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悠久の刻 第拾九話
らむだ?


第拾九話

凌斗はマーシャル武器店での仕事だったがマーシャルがぎっくり腰になったこともありようやく半分というところなのにかなり疲労していた。あまりのめんどくささに溜め息をつきながらジョートショップに帰って昼食を食べようとしていた時、後ろから声をかけられた。
「凌斗君。」「ん。どうした?」
「さくら亭でお昼を食べようと思ってるんだけど、一緒に行かない?」
凌斗は財布を忘れた為今日はジョートショップで食べるつもりだった。パティにつけにしてもらう、という方法もあったが、シーラが余計な気を回しかねないため、取りに帰ることにした。
「財布取ってくるからレノを連れて先に行っててくれ。」「ええ。」
(そういえばこういうのは逆ナンに入るんだろうか。)
などという下らない事を考えながらジョートショップへ向かった。

〜ジョートショップ〜
「あら、凌斗クン。お帰りなさい。お昼は?」
「さくら亭で食べてきます。ちょっと財布を取りに。」
「凌斗さんの財布なら洗面所に置いてあるッス。ズボンの中に入ってたッス。」
恐らく洗濯する際にテディが気付いたのだろう。
「ホントか?お、あった。じゃ行ってきます。」
そう言って凌斗はさくら亭へ向かった。

〜さくら亭〜
凌斗がさくら亭に入るとレノはカウンターの下でミルクを飲んでいるのにシ−ラがいない。トイレにでも行ったのかと思ったがパティとエルがあきれ返った表情をしてマリアを見ている。
「マリア、今度はなにをしたんだ。」
凌斗はマリアが逃げられないように頭を掴んで言った。凌斗は掴んだ頭をそのまま徐々に後ろにのけぞらせた。
「マ、マリア何もしてないよ☆」
かなり不自然な体勢のまま答える。
「ほー、俺にはお前が魔法を使った途端、シーラが消えたように見えたが?」
「い、いつから見てたの?」
「当たってたのか。レノが居るのにシーラが居ないからカマかけてみたんだが。」
と凌斗が頭を抱えながら言った。レノはミルクを飲み終わり凌斗に向かって尻尾を振っている。
「あんた、性格悪いよ。」
と、エルが突っ込みを入れた。
「やかましい、とっとと探しに行くぞ。マリア、本当はどうしようと思った?」
転移呪文ならば行こうと思った場所にいるのが常識である。この場合は呪文を唱えたマリアではなくその前にいたシーラがそこへ行く事になったのであろう。
「え、と、エルから逃げるのに陽の当たる丘公園にでも行こうかなって。」
「マリア、覚悟しておけよ。」
無表情で言う凌斗にはやたらと怖いものがあった。そしてレノを連れてさくら亭を出て行った。

〜陽の当たる丘公園〜
「レノ、お前も探しに行ってくれ。見つかったら俺のところに来い。」
と言って凌斗はレノを頭から下ろした。
凌斗には一つ気にかかる事があった。
マリアの唱えた転移魔法がシーラにかかっただけならば良いが、行き先が公園ではなかったら?何よりもシーラの電気信号を感じないのだ。
ただ遠くに飛ばされただけならば良いが、ひょっとしたら・・・、
そんな考えを振り払うようにまさか、と呟くとシーラを捜し始めた。
凌斗がレノとは逆方向を探し始めて数分後
「ワン!ワン!」「お、見つけたか。」
凌斗はレノの泣き声がする方向へ走っていった。
「・・・シーラの服と、白い仔犬。これってやっぱり、」
シーラがマリアの魔法で変化したのだろう。凌斗はカバンを持ってきていなかったことを後悔していた。女物の下着など持ってうろついてたら変質者だ。
凌斗は仕方ないのでとりあえずさくら亭に連れて帰る事にした。下着は服で隠していた。

〜さくら亭〜
「あ、リョウ、見つかった?」「ああ、多分な。」
そのときエルはすでにいなかった。すでに1時を過ぎていたので仕事に行ったのだろう。
「多分ってどういうことだいボウヤ。」
「公園にシーラの服とこの仔犬がいた。多分シーラだ。」
「それって、やっぱり・・・、」「マリアのせいだろうな。」
「あ、マ、マリア用事思い出した☆じゃあねー。」
マリアは事ここにいたってようやく自分がやったことの重大さを思い知り、逃げ出した。
「あ、待ちな!マリア。」「ほっとけ。シーラを戻す方が先だ。」
「で、どうするのよ?」「とりあえず家に連れて行く。確かそういう本があったと思う。それからマーシャルに俺が行けなくなったって伝えといてくれ。」「ああ、伝えとくよ。」

