中央改札 交響曲 感想 説明

らむだ?


第弐拾壱話

〜ジョートショップ〜
終礼は終わったが、月末なので全員残したまま給料の計算をしている。アリサは町内の寄り合いでさくら亭のティーパーティに参加し、テディは留守番として残された。
「ん、こんなもんか。犬、封筒。」「僕は犬じゃないッス。」
テディが凌斗に文句を言うがそんな事は意にも介さず、
「返答するって事は犬って自覚してるんだろ?さっさと持ってこないと犬って呼び続けるぞ。犬。」
「うう、うぃッス。」
泣く泣くテディは戸棚から封筒を持ってきて、凌斗に渡した。
「そういえばテディ、レノはどうした。」「凌斗さんの部屋で寝てるッス。」
渡された封筒にめいめいの給料を入れながら聞いた。
「ん、今月の給料。ご苦労さん。」
それぞれに詰めたばかりの給料袋を渡した。
「ありがとう。」「ありがと。」「働く意欲がわくね。」
凌斗はアレフの言葉にすかさず、
「なんだアレフ。お前に働く意欲なんて有ったのか。初耳だ。」
「お前俺のことなんだと思ってる?」「んー、ナンパ大好き男。」
身も蓋もないことをあっさりと言う。
「アンタねえ。」「安心しろ、本気だ。」
普通はそんな事言わない。が、まあ事実だし。
「そうだ、シーラ。」「何?」
凌斗はアレフを無視してシーラのほうに向き直す。
「来週から来なくていいぞ。」
その言葉に先に反応したのはシーラではなくエルだった。
「ちょっとリョウ、どういうつもりだい?返答次第では…、」
剣呑な雰囲気を出し始めるエル。それに対して凌斗は、
「どういうつもりもくそも中途半端にして欲しくないだけだ。」
その言葉にエルの堪忍袋の緒が切れた。
「あのねぇ、もうちょっとわかりやすく言いな!!」
そしてエルが切れるのと同時にシーラがジョートショップを飛び出した。
「あ、シーラ!おい、リョウ。もう少しちゃんと説明したほうが良かったんじゃないか?」「そうッス。シーラさんがかわいそうッス。」
アレフがこの場を収めようと口を出す。この場で凌斗の言った言葉の裏まで分かっているのはこいつだけだろう。
テディはとりあえず同意しているだけ。
「それもそうだな。再来週にシーラのコンサートだかコンテストだかがあるだろ?」
「それとこれとどう関係が…、あ。」
ようやくエルも得心がいったらしい。
「つまりお前はそれに向けて集中して練習してもらおうとしたんだろ。」
「ああ。」「なら、ちゃんと言わなくちゃダメだって、あんなんじゃ練習に身が入らないと思うぜ。」
アレフに言われて凌斗も自分の言い方が悪かった事に気が付いた様だ。
「たまにはいい事言うな。アレフ。」「たまには、は余計だ。大体お前が結論しか言わないのが悪いんだろ。」
「違いない。出かけてくる。犬、留守番任せたぞ。」
凌斗が薄手のジャンパーを着て、出かけようとした時、壁をすり抜けてローラが入ってきた。
「お兄ちゃんでしょ!トリーシャちゃんの事泣かせたの!」「・・・・・・・・・・・」
しばしの沈黙。その後、
「壁をすり抜けて入ってくるなって何度言えばわかるんだ?その上いきなり訳のわからんことぬかしやがって。」
ローラにアイアンクローをかける凌斗がいた。
「えっ?! 痛い痛い痛いーーーー!」
つかまれた事に驚きながらも痛がるローラ。
「リョウ、とりあえず離してあげろよ。どういう意味か分からないし。っていうかなんでローラに触れるんだ?」
三人と一匹の頭の上に疑問符が並ぶ。
「それもそうだな、ローラ話してみろ。」

「要するにそこの道を泣きながら走っていったトリーシャをみて俺が何かしたと思ったんだな。」
「つ、つまりはそういうことなんだけど…。」
「俺は今日トリーシャには会ってない。用は済んだな。俺は出掛ける。」
一方的かつ強引な三段論法で話を終わらせ、出て行こうとして、扉を開けたところにイヴが立っていた。
「…いらっさい。」
半ば呆れ顔で応対している。
「こんばんは。ゆっくり話してる暇がないから手短に言うわ。」
「そりゃ結構。俺もさっさと出掛けたい。」
「シュウさんに『隊長が仕事で誕生日を祝えなくなってトリーシャちゃんが拗ねてないか見て来てくれ』って言われて見に行ったら、」
「部屋の中が荒れててトリーシャがいないって言うんだろ。」
凌斗がイヴの言葉を遮りおよそありがちなオチを言う。
「ええ、その通りよ。」
「よくよく面倒事が続く。」
うんざりしてつぶやく。するとそこに
「すいません仕事を依頼したいのですが。」
「ああ、申し訳ありませんが本日は営業時間が終わってしまいましたので後日、」
エルが丁重に断る。
言葉づかいは凌斗が採用した際に徹底的に仕込んだものだ。方針は『プライベートはどうでも良いが仕事中だけは敬語を使え!』
「エル、いい。俺が話を聞く。お前らは探しに行って来い。それとテディ、」
凌斗はアレフたちに探しに行かせ、テディに何かを耳打ちする。
「そんなことしたらお金がたくさん要るッス」「俺の手持ちで何とかする。さっさと行け。」「ういッス!」
これでこの店には凌斗と客の2人しかいない。アリサもほぼ確実に帰ってこない。
「さて、なんのようだ。シャドウ。」
椅子に座りもせず、煙草に火をつけて言う。
「ひさしぶりだな。リョウ。」
シャドウが顔を変える。凌斗はその顔を見て、しばし唖然、そして
「ふっ…ざけた真似をするな。次そんな事ぬかしたら死ぬよりつらい目にあわせてやる。」
殺意と憎悪のこもった目をシャドウに向ける。
「リョウ、これならわかるだろ。」
シャドウは煙草の煙にそっと触れた。すると、煙はいつまでも拡散せず、ボールのようにふわりと浮かんでいる。
「まさか、本当に亜輝…なのか。」
「リョウ、俺がこの体を使える時間はそんなにないから手短に言うぜ。トリーシャとシーラはシャドウが雷鳴山に連れて行ってドラゴンの生贄にした。」
「ちっ、どいつもこいつも面倒事ばかり起こしてくれやがって。」
「時間がない。行こう。」
それだけ言うとシャドウ、いや、亜輝は凌斗と共に転移魔法で消えた。
中央改札 交響曲 感想 説明