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BackDraft Fighters Bible Rank15 『格闘遊戯−前編−』
regret man






「悠久幻想曲 OUTDOOR-story」



 -BackDraft Fighters Bible-



Rank15「B−1の・・・」



     『格闘遊戯B−1グランプリ−前編−』



 闘いに理由など要らない。男の意地と意地。信念と信念。互いの力をぶつけ合い・・・

 勝利とは、即ち、最後に立ちし、笑う・・・

 さあ、格闘家(おとこ)たちよ、己を賭け、闘いに散れ・・・。



 中に入ろうとする人々でにぎわうグラシオコロシアム前には、このようなキャッチコピーが書かれたポスターが何枚も貼られていた。

 これは、毎年エンフィールドでこの時期に開催される、格闘技の祭典『B−1グランプリ』のポスターである。『B−1グランプリ(B−1)』とは、エンフィールド近辺の格闘家や傭兵達が腕を競う、異種大格闘大会だ。最近では、遠方からも、その噂を聞きつけ参加してくる者もいる。とにかく、エンフィールドという街の規模を考えると、かなり大規模な催し物であった。これだけ大きい大会となると、入場の為のチケットも早いうちから完売してしまい、観戦希望者の約半数近くがチケットを手に入れることが出来ず、諦めるか、当日のダフ屋頼りとなってしまう。

 だが、そんな人達にはお構いなく、チケットを手に入れた、ひときわ目立つ4人の女達が、入場の順番待ちをしていた。

「うわー!あ、あの人、雑誌で見たことある!!今日のグランプリに出るんだろうなきっと!!」

「ふみゅ〜!!メロディ、楽しみなのなのぉ!」

「ちょ、ちょっと!2人ともそんなにはしゃがないでよ!変に目立つでしょ!」

「ふぅ・・・困った娘たちだねえ・・・」

 4人とは・・・トリーシャ、メロディ、パティ、そして女戦士リサ=メッカーノ・・・であった。

 まぁ、トリーシャ、パティ、リサの3人は格闘技好きなので、観戦したがるのも分かるのだが、どうしてメロディが?と疑問が出るだろう・・・。

 実はコレにはかなり人為的かつ「悪意」がこもったワケがあった。



 3日前のことだ。

 2つの鐘が鳴る頃合い。場所は、馴染みのさくら亭。ここで、1人のやる気ゼロ自警団員が飯を食っていた。

「ムグムグムグ・・・・」

 その名をお馴染み、Kei=Yest。昔ははぐれ者、現在は第5部隊の隊員である。この街に流れ着いて、様々な暴力事件を起こしてる、問題自警団員でもある。ただ、勤務態度が不真面目なだけで、実務はしっかりこなせているので、どうしようもないのである。

 今日も、安全点検というたてまえで事務所を抜け出し、遅めの昼食を取ってるあたり、彼のやる気のなさをかもしだしている。

 パティもそんなKeiに一応注意はしているのだが、あっさりはね除けられてしまうので仕事に関しては何も言わないことにしている。

 そんな中、

カララン♪

 ドアのカウベルが来客を告げた。

「はぁ!はぁ・・・パ、ぱてぃ・・・」

「トリーシャ!!どうだった?!チケット取れた?」

 客は、トリーシャだった。だが、その様子は・・・かなり疲れているようだ。きれいにまとめられた前髪を振り乱し、汗を浮かべ、息を切らしていたのだ。

「はぁ、はっ・・・だ、ダメ・・・売り切れ・・・遅かった・・・」

「そ、そんなあ・・・」

 トリーシャの返事を聞き、ガクリとうなだれるパティ。なにやら相当落ち込んだ模様だ。

「むぐ、むぐ・・・・ん、どうしたんだ?オメーら・・・急に辛気くさくなりやがって」

 とりあえず自分の食事を平らげたKeiは、水を飲みながらパティ達に尋ねた。

「あ!Keiさん・・・実はね・・・」

 Keiにようやく気付いたトリーシャが息と整えつつ、事情を説明しだした。

 この日、B−1のチケットが発売されたのだが、かなりの人気があるため、早くに売り場に行かないと手にれることが出来ない。店を空には出来ないパティはトリーシャに頼みチケットを手に入れてきてもらおうと思ったのだが・・・トリーシャが並んだ頃にはすでに多くの人間が並んでおり、整理券を配る程の始末で、トリーシャは結局整理券すらも手に入らなかった・・・ということだった。

