一方、団長から何かしらの『命令』を受けた美穂はというと…。
「…という訳なの。しばらくの間、美術品盗難事件を担当するから、あたし抜きで任務を続けておいて」と資料室担当の隊員達に
こう伝える。
「はあ…それはかまいませんけど…それでどう調査するのですか?」と尋ねられる。
「そうね…どんな小さいことでもいいから、何か聞いていない?」逆に尋ね返す美穂…。
「そうですね…」と思案げな顔になる隊員達…。
…この時にあげられた情報は以下の通りである…。
1.アリサが保釈金10万Gを払ったが、ジョートショップの土地を担保にして借りたお金らしい。
2.ジョートショップの仕事をアルベルト達だけでなく、仮面をつけた男にも邪魔されているようだ。
3.更に『シャドウ』と名乗る男にも仕事を妨害されているようだ。
4.その仮面の男だが、去年の秋頃からジョートショップに度々訪れていたらしい。
5.独自に捜査を行っていた第一部隊長のリカルドが何者かに襲われたらしい。
6.また、第三部隊での捜査指揮者のロビンも襲われたらしい。
7.個人で調査をしていたシェフィールド夫人も襲われた(襲撃者は一人残らず病院送りになったが…)。
「…そう…」と言うと上の方を向いて頬を人差し指でとんとんと叩きながら考え込む美穂…そして、何かを思いついたらしく、
「…ちょっと手伝ってもらおうっかな…団長のトコに行って来るね♪」と言い残して資料室を後にしたのだった…。
翌日、エンフィールドの某所では…。
「それでですね、自警団の動きはどうなのですか?」と仮面の男−名はハメット・ヴァロリー−が手下Cに尋ねる。
「はい。ジョートショップの監視役が第一部隊のアルベルトから第二部隊の広瀬美穂に代わりました」「それは何者ですか?」
と報告者に聞き返す。
「はあ…デュルセルの孫娘で…」「ああ、資料室担当の…」納得するハメット…そして。
「それは捨て置きなさい。祖父の七光りのおかげで閑職部署のチーフになれた小物に何が出来るというのですか。それで次は?」
と綺麗さっぱり忘れて去ってしまう…。
しかし、その『祖父の七光り』のおかげで『閑職部署のチーフ』になれた『小物』にあっけなく『悪事』を暴き立てられた挙句、
『失脚』までさせられるとは考えてもみなかっただろう…。
「はあ…それでリカルドの方ですが…」「リカルドがどうかしたのですかっ!?」色めき立つハメット。
「は、はい、昨日、第三部隊のロビンと密談をしていたようで…」「直ぐにその内容を調べなさいっ!!」と言下に命令する。
「あの男も飼い犬なら飼い犬らしく、黙って飼い主の言う事を聞いておればよいものをっ!」と苦々しく吐き捨てる。
でもね、『飼い犬』だってね、がぶりと『飼い主』に噛み付く事だってあるんだよ?
「最後ですが…ジョートショップの方ですが…」「ちゃんと妨害しているのでしょうね?」とハメット。
「している事はしているのですが…」歯切れの悪い口調で報告者…。
「??? 何があったのですか?」と尋ね返すハメット…。
「はあ、こちらの存在に気づいたらしく…妨害をする前に我々が排除される有様でして…」とここで言葉を切り、
「…1週間前にもマリアお嬢様の魔法のお力で…一度に妨害担当7人全員が病院送りに…」と続ける…。
…補足すると…迎え討とうとしたマリアが唱えた≪ヴォーテックス≫が…呪文詠唱をトチったらしく、襲撃者達のド真中で
『大爆発』しただけであったそうな(笑)。
「……………妨害はやめにしましょう………」…あまりの『人的被害』の多さに絶句してしまったハメットであった…。
その頃…。
「まぁったく…アルさんもしつこいんだからぁ〜」と自警団事務所の2階にある空き部屋で今までの捜査資料に目を通しながら、
グチをこぼす美穂…。
昨日、アルベルトと『監視任務』の引継ぎを行ったが…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
『ったく、なんだってオメェみたいなガキに譲らなきゃなんねんだよ』とグチを言うアルベルト。
『…ガキで悪かったわね…あたしだって不本意なんだよ。それにさ、引継ぎは簡潔にってフォスター隊長に言われたでしょ?』
とむっとして言い返す美穂−当時17歳…。
『ちっ。まあ、隊長の命令だからしょーがねぇがな…いいか、手を抜くんじゃねぇぞっ!』と美穂にこう言い、更に続けて、
『ぜぇったい、ボロを出すに決まってるんだからなっ!』と力強く言い放つ。
『はいはい、クギを刺さなくてもわかってるって』と赤子あやすように美穂。
『オメェの場合はなっ、クギどころか杭を刺してもウラでなにやってるか、わかんねぇんだっ!』とアルベルト…ある意味、
ひどい言われようである…でも大正解だったりする…。
『ひっどいなぁ…じゃあ、こうしない? なんか情報を掴んだら先にアルさんに教えるからさ♪』といきり立つアルベルトに
こう提案する美穂…最も1、2時間後、すぐ反故にしたが…。
『だぁーっ!! アルって言うんじゃ…なにっ!? それはホントかっ!?』と聞き返すアルベルト。
『ほんとほんと、うそじゃないから♪』…この…大嘘つきムスメ…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「もお…そんなにあたしのことが信じられないのかなぁ〜」…それは…ある意味、当たってるぞ…。
そうやって捜査資料に目を通していた美穂の背後から、
「あの、美穂さん…ですね…?」と声をかけられる…。
「ん、そうだけど…なにか?」振り返らずに答える…。
「お時間がよろしければ、地下書庫に来ていただけませんか?」「わかったわ…」と立ち上がって、後ろを振り返る美穂。
そこには…彼女と同じ年頃の少女が立っていた…。
「では、こちらに…」と先導する少女…。
そして、書庫に着くと…そこには美穂より1、2歳下の少年が立ちながら待っていたのが目に入る…。
「申し遅れましたが…私は…」「…リーファさんだよね? 情報収集担当の?」と尋ねる美穂。
「あ、はい…でも、どうして私のことを…?」「ん、第二部隊員のことは一通り覚えてたの」と答える…。
「そ、そうですか…それでは、彼のことも…?」と少年の方に顔を向けるリーファ。
「ん〜…もしかして、最近入団したの?」「はい、僕はザナと言います。リーファさん同様、情報収集担当です」と答える…。
「本日付けで美穂さんの指揮下に入るようにデュルセル隊長より命令を受けました」と伝えるリーファ。
「そう…まったく、おじい様もやるわねぇ…」二人に聞こえないようにこっそりと呟く…。
しかしながら、彼ら二人の『助っ人』は有難い限りである…基本的に美穂は情報分析を得意しているが、情報収集の方となると
いささか荷が重いと言わざるを得ないからだ…ましてや非合法手段による収集となると…。
だから、情報収集のエキスパートである二人の手助けは有難いと言える…。
「それで、これからどうされますか?」と美穂に指示を促すリーファ。
「そうね…」と上の方を向いて頬を人差し指でとんとんと叩きながら考える美穂と彼女の指示を待つリーファとザナの二人…。
そして、考えがまとまったらしく美穂は二人にこう言った…。
「シェフィールドさんに『お嬢さんも含めてジョートショップを監視しますのでよろしく』と挨拶しに行きましょうか」と…。
…その瞬間、二人の目が点になったという…。