていないところをみると、そのまま寝てしまったのだろう。

「ふぁあああ」

 アクビをしながら大きく伸びをすると、メルフィが声をかけてきた。

「起きたんですか、バーシアさん。」
「おはよ。がんばっているわねフローネ。ルーティ以上なんじゃない?」
「ええ、ルーティさんと違って自主的にですけど。」

 数日前エンプレスの封印を解いてしまった一件は、ワイアンが訴えなかったため、本部に魔物と遭遇したとだけ報告していたが、フローネとルーティは二人はリーダーであるルシードに一週間の再研修期間として、フローネに普段の1.5倍とルーティに二倍の量の訓練とゼファーの犯罪講座を受ける罰を命じられていた。

「で、なんで何で裏庭でやってんの。」
「ああ、フローネさんが、ゼファーさんに仕事の合間でいいから杖術を教えてほしいと、頼んだそうですよ。」
「ああ、今日のゴミ当番はゼファーか。熱心なこと。」

 メルフィは、のほほんとした口調で言ったバーシアを物言いたそうな顔で見つめ、ため息をつきながら言った。

「そろそろお昼ですから、二人を呼んできてください。」
「は〜い。」

 バーシアは面倒くさそうに立ち上がると、煙草に火をつけながら事務所を出て行った。


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「イヤ〜、もう訓練はイヤ〜。」
「うるせぇ。」
「ちょ、ちょっと待てよルシード。何でオレまで。」
「ついでだ。」

バタン 
と― 訓練室の扉が鳴る。ルシードがルーティとビセットの襟首を掴んで拷問室・・・いや、訓練室に連れて行った後、足でドアを閉めた音だ。現在1時、昼食後の小休止の後すぐに連れて行かれたことになる。
 それ見送っていたゼファーにフローネが声をかけた。

「あ、あの。ゼファーさん。」
「どうした、フローネ。」
「私もあのくらい訓練をしたほうがいいのでしょうか?」

 放って置けば倒れるまで訓練を続けようとするマジメなフローネだ、ルシードに付き合わされキツイ訓練をさせられているルーティを見て、自分も何しかしなきゃならないと思ったのだろう。

「いや、大丈夫だ、おまえはよくやっている。」
「そーそ、必要以上することないって。疲れるだけよ。」

 ゼファーの言葉にバーシアが同調した、いつもならルシードに監視される立場なのだが、ルシードがルーティに掛かりきりだし、口うるさいメルフィも仕事の続きをしにとっとと事務所に戻ったため、いつも以上にのんびりしている。

「ですが・・・。前回の戦闘で何も出来なかったのに、私だけ特別扱いされてるような気がして・・・。」
「それはないな、ルシードはそんな男ではないし。本当におまえが戦闘で何も出来ないと思っているのなら、前線から外しているはずだ。」

 フローネの不安をゼファーが即座に否定した。リーダーの座を退いてから、「ゼファーさんは何も言わなくなってしまった。」と、メルフィに嘆かれている彼だが、このように積極的にメンバーの相談に乗っている。

「でも・・・。」
「でも、な〜に。ほら、この頼りがいある先輩に言ってみなさい。」

 まだ納得しないフローネに、「マジメ過ぎるなーこの子」と思いながらバーシア。

「この前、センパイに、どうしたらセンパイのようになれるんですか?って聞いたんですけど・・・。」
「・・・けど?」
「そんなのやるだけ無駄だから、フローネのペースでやればいいさ、と・・・。」
「あー、あのね・・・。」

 バーシアにはルシードの言わんとしている事が理解できたが、説明したくとも言葉がうまくででこない。

「ルシードみたいに、攻めてよし、守ってよし、なんて万能型ってヤツはね一種の才能だからさ。自分には才能がないから、努力して万能型になろうってのは無理なわけ・・・」
「無駄・・・ですか・・・。」

