「なんだってっ!? 間違いないのかっ!?」転がるようにジョートショップに入って来たティルトに問い質すナッツ。
「ああ、間違いない。今、手すきの連中に探せているが…人手が足りないんだ、手伝ってくれっ」とティルト。
「わかった、オレもすぐ行くからちょっと待ってくれ」「ったく、世話が焼けるぜ」と準備の為なのか、急いで家に戻るナッツと
傍らに置いてあったウォーハンマーを手に取ってティルトと一緒に探しに出かけるフィム…。
そして、ジョートショップには…。
「…くすん……また、お昼食べさせられなかった…」「まあまあ…」…落ち込んで半泣きするシーラちゃんと苦笑しながら彼女を
なだめるミュンちゃんの姿があったという…。
一方…美穂とケンカして『さくら亭』から飛び出した瑞穂はというと…。
「……えぐ……ひっく……美穂姉のばかぁ…」…『誕生の森』にある大きな樹の根元で膝を抱えて泣いていた…。
「…クリスさんの…どこがいけないというのですか…?」…姉に対するグチばかりを口にする…。
しばらくの間、そんな事していると…。
かさ…
…と彼女の近くの茂みが…微かに音を立てた…。
「!!!?」驚いて顔を上げて身構える瑞穂。
なにしろ、今、彼女がいる場所は日中でも薄暗いところなのだ…しかも今は夕暮れ時に近い時間だし…。
かさかさ…
更に草木が擦れる音が近づいて来る…。
「…………」じっと押し黙ったまま、魔力を練り上げる瑞穂…そして…。
がさぁっ!!
と目の前の茂みが割れたと同時に!
「”Icicle=Spear!”」とそこへ≪アイシクル・スピア≫を叩き込んだ。
ところ変わって、街中では…。
「おいっ、見つかったかっ!?」「ダメよっ、全然見当たらないわっ!」と怒鳴り合うように報告するアルベルトとヴァネッサ。
「ったく、一体、ドコにいるんだい?」これはリサ。
「まったくだね…それよか、どーして妹ってヤツは…こう手がかかるんだ…?」「…エル…それは俺に対する当てつけか…?」
…ぞっとするような声で呟くアルベルト…。
「……オマエ、ひょっとして…シスコンか…?」「じゃっかぁしぃぃぃぃっ!!!」…エルの『一言』でプッツンする…。
「おいっ、二人ともっ! ケンカしてる場合じゃないぞっ!」とフィムとナッツを連れて来たティルトが口をはさんで来る。
「ちっ、コイツまで連れて来たのか…」…一時休戦して、フィムを指差すアルベルト…。
「…『コイツ』で悪かったな…」半眼でアルベルトを睨む…。
「はいはい、ケンカは後にしてくれ。で、どーゆう状況なんだ?」とその場にいる面々に問いかけるナッツ。
「そうね、立ち寄りそうなところは全てまわったけど…」「手がかりはなし、か?」「そんなとこかしらね」以上、ヴァネッサと
ナッツの会話。
「だったら街中、聞き込みをするしかねぇな」「そうなるね」これはフィムとリサ。
二人の会話を受けて、アルベルトとエルがこう締めくくった…。
「そーとなったら、さっさと行くぞっ」「ああ。美穂のヤツ、半狂乱になって探し回ってるしな」
「…いたたた…いきなり、ひどいじゃないですかぁ…」「ご、ごめんなさい…あ、でも、こんなところで何してるんですか?」
とクリス−茂みから出たと同時に攻撃呪文が直撃…−に謝ると同時に尋ねる瑞穂…。
「僕ですか? ドクターに頼まれて薬草を探していたんですけど。瑞穂さんは?」答えるとともに逆に聞き返すクリス。
「え? 私ですか? 私は…」答えに詰まる瑞穂…まさか『クリスの事で姉とケンカして、ここで泣いていた』と言えないし…。
「?? それよりも暗くなってきたし、早く家に帰った方がいいですよ。きっと美穂さんも心配してますよ」とクリス。
(美穂姉の顔なんか見たくないですっ!)心の中で吐き捨てる瑞穂。それから。
「あ、あの、クリスさん。薬草はもう見つかったのですか?」「え? いえ、まだですけど?」ちょっと戸惑いつつも答える…。
「それじゃあ、探すのお手伝いします」「えっ!? で、でも、もう遅いですし…それに…」「さ、早く行きましょう」と言い、
有無を言わさずクリスを引っ張ってく瑞穂であった…。
一方…。
「どうだった?」「ダメ、全然手がかりなし、よ」ティルトの問いに答えるヴァネッサ…。
「その様子だとボウヤの方もダメかい?」「ああ…」疲れた顔でリサに答える…。
