中央改札 交響曲 感想 説明

二人だけの秋祭り ≪中編≫REIM[HP]


 遠くから…フィムとシーラの二人が見ている事に気づいていないティルトとセリーヌは…。

 「疲れた? 少し休もうか?」とセリーヌに声をかけるティルト。
 「いいえ、平気です…それよりもご迷惑じゃなかったのですか?」反対に問いかける…。
 「気にしないでいいよ。全然迷惑なんかじゃない…」と答え、更に。
 「…嬉しかったよ…誘ってくれてさ。正直、思いもよらなかったな…」と続けるティルト…。
 …大抵はティルトの方から彼女を誘っている…。
 「私…男の方をお誘いするのって、慣れてないものですから…」これはセリーヌ…続けて…。
 「…アリサさんやシーラさんに聞いて、一生懸命練習しました。鏡の前で何度も…」
 「ははは…どうりで、誘いの言葉が棒読み口調だったわけだ」とその時の事を思い出し笑いするティルト…。
 つられてセリーヌも恥かしそうな笑みを浮かべて、
 「お祭りに出かけるの、一人じゃ心細かったんです…本当にありがとうございます」と礼を言うセリーヌ…。
 「そんな、礼なんていいよ…」「でも本当に良かった…一緒に来ていただけて…」と言うセリーヌだが…。
 「ははは…はは…」と苦笑いをするティルト…それは何故かというと…。
 「子供たちも喜んでますわ、ほら、あんなに」…世の中…そんなに甘くはなかったね…ティルトくん…。
 「おにいちゃん! おにいちゃん! 綿菓子! 綿菓子買って! ねえねえねえ!!」
 「このお面かぶってみて、おにいちゃん!! んきゃはははははは!!」とティルトにせがむ子供たち…。
 「う〜…元気だね、キミたちは…」…溜息まじりに呟くティルト…。
 「もう一人、保母をやってる方が急に今日来れなくなって…困ってたんですよ。本当に助かりました」
 「ははははは…」…セリーヌのこの台詞を聞いて苦笑いする…しかし、内心は…。
 (…何、期待してたんだか…俺は…)とボヤいていた…。
 「ご厚意に甘えて…もう一つお願いしてもよろしいでしょうか?」「…なんでも。もう今日は好きに使ってくれ…」
 半分以上ヤケになって答える…すると…セリーヌは声をひそめて…彼だけにしか聞こえない声でこう言った…。
 (…ええと、子供たちを連れて帰った後…もう一度、二人で来ませんか?…これは私のワガママなんですけれど…)
 ちょっと驚いた顔をするティルトであったが、
 (そういうワガママなら…いつでも歓迎するよ…)と彼女の耳元でこう答えるティルトである…。

 一方…。
 「…あれ…『デート』って言えるのかしら…?」とセリーヌにせがまれて『男の方の誘い方』を教えてあげたシーラが呟く…。
 「…判断に苦しむトコだな…」これはフィム…。
 流石に会話の内容まではわからないものの…見た目は、上手くやっているらしいという事ぐらいは判る…。
 「…そっとしてあげましょ…お邪魔になっちゃうし…」「ああ、そうだな…じゃあ、夜店でも冷やかしてく?」
 と彼らの反対方向へと去っていくフィムとシーラの二人である…。

