4月もあと1週間を残すだけとなったある日のこと。
「さてと、今日はここでいいかな?」久々の休日、陽のあたる丘公園に来ていたフィムは、割と大きめな樹のそばに座るとと
スケッチブックを広げて、手にした鉛筆をその上に走らせた…。
一枚目を描き終え、二枚目を描いているところで。
「フィムお兄ちゃん、また絵を描いてるの?」と公園に遊びに来たらしいリオに声をかけられる。
「ん、まあね。こうやって絵を描いていると少し落ち着けるんだ」とスケッチブックから目を離さずに答える。
「そうなの?」横からスケッチブックを覗き込みながら首を傾げるリオ。
「俺はそうだけどね……そうだ、これからリオの絵を描いてあげようか?」二枚目を描き上げたフィムがこう言ってくる。
「え? いいの?」少し驚くリオ。
「ああ。このあと特に予定はないしね」「それじゃあ…お願いしようかな?」どうやら話はまとまったようだ…。
「じゃあ、適当に座っててくれる? それと少し楽にしてていいから」「うん」と答えて言われた通りにするリオ。
それから暫く、スケッチブックの上を鉛筆が動く音と樹々達の歌声だけが辺りを支配する…。
そして、それをじっとして見ているリオ…。
「…これでよし、と…リオを出来たよ」と言ってスケッチブックを見せるフィム。
「…僕、こんな顔をしてたんだ…」鉛筆画ではあったが、なんとなく見とれてしまうリオ…。
「どーやら気に入ったようだね。じゃあ、これあげるよ」と言うとスケッチブックからそのページを外すフィム。
「え? いいの?」「ああ」「ありがとう、フィムお兄ちゃん」と喜ぶリオ。
でも…その喜びは長くは続かなかった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「…ずるい…」と何時の間に来ていた長い黒髪の娘が少し拗ねた声で呟く…。
「た、たまたまだよっ、シーラお姉ちゃんっ!」と慌てた声で弁解するリオ。
「ふぅん…本当にたまたまだったの?」「う、うんっ」「ああ、たまたま、さ」順にシーラ、リオ、フィムである…。
「そうなの…でも、やっぱりずるいわ…」まだ拗ねてるシーラ…。
でもまあ、相手がリオだったからこの程度で済んでいるみたいだけど…もし女性だったら…思いっきり焼きもちを妬いた上に
痴話ゲンカもんであっただろう…たとえ、相手がアリサやメロディであったとしても…。
「今日はムリだけど、なんならシーラのこと、描いてあげようか?」と拗ねてる彼女を見て苦笑しながら提案するフィム。
「ほんと?」「ああ。それでいつにする?」「そうね…」…あっさりと機嫌を直すシーラ…トリーシャ以上に現金な娘である…。
そんな彼らを見たリオの呟きはというと…。
「…シーラお姉ちゃん…トリーシャお姉ちゃんに似てきたみたい…」であったという…。
(シーラ「私、トリーシャちゃんみたいに子供っぽくないもんっ!」 トリーシャ「それ、どーゆう意味なのさっ!?」)
翌日、シェフィールド邸。
「…あのさ、シーラ…?」「え、えとぉ…」ちょっと消え入りそうな声で呟くシーラ…。
絵を描く約束でシーラの家に来たフィムだったけど…。
「昨日、俺、確かにシーラのことを描いてあげるとは言ったけどさ…」「う、うん…そ、そうね…」
シェフィールド邸のテラスには、間違いなくシーラもいた…が。
「…なんで、ここにご両親もいるの…?」「そ、それはね…」…返答に困ってしまう…。
「あら、私達がここにいるのって変かしら?」「いえ、そういう意味で言った訳では…」とセーラに答えるフィム。
「まあ、娘とだけ約束したはずなのに…私達もいるのは面食らったかもしれんが…」とジャスティ−シーラの父親のこと。
更に「エンフィールド1の画家に描いてもらえる機会など、滅多にないからな」と続ける。
「あ、あのね…昨日、今日のこと、パパやママに話したらね…」「…どーなったかは想像がつくよ…」苦笑するフィムくん…。
そして、
「それで、お時間の方は大丈夫ですか?」と夫妻に問いかける。
「ああ。私も妻も今日から公演があったのだが…急遽、断ったので大丈夫だ」という答えが返って来たりする…。
(そ、そこまでするか…?)こう思うと同時に主催者に心の底から同情するフィム…。
「それで私達はどうすればいいのかしら?」とフィムに尋ねるセーラ。
「あ? はい。そうですね…」と親子3人に楽な姿勢でテーブルについてもらう様に言うと道具一式を広げるフィムであった…。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
それから、ほぼ3時間半後…。
「…これで終わり…かな?」と擦筆(さっぴつ)−紙を固く巻いて作った筆−を道具箱に戻すフィム。
「どんなものかね?」と出来たばかりの絵を覗き込むジャスティ。
そして…。