 フローネの顔が一段と暗くなった。ヤバイと思ったバーシアはゼファーに助けを求めるような視線を送った。ゼファーはやれやれといった仕草をしてから、フローネに言った。

「要するに、自分なりのスタイルを持て。と言っているんだ。」
「スタイルですか?」
「そうだ、これだと言える自分の武器、自分の役割といってもいい。これはどんな仕事でも言えることだがな。」
「私のスタイルはどんなものがいいんでしょう・・・」

 フローネは今ひとつイメージがわかないようだ。

「人にこれだと言われたようなものは、自分のものとは言えんだろう。」
「そうですか・・・。」

 と―

「あやややややや〜っ!ひぇえええええ〜!」

ドンガラ、ガッシャン!バリバリーーン!

 ティセの悲鳴とともに、大量の皿が割れるような音がする。フローネは慌てて、ゼファーもしょうがないという顔で台所に向ったが、バーシアはまたかという顔をして―

「あー。そろそろ、槍の手入れしなきゃなんないのよね。」

 と言いつつ作業室に逃げ出した。片付けの手伝いをしたくないらしい。フローネとゼファーが台所に駆けつけると案の定、割れた皿の前で耳のとがった少女が右往左往していた。少女が行ったり来たりするたび、緑色の髪を結ったポニーテールがピョコピョコ跳ねている。緑色は地毛ではなさそうだ、髪の根元はヒースの花の色をしている。

「これは・・・。」
「う〜む、まるで台風が通った後だな。」
「あう〜、ごめんなさいです〜。」

 ゼファーは、ティセにメルフィへ報告をさせ、フローネに掃除道具を取りに行かせると、自分は大きな破片を集め始めた。静かになると訓練室からの音しか聞こえなくなる。

(ほら、ルシード、大きな音。事件だ!事件!)
(逃げようとすんな。)
(バキッ)
(ティセがまたなんかやったんだよ。助けに行こうよ!)
(ゼファーに任せろ。)
(ゴンッ)

 ほどなくして二人が戻ってくる。フローネはテキパキと掃除し始めた。それを見た、ティセがうらやましそうに言う。

「あう〜、フローネさんはすごいですぅ。」
「え、どうして?ティセちゃん。」
「はい、フローネさんは『しゅつどう』のお仕事も出来てぇ、お掃除も得意ですぅ。たくさんご主人様のお役にたたてうらやましいですぅ。」
「あら、ティセちゃんもお掃除とかして、センパイの手伝いをしてるじゃない。」

 フローネは微笑みながら言った。

「でも〜、このまえバケツを主人様の目の前ひっくり返してから、かえって邪魔だから俺の手伝いをしようとするなって言われました。」
「あ、あは、あはは。きっと、たまたまセンパイの機嫌が悪かったのよ。」
「そうだな。しかし、ルシードも心が狭い。」
「まったくですぅ、今週はまだ三回しかしてないのにぃ。」

 一瞬の沈黙、先に口を開いたのはゼファーだった。

「・・・それだけやれば十分だ。・・・しかし、ルシードは心が広いな。」

 言ってることが見事に真逆だ。それを聞いたティセの顔が少し暗くなったのを見て、フローネは慌てて話をそらした。

「そ、そういえば。ティセちゃんってどういう経緯でウチにきたの?」
「主人様に助けられたんですぅ。」
「そういえば、あの時はまだフローネはいなかったな。あれは今年の4月、悪霊が出たと通報を受けた時のことだったな…」


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「なんで俺だけこんな裏道行かなきゃなんねぇんだ!」

 ルシードは旧市街の狭い通りを走っていた。きちんと区画整理され造られた新市街の町と違い、ルシードの走っているシープクレストの旧市街は道が入り組んでおり、また、古いものも多い。少しわき道に入ってしまうといつも薄暗く、いつ捨てられたのかわからないようなゴミが散乱している所もある。悪霊を追っていたBFのメンバーは、そのまま追いかける班と裏道を通って退路を断つ班分かれることにしたが、ルシード以外のメンバーが裏道を行くのはどうしてもヤダと嫌がった。今のルシードだったら殴って言うことを聞かせているのだろうが、当時まだ配属したてということもあり、他のメンバーに遠慮していたのかもしれない。

