『Happy Birthday!! トリーシャ(さんorちゃん)っ!!』という声が上がった。
「みんな、ありがと〜っ」と礼を言うトリーシャ。
今ここ−トリーシャの家−には、トリーシャの他にエル、シェリル、クリス、マリア、瑞穂、ローラの6人が集まっていた…。
「こいつはアタシらからのプレゼントだよ」「わあ、ありがと〜、エルっ」と花束を受け取る。
「でも、みんなもひどいよねぇ〜。トリーシャちゃんのお誕生日に顔も出さないなんて」と口をとがらせるローラ。
「それは仕方がないですよ…」「そうですね…お仕事がある人もいますし…」となだめるクリスとシェリル…。
「だよな…特にフィムが隣街に行っているのが結構大きいからな…」髪をかきあげるエル…。
その為なのか…普段は暇人のはずのアレフとピートがジョートショップを手伝っていたりする…。
「ところで…シーラはどーしたのよ? あいつがいなければヒマなはずでしょ?」これはマリア。
「…知りたいか、マリア…?」「…知りたいような…知りたくないような…」複雑な表情でマリア…。
「…ボクさぁ…なんとなぁく予想ついちゃったんだけど…?」これはトリーシャ…。
「そ、そうですね…ま、まあ、シーラさんですから…」…とジト汗が一筋流れる瑞穂ちゃんであった…。
一方、自警団事務所では…。
「おや? フォスターくん、まだいらしたのですか?」とリカルドに声をかける団長。
「ええ、まだ報告書が出来ていないもので…」と机から視線を外してから、こう答えるリカルド。
「早くお帰りになられては? 娘さんが首を長くして待ってますよ?」と団長…。
「まあ、私がいなくても大丈夫だとは思いますが…今日は出来る限り早く帰宅するつもりです」と答える。
「ええ、そうして下さい…」と団長…続けて「…でないと…私が美穂くんやティルトくんに叱られてしまいますから…」
と小声で呟く…。
「??? どうしましたか?」「いえ、何でもありません」何事もなかったかの様に答える…。
「では、私は団長室にいますので…」と言い残して第一部隊の詰所を出る。
すると…。
「団長、どうでしたか?」と小声で話しかけて来るティルト…ちなみに美穂も一緒である…。
「ええ、今日は早めに上がるそうです」「そうですか…これでトリーシャちゃんが家出することはないわね…」これは美穂…。
「ああ…それだけは勘弁して欲しいからな…」とほっとするティルト…。
「ええ、そうですね…フィムリードくんもいませんから…3年前みたいな事がありましたら大変ですよ」と団長…。
しかしながら…今まさにトリーシャ達が『家出』ではなく、別の理由でトラブルを起こしていた等と神ならぬ彼らには
知るよしもなかった…。
戻って…フォスター家では…。
「ジャンジャンジャーンっ!! トリーシャの誕生日プレゼントでマリア、新作魔法いっきまぁす〜☆」
…問答無用で顔が青ざめるエルと瑞穂を除く一同…。
なにしろ……マリアの新作魔法→必ずと言っていいくらいに自爆…→それに巻き込まれるのは自分達……であるから…。
「わぁ〜っ!!? ま、マリア、ストップぅ〜っ!!」「マリアちゃんっ、やめてぇ〜っ!!」とまあ慌てて止めに入るのも
無理もない事であろう…。
「ぶぅ〜っ」みんなに止められてしまい、むくれるマリア。
そこでよせばいいのに…。
「どーせ、また自爆だろ?」「そうですね、マリアさんの魔法が成功したためしなんてありませんし」とマリアを逆なでする様に
余計な事をほざいてくれるエルと瑞穂…。
どっかぁん
という擬音が聞こえて来てもおかしくない程、噴火するマリア…。
「ぶぅぅぅっ!!! 二人ともっ!! 見てなさいよっ!!!」と事態は最悪な方向に…。
「へーへー、盛大な自爆を見せてみなよ」「わぁぁぁっ!!? エル、なんてコト言うんだよぉぉぉっ!!!」
と悲鳴をあげるトリーシャ。
「トリーシャさん、大丈夫ですよ。マリアさんの頭にヤシの実が落ちて終わりですよ」「瑞穂ぉぉぉぉぉっ!!!!」
…今度は絶叫するトリーシャちゃん…。
「エルっ!! 瑞穂っ!! 覚えてなさいよっ!!! ”偉大なるマナよ…”」と詠唱を始めちゃったマリアちゃん…。
「シェリルぅ〜、クリスくぅん〜、早くマリアを止めてぉ〜」と二人に泣きつく…。
「ま、マリアちゃん、や、止めようよ…」「そ、そうですよ、せっかくのトリーシャちゃんのお誕生日なんですから…」
と止めに入る二人…しかし…。
くき…
「ふ、ふぇ〜…指つっちゃったぁ〜」とつった指を押さえてマリア…。
その瞬間!