 それから…1時間後のこと…。
 「…はあ…世の中って不公平です…」とグチをこぼす瑞穂…。
 「なぁに言ってんのかなぁ〜、このコは?」と言って、口いっぱい綿菓子を頬張る美穂。
 「…はあ…本当でしたら…クリスさんと…」「なぁんかぁ言った、瑞穂?」「なんでもありませんっ」
 …無数のトゲを含んだ姉の台詞にぷるぷると首を横に振る…。
 ちなみにクリスは…自室で…うんうんと唸っていたりする……二日酔いで…(汗)。
 「…はあ…」と本日、十何回目の溜息をつく瑞穂…。
 何しろ…2、30分前に…楽しそうに、しかも仲睦まじくお祭り見物をしていたフィムとシーラの二人の姿を見たから…。
 そして…『いつか…自分も…』と思ってもおかしくはないだろう…。
 でも、現実は…。
 「おじさぁんっ、これちょーだいっ!」…今度はヤキソバに手を伸ばす美穂…。
 これまでに…焼きイカ、たこ焼き、ピザ、お好み焼き、綿菓子…が全て彼女の胃袋におさまっている…気持ちのいいくらいの
 食べっぷりである…とても女の子のする事じゃないが…。
 「…美穂姉…太りますよ…」それを見て…微かに頭痛がしてきた妹がぽつりと呟く…。
 「ひーのっ! 後で運動すれば問題ないからっ!」とヤキソバを飲み込みながら答える…。
 「…はあ…」この姉の食べっぷりを見て…急にお腹いっぱいになってしまう瑞穂…。
 「…なによ…その溜息は…?」…ジト目で美穂…。
 「な、なんでもありませんっ」「ほんとにぃ〜」…途端に窮地に陥る妹…。
 「え〜とぉ…あ、あそこにいるのトリーシャさんでは…?」「…そぉんなコトでゴマかされると思って…あれ、ホントだ…」
 とあっさり誤魔化されてしまう姉…。
 「…何をしているのかな…?」「…さあ…?」と首を傾げる姉妹…。
 …物陰に隠れる様にして、何かを見ていたトリーシャだったが…急に肩を震わせると…走り去ってしまった…。
 「…なんなのかしら…?」「さあ? でもトリーシャちゃん、泣いてたよーな…?」「トリーシャさんが? 気のせいですよ」
 と姉に言い聞かせるように否定の答えを返す瑞穂である…。

   ばたんっ!!
 と扉を突き破るかのように家の中に入って来るトリーシャ。
 「な、なんだっ!? どーしたんだ、いったい?」この物音に驚いて彼女に尋ねる唯樹。
 …彼はこの世界に慣れる為に色々な本を読み漁っていたところであった…。
 「ねえっ! 唯樹さん、聞いてよっ! ティルトさんってば、ボクというカワイイ子がいながらっ、浮気してたんだよっ!!」
 と一気にまくし立てる…。
 「浮気って? 誰と?」「セリーヌさんとだよっ!!」「何でそー言えるんだい?」と落ち着かせるように尋ねる唯樹…。
 「そんなコトっ、どーだっていいじゃないかっ!!」…かえって逆効果であったようだ…。
 「で、オレにどーしろと?」「え…?」…なぁにも考えていなかったみたいである…。
 「オレが見た限りだと…結構お似合いじゃないのか、あの二人?」と唯樹。
 「そんなのっ、ボクが許さないっ!!」と怒鳴るトリーシャ。
 「…ずいぶんとムキになってるけど…誰かに振られたコトでもあったのかい?」「……なんで、わかったの…?」力なく呟く…。
 「ん、オレのいた世界の知人がね…今のトリーシャと同じコトを言ってたコトがあってね…」と答えると口をつぐむ唯樹…。
 トリーシャは…何かを堪えるように黙って唯樹の顔を見ていたが…とうとう堪え切れなくなったのか、急に俯くと…。
 「……うん…前は…フィムさんに…振られたんだよ…それも…初恋…だったのに……」ノドの奥から絞り出すように答えた…。
 「なるほどね…だから理性では『叶わぬ想い』とわかってても感情は…」と言って言葉を切る唯樹…ここから先は言わなくても
 トリーシャなら判ると思ったから…。
 「………不公平だよ……」…ぽつりと呟く…。
 「なにが?」「…だって、シーラさんもセリーヌさんも…二人とも…『好き』というそぶり見せてなかったんだよ…?」
 と弱々しく呟くトリーシャ…続けて、
 「それなのに、なにも知らないでアタックしていたボクがバカみたいじゃないかっ!!」と彼女の感情が爆発し…そのまま、
 声を殺して泣き始めた…。
 一方、唯樹は…やれやれと肩をすくめると…彼女にハンカチを差し出した…すると…トリーシャは涙で曇った瞳を上げ…
 そして…彼の胸に顔をうずめて、今度は声を枯らすかのように泣きじゃくっていた…。
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