中央改札 交響曲 感想 説明

悠久の刻 第弐拾話
らむだ?


第二十話

マーシャル武器店の中で凌斗とエルがチェスをしている。
「詰み。」
客のいない店の中に凌斗の声が静かに響く。エルは手がないことに気付き、顔をしかめる。
「無いね、アタシの負けだよ。」
エルはそう言うと駒を片付け始める。
「珍しいな、たった30分で終わるなんて。」
「え、ああ、うん、そうだね。」
エルは今朝からどこか上の空の調子だった。
「エル、何か有ったか?」「え?」
「さっきのチェスにしたって、ずいぶんとミスが多かったからな。お前が弱いとこっちの調子が狂う。」
先ほどのが初勝利というわけではないがどちらが多いかと言われればエルの勝利の方が多い。6:4で。
「いや、まあ、大したことじゃないんだけどさ、最近夢見が悪いんだ。」
「夢…か。…どんな?」
『夢』凌斗はその言葉にわずかに引っかかりながらもエルの話の続きを聞いた。
「アタシが黒い龍になって街を破壊したり、人を殺したりする夢さ、ここ何日も続いてるんだ。」
「ふ…ん。詳しい事は知らんが夢ってのは大概、過去の記憶や願望だ。昔読んだ小説とかおとぎ話じゃないか?」
忘れたい記憶でも、と小さく呟いたがエルには聞こえていなかった。
「まあ、その手の話は読んだ事あるかもしれないけど…、それにしたってここんとこ毎晩だからね。それにその夢を見るようになってから胸に変なあざが出来たんだ。」
「あざ?」
(もしかすると…。)
(ん?何か心当たりがあるのか?)
(ええ。確証はもてませんが。あざの形を聞いてみてください。)
「で、エル。そのあざの形は?」「ああ、何か、龍に見えるんだ。その、気のせいかも知れないけど。」
(やっぱり。)
(こういうパターンは大抵ろくな事じゃないと思うが一応聞いておこう。)
(邪龍です。多分エルさんが生まれた頃に封印が解けてそれをエルさんの身体に封印しなおしたのでしょう。エルさんが魔法が使えないのは彼女の魔力を邪龍を押さえ込む檻にしているからです。)
(たった20年かそこらで解けるような封印かけるなっつうんだ。)
(いえ、20年で解けたのはエルさんの魔力が大き過ぎたからでしょう。本来この封印は宿主の魔力で檻を構築しているのですが、エルさんの場合、檻を作ってもまだ余る魔力を糧として邪龍は短時間で力を取り戻したのだと思います。本来は邪龍が目覚めるのは500年に1度あるかないかですから。)
エルフの寿命は150年前後、本来ならば解けかける頃にもう一度封印をかけ直すか、新たな宿主に移される。
(さすが亀の甲より年の功だな。)(いい加減怒りますよ。そんな事ばかり言ってると。)
どうやら年のことはさすがに気にしているらしい。人間とは違う、の一言で済むはずの話だが…。やはり女性としては気になるのだろう。
(で?封印をかけ直しゃいいんだろ?)
(それはそうですがそのためには邪龍を弱らせなくては…。)
(ま、とにかくエルには言わないほうがいいな。)
(ええ、無闇に不安にさせる必要はないですからね。)
「ま、あまり気にしすぎると身体悪くするからあまり気にするな。」
「あ、ああ。」
「じゃ、俺は帰る。今のお前とやっても楽しくないからな。」「リョウ!」
そう言い、凌斗が店を出ようとした時、エルが呼び止めた。
「んだよ。」「もし、もしだよ。夢が現実になったら、どうする?」
エルが不安そうな顔で聞く。しかし凌斗の答えはエルが期待していたようなものではなかった。
「お前が龍になる前に殺してやるよ。」
「オレが何とかしてやる、とか言ってくれないのかい?」
と当たり前の不平を洩らすエル。
「そう言う甘いセリフを期待してるんならアレフにでも相談するんだな。」
「ホンットに意地が悪いねあんたって。」
凌斗の言葉にエルは苦笑した。
「なんだ、今更気付いたのか?」
そんなエルを見て凌斗も笑った。
中央改札 交響曲 感想 説明