「なんか、今回はね、結構裏の方でチケットが流れちゃったらしいよ・・・」

「ええー?!なんで?」

「なんでも、結構有名な人達が参加しだしてきて、それを見たいからって、コネがある人達が取っちゃうんだって・・・」

「くっそー!!許せないわ。あたしの楽しみを〜!!」 

 パティがトリーシャの話に怒りをおぼえ、ギュウッと拳を固める。

「あ〜あ・・・ボクもマスクマン様、見たかったなぁ〜・・・はぁぁ」

 トリーシャは深い溜め息をつく。

 そんな彼女達の様子を見ながら、Keiはズボンのポケットに入っている財布をとりだし、その中にあった4枚の『紙切れ』をテーブルの上に出した。 

「・・・それって、コイツのことか?」

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 その『紙切れ』を見た、2人は驚きのあまり口をパクパクさせ、硬直してしまった。

「・・・おーい・・・」

 Keiは2人の目の前で手をひらひらさせた。

 やがて、

『えぇえーーーーー!!!!』

 2人そろって大声を上げ、その『紙切れ』を手に取った。

「こ・・・これ、ほ、本物なの?!」

「偽造とかじゃないよね!?」

「どっかで盗んできたとか、カツアゲ・・・・したとか?!?」

「お、オメーら・・・俺を何だと・・・。まぁ、一応本物だけど・・・」

 さっきから『紙切れ』といってるものは、『B−1グランプリ』の観戦チケットであった。現在、かなりレア度が高いこのチケットをなんとKeiは4枚も持っていたのだ。

「す、すごい・・・」

 パティもトリーシャもそのチケットの神々しさにそれ以上声もない。

 やがて、惜しそうにゆっくりとKeiに返そうとしたのだが、

「あん?ほしーんだろ。やるよ」

『へ?』
 
 あっさりKeiはそれを突き返した。あっけにとられる2人。

「俺は別に使わねぇし・・・金払って買ったモンでもないから・・・」

「えぇ!?で、でも・・・」

「受け取れないよ、こんな高いの!!」

「・・・あっそ。じゃあ破いてそこのゴミ箱にでも・・・」

「あああっ!!Keiさん、やっぱ頂戴!」

 Keiの投げやりな言葉に遂に受け取る決心をした2人。

「Keiさん!ありがとうっ!!」

「Kei、今日はあたしのおごりよ!!」

「え?・・・まじで?!ラッキー!今月ちょっとピンチだったんだよなぁ〜」

 パティの言葉に大喜びするKei。実際、チケットを売った方が今日の食費よりもいい稼ぎになったのだが・・・まったく気がついていないみたいで・・・

「でも、どうしてKeiさんがこんなにチケット持ってるの?」

 チケットをしまったトリーシャがKeiに尋ねた。パティも同じように疑問を抱いていた。

「んー・・・いやなに。俺もその大会出るんだ」

「えぇっ?!試合に?!!」

「おう。なんか予選とおっちまってな。上位入賞者には無料で配られるんだと・・・」

「上位っ?!」

 パティが驚いて聞き直すが、

「おっ!そろそろ時間か。あんまさぼってるとまた減給されちまうからな。じゃあ・・・」

 Keiは壁の時計を見て、パティの質問には答えず店を出ていった。

 パティとトリーシャはただそれを見送るのみだった。

「け、Keiって一体・・・」

 パティは冷や汗を流しつぶやいた。

「パティどうする?残りのチケット。2枚残るんだけど・・・」

「うーん。リサでも誘おうかな?見れたら見たいって言ってたし・・・」

「じゃあ1人はリサさんで決まり!あと1人・・・」

 トリーシャは考えた。自分の思いつく限りの人間を頭の中に浮かべる。

(あと1人・・・あと1人・・・うーん・・・Keiさんが試合に出るし・・・Keiさんっ!!)

 1人いた。多分この街の中でKeiと一番親しい『少女』がいたことをトリーシャは気付いた。噂では「恋人説」までなった。(この噂の発信源は他ならぬトリーシャなのだが・・・)