〜ジョートショップ〜
「あら、凌斗クン。もう仕事終わったの?」「実は・・・、」
凌斗はこれまでの顛末を説明した。
「そう、マリアちゃんが。」
「で、治す方法が載った本があったと思うんで探して何とか直します。」
とは言え大分前に飛ばし読みしたっきりなのだが。
「ええ、わかったわ。でもその前にシーラちゃん、お腹すいてるんじゃないかしら。」
凌斗がさくら亭にいったのはシーラと分かれて10分ぐらい程であった。当然その程度の時間では食べるどころか作り終わってすらいない。
「玉ねぎ抜きで炒飯でも作るか。」
下ごしらえも調理もさほど時間がかからないというこれほど早く作れる料理は無いだろう。ちなみに犬が玉ねぎを食べると中毒症状を起こします。
この場合大丈夫かどうか定かではないが危険なのでとりあえず使わない事にした。
「一丁上がり。」
皿に入れてシーラの前に出したが食べようとしない。
「凌斗さん、シーラさんがお皿から直接食べるのはちょっと、って言ってるッス。」
いくら犬になってしまったからといっても、皿から直接は確かに恥ずかしいだろう。
「まあ、確かにな。仕方ない、食べさせてやるか。」
凌斗はシーラを片手で抱えて、ゆっくりと食べさせ始めた。
「凌斗クン、そうしてると子供にご飯食べさせてるお父さんみたいね。」
「ほんとッス。」
その言葉にシーラが咳き込んでしまった。
「テディ、タオルくれ。」「うぃッス。タオルッス。」
咳き込んだ時に凌斗の服についたご飯やシーラの顔を拭いた。
「アリサさん、あまり変な事を言わないでください。」
その後はほのぼのと食事が終わった。

「参ったな。」
部屋に戻ってシーラにかかった魔法を見ていた凌斗が思わず呟いた。
偶発的にかかったものなので意図的にかけたものに比べてかかり方が非常に複雑になっている。ここまで複雑だと総合的な無効化の魔法が効きにくいため一つ一つにあわせた無効化の魔法をかけなくてはならない。
(私がやりましょうか?)(頼む、と言いたいところだがあとになって何かよこせとか言い出さないだろうな。)(そんなことしません。あまりしつこいと嫌われますよ?)
このやりとり、実は何度もしているのだ。
まあ凌斗からしてみれば、後になって対価を要求するのは漫画などでは良くある話であるし、何より、意図の見えない行為ほどあやしいものはない。
(何かやらせて対価無しってのが信用できないんだよ。)(そんなこと言ってたら本当に何か頂きますよ。)(むしろその方がわかりやすい。)
凌斗は懐から畢星七支刀を取り出して、その刃を出現させた。
(まあ、とりあえず元に戻してくれ。)(わかりました。)
畢星七支刀の刃が輝くとシーラが元の姿に戻った。
シーラが元の姿に戻るや否や、凌斗はシーラにベッドのタオルケットをかけて部屋を出て行った。
部屋から出ると今まで押さえていた脱力感が一気に溢れ出した。
凌斗はその原因にすぐに気がついた。
(てめえ、魔力ほとんど持っていきやがったな。)(対価としていただきました。)
畢星七支刀に魔力のほとんどを吸われたらしい。自分で言った事だから仕方ないとも言えるが。
(クソババア。)(たしかに千年以上生きてますけど、・・・ひどいです。)

「凌斗クン、シーラちゃん元に戻ったのね?」「・・・寝る。」
それだけ言うと髪をまとめている髪止めを取ってソファで寝てしまった。
「御主人様、シーラさん治ったッスかね?」
「凌斗クンはうまくいったから寝てるのよ。きっと。」
テディにはわからないがアリサは少し複雑そうな表情をしている。
少しして凌斗の部屋からシーラが降りてきた。
「あ、あの、凌斗君は。」
「そこで寝てるわ。凌斗クン、大分疲れてるみたいね。シーラちゃん、今日はもう帰りなさい。」
「はい、また明日。」
シーラが出て行くとアリサは、
「出ていらっしゃい。」
アリサがそう言うと、光とともに一人の女性が出てきた
「久しぶりですね。アリサ・アスティア。」
どうやらこの2人は顔見知りだったらしい。
「ええ、あの人がここに落ち着いて以来だから、・・・もう5年ね。」
「契約が切れてからは時間の感覚がなかったけど・・・。惜しい人を無くしたわね。」
契約されていない状態では100倍早送りのように世界の情報が入ってくる。
「懐かしいわね。あの人を巡って争った日々ももう夢の様。待ってて今お茶を入れるわ。」
どうやら恋敵だったらしい。アリサは今でこそおっとりしたタイプに見えるが昔はかなり積極的だったようだ。二人は椅子に座り、お茶を飲みながら話を始めた。
「懐かしいわね。そういえば子供は?」
「結局できなかったわ。・・・ねえ、一つ聞いていい?」
「凌斗さまとの事でしょう、アリサ。」
「ええ、しばらくは新しく契約する事は無いって言ってたわよね。それなのに何故?」
「そうね、私も封印を解かれた時は再び眠ろうと思っていたわ。けどこの人の心は人間とは思えないほど強く儚かったの。それで行く末を見届けてみたいと思って、契約するか聞いたんだけどね。なんて言ったと思う?」
「あの子の事だから、興味ないって言ったんでしょ。」
「その通りよ。普通のこの歳の人間が力に興味を持たないなんて珍しくて。それで興味がわいたの。」
「不思議な子よね。」「ええ。それに可愛いし。」「・・・あなたねえ。」
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