第十一話
〜ジョートショップ〜
「テディ、俺のために金貸してくれた人の名前ってわかるか?」
凌斗はテディから情報を聞き出そうと、何度かタイミングを狙っていたがなかなかテディ一人になり、かつ他の人に聞かれない状況というのがなかったため今までかかってしまった。
「変なお面かぶってて、確か、ハメットって言ってたッス。」
「そうか。釣りにでも行くか。来い、レノ。」
凌斗が名前を呼ぶと、体長40〜50cmの銀色の子狼は頭に飛び乗った。
別段釣りが趣味というわけでもないが、他にやる事もないのでしている。
(ハメットか、聞いたことのない名前だが誰なんだか。)
〜ローズレイク〜
「よお、じいさん。まだお迎えは来ないのか?」「なんじゃ、お主か。」
凌斗がカッセルに挨拶?をした。
「凌斗君、そんな事行ったら失礼よ。」「来てたのかシーラ。」
どうやらシーラが来ていた様だ。
「かまわんよ、近いのは確かじゃからな。」
カッセルは笑いながら言った。
「その通り。ポックリ逝かねえ様に風邪には気をつけろよ。それはそうとして俺の竿と餌何処だ?」
度々釣りに来るのでカッセルのところで保管してもらっているのだ。
「そこに置いてあるはずじゃが。」
とカッセルが指差した。
「あったあった。」
そう言って凌斗は小屋を出て行った。
「すいません。凌斗君が失礼なこと言って。」
シーラが凌斗の代わりにカッセルに謝る。
「かまわんよ悪いのは口だけじゃからな。根はしっかりしとる。ただ・・・、」
「ただ?」「誰にも心を開いてないように見えて心配じゃな。」
2時間後
「ふぁ、釣れるのは月光魚ばかり。レノ、それはまだ焼けてないぞ。」
連れた魚の半分を焼き、残りを燻製にしているが食べているのはレノだけだ。月光魚はまずい魚ではないが、この湖に居る他の魚に比べると少々見劣りする。
「リョウ、こんな所でなにしてるんだい?」
エルが近づいてきた。
「釣り。そういうお前はこんな所でなにしてるんだよ。」
「アタシ?アタシは・・・、散歩だよ。」
「そうか。ところでエル、ハメットって知ってるか?」
「ハメット?たしか,マリアの父親の秘書がそんな名前だったと思うけど。」
エルは前にマリアとケンカして大怪我した時のことを思い出して答えた。思いだすうちにエルは腹を立てていた。
「そうか、それなら説明がつくな。」
マリアの父親はショート財団の会長、その秘書ということは会長の命令として財団の金を動かす事も可能かもしれない。と判断したのだ。
「なんの?」「・・・さて、俺はもう帰る。行くぞ、アキ。」
エルは詳しく聞こうとしたが凌斗はそれに答えず歩き始めた。
「リョウ!」「なんだ?」
エルが凌斗を呼び止めた。
「その・・・、さ。昨日は変な事聞いて悪かったな。」「別に。」
凌斗はそれだけ言うとレノを連れてカッセルの小屋に向かって行った。
「じいさん、竿と餌置いといてくれ。それから今日釣れた分、燻製にしといた。」
と言いながら燻製にした魚をカッセルに手渡した。
「いつもすまんな。お主は食わんのか?」
「ん、釣りながら食ったからいいんだよ俺は。シーラ、家でメシ食わないか?
どうせ午後から自警団に行くんだし。」
凌斗はシーラを食事に誘った。
「え、うん。」
〜ジョートショップ〜
「・・・・・・」「どうしたの?シーラちゃん」
シーラが自分の前に置かれた皿を見て呆然とする。
「おばさま、これ、何ですか?」「さあ、何なの?凌斗クン。」「イカスミスパゲティー。知らない?」
凌斗が作ったものだが確かに初めて見るとちょっと引く。
「美味しい。」「まあ見た目はちょっとあれだけどな。」
シーラはおそるおそる一口食べ、見た目とは裏腹にとても美味しいものだと分かった。
「さて、ご馳走様でした。シーラ、口元拭いた方がいいぞ。」「え?うん。」
シーラの口元はイカスミで真っ黒になっていた。
「凌斗君料理上手だけどどこかで習ったの?」
シーラが口元を拭きながら言った。
「全然、これぐらいなら誰でも出来るだろ。」
凌斗は食器を洗い始めた。
「そんな事ないわ、私の知らない料理もたくさん知ってるし。」
エンフィールドは海に面してないので基本的に町の外に出ないアリサはエビ、イカ、タコなどの海の物の料理はあまり知らないのだ。
「よく分からないけど育った場所が違うだけ、多分ね。」
「そうかしら?」「そうですよ。さて、食器洗いも終わったし、行くか?」
「どこに行くッスか?」「自警団に護身術習いに行くの。」
「凌斗クン、怪我治ってないんだから無理しちゃだめよ。」
「大丈夫ですよ、俺はシュウに会いに行くだけだし。来い、レノ。」
凌斗が呼ぶとレノは頭に飛び乗った。
〜自警団事務所〜
「どうしたんだリョウ?」「シーラが護身術を習いたいんだとさ。」
自警団の扉を開くとシュウが出迎えた。
「お前は?」「お前とおっさんと三人で話がしたい。重要な話だ。」
「・・・分かった。」
シュウは自警団員の一人を呼んでシーラの指導をするよう頼み、奥の部屋へ入っていった。
コンコン