「パティ、あのね・・・」

 トリーシャはその娘の名前をパティに耳打ちした。それを聞いたパティは、少し驚きながらも、顔には笑みを浮かべた。彼女もその噂は耳にしたことがあるからだ。

「決まりね・・・」

「・・・・ちょうど4人」

 2人は不気味な笑みを浮かべながらつぶやいた。あまりの不気味さに下に降りようとしていたリサが、再び上に引き返した。



 時は戻って、現在。

 ようやく入場できた4人は運良く結構いい位置に座ることが出来た。近過ぎもせず、遠くもない。

 リサが受付で貰った対戦表を広げ、それを3人がのぞき込むように見た。

「Keiは・・・Aブロックの2試合目か。結構早いねぇ・・・おっ!この相手・・・」

「どうしたの?リサ」

 パティが聞き返す。

「Aブロックの1試合目のコイツ。『J』っていうヤツ。前大会、ベスト8って書いてあってね・・・」

「ええっ?!」

「Keiもくじ運が悪いのか、いいのか・・・。ま、わたしはあとのほうだとおもうけどね」

「・・・そ、それよりさぁ、リサ・・・」

 パティがあることに気付き、リサのパンフを指さした。

「Keiのここの部分、『予選1位通過』ってかいてあるんだけど・・・」

「・・・あら、すごいじゃない」

 これといって驚くわけでもなく、リサが答える。

「驚かないの?」

「Keiの噂は結構耳にしてるし・・・アイツ的には全然余裕だったんじゃないの?」

「へ、へぇ〜、そんなもんなんだ」

 やがて、中央にB−1グランプリの主催者と思われる、初老の男が出てきた。

『えー、皆様!!たいへん長らくお待たせしました。これよりB−1グランプリを開催したいと思います!!今回、例年になく大入りとなりこの場に入ることが出来なかった人々に、この場を借りてお詫 び申し上げます!挨拶はこれまで。では、ラインズマ審判長よりルールの説明があります。その後 に一回戦を始めたいと思います。皆様、今日一日盛大に盛り上がり、楽しんでいってください!!』

わーーーーーー!!!!!
 
 満員御礼の観衆から大きな歓声と拍手が上がった。

 ここで、B−1グランプリルールを少し説明しておこう。当初、A〜Dの4ブロックのなかでトーナメントにより上位2名を選出する。その後は決勝トーナメントとなり、8人プラス、その中にシードされた去年の上位4人が入る。だから中には他の選手より1回多く闘う選手が出てくる。また、武器、魔法の使用は認められるが殺傷能力は抑えられる。目つぶし、金的攻撃なし。トドメ技の禁止である。ブロックトーナメントは3分、1ラウンドのみ。10カウント、ギブアップで勝負有り。時間切れの際の判定は4人の副審と主審によって決まる。

 どちらかというと、ブロックトーナメントの方は判定で決着がつくことが多い。だが、そうでもしないと試合の進行が遅くなってしまうので、観衆が一番楽しみにしている決勝トーナメントがその日のうちにできなくなってしまう。それを避けるためにこのような方式をとっているのである。

 ラインズマ審判長のルール説明が終わり、いよいよ試合だ。選手が控え室からぞろぞろと出てくる。競技場が4つに区切られぞれぞれで同時に試合が進む形となる。

 4人はその中にKeiの姿を見ることが出来た。その姿は・・・なんともまあやる気のない恰好なのだ。

私服のチノパンに無地の白Tしゃつ、運動靴。なんだか、「出掛けたついで」というような服装だ。

 実際、競技場にいるKeiもやる気が起きなかった。

(あーあ、しんどい・・・あのおっさんカーライルに無理矢理出されて、予選・・・やったけどレベルの低い連中ばっかだったし。つまらんから、はよ負けて帰ろ・・・)

 Aブロック1試合目が終了した。結果は2分30秒ギブアップ宣告により『J』勝利。

 そして、Keiの番が来た。

「3番・・・選手!4番Kei=Yest選手!」

 Keiの相手は、ロングソードの一刀流剣士だった。

(・・・めんどい・・・)

 中央に出て、双方開始線の位置へ。剣士はKeiを睨み、Keiは空をボーと見る。

(はぁぁ〜・・・・)

 Keiが心の中で溜め息をついた。その時、

「Keiちゃ〜ん!!がんばってー!!」

(んっ!!!)

 観客席からいきなり聞き覚えのあるコール。

『始めぇっ!!』

 審判の合図。

 Keiは観客席を目で追った。そして、声の主がすぐに分かった。

(メ、メロディっ?!!)

 Keiの目はメロディとパティ、リサ、トリーシャを捉えた。

「わーい!!Keiちゃーん!!」

「Keiぃぃ!!頑張んなさいよー!!」

「Keiさーん!!ファイトー!!」

(あ、あいつら!よりにもよってメロディなんか連れてきやがって!!)

