少しずつ肌寒くなり始めて来た10月の初め…。
「いってきまぁす〜」と朝のエンフィールドの街にナッツやミュンに挨拶するティアの声が響き渡る。
つい最近までは歳に似合わず礼儀正しく『行って参ります』と二人に挨拶していたのだが、ここでの生活に慣れて来たのか、
歳相応の言動をするようになって来ている…。
「ふふ…ティアちゃんもようやく慣れて来ましたね」「ああ、いきなり見ず知らずの街に行かされたからなぁ…」
目を細めるナッツとミュンの二人…そして…。
「あ、あのね…」と話しかけるミュン…。
「え? なに?」と問い返そうとするナッツだが、
「…二人して…何してんのよ…?」とジョギング帰りなのだろうか頭を押さえながらパティがこう声をかけて来る…。
「おはよう、パティさん。どうしたんですか、顔をしかめて?」とちょっと残念そうな顔をして尋ね返すミュン。
「…昨日、由羅やクリス達と、ね…」「…二日酔いか…?」と問い返すナッツ…。
ちょっと説明すると…10月入ってからの2週間は異常とも言える状態だったのだ…なにしろ、この間に4人のバースディーが
あったのだから…。
その4人はというと…クレア(7日)、ミュン(9日)、ローラ(10日)、クリス(13日)の4人である…。
これではパーティをする方もされる方も大変だろうと思い…彼らの中では最年少になるローラの誕生日にまとめてバースディー
パーティを開いたのだった…が。
「やっぱり、由羅に引っ張られたか…クリスも…」と呆れた声をあげるナッツ…最も9日にナッツ、ミュン、ティアの3人だけで
ミュンの誕生日を祝っているのだから由羅の事はとやかく言えないはずであるが…。
「それで…何時まで飲んでいたのですか?」これはミュン。
「…う〜ん…由羅の家で朝日を見た記憶があるんだけど…」…それ、呑み過ぎだよ…パティちゃん…。
「…パティ…お前さぁ、今日、どーゆう日なのか知ってるか?」「なんかあった…?……げっ!?」いっぺんに酔いが消し飛ぶ。
そして、
「あは、あははは…そ、そんじゃ、あたし、帰って寝てくるわっ!」と慌てて『さくら亭』へと駆け出す…。
「…あいつ、寝られると思ってんのか…?」…ナッツのこの台詞に対する答えは…『否』である…。
「ははは…あ、あのね、あなた…」「ん、なに? さっき言いかけてたコト?」と尋ねる。
「うん…実はね……2ヶ月…ですって…」と意味深な事を言って頬を染めるミュン…。
「え? 何が『2ヶ月』なんだ?」と問い返す…それに対する愛妻の答えは…。
「……ティアちゃんみたいな女の子がいいの? それともリオくんみたいな男の子いいのかな…?」この答えで納得する…。
「これからは…あまりムチャをするなよ…」ミュンの髪を優しく撫でる…。
「うん…わかってる…」とくすぐったそうに微笑むミュンである…。
昼過ぎ…自警団事務所では…。
「アルベルト…ちょっと話があるんだが…いいか?」と第一部隊の詰所にいたアルベルトにこう切り出すティルト…。
「んあ? なんだ、急にあらたまって?」このティルトの物言いに訝しがるアルベルト…。
「頼むから今日だけでいいっ! お前の妹をっ! クレアを閉じ込めおいてくれっ!!」「なんじゃそりゃぁっ!?」
驚いて大声をあげるアルベルト。
「いくらなんでもなっ!!」「これを見てくれ…」と憤るアルベルトに一枚の書類を見せる…。
「これがどーしたって……なるほどな…そーゆうコトか…」一通り目を通し、納得する…。
「わかってくれたか?」「ああ…でもな…」「な、なんだよ?」とティルト。
「…タイミングが悪かったな…」と言って身体を横にずらすアルベルト…。
そこには……。
