〜ジョートショップ〜
「ただいま。どうしたんだアレフ。その犬は。」
と仕事から帰ってきた凌斗がイスに座っているアレフの頭にのっているモノを見てそう言った。
「どうもこうも、今日はエルと祈りと灯火の門で仕事してただろ。」「ああ、そうだったな。」
今日の仕事の割り当ては、凌斗が蔵書整理手伝い、シーラが孤児院の子供たちの世話、そして、アレフとエルが祈りと灯火の門の番兵の仕事だった。
「それで草陰から物音がするから覗いてみたんだ。」
とエルが口を挟んだ。
「そしたらこいつがいた、と。」
「そういう事。俺の頭から離れようとしないんだ。」
そこまで聞いて凌斗はアレフの頭の上にのったモノをじっくりと観察した。
「こりゃ、犬って言うより、狼だな。」
そのときその狼?がアレフの頭を降りて凌斗の前で尻尾を振った。
「おおっ、やっと離れてくれた。リョウ、そいつはお前になついてるみたいだし、これで決定だな。」「なにがだよ。」「誰がそいつを飼うかだ。」
大体の予想はついていたがとりあえず聞いてみた。が、見事に予想通りだった。
「なんでそうなるんだよ。お前が飼えばいいだろう。」
もっともである。
「うちはペット厳禁なんだよ。だから、な。よろしく。」
とアレフが返す。
「いいじゃないか、お前になついてるんだからお前が飼えば。」
エルがアレフに加勢した。
「わかったよ。アリサさんに聞いてくるよ。」
(どうせいいって言うんだろうけど。)
案の定、「ええ、良いわよ」
の一言で許可された。そしてシーラが帰ってきてから領収書を受け取り、ミーティングを始めた
「・・・というわけで、これで終わり。」
凌斗がミーティングを締めくくるとアレフが、
「さあて、さくら亭にメシ食いに行こうぜ。」「ああ。」「ええ、行きましょう。」
「ちょい待ち、もうすぐ終るから。」
そう言うと凌斗は保存してフロッピーを抜き取りパソコンをしまった。
「これ、マリアのやつが知ったら絶対欲しがるよ。」
マリアの行動パターンって分かりやすいからなあ。
「もうねだられた。」「で、どうしたんだい?」
「テディを代わりにやるから諦めてくれって言った。」「ひどいッス。」
テディが泣き顔で文句を言う。
「まあ、それは嘘だが、欲しいんなら全財産よこせって言って諦めさした。」
こっちは本当。マリアも多少は食い下がってきたがすぐに折れた。
「それぐらい言わないと諦めないだろうね。」
とエルがあきれた。
「テディ、こいつをしつけといてくれ。それから、夜鳴鳥で必要なもん買っといてくれ。」
とアレフが拾ってきた狼?を指差し、テディにお金を渡した。
「ういッス」「いってらっしゃい。」
さくら亭に行く道すがら、
「凌斗君、テディからかうのやめてあげたら?」
「ん?ああ、からかい甲斐があって、面白いんだよ。」
とふざけて言うと
「お前、ひどいな。」「最低だね。」
アレフとエルにぼろくそに言われた。
「そこまで言う事ないだろ、お前ら。」
〜さくら亭〜
カランカラン
「いらっしゃい、なんだリョウ達か。」
「お前接客態度悪いぞ。ま、いいや、今日のおすすめは?」
いつもの事なので気にしないことにした。
「そうね、魚のいいのが入ってるわよ。」「例えば?」
「そうね鮎とかニジマスね。」
「じゃ、ニジマスの塩焼きとビール。」「俺はクリームシチューとバーボン。」
「アレフ、明日は休みだからって飲みすぎるなよ。」
「わかってるって、俺を誰だと思ってる。」
「アレフだと思うから心配なんだよ。」「いえてる。エルは?」
凌斗がそう言い、 パティがそれに同調した。
「アタシはシーフードピザ。」
「私はマカロニグラタンちょうだい。それからホットミルク。」
パティが注文をとり終わるとリサが出てきた。
「あらボウヤ、来てたのかい。」「リサか、このメンバー見れば分かるだろ。」
「ふーん、仕事のあとで一杯ってとこかい。」
と言いながら凌斗たちの近くに座った。
「そういう事。もっとも飲んでるのは俺とアレフだけだけどな。」
アレフも凌斗も未成年だが、実はエンフィールドでは18から飲酒OKなのだ。(…多分)
「リョウ。」「なんだよエル。」「一つ聞いてもいいかい?」
「内容にもよる。」「あんた何処から来たんだい?」
いずれ帰ろうと思っているのであまり深い係わり合いになると互いの為に良くないと思い、自分のことをほとんど話しておらず他人に深くかかわろうとしていないのだ。
「何処から来たか、か。分かんね。気付いたらあの森にいたんだよ。」
「記憶喪失?」
凌斗はこの言葉を聞いて、丁度いいからそういう事にしておこう。と思っていた。
「そんなもんだな。何もかも忘れてるわけじゃないみたいだけど。」
当然実際には違うがその方が話の通りが良いのでそういう事にした。
「じゃあ、あの電気も?」「そ、どうして出るのかは知らないけど。」
これは本当。その後も色々と話していた。
「凌斗君。」「なんだ?帰らないのか?」
九時を過ぎてエルやアレフはとっくに帰っているし、普段ならシーラも帰っている時間だ。
「あの、明日午後から空いてる?」「空いてるけど?」
「その、一緒に護身術習いに行ってほしいの。」
シーラのほうから誘ってくるというのは非常に珍しい。
「護身術?自警団に?いやだ。」
「リョウ、いいじゃないか一緒に行ってあげるくらい。」「面倒くさい。」
リサが助け舟を出すがあっさり言い切った。
「それに、俺はあいつらに用は・・・、」「凌斗君、ダメ?」
シーラは再び凌斗を見た。さすがに目で訴えられるときつい。
「分かったよ、ただ条件があるんだ。」「え?な、何?」
アレフではないのだから『デートしてくれ』とは言わないと思うが凌斗が人からの頼みに対して条件をつけるというのが珍しくシーラは少し緊張してしまった。
「魔法を教えてくれないか?前みたいな事がないとも限らないからな。」
帰るには恐らく魔法が必要だろうし、憶えておくに越した事はないからだ。
「ええ、大して教えてあげられないけど。」「それじゃ、明日1時にジョートショップに来てくれ。」「ありがとう凌斗君。」