中央改札 交響曲 感想 説明

悠久の刻 第弐拾参話
らむだ?


第弐拾参話

「平和だなぁ。」「そうよね。最近はエルとマリアも喧嘩してないし。」
ある昼下がり、さくら亭の昼のピークも過ぎ、店の中は皆ゆったりとした空気が流れている。
「ふーん、パティ、あんた普段そんな風に思ってたんだ。よっくわかったよ。」
パティの言葉にエルが睨む。
「あ、で、でもさ。ホントに最近エルってマリアと喧嘩しなくなったよな。マリアが挑発しても相手にしてないし。どうしたの?」
エルに鋭く睨まれ、すぐさまフォローをするパティ。
「な、べ、別にいいじゃないか。」
エルは凌斗に初めて会った時に言われたことを思い出して苦笑する。最初は意識していなかったが、最近になってふと思い出し、意識するようになっていた。
「ニュース!ニュース!大ニュース!!」「どうしたの、ローラちゃん?そんなに慌てて。」
扉をすり抜けて入ってきたのはローラだった。
「すっごいニュースよ!お兄ちゃんがデートしてたの。」
「お兄ちゃんってシュウさんが?別に珍しくないと思うけど。」
シーラが言うとおり珍しくもなんともない。休日に街中を歩いていると必ず一度は見かけるほどだ。
「やっぱり今日は平和な一日ね。」
パティがそう話を切ろうとすると、
「違うの!!シュウお兄ちゃんじゃなくって、リョウお兄ちゃんの方よ!!」
「へぇー、リョウが。珍しい。」「そ、そりゃ確かに大ニュースだ。」「凌斗君が・・・。」
凌斗がデートをしているところを見たことがある人間は誰もいない。
モテないから、という訳ではなく、単に相手を作る気がないだけ。
本人に言わせれば、”そのうち帰るんだから作る意味がない。”といったところだろう。
まあ、相手に対してのある種の優しさではある、かも知れない。
「なあ・・・、」
アレフが呼びかける。二の句は要らない。皆が頷く。そう、彼らは皆、一つの目的のために動き出した。
“相手を見てみたい!”
はっきり言ってその一言であった。
ほんの数秒後には、店番をしているパティ以外は皆店を出て行った。


「おい。」「はい?なんですか?」
出来る限りけだるそうに聞こえるように言ってやることにした。
朝起きるなり、出かけましょう、などと言われて引っ張り回され、今に至るのだ。
いい加減恨み言の一つもいってやりたくなる。
「なんで俺はこんなことしてるんだ?」
「ですから、埋め合わせ、です。」
「デートだったらアレフとしてくれ、紹介してやるから。」
「いいえ、デートではありません。」「じゃあ、何の用だ。」
喫茶店で向かい合って紅茶を楽しむ。どう見てもデートだ。
おまけに言えば、ここの紅茶はあまり美味くない。テディの入れたものの方がよっぽどましというものだ。
さらに、通りすがる奴らにじろじろ見られて気分が悪い。シリルはかなりの美人だし、俺だってそう悪いわけじゃない。どちらかといえば良い方だろう。要するに目立つんだろうが、それでもむかつく。
「あなたに聞きたい事があるんです。」「俺はない。」
腹が立っているのでかなり一方的な打ち切り方をすると、シリルは黙って指を三本立てていた。
「3?300G分の買い物か?」
やっぱりデートになるんじゃないか。とこぼすと、
「違います。私の3つの質問に答えるのと、30年分歳をとる。どちらがいいですか?」
愕然とし、思わず魔女め、と呟いてしまう。
「ひどいですね。これでも神としてあがめられたこともあるんですよ?」「・・・・・邪神か。」
納得した、と手を打つ。ものすごく嫌味をこめて納得してやった。
「しみじみと納得しないでください。」
うーむ、そろそろからかうのやめないとひどい目にあいそうだからやめるとしよう。
「で、質問ってなんだよ。」
「そうですね。自己紹介でもしてもらいましょうか。」
オーソドックスだな。まあ、王道か。
「葉崎凌斗、18歳、今年で19歳。体重70キロ。身長178センチ、12月19日生まれの射手座。AB型。こんなもんだ。」
「出身地は?」
「ノーコメント。いいじゃないかそんなこと。」
説明するのがめんどくさいので出来るだけ聞かれたくない質問だ。
大体、どうせ信じてもらえないと分かっているのに言うのは無駄というものだ。
「それでは次は・・・、」
「お前そんなに人の素性を聞いて楽しいか?」
何とかこいつをまいて逃げ出す方法はないものか?
そんなことを考え始めたが、どうやっても逃げられず、会うタイミングが遅れるくらいだ。
確実にろくなことにならない。
「いいじゃないですか。大体あなたは封印をといておいて、自由に行動させるどころか、話し相手にもなってくれなかったじゃないですか。」
(う、すねたように正論を吐かれるとこっちとしては自分がものすごく悪者のような気になってくるな。・・・・待てよ。)
凌斗は黙り込んで考え始める。そんな凌斗を見てシリルはため息をついた。


「いた。トリーシャ、あの女で間違いないんだね。」
裏道の目立たないところから、凌斗たち二人を見つけ、トリーシャに確認する。
「うん。でも、何話してるか聞こえないね。」
「俺としたことがこの街にあんな美人がいたのを見落としていたとは。」
アレフは軽くショックを受けている。
街一番のナンパ師を自認している彼にとって、シリルほどの美人を知らず、かつ先を越されたというのは、確かにショックは大きいだろう。
「ねえ、シーラさん、あの人って確か、」
「知ってるのかい、トリーシャ。」
「うん、一応シーラさんにも確認しようと思って呼んだんだ。シーラさん、あの人って雷鳴山の時の人だよね。」
「う、うん。多分そうだと思う。」
「ふーん、で、結局誰なんだい?」
「さあ?凌斗さんの知り合いみたいだけど。」
埒が明かない、そう判断したエルは、
「アレフ、リョウのところに行って、聞き出してきな。」
アレフがナンパするかもしれないがこの際それは問題じゃない。
用は聞き出せればいいのだから。
「了解。」
アレフは道の少し手前から出るために裏道を戻っていった。
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