どっしゃんっ!!
という音が部屋中に響き渡った…。
それから30分後…。
「…トリーシャ…これはどういう事だね…?」と帰宅したリカルドがこめかみを押さえつつ娘に尋ねる…。
「…うぅ…マリアの魔法の…」「………もういい…」…それで何が起きたのか納得してしまった父親…。
見ると…何かが落ちて来たのか、料理がぐちゃぐちゃになっており、更にトリーシャの誕生日会に来ていたの6人の他に…
見なれない青年−料理まみれになっている−が一人…。
「…あの…? ここは…ドコですか…?」と尋ねる青年…。
「ど、どこですかって…?」と絶句する瑞穂…。
「も、もしかしたら…異世界から飛ばされて来たんじゃあ…?」これはシェリル…。
「異世界っ!?」驚くエル。
「ど、どーしよぉ〜っ!?」「ど、どうしようって言われても…」と慌てるローラとクリス…。
「…トリーシャ…すまないが魔術師組合に行って来る…後を頼んだよ…」と言い残して出かけるリカルドであった…。
ちなみに…組合で一部始終を話したが…その時の長の答えはというと。
「…儂も歳かのぉ…この頃、耳が遠くてなぁ…」であったという……それよか…逃げるなよ…じーさん…。
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「…はぁ…」と溜息をもらす青年…そりゃそーであろう…訳のわからん事で異世界に飛ばされたのだから…。
「…そんなに気を落とさないでよ…きっと元の世界に帰られるってば」とトリーシャ…。
一方…。
「と・こ・ろ・で…マリアさん、どう責任を取るんですか?」とマリアを責める瑞穂…。
「マリア、知らないもんっ」「知らないですむかぁ〜っ!!」「いひゃい、いひゃいっ!!」とマリアの両頬を引っ張るエル。
「あ、そだ…名前なんていうの?」と今頃気付いたかの様に青年に尋ねるローラ。
「え? オレの?」「うん、そうよ♪」「オレは…唯樹…佐々唯樹っていうんだ…」と答える青年…。
「へぇ〜、唯樹さんっていうんだ…ところで唯樹さんのいた世界ってどんなトコ?」これはトリーシャ…。
見ると…シェリルも興味深そうに耳をそば立てている…。
「オレのいた世界?」「うん、そうそう♪」「ぜひ、教えていただけませんか?」「そうだな…」と会話する3人。
すると。
「あ、そうだ。帰還の魔法を使えばいいんだっ☆」とエルの制裁から逃げたマリアがこう宣言する。
じとぉ〜
一斉にマリアをジト目で睨む一同…(但し、唯樹は除く)。
「…誰のせいでこうなったのかなぁ〜?」「う…」とトリーシャに突っ込まれ、二の句が継げなくなる…。
「だよな…」「これ以上、事態をややこしくしないでくれません?」これはエルと瑞穂であるが…。
「…エルも瑞穂も同罪だよ…わかってるよね?」『………』とトリーシャに睨まれてしまう二人…。
「だ・か・らぁ、マリアの魔法でね…」「…ホントにうまくいくの…?」半信半疑のローラ…。
「まっかせてぇ〜☆」…ものすごぉく…不安だ…。
「というワケでぇ〜、手伝ってね、トリーシャ☆」「へ? なんでボクが?」と突然、話を振られてきょとんとする…。
「だぁってぇ、この魔法って風の精霊の力が必要なんだもん☆」「…そーいや、ミュンに言われたな…トリーシャらしいって」
思い出すかのようにエル…。
「そりゃね、風の精霊使いの素質があると言われたけどさ…」…口の端を引きつらせながら答えるトリーシャ…。
何しろ…『シルフィードに守護されているなんて、トリーシャさんらしいですね』と言われてるから…ちなみに風の精霊
シルフィードの属性の一つに…『気まぐれ』があったりする(笑)。
同じようにフィムもシルフィードに守護されているが…彼の場合は主となる守護精霊が光の精霊ヴァルキュリアである為、
トリーシャみたいな気まぐれな性格が押さえられている。
話がそれた…。
「ホントに大丈夫だよね、マリア?」「大丈夫だってば☆」「信じらんなぁい〜」「ぶぅ〜」とトリーシャに言われ、
むくれるマリアである…が。
「トリーシャだって、元の世界に帰してあげたいんでしょ?」と言い返す。
「それはそーだけどさぁ…」「だったら手伝うのっ!」「そんなぁ〜」と押し切られてしまう…。
「あの、どうします?」「まあ、マリアさんだけでしたら止めますけど…」「トリーシャが一緒なら問題はないか…」
順にシェリル、瑞穂、エルである…。
しかし…この後すぐに『止めるべきだった…』と海より深く後悔する羽目になったという…。
何故なら…二人が呪文の詠唱を始めや否や…。
かぷ…
「ひ、ひた、はんぢゃったぁ〜(通訳:し、舌、噛んじゃったぁ〜)」といきなり、トリーシャが呪文の詠唱をミスったから…。
その結果…。
「トリーシャのバカぁーーっ!!!」
ちゅっどぉ〜んっ!
