5月最初の休日の深夜、エンフィールド某所…。
「うふふふ……これで完成…ですわ…」…頭からフードをかぶったショートヘアの少女がアブない笑みを浮かべながら思いっきり
怪しげな事をしていた…。
「…この薬を『あの人』に振り掛ければ……きゃあ☆」………追記。言動の方も更に『妖しい』と言っとく…。
「…それでは……あ、あらぁ…?」急によろめく…。
ぱたん…
あ? 倒れた…お〜い、生きてるかぁ〜?
「……す〜…」……なんだ…寝不足かい…?
翌朝…。
「ふわぁ〜ぁ…」とアクビをしながら図書館に向かうリオ…彼の手には今まで借りてた本を3冊抱えている…。
「よお、リオ」「あ? ティルトお兄ちゃんにアルベルトお兄ちゃん。おはよう」二人に挨拶する。
「ああ、おはよう」と挨拶を返すアルベルト…ちなみに夜勤明けである。
「おはよう、リオ。これから図書館に行くのか?」これはティルト…彼も第一部隊の応援だったので夜勤明けである。
「うん、そうだよ」「で、どんな本を読んでいるんだ?」と言ってリオが抱えている本のタイトルを読む。
「えとね、3冊とも旅行記だよ。ナッツお兄ちゃんから教えてもらったんだよ」答えるリオ。
「ふぅん…旅行記ねぇ…面白いのか?」「うん、結構面白かったよ」とアルベルトに答える。
「…よく分らんヤツだなぁ…」『え?』ティルトの呟きに疑問の声を出す二人。
「よく分らんって…ナッツのコトか?」「ああ」とアルベルトに答える。
続けて、
「考えてもみろよ。あれだけの魔法使いなんだから、どっかの国の宮廷魔術師になってたっておかしくないんだぜ?」
と図書館の方に歩きながらアルベルトに問いかける。
「まあ、確かに、な」同じように歩きながら同意するアルベルト。
「そうなの?」首を傾げるリオ。
「あ、そっか。リオは知らないんだったな」勝手に話しを進めていたことに気づき、苦笑するティルト。
「え、なにがなの?」「ナッツの魔法技量がエンフィール1ってコトさ」補足するアルベルト。
「そんなに凄いの? ナッツお兄ちゃんって?」更に首を傾げるリオ…。
「でも…僕にはそんなふうには見えなかったけど?」と続ける。
「ま、リオにしてみればだ、勉強を見てくれる『優しいお兄さん』にしか見えねぇしな」苦笑するアルベルト。
…てな事をしてるうちに…図書館に着く3人である。
「おはよう…」「あれ? ティアちゃん?」いつも通りに本を返しにカウンターに来たリオが目を丸くする…。
「あら、リオさん。おはよう」「あ、おはよう…あの、イヴさん…?」取りあえず『理由』を聞いてみるリオ…。
「彼女、本を借りに来たのだけど…」とイヴ。
そのあとを引きとって、
「イヴさん、一人で大変そうだったから…」と答えるティア。
「そうだったんだ…あ、これ」と借りてた本を返却する。
「あ、はい」受け取るティア。
「ところでリオさん。今日も借りていくのかしら?」と尋ねるイヴ。
「うん」「あなたの利用者カードはこのままにしておくから早く探してきたらどうかしら?」とイヴ。
「そうだね。それじゃあ、ティアちゃん、お仕事がんばってね」「うん、ありがとう」
それから十数分後…。
「リオ、本ばかり読んでないでな、少しは身体を鍛えたらどーだ?」
新しく借りた本を抱えて図書館から出て来たリオにこう声をかけるアルベルト。
「さすがはエンフィールド1の体力…」「もし続きが『体力バカ』だったら…俺はオマエを斬らねばならん」と凄むアルベルト。
「い、いやだなぁ〜、そんなこと、そう思ってるだけで口になんか………やべ、口がすべった……」「………コロス…」
…乱闘一歩手前のティルトとアルベルトの二人…。
その最中。
「あの、リオさん」と後ろから声をかけられる。
「え? あれ、ティアちゃん、どうしたの?」その声に振り返ると…ティアが申し訳なさそうに立っていた。
「えとね、貸出カード、本から抜くの忘れてたから」「そうなんだ…え〜と、これでいい?」とカードを渡す。
「うん、ありがと」受け取るティア。
「じゃあ、僕はこれで…」と言いかけた時に。
「ティルト様っ! やっと見つけましたわっ!!」という声が彼らの前の方から響いて来た。
「あ? どーしたんだ、クレア? そんなに息を切らせて?」そんな妹の姿を見て訝しがるアルベルト。
「一体っ、どこをうろついていたの、きゃっ!?」「おっとっ」何かにつまづいて転びそうになるクレアを抱きとめるティルト。
その拍子で何かの液体が入った小瓶が彼女の手から離れ、
すっこぉん ころころ…
「いってぇーっ!!?」アルベルトの額に命中し、ティアの近くの地面の上に転がった…。
「大丈夫かい、クレア?」「…あ、はい……はっ! チャンスですわっ!」とぼぉっと見とれてたクレアが何かしようとするが。
「あっ!?」「どしたの??」「そんなっ、せっかくっ」辺りをキョロキョロし出したかと思えば、急に落ち込むクレア…。
「くぉらぁっ! クレアっ! さっき、何をぶつけやがったんだっ!?」と怒鳴るアルベルト。
更に。
「それとっ、ティルトっ! キサマっ、ドサクサにまぎれて、うちの妹に何をしてやがるっ!?」と続ける。
そして、その光景をぼーぜんと見守るリオ…。
「あの、これ、クレアさんのですか?」かがんで地面に転がっていた小瓶を手に取ろうとするティア…すると。
しゅわぁ〜
「えっ!?」「な、なんだぁっ!?」ショックでフタが緩んでいたのか漏れ出た液体が白い煙りとなってティアとアルベルトの
二人を包み込んだ!