「ま、説得してる時間が惜しかったからな。」

 ルシードはわざわざ声を出して、自分に言い聞かせた。と―

「・・・・・・・・。」
「あ、なんだ?」

 すこし先に人影が見える。ルシードは最初、小柄な酔っ払いが早々に酔っ払っているのだろうと考えた。そろそろ夕暮れ時だ、この旧市街には酒場が連なってい通りもあるし、なかにはいかがわしい店が並んでいる場所もある。気の早い酒場はもう開いているのだろうと考えた。こんなところに酔いつぶれているのなら、何が起こっても自業自得と言うものだ。しかし、

「う・・・うぅ〜ん・・・。」
「あ?」

 その人影のうめき声に聞いたルシードは驚いた。特に観察をしなかったのでよくわからなかったのだが、人影はルーティぐらいの少女だ、こんなところに寝てていいような年ではない。しかし、今は任務中だ。

「悪ぃな。俺も急いでんだ。親切なヤツに通りかかるのを祈ってろ。」

 と、言って通りすぎたルシードだったが、数mいったところで立ち止まる。しばしその場で悩む・・・。

「・・・チッ。わかったよ、助けりゃいいんだろ、クソッ。」

 少女に近づきながら無線でバーシア達に「俺ぬきでやれっ!」と、命令すると一方的に通信をきった。近づくと薄暗くても少女の様子がわかってくる。少女は汚れてあちこちが裂けてしまっている服を着き、フードつきのマントをかぶっていた。

「このご時世に行き倒れかよ?おい、しっかりしろ!」
「ああ・・・うう・・・。」

 熱でもあるのか少女は苦しそうにうめき声を上げた。ルシードは熱を測ろうと少女マントのフードをおろした。次の瞬間、ルシードはギョッとした。別に少女の顔が恐ろしいものだった訳ではない。どっかの町のナンパ師なら、「数年後が楽しみ、楽しみ。」と言いそうな顔である、特に尖った耳とヒース色の髪が特徴的だ。

(・・・・・どうする?)

 ルシードの顔は、何かとんでもない難問を突きつけられたように歪んでいた・・・。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


  バーシアは少女の顔を眺めながら、新米リーダーのことを考えていた。

(ルシード・アトレー准等官。保安学校での成績きわめて優秀。実技科目、特に武道においては同学校の教官でも敵わないほどの腕前である。しかし、反抗的な態度が多く、そのせいで何度か学年主席を逃している。それでも面倒見がいいのか他に原因があるのか、後輩からの人望が厚かったらしい。当シープクレスト保安局で行なった入局審査の際、魔法の潜在能力が判明。本人の配属希望は第一捜査室であったが、今期より任務中の事故で右足を負傷したゼファー・ボルティに変わり、第四捜査室「ブルーフェザー」の新リーダーとして、室長待遇で配属する。)

 と、ここまでが談話室に、置きっぱなしになっていた資料に書かれていた内容である。他にもルシードの年齢や身体データ、魔力特性などが書かれていた。資料の出所は未だにわからないが、いつのまにか回収されていたところを見ると、ゼファーが意図的に置いていったものだろうと、バーシアは思っていた。配属されて間もないビセットやルーティはともかく、バーシアはゼファーに次いで2番目の古株である。「保安学校を出たとはいえ、新人でしかないルシードを前線で補佐してやれ。」とゼファーは暗に言っているのだ。

(ゼファーめ、アイツをどうしろってのよ。)

 アイツというのはルシードのことである。ルシードの第一印象は?と聞かれたら、メルフィはいいかげんと断言するだろうが、バーシアは掴み所の無い性格と答えるつもりでいた。