 Keiは心の中で毒づく。だが、その怒りは殆ど「空怒り」だった。

「つしゃあっ!!」

 剣士がKeiに襲いかかる。

「うおぁっ!」

 飛び退きかわすKei。

「あぁらぁっ!!しゃしゃしゃしゃしゃしゃっ!!」

 短い合気声と共に今度は突きを繰り出してきた。これ以上後ろに下がれないKeiは右と左に巧みに動き、これらをかわす。

「ふにぃぃ・・・Keiちゃん、危ないっ!」

「け、Keiさん、いきなり押され気味・・・」

「危ないわね・・・」

 メロディ、トリーシャ、パティがその闘いぶりを見て、不安になってゆく。だが、リサは

「あれは、大丈夫だね。どうやら実力が違うようだ・・・」

 1人冷静に試合を見てた。

(く、くそ・・・どうすっかな?)

 繰り出される、斬撃や突きをかわしつつKeiは考えた。

(ダリーから止めたいんだけど、アイツが見てる前でいきなり負けるってのは・・・)

 迷っている原因はただ一つ。メロディ=シンクレアという少女の存在だ。

ビュンッ!!

 袈裟斬りをかがんでかわし、トトンと後ろに下がるKei。構えはとらず、ポケットに手を入れている。

 剣士は肩で荒い息をしていた。顔には焦りの色も浮かんできている。

(やっぱ、負けるか・・・)

 そう決心し、ギブアップを宣言しようとしたのだが、



「Keiちゃ〜ん!!勝ってよぉ〜!!」



(っ!!)
 
 メロディが周りよりもひときわ大きな声で、Keiに呼びかけた。

「お、おおぉっ!!!」

 剣士が咆哮し、Keiに突進をかけた。

しゃぁねぇな・・・

 Keiは不敵につぶやく。

「チェストオォっ!!!」
 
 Keiの脳天めがけ剣を振り下ろした。

パシンッ!

 軽いはたくような音がして、その剣は止められた。

トン・・・スッ・・・

 剣を持っている手を上に弾き上げ、Keiは剣士の体に密着し、体勢を落とす・・・刹那、

ドフッ・・・

 僅かな音。大きく吹っ飛ぶ剣士。バトルエリアを越え、外枠の線の外に体が落ちた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」

 Keiが体勢を起こす。一瞬Aブロック全体が凍り付いたようになる。

 慌てて剣士に駆け寄る審判達。彼の様子を確認し首を横に振る。そして、中央まで戻ってきて、

『3番気絶。結果1分24秒、Kei=Yest選手KO勝ちぃっ!!』

おおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!
 
 高らかにKeiの勝利を告げた。観客が大きく沸く。

「ふみゃー!!Keiちゃん、すごーいっ!!!」

「Keiさん、カッコイイ!!」

「やるじゃない!Kei!!」

 この3人もKeiのいきなりの勝利に興奮した。Keiに声援を送る。

 照れながらも、それに応えるKei。

 リサはあいかわらず冷静さを保っていたが、握った手には汗を掻いていた。

(目にも止まらぬスピードで剣を持っている手を止め、そのまま跳ね上げる。体ががら空きなったところへ滑り込みそして・・・手首だけによる打撃・・・・・・・・・で的確に『みぞおち・・・・』を捉える)

 リサが今まさに判断したとおり、Keiは動いていた。

(ただの喧嘩馬鹿ではないと思ってたけど・・・かなり精錬された技を使うじゃないの・・・)

 リサは「これから面白くなるねぇ・・・」と1人、笑みを浮かべ、つぶやいた。



 Keiは控え室に戻り、さっき剣士をKOした右拳を見た。

(・・・こうなったら、意地だ。最後までいってやる!)

 そう決心し、拳を更に硬く握った。



    
闘いに理、無し。


    
あるとすれば、即ち、信念。


    
くじかれるとも、くじくとも、勝利こそ、全て。


   
強者、つどい、戯れ、この『格闘遊戯B−1グランプリ』。



                                                     (つづく)





作者より

 Rank15「B−1の・・・/『格闘遊戯−前編−』」お送りしました。

 やっぱり根は格闘家のKeiでしたね。だんだん燃えだしてきました。

 火付け役はやっぱり・・・メロディ!?



「ふにぃ?メロディがどうかしましたか?」



・・・・・・・・・・・・・・・・・さて、次回。Keiが持つ、最強の武器。それが今明かされる。メロディを救ったのも、実はコレ・・だった・・・。


 
 Rank15「B−1の・・・/『格闘遊戯B−1グランプリ−中編−』」



では、また・・・。




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