「ごほっ、な、なんなんだっ!?」「けほっ、けほっ」二人とも煙りを吸い込んでしまい急に咳き込む…。
そして…。
「おい、大丈夫かっ!?」煙りが消え失せるや否やアルベルトのもとに駆け寄るティルト。
それをきっかけに。
「て、ティアちゃん、大丈夫だった?」リオもティアのもとに駆け寄る。
「うん、少し煙りを吸っちゃったけど…大丈夫だよ…」目にも煙りが入ったのか、少し涙目になりながらリオに答える。
それを聞いてほっとするリオ…だが。
「………」「…どうしたの、ティアちゃん?」じぃぃっとティアに見詰められて−それももじもじしながら−困惑するリオ…。
更に横から…ただでさえ困惑しているリオをもっと困惑させる事態が起きていたりする…それは。
「おいっ、ティルトっ! 黙って俺の愛を受け入れてもうおうかっ!!」「悪いジョーダンはよせっ、アルベルトっ!!?」
…それを聞いたリオはというと…。
(…聞かなかったことにしようっと…)と思い、ティアの方に視線を向けるが…。
「………」相変わらずリオの方を見詰めていた…当然、もじもじしながら…。
「えと、ティアちゃん?」「………(ぽっ)」「えっ!?」…リオと視線が合うや否や急に頬を赤くするティア…。
…そんな彼らの横では…。
「は〜な〜せ〜っ!!!」という悲鳴で振り向くと。
小脇に抱えられてアルベルトに拉致されるティルトの姿が目に写った…。
(…これ、見なかったことにしよっと…)…現実逃避するリオくん…でも…。
「………」…ティアの視線を背中に感じ(…やっぱり…夢じゃないんだ…)ふかぁい溜息をついていたりする…。
一方、あまりの光景に呆然自失してしまい…何も出来なかったクレアだが…。
「わわわ私はこれでっ!!」と逃げ出していた…。
「あっ! 待ってっ、クレアお姉ちゃんっ!?」慌てて後を追いかけようとするが。
くい
「わっ!?」…いきなり服の裾を掴まれてバランスを崩しそうになる…。
「あ、あの…?」「………」…後ろを振り返ると…服の裾を掴みながらじぃぃっと見詰めるティアちゃん…。
「あのね…ティアちゃん。ちょっといいかな?」という優しい問いかけにこくんと頷くティア…。
「僕、これからクレアお姉ちゃんに聞かなきゃならないことがあるの。それでね、手を離して欲しいんだけど?」
「だめ…」いやいやと首を横に振り、消え入りそうな声でこう呟くティア…。
「で、でも…ティルトお兄ちゃん達のこともあるし…」「それでも…だめ…」更にいやいやと首を横に振りながら呟く…。
…そんな可愛らしい仕草を見て、急に浮かび上がった危ない衝動を必死になって理性で押え付けるリオくん…。
彼の心でそんな葛藤があることも知らずにじぃぃっと見詰めるティア…こうなれば…最早、拷問であろう…。
「あ、あのね、ティアちゃん?」再度、説得しようとする…。
「だったら…私も一緒に行く…」リオを見詰めながら呟くティア…。
「え? で、でも…お仕事は?」「…リオさん…私と一緒じゃあ…いやですか…?」…『止め』の言葉が彼女の口から出る…。
「え? そ、そんなことっ、ないよっ」「じゃあ、いいの…?」と『恋する乙女』の目で見詰めるティアちゃん…。
(…やっぱり、これって反則だよね…?)…再び浮かび上がって来た衝動を押さえ付けながら内心呟くリオくんであった…。