(配属早々転属願いを出すは、担当外の事件に出動するもりはないと公言し、他の部署の雑用をボイコット。担当内の事件が起これば嬉々として出動し、途中で任務をほったらかしにしてこの少女を助けた。)

 最初はただ出世したがっているだけかと思っていたが、それだけのヤツならば少女のことを後回しにして任務を遂行するだろう。もっとも、ルシードが抜けたおかげで、悪霊との戦闘はボロ負け。悪霊を取り逃がしてしまった。

(まあ、この子を助けたことに関しては文句はないけど・・・、この子の事もなんかありそうね・・・。)

 ルシードは旧市街ので助けたのだから、シュメルツ診療所あたりにでも運べばいいものを、少女をわざわざ事務所に運び込み、メルフィがやるって言った看病をバーシアに押し付けた。バーシアには何も考えていないようにも見えるし、何か意図があるようにも見えた。今ルシードの本人とゼファーはこの隣の部屋(ゼファーの私室)で、なにごとか話し込んでいる。バーシアが考え込んでいると、少女がうめき声をあげた。

「うう・・・。」
「そろそろ起きそうね・・・。」

 バーシアは座っていた椅子から立ち上がると、ルシード達を呼びに言った。


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「ちょっと、ルシードさん。どういうつもりなの!」
「あぁ?お前もしつこいな。」

 ルシードはメルフィの言葉を聞くと、鬱陶しそうな表情をした。

「当たり前です。いくらなんでも素性の知れない娘を事務所に住まわせるワケにはいかないでしょう!」
「名前ならわかっただろ、ティセ・ディアレックつってただろ。」

 ルシードの助けた少女の名前はティセ・ディアレック、他の個人的な記憶は一切なく、頼る人も行くあてもないとのことだった。また、本人が命の恩人のルシードの手伝いをしたい。と言い出したのでルシードは二つ返事で了承した。

「そう言う問題じゃないでしょう!」
「いいじゃねぇか。ゼファーも反対しなかっただろ。」
「・・・・・・・・・。」

 ルシードが切る札を出すと、メルフィも押し黙った。ルシードの勝手な決定にてっきり反対すると思っていたゼファーが、ルシードの決定に反対しなかったのだ。ゼファーはルシードに目配せすると「本部との交渉は俺がやろう。」といい事務所に引っ込んでいる。

「でも、ティセさんのご両親は心配しているかもしれないのよ。」
「そりゃねぇよ。」

 ルシードは妙に確信地味た口調でいった。メルフィは怪訝な顔をして尋ねる。

「・・・ルシードさん、ティセさんのこと何か知っているの?」
「ん、・・・ディアレックって名前を聞いたことがある。それに行く当てないってヤツを放り出せってか?」
「この町にもそう言う人を受け入れる施設は・・・」
「異種族を受け入れるわけねぇよ。」

 保安局が定めている行動マニュアルどおり行動するならば、メルフィが言っていることが正しい。しかし、残念ながら人種や異種族に対しての偏見や差別が強いのも確かだ、施設に入ってもあまり良い思いをするとは思えない。

(自己中なリーダーだと思っていたけど、いろいろ考えていたのね。)

 とは思ったものの、生真面目な彼女は、なかなか考えを変えることが出来ない。

「・・・それはそうですけど。全面的には賛成できないわ。それにリーダーが進んで規則を破ってどうするんですか。」
「あ?わかったよ。リーダーらしいところを見せろってんだろ。」