「…ティルト様…」と柳眉を吊り上げたクレアがいたりする…しかも…黒茶色の瞳に怒りの炎が浮かんでいる…。
「…や、やあ…お、俺、任務があるからっ!」と言い残して脱兎のごとく逃げ出すティルト…しかし…。
「ティルトさんっ!! お父さんにボクを家に閉じ込めてって言ったのってホントっ!!?」
とぷんすかモードのトリーシャに入口を塞がれてしまう…彼女の後ろにはバツの悪そうな顔をしたリカルドが立っている…。
「ふぉ、フォスター隊長っ!?」「…すまん…うっかり口をすべらせてしまった…」と申し訳なさそうに謝るリカルド…。
「…さあ、どういう事ですか、お話しして頂きますわ…」とじりじりと詰め寄るクレア…。
「あ、アルベルトっ!」「なんだよ…俺は助けるつもりはないぞ…?」と投やりな口調のアルベルト。
「第三部隊の連中に伝えておいてくれっ! しばらく身を隠すから任務を遂行しておくようにってっ!!」と言い残すや否や。
「ま、待って下さいっ!? こ、ここ2階ですよっ!?」というヤンの悲鳴とともに窓から逃げ出すティルトであった…。
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ところ変わって、団員寮では…。
「……世の中、不公平ですわ…」とベッドの上で足を投げ出して座りながら、こうグチるクレア…。
「しょーがねーだろう…お転婆したお前が悪いんだろ?」と傍らの椅子に腰掛けているアルベルトがこう口を開く…。
「それはそうですが…」「とにかくだ、今日はおとなしくしてろ」とアルベルト。
「そんな…」…ティルトを追って窓から飛び降り…着地失敗で足を挫いちゃったクレアちゃんである…。
その日の夕刻…。
秋色に染まったエンフィールドの街に祭囃子が響き渡っていた…。
「…結局…眠れなかった…」と目の下にくまを作りながら食材の手配をするパティ…。
「…親父さんが『はい、そうか』と納得すると思ってたのか…?」書類に目を通しながら呆れるナッツ…。
…二人の他にも…2〜3人、忙しく立ち回っている…。
彼らの仕事は屋台に食材等を滞りなく届ける事である…。
「…そりゃそうだけどね…それよりもさ、これ、ジョートショップに依頼すればいいんじゃないの…?」とパティ…。
「…依頼したんだけど…ね」まとめ役のナッツ−商店ギルドの世話役の一人−が呟くように答える…。
「けど?」「アリサさんに断られた…」「………うそ…」
一方…。
「ふふふ…♪」「…ずいぶん嬉しそうだね、シーラ?」「ええ、フィムくんと二人でお祭り見物ですもの」「ははは…」
と浴衣姿のフィムとシーラが秋祭りを楽しんでいた…。
なにしろ…3年前はお祭りを楽しむ方ではなく、楽しませる方であったのだから…ましてや彼と二人で祭り見物するなんて
今年が初めてなのだから…シーラが嬉しくなるのも無理もない事であろう…。
「ふふ、アリサおばさまに感謝、かな…今日1日、お仕事全部断ってくれたのだし」とシーラ。
「そうだね。帰り際にお土産を買って帰らないとね」これはフィム。
「ええ、そうね…あれ? なにかしら?」「ん? ああ、あんず飴か…」「あんず飴?」と首をかしげる…。
「ああ、そっか…」と事情を察するフィム…続けて、
「ちょっと待ってて」と言って屋台の方に行き……「はい、お待たせ」と言ってあんず飴をシーラに手渡す。
「あ、ありがと…」と言って受け取り、恐る恐るなめてみる…。
「あ、これ、甘くておいしいわ」とご満悦のシーラ。
「気に入ったみたいだね………あれ? あそこにいるのは…?」「あ、セリーヌさんとティルトさん…だわ」
そう二人の視線の先には…孤児院の子供達を引き連れて、お祭り見学をしているティルトとセリーヌの姿があった…。