中央改札 交響曲 感想 説明

新・闇の逸品食べますたかやま[HP]


それはある日の午後に起こった。

ローズレイクの遊泳解放区が湖開きを宣言され、
そろそろ一ヶ月が経とうとしていた。
その日、休日のあなたはパティやトリーシャ、
クリスにアレフと言った面々でローズレイクに泳ぎに行った。
午前中の湖は比較的空いており、人とぶつかることもなく泳ぐことが出来た。
さすがに正午近くになるにつれ、
人が多くなってきたのであなた達は早めに引き上げることにした。

「それにしてもトリーシャ」
「なに?」
あなたは自慢の髪を気にしているトリーシャに話しかけた。

「あの水着はもう止めた方が「水着姿、とっても良かったぞ」
あなたの言葉の中程でアレフが言葉を被せた。
「そうでしょ、そうでしょ」
トリーシャにはアレフの言葉しか聞こえなかったようだ。
「なんて言ったって、今年の流行はあれだよ」
「あれって」
クリスは思い出したのか赤くなっている。
「あそこまで切れ込みが激しいとワンピースって言わないと
 思うんだけど。恥ずかしくない?」
「そう言うパティも珍しくビキニじゃない」
そう、トリーシャの言うとおりパティはビキニであった。
もっとも、パレオで下半身を隠せるタイプであるが。

「そう言えば、今まで見たことがなかったな」
アレフが思い返しながら言った。
あなたも思い出した限り、彼女はビキニを着ていない。
もっとも、あなたが知っているのは去年と一昨年だけである。
去年は一昨年より少しだけ切れ込みが上になった程度のワンピースだったが、
デザイン的にそちらの方が合っていたので、
パティも水着のデザインを気にするようになったかと思っただけであった。
しかし、賢明なる読者諸君は魚や鶏の件でパティに負い目があったのを知っているし、
その事に対するアクションであろう事は予想できるであろう。

「いいじゃない。何となく今年はそんな気分なの」
パティはあなたを見ながら言った。
あれから一年間でさらにあなたに負い目が出来ているのを
皆様方はよくよくご存じでいらっしゃることでしょう。

「でも、似合ってたよ」
少し悔しそうにトリーシャが言う。
「なら買い換えたらどう?まだまだシーズンは続くぞ」
アレフは考え込む彼女に言った。
「よし、今度はもっと凄いのを着ようっと」
トリーシャの台詞にアレフが「よし」と小声でガッツポーズを取った。
そうこうするうちにあなた達はさくら亭に到着した。

「いいのか、入っても?」
あなたはいつもの席に座りながら言った。
「床の張り替え作業が忙しいんじゃないですか?」
クリスが真新しい床を見ながら言った。

毎晩毎晩続くさくら亭の喧噪に床が悲鳴を上げたのだ。
そこで客に怪我人が出る前に床の張り替え作業をすることになった。
当然ながら店は休業。宿の客は別口から出入りすることになっている。

「もう今日の午前中で作業は終わっているから」
パティは氷入りのグラスを置きながら言った。
「じゃあ、明日からは店を始めるのか?」
「ええ、正確には仕込みの関係で明日の夕方からだけど」
アレフの問いにパティはオレンジジュースを注ぎながら答え、
あなた達の前にグラスを置いて彼女も座った。
「休日も今日が最後。泳ぎに行って疲れても支障がないから」
「そっか」

キィ

話している最中のあなた達の背後でさくら亭の扉が鳴った。
「あ、みっけ☆」
あなたが振り返るとそこにはマリアの姿があった。

「誰を捜しているんだ?」
「クリスに夏休み前の試験対策ノートを借りに来たの?
 それならボクが先に借りるから後にして」
アレフとトリーシャが口々に言う。
「それはもう無利子、無期限、無催促で借りているから☆」
マリアがあなたを見ながら言った。
「あのぉ、僕もノートがないと困るんですけど」
クリスの声は誰にも聞こえなかった。

「実はねぇ」
マリアがあなたに上目遣いで近づきながら言った。
「却下」
あなたはマリアが用件を言うよりも先に結論を言った。
「なんで〜!!」
「マリアが上目を使う用件にロクなのはない」
あなたはきっぱりと断言した。
「そんなことないもん」
「いや、ある。具体例を挙げようか?」
「てへへ、そんなことより」
あなたの冷たい視線を無視し、マリアは言葉を繋げた。
「この薬を飲んで☆」
彼女は緑色の瓶を出した。
「嫌だ」
あなたは端的に言った。

「なんで〜!!」
「理由一、嫌だ。
 理由二、絶対に嫌だ。
 理由三、マリアの薬だから嫌だ」
あなたは一息に言い放った。
「ぶ〜、今度は大丈夫だから」
「だったら、お前が飲めよ」
あなたはマリアにジト目で言った。
「アリサさんも『一生懸命作ったんだから飲んでもらわないとね』って言ってたもん☆」
(アリサさん、人の命に関わることを簡単に口にしないでください)
あなたは思わず天を仰いだ。

(う〜ん、アリサさんのことだから)
ケース1)飲まなかった場合
「せっかく作ってくれたんだから飲んであげないと駄目でしょ」
と、笑顔で再びショート家に送り出される。
ケース2)飲んだ場合
ジョートショップに無事に帰り着けない。

(うがあああああぁぁぁ)
思わず手を頭に乗せて頭を振る。
しかし、あなたが選択肢を選ぶことはなかった。
悩むあなたを見てマリアが口を開いたからだ。

「じゃあ、マリアが少し飲んで大丈夫だったら飲んでくれる?」
「そう言う問題じゃない」
「そう言う問題☆」
彼女はそう言うと瓶の蓋を開けた。
気のせいでなく「え〜と有効になる量が90CCだから、一口だけなら」と言う
彼女の声が聞こえてくる。

