−Prelude−ミッション受講者親睦パーティREIM[HP]
「…やれやれ…何が楽しいんだか…」とグラスを手に壁際で呆れた口調で呟くルシード…。
今、学食では今年から試験導入する『仮想空間没入型特殊端末』を用いた特別授業の受講生間の親睦を深めようとパーティが
開かれている。
だが、こういった事がうっとしいと感じているルシードは…パーティが始まると同時にさっさと壁際へと『逃亡』していたのだ。
「…どうやら、お前も『逃亡組』か…」「…ルーか…ま、性に合わなくてな」と同じ様に『逃亡』して来たルーにこう答える…。
「最も俺達だけではないがな…」と言って反対側の壁を指差すルー。
それにつられて…目を凝らすルシード…反対側の壁際には長い黒髪の少女がぼぉ〜と立っていた…。
「…ありゃ確か…高等部のお嬢様じゃねーか? 名前は知らんが…」とルシード。
「…関わり合いにならないと名前は覚えんようだな…お前は…」少しばかり呆れた口調で呟くルー。
「どこぞのナンパ野郎と一緒にするな」と抗議する。
「…『どこぞのナンパ野郎』で悪かったな…」「事実を言ったまでだ…」とアレフにやり返すルシード…。
「確かにな…ナンパばかりしているのだから『留年』なんぞするんだ」と追い討ちをかけるルー…。
「やかましいっ!!」と怒鳴るアレフ。
…その場の空気が…剣呑なものに変わって来ているのは…気のせいなのだろうか…?
「ほれ、シーラ」「あ? ありがと、パティちゃん」と言って幼馴染からグラスを受け取るシーラ…。
そう、ルシード達の反対側の壁に立っていた少女は彼女なのだ。
「ったく、いいかげん、こーゆう場に慣れなさいよね、あんたも」とパティ。
「う、うん…でも…」「そりゃ、アレフのバカに言い寄られるの大変だけどさ…」と言いながらシーラの隣に来るパティ。
「で、あのバカ、言い寄って来たの?」「ううん…今のところは…」と答えると同時に…。
「やかましいっ!!」という怒鳴り声が彼女達の対面の壁の辺りから聞こえて来た…。
「はあ…あの3人、またやってる…」と彼女達の近くにいたシェールという名の少女が呟く…。
「いつもいつもあきないね…」と同じく近くにいた黄色の大きいリボンをつけた少女が呆れた声をあげる…。
「あれ?…確か、あのコ…」「うん、リカルド先生の…」「ああ、トリーシャね…」と納得するパティ。
一方…くだんの3人はというと…取っ組み合い寸前までいってたりする…。
「止めなくてもいいのかな…?」とシェールに問うトリーシャ…。
「ったく、何やってんだかっ」と止めに入ろうとするパティ…。
「あ? パティさん、あの3人なら大丈夫ですよ」とパティを止めるシェール…。
「だ、大丈夫って…あんたねぇ…」シェールを睨むパティ…。
ほぼ同時に…。
「ルシードさんもルーさんもアレフさんもやめて下さいっ!」と女性の声が響いた。
それと同時にあっさり分かれる3人…。
「ほらね」「…はあ…」…溜息をつくしか出来ない…。
「あれ? あの人、確か…シェールのお姉さんじゃあ…?」このトリーシャの何気ない一言でぴくんっと肩を震わすシェール…。
「それじゃあ、リーゼさん?」「ああ、あの優等生の?」順にシーラ、パティである。
「………はあ…」沈黙するシェール…出来過ぎる姉を持つと何かと気苦労が多いらしい…。
「あら? シェールさん、どうしたの?」「え? ううん、何でもないの…」とシーラに答えるシェール…。
「???」その返事に首を傾げるシーラちゃんであった…。
その場を取り繕うかのように…。
「ご主人さまぁ〜、ジュースを持って…あやややぁ〜!?」…何もないところでヒース色の髪の少女がコケて…。
ぱっしゃっ! かっしゃんっ!