 と言うと、ルシードは真顔になり言い放った。

「リーダー命令だ。逆らうな。」
「ルシードさん!!」

 ルシードの態度にメルフィがキレかけたとき、タイミングよくゼファーが戻ってきた。

「落ち着け。メルフィ。」
「あ。ゼファーさん。でも・・・。」
「安心しろ。もし問題になったならルシードが責任をとる。」

 納得出来ないでいるメルフィを落ち着かせるようにゼファーが言った。

「あ?俺がか?まあ、しゃあねぇか。で、そっちはどうだ。」
「ん?ああ、何とかなりそうだ。しかし、これでお前の転属はまた伸びたぞ。」
「げ、マジかよ。」

 この会話に、メルフィは驚いた。いったいどんな手を使ったのかはわからないが、ゼファーは本部にティセを置くことを了承させたらしい。

「ゼファーさん。本部はティセを置くことを、納得したんですか?」
「フッ・・・。本部にも弱みと言う物があるからな。」
「なんか、納得いかないわね・・・。」
「ウダウダ考えすぎなんだよ。老け込むぞ。」

 ルシードの暴言にメルフィはため息をついた。

(いったい、誰のせいだと思っているのよ。)

 その時、ドアの隙間から3人の様子をティセが覗いていたことには、ルシード達は気付かなかった。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ったく、忙しい一日だな。」 

 ルシードは深夜の通りを駆けながら毒づいた。その目はせわしなく動き、通りすぎる物や影を見落とさないようにしている。なぜこんな時間に走り回る必要があるかというと。あの少女、ティセがいなくなったと言うのだ。そこでBFメンバーは全員で探しに出ることにした。今回は珍しくメルフィも捜索に加わった。なんのかんの言ったところで、メルフィもあの少女のことを心配しているのだ。ちなみにゼファーだけは万が一、ティセ戻ってきたときのことを考え、事務所で待機している。

(病み上がりなんだ、そう遠くへは行けねぇはずだ。だとしたらどこだ?)

 心当たりはなかったが、それでもルシードはティセの行きそうな場所を推理しようとしていると―

「グァァァァァァァァァァァァァァァァァッ!!!!!」
「きゃあーーーーっ!!」

 遠くで地鳴りのような叫び声と共に、メルフィの悲鳴が聞こえてきた。ルシードは声の方角へ全速力で走り出した。



「この辺か!」

 見当をつけた角を曲がると、路地の奥の袋小路にメルフィと悪霊が見える。昼間の戦闘に間に合わなかったルシードにはこの悪霊には見覚えが無かったが、バーシア達が戦った悪霊に間違いは無いだろう。メルフィは悪霊に追い詰められたかたちで、立ちすくんでしまっている。ルシードとの距離は約50m。

(間に合うか!?)

 ルシードが際どい分析を始めた時、悪霊の背後に人影が飛び出してくると、石を悪霊に投げつける。なんの変哲もない石だが、強力な魔力で半分物質化している悪霊にぶつかり、ガツンッと音をたてる。

「それ以上、その人を傷つけるのはゆるさないですぅ。」

 人影、ティセは声に振り返った悪霊は、新たな獲物に咆哮をあげる。その声にティセは、今ひとつ緊張感のかける声をあげ、目を回す。

「こっち向きやがれ!」

 その間に近づくことが出来たルシードは怒鳴りながら、右手をひねる。すると、ダブルデリンジャーが手のひらに現れる。

 パンッ!!

 小さな炸裂音と同時に発射された、特殊な破魔の弾丸は悪霊を浄化、四散させた。


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 気を失ったままのティセを事務所に運び、空き部屋に寝かせると他のメンバーも集まってきた。医術の心得もあるゼファーが薬を飲ませると、熱のせいで乱れていた呼吸も確かのものになる。