「絶対にまともな薬じゃないよ」
「ああ、絶対にそうだ」
「マリアさんの薬ですから」
トリーシャ、アレフ、クリスが口々に囁く。
「マリア、店を壊したら損害賠償してね」
店のことを気遣う一週間前に十代最後の誕生日を迎えた少女は、
テーブルを挟んで薬瓶を慎重に傾ける金髪の少女に言った。

「じゃあ、飲むね☆」
マリアは明るく全ての言葉を無視すると慎重に飲み始めた。
「てい」
あなたはアレフに目配せをするとその瓶を大きく傾けた。
「ぶっ」
金髪の少女は驚いた顔をしたが、
アレフが右手をあなたが空いた手で左手を押さえたので
瓶の中を凄い勢いで飲み始めた。

「なにすんのよ!!」
マリアが凄い剣幕であなたに食ってかかってきた。
「いや、一度くらいは自分で痛い目にあった方がいいと思って」
「危ない薬を一気に飲ませるなんて鬼のする事よ!!」
「お前はそれを誰に飲ませようとした?」
「マリアが飲むんじゃ無ければいいの!!」
「おい」
さすがのあなたも額がピクピクしだした。
その次の瞬間!!

どさ☆

倒れる音にも星マークを付けてマリアが倒れた。
「おい、マリア」
あなたが覗き込むとマリアが目を開けた。

「大丈夫みたいだね」
「ああ、失敗作みたいだ」
「マリアさんの薬ですから」
現場になっている店の看板娘以外の三人が口々に言う。
もっとも、絶対にマリアに近づこうとはしないが。

「ねえ☆」
マリアがあなたの右手を掴んだ。
「なんだよ」
「一緒に逃げて☆」
「はい?」
あなたの頭の中に?が行き来した。
「さ、二人の世界を目指して大きく羽ばたくの☆」
マリアはそう言うとあなたを普段の彼女からは想像できない力で表に連れ出した。
「翼竜召喚☆」
彼女の可愛らしい言葉と裏腹に力強い翼を持った翼竜が姿を現した。
「さあ、どこまでも飛んでいくの☆」
マリアはあなたを竜の背中に乗せると竜に命令を下した。
「はい〜〜?」
竜は未だに状況を掴めていないあなたを乗せて彼方へと羽ばたいた。

どれほど時間が経っただろうか?
「は!!」
最初に正気に戻ったのはアレフだった。
「お、おいどうする?」
「どうするって言われても、翼竜の召喚なんてマリアさんに出来るはず無いですし」
「でも、出てきてるよ」
アレフの問いに対するクリスの答えも変だが、トリーシャの発言も意味不明だ。
「とにかく追いかけないと」
パティの台詞に頷く三人。
「でも、どうやって?」
トリーシャが首を傾げる。
「マリアの爺さんに理由を話してみたらどうかな?」
結局、クリスの意見が採用された。

その後、翼竜がエンフィールド近郊を去ったことを知ったマリアの祖父は
彼女の捜索と保護を四人に頼んだ。
彼の要求はジョートショップへの依頼となり、
店員を続けているアレフと準店員のクリスが引き受けることになった。
その成功報酬はジョートショップの年間売り上げに匹敵した。
また、マリアがクリスのノートを持ったまま行方不明になったことを知ったトリーシャも
マリア回収作戦に参加することになった。
こうしてデート資金の確保と試験対策と言う暑い下心で結ばれた追撃隊が結成された。

店があるので残ることになったパティに見送られて
三人はマリアとあなたを追うことになった。
三人はショート会長が経費度外視で貸してくれた翼竜に乗り、
去った二人から半日遅れでエンフィールドの郊外から飛び立った。
三人はクリスとトリーシャの魔法による援護と
アレフの不眠不休の努力により二十四時間後にマリアを捕捉。
さらに二時間後、トリーシャチョップ改(対空技、ガード不可)により撃墜。
マリアを回収した三人はあなたを忘れて帰っていった。

あなたの不時着地点が内紛が続くロッシーア王国であることを知らないまま。
その後、あなたは反王制派ゲリラ組織や
ゲリラ掃討任務遂行中の正規軍と戦いながら、
なんとか隣接するフィンレニアに脱出することに成功する。
そこでもさらにクーデターに巻き込まれ、
成り行きで第二王位継承者を助けたあなたは、
彼の誘いを断り、内情が安定したスウェーデントに辿り着く。
あなたがさらに苦労してエンフィールドに辿り着いたのは、
次の月も始まって一週間余りが過ぎた頃であった。
後にこの時の体験談がエンフィールド学園魔法学科を優秀な成績で卒業した
某C・C女史によって物語になり空前のヒット作になる。

あなたが帰り着いた頃、ショート家はさくら亭に資金の援助をしていた。
何故そうなったかは不明だが、
さくら亭の親父がマリアの残した瓶から検出した薬の成分表を
持っていたことを記しておく。
その成分中には禁止薬物が含まれていたことも。
ついでにこの魔法薬の作り方と材料を誰にも見つからずに
マリアの手に渡るようにしたのもさくら亭の親父であることも書いておこう。

当然ながら、あなたはこの事を知ることは永久になかった。
その後、季節毎に豪華な贈り物を持ってさくら亭に
挨拶に来るショート財閥の重役連中に疑問を抱きはしても。
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