「テ〜ィ〜セぇ〜っ!」「ご、ごめんなさいですぅ〜」ルシードからティセと呼ばれた少女が謝る…。
「…あれも…一種の才能なの…かな…?」それを見て、こう呟くパティ…。
確かに…4人固まっている中でルシードだけ狙ってジュースをかけたりするのも一種の才能かも知れない(笑)。
「なんか…肩こっちゃった…」と首の辺りをもみほぐすシーラ…。
「なにオバさんみたいなコト言ってんのかなぁ、あんたは」とからかうパティ。
「だって…ねぇ…」…結局、アレフに言い寄られたシーラがこうもらす…。
「まあ、確かに色々あったけどね…」溜息まじりにパティ…。
…あの後、ルシードの『言い過ぎ』によって、ティセばかりでなく『ふみぃ〜、ティセちゃんをいじめちゃだめなのぉ〜』と猫耳
少女のメロディまで泣き出し、更に…それを注意したバーシア先生とルシードがケンカをおっ始める始末…。
…そのドサクサにまぎれて、アレフはシーラを口説き始めるし…無論、彼女の側にいたパティの拳で制裁されたけど…。
え? バーシア先生とルシードのケンカはどうなったかって?
まだ泣いていたティセとメロディをなだめる為にゼファー先生が言った『フトンがふっとんだ』のダジャレ(?)で仲裁された
とでも言っておく……次いでとばかりに学食中、水を打ったように静かになった事も合わせて…。
「二人とも、これから帰るのか?」「あ、フィム先生、今まで何やってたんですか? 親睦会にも出ないで」と二人に声をかけて
来た若い教師に向かって抗議するように返事するパティ。
「まあ、ランディ先生と装置の最終調整を、ね」と答えるフィム先生。
「ふぅ〜ん…で、それが終わったから『従妹』を迎えに来たってわけぇ」と笑いながらからかうパティ。
「…ぱ、パティちゃん…」…真っ赤になって呟くシーラ…。
「…パティくん…」何とも言い難い表情で呟くフィム先生…。
そんな二人をムシするかの様に「また、あしたねぇ〜」と言い残し、さっさと帰宅してしまうパティ…。
「…はあ…パティくんには、かなわないなぁ…それじゃあ、シーラくん、帰るとしますか」「はい、先生」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「で、シーラくん、親睦会はどうだった?」と助手席に座っているシーラ−今、フィム先生の車で帰宅中−に声をかける。
しかし…。
「…一昨日、約束しなかった…?」と少し怒った声−それもジト目付き−が返って来る…。
「あ…ごめん、シーラ」と慌てて呼びかけ直す…。
「もう…次から気をつけてね、フィムくん」と拗ねた声で返事する…。
…少し詳しく説明すると…二人−シーラ・シェフィールドとフィムリード・フローティリス(フィムというのは愛称である)−は
5歳違いの従兄妹同士である。
更にフィムは初等部に通っていた頃から彼女の家に下宿していたのだ…だからこそ、車で一緒に帰宅しているのだが…。
ちなみに…さっきの『約束』というのは、新任の教師となったフィムに対し、
『お仕事が終わったら『シーラくん』じゃなくて『シーラ』って呼んでね。それと私も『フィムくん』と呼ぶから』
というもの−それも指切り付き−である…。
「はいはい…で、どうだったの、親睦会は?」とさっきと同じ質問をする。
「うん、いろんな人とお友達になれたし、結構楽しかったわ…アレフくんは除くけど…」
「また、言い寄られたか…」「うん…思わず『婚約者がいます』って言いそうになっちゃった」と小さく舌を出す…。
「おいおい…」「でも、事実でしょ?」と嬉しそうに微笑む…。
「そりゃあ…そうだけどね…」と苦笑いするフィム…。
…二人が婚約している理由は…フィムの心が一人娘から別な女子生徒に動かされるのではないかという両親の余計な心配からで…
彼が教師になる『条件』として半ば突き付けられたものである……最も…。
「…でも、嬉しかった…だってね、私…」と言ったきり、黙って彼の横顔を見詰める…。
「はは、叔父さんや叔母さんには頭が上がらないからなぁ…オレも…」とフィム…。
「くす、そうね…でも、まさか『あのこと』が見られていたなんて…ね」と急に顔を赤くしてもじもじする…。
「だな…でも、間違ってもオレ達が婚約してるってコトは…」「うん、わかってる、私が大学卒業するまでは…みんなに内緒ね」
と何か楽しいイタズラを思いついた様な顔で微笑むシーラであった…。