「よし、もう大丈夫だ。この薬には安眠の効果もある。朝までは目を覚まさないだろう。」
「そうか、ご苦労さん。」

 そう言うとルシードは他のメンバーを見渡した。

「さて、そろそろ言っとくか。」
「そうだな。頃合だろう。」

 ルシードの呟きにゼファーが同意した。どうやら二人で隠し事をしていたらしい。

「こいつは、へザーだ。」
「は?・・・へザーって、・・・もしかして、S級危険種族!?」

 一番最初に反応したのはバーシアだった。その驚きの言葉にメルフィも重いいたる。

「まさか!・・・ティセさんが!!」

 ルーティとビセットは、まだ分からないらしい。

「ビセット、知ってる。」
「さ、さあ。」

 入局の際の講習で必ず特に重要と習うはずのことなのだが、全く覚えていないらしい。ルシードは無言のまま、二人にゲンコツを落とした。

「とにかく、へザーは我々と全く違う価値観を持っている。善悪の基準、異種族や弱者への考え、根本的な常識が違がいすぎる。それが、S級危険種族たるゆえんだ。」
「で、S級危険種族てのは見つけ次第駆除すべしってことになってる。ここまではいいか?」

 ルシードはゲンコツを握ったまま、ルーティとビセットを睨みつけた。二人はサッと頭をかばうとカクカクと頷いた。バーシアは真剣な顔をし、試すように聞いた。

「気付いていたならどうして助けたの。駆除すべしって習ったんでしょ。」

 バーシアに睨まれ、ルシードも真剣な顔をしていたが、ヘッと皮肉げに笑うと言った。

「ただ、無抵抗のヤツを殺せなかっただけだ。それに博識の吟遊詩人に聞いたことがあったんだよ。」
「なにを?」
「ディアレック。へザーの言葉で例外って意味の名前を持つ、俺達と同じ価値観を持つ連中のコトをな。」
「ふ〜ん。」

 バーシアはそれしか言わなかったが、ニヤッと笑って見せた。

「で、お前たちはこれを聞いてどう思う?ここに置くことに異論はあるか?」

 ゼファーは皆に自分の意見を言うように促した。

「リーダーのコイツが決めたことだからね。アタシは従うわ。」
「私もいいよ。ティセが危険種族って言われてもイメージ湧かないもん。」
「オレも無いよ。」

 まだ、発言していないメルフィに皆の視線が集まる。

「私は・・・。」

 メルフィは一旦言葉を区切ると、ティセの顔を見ながら言った。

「ティセさんは、私を助けようとしてくれたわ。へザーが危険種族だとしてもティセさんは違う、私達と同じ価値観を持っているわ。ティセさんは・・・その、もう私たちの仲間だわ。」


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「って、ことがあってな。」
「あ〜、なつかしいわね〜。」

 思い出話は長い間だ続き、話し手もいつのまにかルシードとバーシアに変わっている。ルーティとビセットは訓練の疲労のせいで、自室から動けないでいるようだ。

「その後も、俺とメルフィの話を聞いていたらしいティセが、皆さんのご迷惑になるようなら一人で生きていきますぅ。とか言い始めたのを説得したりしたな。」
「用心のために、ティセ髪を染めもしたな。」
「いろいろ、あったんですね。」
「ルシードが、『ご主人さま』って呼ぶのを、止めさせようとしたりね。」
「え?良い呼び名じゃないですか?」
「・・・頭おかしいんじゃねぇのか?お前。」

 と、その時―

「きゃ〜〜〜っ!」

ガッシャー―ン!!