瑞穂を探し回っている一同−ナッツとエル、美穂の3人は除く−の顔に疲労の顔を浮かぶ…。
「ったく、一体、ドコに行きやがったんだ…?」苛立たしい気にアルベルト…。
丁度その時に。
「ここにいたかっ!」と聞き込みをしてたエルが息を切らしながら走って来る。
「どうしたんだ? そんなに息を切らせて?」その様子を見て尋ねるフィム。
「それどころじゃないっ! 瑞穂のヤツ、『誕生の森』に行ったらしいんだっ!」彼らのところに着くや否やこう言うエル。
「なんだとっ!? そいつは本当かっ!?」「いきなり、どうしたのよ?」怪訝な顔でアルベルトに尋ねるヴァネッサ。
「いやな、つい最近なんだが…あそこの森にモンスターが出没してるっていう通報が頻発してるんだ」答えるアルベルト。
「ちょい待ちっ! そいつは本当かいっ!?」「ああ。近日中にでも討伐隊を派遣しようかと検討していたんだ」
「こいつは…まずいな」「そうね…あら、それよりもナッツくんは? 一緒じゃなかったの?」エルに尋ねるヴァネッサ。
「ああ、ナッツならリカルドのおっさんのトコに行ったよ。協力を仰ぎにな」とエル。
更に「それとアタシらは美穂を探して、一緒に森の入口の前まで来てくれだとさ」と続ける。
「ふぅん…そんじゃまあ、行きますか」「ああ」行動を開始する一同であった。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
二十数分後…。
「さて、どうしたものかね…?」と顎に撫でながら思案するリカルド…。
今、彼ら−リカルド、ティルト、アルベルト、ヴァネッサ、美穂、フィム、ナッツ、リサ、エルの9人−は『誕生の森』の入口の
前に集まっていた…。
「分散して探すしかないと思います」と提案するヴァネッサ。
「それは私も考えたが…」「モンスターのコトか、おっさん?」「うむ」以上、リカルドとフィムの会話。
「確かに。分散するとかえって危険だね」同意するリサ。
「じゃあ、どうしろというのよっ!?」苛立たしい声を上げる美穂。
「やはり、まとまって探すか…」リカルドには珍しくどっちかに決め兼ねているらしい…。
「ですが、まとまって探すのも効率が悪過ぎます」リカルドにこう指摘するアルベルト。
「それは判っているが…」「二手に分れましょう。これなら万が一、モンスターに遭遇しても対応出来ますし」これはナッツ。
「どうやら、その手しかないな」と賛意を示すリカルド。
この後、彼らは二手に分かれて森の中へと足を踏み入れた…。
ところで、クリスと瑞穂の二人は。
「クリスさん、これですか?」「ちょっと違いますね」「意外に見つからないものですね…」と二人で薬草をしていた…。
「ええ、まあ…それよりも瑞穂さん」「なんですか、クリスさん?」小首を傾げる瑞穂。
「そろそろ家に帰った方が…」「クリスさんっ、もう少し先に行ってみましょうっ」と彼の手を引いて強引に話題を変える。
「あ、あの…?」「さ、早く早く」…更に森の奥へと進む二人…。
「…だめだ…ドライアッド達がモンスターに怯えて隠れちまってる…」森の精との会話を試みたフィムが匙を投げる…。
「参ったね、こいつは…」髪をかき上げながら呟くエル。
二手に分れた後、フィム−ティルト、アルベルト、リサ、エルの4人と一緒に行動−は、森の精(=ドライアッド)達に瑞穂の
行方を聞く為に会話を試みたが…。
「やっぱり、地道に探すしかないか」「この広い森の中をか? 効率が悪過ぎるぞ」とティルトに向かってこう言うアルベルト。
「ボウヤ、別の手はないのかい?」「ないな。時間が経っていなけりゃあ、シルフィードに聞くって手もあったけどな」とリサに
答えるフィム。
「うだうだ言ってもしょーがねぇ、さっさと探すぞ」とこう声をかけるティルト…。
「あれ? 何か聞こえませんか?」と瑞穂に尋ねるクリス。
「え? 私には何も?」「…僕の気のせいかな…?」と更に聞き耳を立てるクリス。
すると。
ずし…ずし…
と鈍い足音が割と近くから…それもこちらに向かって響いて来る…。
「えっ!?」「どうしたんですか?」「こ、こっちに何か来ますっ」「な、何かって…何っ!?」クリスにしがみつく瑞穂。
ずし、ずし…
…はっきりと足音が近くなって来る…。
「…ここから逃げましょう…」「え、ええ…」しかし、手遅れだったりする…。
がさぁっ!!