「どうぞ。」「シュウ君、私に用事と言うのは?」
リカルドが入ってきた。
「おっさん、呼んだのは俺だ。」「凌斗君、怪我はいいのかね?」
凌斗はリカルドを部屋に入れると外を確かめ鍵を閉めた。
「俺の怪我はどうでもいい。・・・用事ってのは他でもない、ショート財閥会長とその秘書のハメットの調査をして欲しい。」
凌斗の言葉を聞いてシュウは呆れた。
「はぁ!?自警団は探偵じゃないんだぞ。」「まあ待ちたまえ、どういう意味だね凌斗君。」
シュウは呆れたようにいったがリカルドは淡々と進めた。
「俺が留置場に入ってどれぐらいで出てきたか憶えてるかおっさん?」
「確か、4時間ぐらいだったと思うが・・・。そういう事かね。」
リカルドは凌斗の言う意味に気付いたようだ。
「ああ、早すぎるんだよ。トリーシャとローラの二人なら一時間で街中に噂をばらまけるとはいえ金を貸した奴、つまりハメットの動きが早過ぎるんだ。」
「確かにそうだな、それにお前は半年前にこの街に来たばかりだしな。」
正確に言うと半年前にこの世界に来た。
「そんな人間のために金貸そうって言うんだ。何か有るに決まってる。もっとも会長が絡んでるかどうかは分からんがな。」
「会長はほとんど一線から退いてるらしいからそれはないだろ。それにしても何かって・・・何だよ?」
「おそらく奴はジョートショップの土地が欲しいんだろう。」
ハメットに直接会ったことはなく恨まれる憶えもないので担保の土地だろう、と推測した。
「何のためにだよ?」「俺が知るか。しかし奴は確実に一枚噛んでると俺は思う。」
凌斗はそこまで言うと苦虫を噛み潰したような顔をした。
「凌斗君、一つ聞いて良いかね?」「なんだよ。」
ここまで話したときリカルドが質問をした。
「なぜ我々に頼もうと思ったんだね?」「奴の手元だからさ。」「どういう意味だ?」
凌斗の言葉の意味を理解できずシュウが真意を聞いた。
「奴は恐らく自警団を自分の手駒の一つとして考えるだろう。それを逆手に取るためだ。それに、俺が動いたんじゃアリサさんに余計な心配をかけることになる。」
怪我人が仕事をしているだけでも十分心配をかけているとは思わないのだろうか。
「なるほど。しかしシュウ君はともかく私にまで話したのはなぜだね?」
凌斗とシュウは仲がいいがリカルドとは特に接点もない。
「あんたは信頼できると思ったからさ。二人とも協力してくれるか?」
「ふむ、どれだけ時間が取れるかわからんがやってみよう。」
「やってやるよ。他ならぬお前の頼みだからな。」
「ありがとう。後この話は口の固い信頼できる人間以外には話さないでくれ。」
「分かってるよ。」
それを聞くと凌斗は部屋を出てシーラがいる大部屋へ向かった。
しかし大部屋に入ると
「待っていたぞ犯罪者、勝負だ!」
アルベルトが槍を構えて立っていた。
「シーラ、これはどういう騒ぎだ?」「それが、教えてもらってる途中でアルベルトさんが戻ってきたの、それで凌斗君が来てるって知ったら急にこうなっちゃって。」
「馬鹿かコイツは。シュウ、おっさん止めないでくれよ。小競り合いがあったほうが敵対してるように見せかけやすい。」
と言ってはいるがただノシてやりたくなっただけ。
「ふむ、それじゃあお手並み拝見と行こう。」「頑張れー。」
シュウは面白がって声援を送っている。
「貴様クレアに何をした!?」
アルベルトがすさまじい勢いで突きを繰り出すが、凌斗には一つとして掠りもしない。凌斗は人間の筋肉に流れる微弱電流や空気中の電気の動きを感じる事が出来るので相手が何処を狙っているか、フェイントかどうかも簡単に分かる。
「うっせえな、す巻きにしてムーンリバーに流すぞ。あ、アリサさん。」「何っ!?」「嘘だ馬鹿。」
アルベルトは凌斗が指差した方を見たが誰も居らずその隙に踵落しでK・O。
「ふむ。(出来るとは思っていたがまさかアルが一度も掠れん程とは。私でも直撃させるのは至難の業かも知れんな。)」
リカルドは凌斗の技量を見てただただ感心していた。
「戦いの最中に気を他所にやる馬鹿が何処にいる。あ、ここにいたか。」
そこへクレアが入ってきた。
「兄様っ!?どうしたのですか兄様。いったいどうしたのですか兄様は?」
クレアがアルベルトの体を揺さぶるが返事がないため凌斗に聞いた。
「自分の馬鹿さに頭を打たれてやられた。」
事実ではあるが・・・、
「シュウ様、どういう意味なのですか?」「アルベルトがリョウに突っかかって返り討ちにされたんだよ。」「リョウ?」「そこにいるのが前に話した葉崎凌斗。」
クレアは凌斗の名を聞くと凌斗のほうに向き直り、
「まあ、あなたが凌斗様ですか。先日はありがとうございました。」
深々と頭を下げた。アルベルトはどうでも良いのか?
「さてシーラ、帰るか。シュウ、あとよろしく。」
そう言うと二人は事務所を出て行った。
作者
こんな能力持ってたら相手が余程の速度で行動するか、幽霊でない限り勝てないかも。でも他のSSだとそれこそ神とか魔王にも勝ちそうなやつごろごろいるからこれでも弱い方か。