「ほう…」と呟いたっきり、あとの言葉が続かない…。
「…館長さんがべた誉めするだけの事はあるわね…」夫と同じ様に覗き込んで感心するセーラ…。
その傍らでは…シーラが自分のことの様に微笑んでいたりする。
「これは譲ってもらえないかね?」と尋ねるジャスティ…。
「ええ、かまいませんよ。その前に、と」道具箱から香水瓶みたいな物を取り出す。
「それは何かね?」「定着液ですよ。これを吹き掛けないと色が剥げ落ちてしまうんですよ」と答えながらキャンバスに定着液を
慎重に吹き掛ける…。
「もういいかしら?」「ええ、どうぞ」と言って完全に出来あがった家族画を渡す。
それを見届けたシーラは。
「お疲れ様、フィムくん」と言って何時の間に準備したのか、おしぼりを手渡す。
「ありがと、シーラ」「これから私の部屋でお茶でもしない?」「それじゃあ、お言葉に甘えようかな?」手についたパステルを
拭き取りながら答える。
彼の答えを聞くと様子を見に来たジュディに二人分のティーセットを自分の部屋に持って来るように伝え、後片付けを済ませた
フィムの手を取り、自分の部屋へと向かうシーラ。
一方、シーラの両親はというと…。
「早速、額縁を買いに行かないとな」「ええ、そうですね。どんな額縁がいいかしら?」
…愛娘とその彼氏がいなくなった事にまったく気がつかず…ジュディが話しかけるまで渡された絵に見とれ続けていたという…。
「あ、シーラ。どこか適当に座っててくれる?」と彼女の部屋に入るや否やこう口を開くフィム。
「え?」「昨日、シーラのことを描くって約束してるしね。さすがにパステル画を2枚も描くのも辛いから鉛筆画になるけどね」
という答えが返って来る。
「…フィムくん…ありがとっ!」…嬉しさのあまり少し背伸びしてフィムの頬にキスをする…。
一方、キスされた方はと言うと。
「…初めて会った時と比べたら…ずいぶんと変わったね?」と微笑む…。
「え? そ、そうかな…?」それを聞いて小首を傾げるシーラ…。
「前は俺が話しかけただけで逃げ腰になってたしね」「も、もうっ。そんな昔のことを思い出させないでよっ」ちょっと怒った
顔をする…まあ、本気で怒ってる訳ではないだろうけど…。
「あ? ひょっとして怒ってる?」「うんっ!」と答えるや否や自分の唇を指差して瞳を閉じる…。
「…やれやれ…」…苦笑するとシーラちゃんが望んでいる事をするフィムくん…。
「機嫌直した?」「…うん…」…機嫌を直してこう答える…頬を赤く染めながら…。
その直後。
こんこん
「お嬢様、フィム様。お茶をお持ちしました」とノックの音とともにティーセットを持って来たジュディが部屋に入って来る…。
「ねえ、ジュディ。一ついいかな?」フィムに聞こえないように小声で尋ねるシーラ。
「はい、何で御座いますか、お嬢様?」同じ様に小声で尋ね返すジュディ。
「いつからいたの?」「お嬢様。お二人の邪魔をする程、私は無粋ではありませんわ」と悪戯っぽく微笑むジュディ…。
「…もう…ジュディったら…」…少し冷めかけたお茶を手にし、苦笑するしかないシーラちゃんであった…。
後日談…。
「セーラもシーラちゃんもずるいわ…」『…………』…意外すぎる人物に拗ねられて反応に困ってしまう母娘…。
「…ボク、珍しいもの見ちゃった…」「…うん、あたしも…」「…ふみぃ…メロディもなのぉ…」…この意外とも言える光景を
目のあたりにしてジョートショップに遊びに来ていたトリーシャやローラ、メロディの3人が呆然とこう呟く…。
…彼らの目には…フィムに絵を描いて貰った二人を羨ましがり、拗ねた顔をするアリサさんが写っていたという…。
なお、この後、フィムがアリサの絵を描いたかどうかは……定かでない…。
≪Fin≫
[あとがき]
シーラ「第18幕以来の私とフィムくんが主役のお話です♪」
パティ「ねえ、シーラ?」
シーラ「え、なに?」
パティ「これってさぁ、ただのヒマ潰し話なんだけど…?」
メロディ「なのなのっ!」
シーラ「…そうだったの…?」
パティ&メロディ「…しーらぁ(ちゃぁん)…」
シーラ「え、えとぉ…?」
ミュン「くす。でも時期が間に合いませんでしたけどね(笑)」
REIM「ぐさっ!」
シーラ「そうね…結局、掲載は5月になっちゃてるし(笑)」
REIM「ぐさぐさっ!」
パティ「そんなのいつものコトでしょ(笑)」
REIM「くぅ〜っ、こうなったらっ!」
パティ「『こーなったら』?」
REIM「次の話でフィムさんを瀕死の重傷にしてやる〜っ!!(逆ギレ)」
づぎゃっ!!
シーラ「そんなことをしたらっ、一生恨んでやるんだからっ!!(激怒)」
ミュン&メロディ「………(絶句)」
パティ「…シーラ……せめて、先になんか言ってから制裁してやんなさいよ…(呆)」
…パティさん…人の事を言えた義理ですか…?(ばきっ!!)