12月28日深夜−『さくら亭』では…。
「…さて、あと3分足らずだけど…準備はいいか?」と時計を見ながら、こう呼びかけるナッツ。
「ふみぃ〜」「こっちはOKよ」「ボク達の方もいいよ」「ああ、いつでもいいぜ」等、口々に答えが返ってくる。
「そうか…残り10秒になったらカウントダウンを始めるからな…ちなみにあと2分…」これはナッツ…。
店内を見ると…いつもの面々が思い思いのところで新年パーティの開始の合図を待っていた…。
…中には…エルとマリアが二人して…シャンパンのビンを一生懸命に振っているのも見えるけど…。
「……そろそろ10秒前だな…8、7、6……」とカウントダウンを始める…。
…それを受けてシャンパンを振る手が早くなる…。
「……3、2、1、Zero!」と言うと同時に!
ごぉ〜ん、ごぉ〜ん…
セントウィンザー教会から新年を告げる鐘の音が鳴り響き、
パパパーン!(×∞)
「新年おめでとうっ!」「今年もいい年でありますようにっ!」「今年もよろしくお願いしまぁすっ!」とクラッカーの音や
グラスを合わせる音とともに新年を祝う声があちこちから上がる…。
その声にかき消されるかのように…。
すっこ〜ん(×2)
と間の抜けた音が微かに聞こえたかと思うと、
『〜〜〜っ!?』とうめき声を上げて、コルク栓が当たったところを押さえてうずくまるエルとマリアがいたという…。
「…エル、大丈夫…?」「…トリーシャか…ああ、なんともないさ…」とさっきまで鳩尾−そこにマリアのコルク栓が命中−の
あたりをさすっていたエルがトリーシャにこう答える…。
「ったく、二人してアホなコトしてるからだよ…」と呆れた声でリサ…。
何のコトはない、二人でシャンパンをかけあおうとしたが…予めコルク栓を抜くの忘れていただけなのだ…。
ちなみにマリアはというと…額にコルク栓が命中したという…。
「それはそーと、飲むだろう?」とエルに水割りのグラスを渡すリサ。
「ああ…って、中身がないぞっ!?」「そんなバカなっ!?」驚く二人…答えはすぐ出た…。
「えるぅ〜、リサさぁん〜、もっと呑まなきゃだめだよぉ〜」…どーやらトリーシャの胃袋におさまっていたらしい…。
『………』…どうやってくすねたのかを尋ねる前に…酒乱−それもからみ酒−のトリーシャにからまれてしまった二人である…。
一方…。
「…いたたた…」と額を押さえてうめくマリア…。
「マリアちゃん、大丈夫…?」「うぅ…あとが残ったらどーすんのよ…?」と心配そうに声をかけてきたシェリルに答える…。
…だったら『最初からするな』と言いたい…。
「まぁったく、あんた達も相変わらずよねぇ〜」と笑いながらグラスを二人に渡すパティ。
「それ、どーゆう意味…?」受け取りながら聞き返すマリア…。
「あははは、『ケンカするほど仲がいい』って、意味かな?」「ぶ〜っ!! だぁれがあんなヤツとっ!!」からかうパティに
文句を言い、受け取ったグラスに口をつける…が。
「…………あのさ、パティ…」「ん、なに?」「…これ、お酒…」「え゜…?」…慌ててシェリルの方を見る二人だが…彼女の
グラスの中身は…既に半分ほどなくなっていた…。
「…え〜とぉ…マリア、しぃらないとっ」「あ、こらっ! 待ちなさいよっ!」とパティを置き去りにして逃げるマリア…。
…この後、パティがどうなったかは…言うまでもあるまい…。
その頃…。
「…はあ…」と溜息をもらすミュン…。
「おい、ナッツ」「なに?」「お前の嫁さん、元気ねぇみたいだが…どーしたんだ?」と小声で会話するフィムとナッツ…。
「ああ、それか…多分、冬だというのに雪が降ってないせいじゃないかな…?」と答えるナッツ…。
「………なんでだ…?」半瞬ほど固まったフィムが絞り出すような声で尋ね返す…。
「今日、ベルファークでは冬祭りしてるんだけど…毎年のように夜になると雪が降るんだよ」「…答えになってないぞ…」
「話は最後まで聞けって」とたしなめるナッツ…続けて、
「今まで、そんなところで暮らして来たんだ、なんか物足りないと感じても不思議じゃないだろ?」と説明する。
「…わかったような…わからんような…」「要するに『情緒不安定』って事ね。時期が時期ですし」とイマイチ納得出来ない
フィムにこう補足するイヴ。
「まあ、そんなトコ」「だったら側にいてあげたほうが…?」とくちばしをはさむシーラ。
「それもそーだな」と言い残してミュンの側に行くナッツ。
「はい、フィムくん」「あ、ありがと」とシーラからワイングラスを受け取る。
「しかしまあ…新年になってもやってるコトは…全然変わらないじゃないか…」とエルやマリア達の方に視線を向けるフィム…。
「くすくす。でもフィムくん、大人しくて、おしとやかなマリアちゃんやエルさんって…想像……でき…る…の…?」…どうやら
言ってる当人からして…そんな二人のイメージを思い浮かべてしまったらしい…。
「…シーラ…今、イメージしてみて…怖いと思っただろう…?」「…うん…凄く怖かった…」「…どーゆうイミ…よ…?」
…突然聞こえて来た声に慌てて振りかえると…頬を膨らましたマリアが立っていたりする…。
『…え〜とぉ…』…ジト汗が流れ落ちる二人…。
「くす、フィムさんやシーラさんの言ってる事は正しいですよ」と余計な茶々を入れる瑞穂。
「みぃずぅほぉ〜?」「間違った事は言っていませんよ。それに私の方がお淑やかでスタイルいいですし」と胸を張る瑞穂。
「…ジャジャ馬の…ムネなし…」ぽそ。
ひきっ!
