第九話
〜クラウド医院〜
「ドクター、急患だ!」
凌斗に肩を貸したエルとアレフ、その後ろからシーラが入ってきた。
「わかった、こっちに運べ。」
トーヤは凌斗を手術室に運び込ませた。
トーヤが手術を終え、手術室から出てきた。
「ドクター、凌斗は?」
アレフが手術室から出てきたトーヤに凌斗の容態を聞いた。
「ひどい怪我だったが他に目立った外傷はないから大丈夫だろう。少なくとも3週間は入院が必要だな。」
「亜輝、亜輝。」
凌斗はベッドの上でうなされていた。
「・・・またあの夢か。ここは・・・、ドクターの所か。死に損ねたらしいな。」
体を起こして周りを見るとアリサがそばで座っていた。
「凌斗クン、大丈夫?うなされていたみたいだけど。」
アリサが凌斗の容態を心配した。
「大丈夫、アレフ達は?」「仕事に行ったわ。」
そこにリカルドが入ってきた。
「失礼する。」
「おっさん、こんなとこ来る暇があったらさっさと仕事済まして家族サービスしろよ。トリーシャがぼやいてたぞ。」
「その通りだな。少し話したらすぐ仕事に戻らねばならん。」
「じゃあさっさと済ませようぜ。アルベルトが知ったらなんて言うか。」
「さて凌斗君、すまなかった。まさかあんなモンスターまでいるとは思わなかった。」
「別に。俺が未熟だっただけだ。気にすることはないさ。」
そう言って凌斗は、ベッドから起き上がった。
「ちょっと凌斗クン、まだ寝てなきゃダメよ。」
アリサはそれを止めようとしたが、
「大人しく寝てられる程暇だったら寝てますよ。おっさんここの勘定よろしく。」
そう言って出て行ってしまった。
「もう、凌斗クンは。」「まあまあ、あれぐらいの歳はああいうものですよ。」
「痛っ、かっこつけて出てきたはいいけどこりゃ軽い仕事中心になりそうだ。」
そう言いながらジョートショップへ向かっていると、
「うみゃあ。凌斗ちゃん、だぁ〜。」
後ろからメロディが飛びついてきた。普段ならどうということはないが怪我をしているとさすがに傷口にひびく。
「ぐえっ!メ、メロディ飛びつかないでくれないか?」「うみゅー?どうしてですか?」
「俺は今怪我してるから、飛びつかれたらすごく痛いの。分かった?」
凌斗が腹を押さえながら言った。
「ふみゃあ、つまり凌斗ちゃんは怪我してるんですね?」「そう。」
凌斗はこの言葉を聞いて一抹の不安を覚えた。
「じゃあメロディが治してあげます。」「いや、遠慮しとく。」
凌斗は急いでその場を立ち去った。
「こんな場所で傷口舐められたら誰になんて言われるか分かったもんじゃない。」
この前擦り傷が出来た時、治すと言われて舐められたときもかなりの噂になった。
〜ジョートショップ〜
「さて、と仕事は。さくら亭の修理か、見たところ大したもんじゃなさそうだしこれにするか。」
依頼書を見て簡単そうな仕事に決めた。
〜さくら亭〜
カランカラン
「いらっしゃい、ってどうしてあんたが来るのよ。」
パティが当然の疑問を口にした。ちなみにトリーシャとローラによって全治1年半とか植物状態などという噂が流れている。
「どうしてって仕事しにきたんだよ。」
そういうと凌斗は壊れた壁を直し始めた。
「あんたねえ、怪我人は怪我人らしく寝てなさいよ。」
全くもって当たり前である。
「うるせえな、無理はしねえよ。」
反論しながらも着々と仕事を進めていった。
カランカラン
「あ、いらっしゃい。」「やあ、パティ。今度一緒に出かけないか?」
アレフがパティを見るなり口説きだしている。
「アレフ、パティとどっか行って楽しいと思うか?」
と物凄く失礼な発言をする凌斗。
パァン!
パティの投げたトレイが凌斗の額にヒットした。さすがにやられても仕方ないとは思うが、トレイを投げることはない。
「パティ、そういう事するから言われるって分かんねぇか?」
額をさすりながら凌斗が言った。
「もう一発くらいたい?」「いや、いらん。」
パティは再びトレイを構えていた。
「リョウ、何でアンタがここにいるんだい?」
エルがあっけにとられたように言った。
「何でって、仕事してたから。」
さも当然のごとく言う。
「凌斗君、怪我は?」「ん、結構痛いけど仕事できないほどではない。」
腹を切り裂かれたら『結構痛い』ではすまないと思うんだが。
「三週間は入院が必要だって言ってたぞ。」
アレフが呆れ顔で言った。
「治るのが1ヶ月ぐらいに伸びるだけだ。」
『…絶対そんなもんじゃすまない。』と4人とも思っていたがもはや言うだけ無駄なので言わない事にした。
「はぁ、こいつにはなに言っても無駄ね。」
そう言ってパティは奥へ向かった。
「アレフ、シーラ、エル。その、・・・悪かった。」
凌斗はアレフ達と同じ席に座ると突然そう言いだしたため、何の事か全く分からなかった。
「どういう意味だい、リョウ?」
「俺はお前ら、特にシーラに場馴れしてもらうためにあの依頼を受けたんだが、結果としてお前らに迷惑をかけちまった。すまん。」
そう言うと再び頭を下げ、店を出て行った。