ティセの悲鳴とともに、皿が割れるような音、ついでにメルフィの声も聞こえてくる。

「・・・もー、これで今日お皿割ったのは何枚目!?」

 それを聞いたルシードは頭を抱えて言った。

「あの時は、あそこまでドジだとは思わなかったけどな。」
「あ〜、まあね。」
「まったくだ。」

 バーシアとゼファーもそれに同意した。

<<つづく>>

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「皆様最後までお付き合いくださいましてありがとうございます。蟲田です。メインイベント2A編その二、終了です。今回のゲストは、PBのメインキャラなのに今回も殆ど出番が無かったビセットくんです。」
「なんだよ〜、オレの扱い酷くないか!ルシードにガンガン殴られてるし。」
「ああ、それはですね。蟲田が初プレイ時にサボりまくったあなたにお仕置をと思いまして。」
「そんなこと無いぞ、オレ結構訓練してるぞ!」
「ちょっと付き合えとか、やってこい攻撃したの時だけですね。ほったらかしにしていたとき、『ビセット!今日、訓練サボったでしょ!ズルイんだから!』て、サボリの告発受けたのは彼方だけですよ。まったく。」
「え?そ、そうだったかな?まあ、いいじゃん。それよりも今回も私的設定の話なんだろ。」
「・・・まあ、いいでしょう。(戦闘ではなかなか役に立ってもらったし。)」
「で、悠久自由曲の歴史の話なんだろ?」
「はい。私の中では基本的流れは、WH&EMの時代、UQ1、2の時代、PBの時代と続いています。」
「そのままじゃん。」
「まあ、そうですね。他のSSではEMとUQ1、2が同じだったりすることもありますからね。一応ハッキリさせておきましょう。」
「あっそ、でもオレ歴史苦手なんだけど。」
「そこまで期待していませんよ。大体こんな時代だった言ってくれればいいです。」
「なんだよ、そこまでいうこないじゃん。」
「適任っぽいゼファーやメルフィと代わりたいですか?ビ・セ・ッ・ト・く・ん。」
「わかったよ。WH&EMの時代ってのは、魔法がガンガン使われていて文明レベルは低くなかったんだろ。」
「はい、そうです。獣人や魔族の和平派との交流も深く、牙人族といった混血児も多く生まれました。が、中央と田舎の貧富や生活水準にかなり差があった時代です。」
「え〜っと、それから250年ぐらいたったのがUQ1、2の時代なんだろ?」
「科学もかなり発展して、科学と魔法を融合させた錬金術も使われるようになります。」
「錬金術って魔法動力プロセッサを作り出した技術ってことにしてるんだろ。あと、この時代は科学って言っても錬金術ばっかで純粋な科学の研究者は居なかったってこと?」
「小説版2ndのオスカーさんのように少数ながらいたようですが。一般的な科学レベルは、西部開拓時代末期ぐらいだと思います。獣人や魔族との混血児達からも人間の血が濃くなるたびにその特徴が消え始め、一部の獣人種族や好戦的な魔族を残して人の世界から消えていきます。」
「この時代も当たり前のように魔法が使われていて、魔法能力者って言い方すらなかったわけだな。でも、俺この時代好きだなー。」
「どうして?」
「だって、闘技場でB-1グランプリがあんだぜ。優勝してみてー。」
「そう、がんばってね。(大武闘会常連三人衆が四人衆になるだけじゃないか?)」
「で、真打。俺たちのPBの時代だな。」
「UQ1、2より、また200年程時間が経過したわけです。科学レベルは日本でいうと戦後20年前後ぐらいかな?多分。」
「魔法動力プロセッサをエネルギーにして、装置や機械を動かすのが主流になってるんだ。」
「魔力は単なるエネルギーってわけですね。プロセッサで電気やガスを作って機械を動かすって感じだと考えた方がいいでしょうか?」
「た、多分そんな感じ。」
「で、シュメルツ診療所に入院している老人達が、幽霊を見たことが無いって言っているのをみると、魔法動力プロセッサが世に広まってから大分立ってるようですね。魔法能力者の出生率が下がったのは、プロセッサが出回るようになってからだという設定と、UQ1、2の仕事内容に除霊というのが、当たり前のようにあることを考えると。UQ1、2の時は幽霊が出るのは日常茶飯事みたいですから。」
「そうだな〜今回出てきた凶暴な悪霊が、出るなんてことは珍しいしな。」
「さて、時代背景はこんなところかな?」
「え、オレの出番、もう終わり?」
「(無視)それではまた、機会がありましたら私の駄文にお付き合いください。最後にもう一度、皆さんありがとうございました。」


2004年 11月15日 原作 悠久幻想曲3 PerpetualBlueより  「悠久自由曲PB ご主人さま」 蟲田
中央改札 交響曲 感想 説明