と豪快に自爆するマリアちゃんであった…。
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「……で、オレにどーしろと…?」…ジト目を睨むナッツ…しかも…こめかみには血管が浮かんでいたりするし…。
更に…その傍らには、深々と溜息をもらすリカルドがいたりする…。
「あは…ははは…出来れば、この人、元の世界に戻してあげて欲しいなぁ〜なんて…」と恐る恐る答えるトリーシャ…。
「そ、そうそう…ナッツお兄ちゃんなら簡単でしょ…?」これはローラ…但し、引き攣った笑みを浮かべているが…。
「ま、まあ…マリアの尻拭いしなきゃならん気持ちもわからんではないが…」と冷や汗を流すエル…。
その横では…瑞穂が…「エルさん…お下劣…」とぽそっと呟いていたりする…。
ちなみにマリアはというと……猿ぐつわをかまされ、簀巻きされていたりする…。
「はぁ〜」ふかぁい溜息をもらすナッツ…。
「私からもお願い出来ないだろうか…?」これはリカルド…まあ自分の娘も関わっているのだから当然の事であろう…。
「…結論から言わせてもらいます…もう手遅れです…」と宣告するナッツ。
「て、手遅れってっ、なんでぇっ!?」と胸ぐらを掴むトリーシャ。
「…さっきの魔法の暴走で『次元の扉』が消し飛んでいるんだよ…」と答える…。
「う……それって、ボクのせい…?」…途端に落ち込むトリーシャ…。
「いや、それだけじゃないんだけどね。それ以前にマリアが唱えたスペル自体が間違ってる」きっぱり。
「またかっ!?」「呆れて言う言葉が見つかりませんっ!」とマリアを睨むエルと瑞穂…しかし。
「お前らも同罪だぞ。止めなかったんだからな」『…………』押し黙る一同…。
「…お取り込み中、すみませんが…オレは一体どーしたら…?」と力なく尋ねる唯樹…そりゃそーだ…。
「正直な話、あなたを元の世界に戻す手段はもうありません…とりあえず協会本部に問い合わせてはみますが…」とナッツ…。
更に「…あまり期待しない方がいいでしょう…」と付け加える…。
「…そうですか…」…がっくりとうなだれる唯樹…。
「ナッツくん、一つ質問があるのだが、いいかな?」「ええ、どうぞ」とリカルドに先を促す…。
「もし、彼が元の世界に戻れなかった場合はどうなるのかね?」と尋ねるリカルド。
「協会としては本人の意思を尊重するだけです」「あのぉ〜、それって単なる責任放棄って言うのでは…?」「そうとも言う」
とシェリルに答える…威張って言う事か?
「そういう事なら私に任せてもらえないか?」これはリカルド。
「まあ、かまいませんけど? それでどうするのですか、フォスター隊長?」と質問するナッツ。
「差当たりは私が彼の身元保証人になろうと思っているのだが?」「まあ、それはかまいませんが…その後はどうされます?」
とリカルドに重ねて尋ねる。
「その後の事は…魔導師協会からの回答次第になるな…」
…結局、協会からの回答は…『帰還の手段は…ないと言わざるを得ない…』であった…。
その結果…異世界からの迷い人−唯樹はリカルドの提案でフォスター家に居候する事になったという…。
≪Fin≫
[あとがき]
エル「…また、新キャラか…?」
REIM「ええ、そうです」
クリス「こんなに登場させて大丈夫ですか?」
トリーシャ「それで、この話はどんな理由で書いたの?」
マリア「そうそう、どーしてよ?」
REIM「まあ、この話は…次回第18弾へのつなぎですね」
ローラ「次回はどんなお話なの?」
REIM「まあ、それは…次回までお楽しみということで」
トリーシャ「ふぅん…それはそれとして…どーしてっ、ボクの誕生日はトラブルばっかなんだよっ!?」
REIM「私に言われてもね…(小声で)多分、トリーシャさん自身がトラブル・メーカーだからかと…」
トリーシャ「トリーシャチョップ本気バージョンっ!!!」
ずごっ!!
マリア「……うわぁ…いったそう…」