…瑞穂が一番気にしてる事を口にして反撃するマリア…。
「ろ、ローラさんよりも胸は大きいですっ!!」「ローラはね、お・こ・さ・ま、だから、ムネなんかないでしょ☆」
「ちょっとぉ〜、それ、どーゆうイミぃ〜っ!!?」と乱入してくるローラ。
「…巻き添えを被る前に…」「そ、そうね…」とそそくさとその場から逃げ去るフィムとシーラ…。
一方…『失言』を犯した二人が逃げた事に気づいていないマリア、瑞穂、ローラはというと…。
「マリアちゃんっ!! お子様ってなによっ、お子様ってっ!?」「だぁってぇ、ローラってば、まだお子様でしょ☆」
「あら、そういうマリアさんもお子様ですよ、特に背丈が♪」と逆襲の一言を放つ瑞穂。
ぐさっ!
「ろ、ローラより、背高いわよっ!!」「どーしてっ、そこであたしを引き合いに出すわけぇーっ!!?」
…まだ…低レベルな言い争いを続けていた…。
「それにねっ、あたしに言わせればっ、二人とも寸足らずの洗濯板よっ!!」とうとうキレてしまったローラ…。
『……ろぉらぁ(さぁん)……』…とても文章では表現出来ない表情でローラを見る二人…。
「な、なによ…?」それを見て、ちょっとビビるローラ…するとマリアと瑞穂は…。
「ローラ、ちょっと外、来てくる?」「そうですね、お店の外に行きましょうね♪」「え、えとぉ…?」
と二人に『さくら亭』の外に連れて行かれる…いや、引きずり出されるローラ…。
「…なにが…起きるんだ…?」「さ、さあ…?」とお互いの顔を見合わせるアレフとクリス…すると…。
『”Carmine=Spread!”』…マリアと瑞穂の声が聞こえて来る…。
し〜ん…
「…あれ? なにも起きない…?」これはローラ…。
「ったく、なにやってんだか…」「どーするんですか?」とナッツにこう声をかけるディアーナ。
「≪ファイヤー・ボール≫でお仕置きしてくる……ん?」と物騒な台詞を言い残して、様子を見に外に出るナッツ…すると…。
「ちょっと、ミュン、こっちに来てくれる?」「え? ええ…」ぱたぱたと外に出ると、
「うわぁ〜、綺麗…」という声が彼女の口からもれる…。
「どうしたの?」「なんだなんだ?」と扉や窓から外を見る面々…。
そこには…キラキラと輝きながら雪みたいなものが雲一つない空からゆっくりと降り注いでいた…。
「これは一体…?」「どうやら二人が唱えた魔法が失敗した結果、こうなったんだろうね」不思議がるルーに答えるナッツ。
「ほぉ〜、マリアらしくない失敗だね」とエル…但し、顔がにやけているが…。
「ぶ〜」それを聞いて拗ねるマリア。
一方…。
「うぅ…マリアさんよりも魔法は得意だったのにぃ…」と失敗したショックで落ち込んでしまった瑞穂ちゃんであった…。
「なんだか…ベルファークの冬祭りの見物に行った時の事を思い出しますね…」とナッツに寄り添いながらすっかり元気になった
声で話しかけるミュン…。
(まあ、二人の失敗魔法のおかげでミュンが元気になったことだし、今日のところは許してやるか…)と内心こう思い、ミュンの
髪を優しく撫でるナッツくんであった…。
≪Fin≫
[あとがき]
REIM「あう〜(泣)」
パティ「…いきなり、なに泣いてるのよ…?」
REIM「…マリアさんを主役したお話を書いてたはずなのに…」
パティ「……あっそ…」
REIM「…冷たい…一言ですね…」
パティ「…あたしにどー言えと…?」
REIM「………」
セリーヌ「あのぉ〜、私の出番まったくなかったのですけどぉ〜」
ティア「…私もです…」
パティ「だってさ」
REIM「はあ…このお話では自警団員以外、ほぼ全員登場してると思っていて下さい」
リサ「なんで自警団員はいないんだい?」
REIM「それは…自警団総出で巡回出ているからですよ」
リサ「なるほどね、そりゃ立派な言い訳だね」
REIM「………」
なんだか、この頃、キャラ達にいじめられてる気がするぞ…。