彼らの目の前に見た事もないモンスターが3体現れる!
「うわっ!?」「きゃあっ!? ”Carmine=Spread!”」と手近なヤツに攻撃呪文を放つ瑞穂!
しかし。
「ぐぉぉぉぉぉっ!!!」「そ、そんなっ!?」…まったく効いていなかった…。
「瑞穂さん、こっちですっ!!」「は、はいっ!!」と瑞穂の手を引いて手近な茂みに飛び込もうとしたが。
「ぐぉぉぉぉぉっ!!!」逃げる彼ら目掛けて、近くにあった倒木を投げつける謎のモンスター。
「瑞穂さん、危ないっ!!」「きゃあっ!?」瑞穂に覆い被さる様にかばうクリス…。
しかも…。
「く、クリスさん、大丈夫ですかっ!?」「…だ、大丈夫ですよ…つうっ!?」「クリスさん、しっかりして下さいっ!!?」
…クリスは先ほどの倒木の一撃をくらい、脇腹に致命傷に近い傷を受けていた…。
その頃…。
「ちょい待ちっ、何か聞こえなかったかいっ!?」急に立ち止まって聞き耳を立てるリサ。
「あ? 気のせいじゃ……おいっ!?」「ああ、確かに悲鳴だな」微かに聞こえる悲鳴を耳にするアルベルトとフィム。
「どっちだっ!?」「向こうから聞こえるぜっ!」「よし、行くぞっ!!」と悲鳴が聞こえて来る方へ駆け出す一同。
そして。
「おいっ、ありゃあっ!?」「瑞穂とクリスだな」「それもモンスターのおまけ付き、でね」以上、アルベルト、ティルト、
リサの会話。
「そいつはそーと、クリスのヤツ、かなりのケガを負ってるな」「なんだってっ!?」これはフィムとエル。
「どーする?」「どーするもこーするもねぇだろうがっ!」「同感だね、さっさと二人を助け出すよっ!」とティルトの問いに
怒鳴る様に答えるや否や飛び出すアルベルトとリサ。
「やれやれ」とばかりに二人の後を追うティルト…。
「ったく…エル、俺達がモンスターを引きつけるからクリス達のトコに行ってくれ」「ああ、わかった」フィムにこう言われ、
クリスと瑞穂が倒れているところに向かうエル。
「さてと…」何も考えずに飛び出した3人の方を向くフィム…。
すると。
「な、なんだぁ?」急に身体の奥から力がみなぎるのを感じるティルト、アルベルト、リサの3人…。
「ったく、なぁんで何も準備せず飛び出すかなぁ〜」と戦列に加わるフィム。
「ボウヤがやったのかい?」「ああ、≪エーテル・バースト≫をかけたから多少は何とかなるはずだ」リサに答える。
「呪文が聞こえなかったけど?」「俺くらいの精霊使いになれば、頭で思っただけで精霊の力を借りられるんだよ、覚えとけ」
ティルトの疑問にこう答えるフィム。
「…相変わらずイヤなヤツだぜ…」「言ってろっ! ”Valkyrja=Javelin!”」クリス達の方に行こうと
していたモンスターに牽制の魔法を放つ。
更に。
「ぐぉぉぉぉぉっ!!!」「”Ishtar=Hands!”」怒り狂ってフィムの方に向ったモンスターを足止めする。
「しばらく大人しくしてろっ!」と言い捨てるとエルの援護にまわるフィム。
一方。
「アレ、どーするんだい?」「後からタコだな」足止めされてもがくモンスターを指差して尋ねるリサにこう答えるアルベルト。
そんな事をしてる彼らに対し、
「おいっ、二人ともっ!! 口よりも手を動かせっ!!」完全に力負けしてるティルトが二人に罵声を浴びせていた…。