中央改札 交響曲 感想 説明

悠久の刻 第十弐話
らむだ?


第十二話

〜ジョートショップ〜
「ふぅ、休みってのはいいもんだ。」
じゃれつくレノを片手で相手しながら凌斗は言った。
「凌斗クン、教会にパイを持って行ってくれないかしら?」
アリサがパイをバスケットに入れながら言った。
「いいですよ。」
そういうと凌斗はレノを頭の上に載せ、バスケットをもって外に出た。
「さて、今日はなにをして遊ぶ事になるんだか。」
教会に行くたびに彼は子供たちと遊んでいる。子供の相手が好きなわけでもないがさすがに十人前後にせがまれると断るのはつらい。

ジョートショップを出ると、エレイン橋でシーラが浮かない顔をして立っているを見つけた。
「何してんだ?あんなとこで。」
凌斗はまっすぐ教会に行かずにシーラに話し掛けてみることにした。
「シーラ、何してんだこんなとこで。」
しかしその問いに対してシーラは答えなかった。
「シーラ、おーい。」「・・・あ、凌斗君。どうしたの?」
少し大きな声で言うとようやく気がついたようだ。
「そりゃこっちの・・・。ま、いいか。」
こっちのセリフだ、と言おうとしてやめた。
「どうしたの凌斗君?」「シーラを見かけたから声をかけただけだ。」
正確に言うと深刻そうな顔をしているから声をかけたのだが。
「そう。」
それだけ言うとシーラはまた考え込んでしまった。
「・・・シーラ、一緒に教会に行かないか?」
何か悩みがあるようだが子供と遊んでいると悩んでいる暇などないのでいい気分転換になると思ったのだ。ふと、『何やってんだろ俺。』と思う事もあるが。
「え?」「アリサさんに頼まれてパイを持っていく途中なんだけど子供らの相手を一人でするのはつらくてな。」
傷口はすでにふさがっているが完治には至っていない。
「ダメか?」「そ、そんなこと。」「じゃ、行こう。」
やや強引にシーラを教会に連れて行った。
「こんちわー。」
煙草を消し、挨拶をしながら教会に入ると子供たちが凌斗に気付き、すぐに囲まれた。
「あー、凌斗さんだー。」「レノちゃんだー。触らせてー。」「遊んで、遊んでー。」「ギター弾いてー。」
渋々ながら遊んでいるとはいえ結構人気がある。
「分かった分かった。用事が済んだら遊んでやるからそれまでレノと遊んでろ。」
服を引っ張る子供の手をはがしレノを渡すと神父の所へいった。『レノと遊ぶ』というより『レノで遊ぶ』なのだが。
「凌斗君、子供たちに好かれてるのね。」「おかげで疲れてしょうがない。」
凌斗はそういうが嫌そうな顔はしていない。
「いらっしゃい、凌斗君。」「こんにちわ神父。これ、アリサさんから。」
凌斗はバスケットを渡しながら言った。
「いつもありがとうございます。」「そういうことはアリサさんに言ってくれ。俺は何もしてない。」
そこへローラが駆け寄ってきた。
「あー、お兄ちゃん。何してるの?アタシとデートする為に来たの?」
教会に頻繁に出没する足のある幽霊、もといローラだ。
「ローラとデートするんだったら子供らの相手してヘトヘトになった方がましだな。」
冗談とはいえ少しひどいことを言う。
「あー!なによそれ!ひどーい。」「冗談だ冗談。今度してやるよ、今度。」「前もそう言ってなかった?」「さあ?そうだっけ?」
ローラの抗議に凌斗は笑って応える。『今度』がいつの事かは誰にもわからない。
「シーラ、子供らに一曲弾いてやってくれないか?」
シーラを誘った本当の目的を思い出して言った。
「え?ええ。」
突然の凌斗の申し出に戸惑ったがすぐに承諾した。
「俺も久しぶりにやろうかな。」
そういうと凌斗は何処からかギターを持ってきた。

そうして二人の演奏が始まった。
ギターとピアノという(エンフィールドでは)珍しい組み合わせなので曲自体は昔から何十回、何百回と演奏された曲だが、演奏者の実力もあり非常に耳新しく聞こえる。

「すごい。・・・素敵。」
演奏が終わり、ローラが一言だけ漏らす。まさにその一言しか言いようがなかった。
「思ったよりうまくいったな。」
凌斗はそう言ってギターを片付けると子供たちと遊び始めた。

「さて、そろそろ帰るか。」「えー、もう帰っちゃうの?」
凌斗の一言に子供の一人が代表するように言った。教会に来てから優に4時間は経っている。
「もう暗くなってきたからな。シーラ、帰ろう。」「うん。」
凌斗たちは教会を出て、歩き出した。
「シーラ、いい気分転換になっただろ?」「え?」
凌斗に急にこんな事を言われてシーラは返答に困ってしまった。
「子供と遊んでると悩むのが馬鹿馬鹿しくなってくるだろ。」
シーラは自分が悩んでいるのを見て凌斗がこういうことをするということに驚いていた。普段他人のプライバシーに口を出すような事はほとんどしないからである。(ごくたまにアレフに『いい加減にしろ。』と言う程度。)
「う、うん。・・・実はね、凌斗君。渡したいものがあるの。」
そう言うとシーラは封筒から招待状を取り出した。
「招待状?日付は・・・、10月21日か。これに出るのか?」
シーラに渡された封筒の中身を見て言った。
「うん。だから、見にきて欲しいと思って。」
「クラシックはあまり聞かないんだけどな・・・。まあ、折角だからありがたくもらっとく。」
凌斗がそう言うとシーラの顔がぱあっと明るくなった。
「本当?良かった。」「???」
シーラにとって何がどう良かったのかこの男全然わかってない。
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