6月12日、午前6時過ぎ。
「……ううん…」カーテンの隙間から漏れる朝日で目が覚めるミュン。
そして、隣で寝ているはずの夫の方に目を向けると…。
「あ……また先越されちゃった…」と溜息をつき、ゆっくりと身を起こす…。
ほぼ2ヶ月半前からであるが…身重のミュンに負担をかけない様にしているのか、ナッツが朝食の準備をしているのだ。
「もう…そんなに気を使わなくてもいいって言ってるのに…」と少し口をとがらせるミュンだが…元々が5時半起きのナッツに
敵うはずもなく、ここ暫くの間、朝食の支度から解放されていたのだ。
そればかりか、アリサやセリーヌまでにも気遣かわれてしまい、ここ3ヶ月間、昼食や夕食の支度からも解放されていたりする。
「明日こそは早く起きなきゃ…でないとお料理の腕が鈍っちゃうわ…」と呟くミュンである…毎朝のことであったりするけど…。
午前7時頃。
「あ、おはよう、ミュン」注意深く階段を降りてダイニングに入って来たミュンに挨拶をするエプロン姿のナッツ。
「おはよう、あなた」と夫に挨拶を返す。
そして、目をテーブルへと向けると…トーストにスクランブル・エッグ、それと根菜類を使った野菜スープにオレンジジュースが
3人分載っていた…。
「はあ…」「ん? どうしたの?」溜息をつく妻に尋ねるナッツ。
「いえ…なんか毎朝、気を使わせちゃってるから…」「おいおい、オレ達、夫婦なんだぜ? これくらい当然じゃないか」
苦笑するナッツ…更に。
「それにさ、ミュン。今、大事な時期だろ?」と続ける。
「それはそうですけど…」呟くように言いよどむミュン…。
「こんな時くらいは甘えて欲しいなぁ……それじゃあ、ティアがジョギングから帰って来たら朝御飯にするから…」とその場を
締め括った…。
午前10時頃。
「…え〜と…今日の配達予定はと…」と配達票を確認するナッツ。
「…結構多いなぁ…」横から配達票の束−10枚以上ある−を見てこう呟くフィム…。
「だから、そっちに依頼したんじゃないか」と6枚ほど手渡しながら苦笑するナッツ。
「それもそーだな……ところでな」「ん? なに?」「どれがどの花になるんだ?」配達票と店頭に飾られている花々を見比べて
困った顔になるフィムくん。
一方…。
「ごめんね、手伝わせてしまって」「ううん、気にしないで」と手分けしてお花に水をやるミュンとシーラの二人。
「あ、そうだ。ミュンさん、ちょっといい?」「え、なに?」首を傾げるミュン。
「アリサおばさまがね、今日もお昼、一緒にどう?って言ってるのだけど?」と用件を伝えるシーラ。
「そんな……いつもご迷惑をかけるわけには…」とミュン…。
「迷惑を迷惑と思っていないと思うよ、アリサさんは」と横から口をはさむフィム。
「それにさ…」「それに?」先を促すナッツ。
「今頃は5人分の昼御飯の仕込みをやってると思うよ」「うん、そうね。アリサおばさまだし」と苦笑するフィムとシーラ。
「はあ……どうします?」「…せっかくだから今日もお言葉に甘えようか?」やれやれといった口調で答えるナッツ。
「はあ…」諦めの溜息をもらすミュンちゃんである…。
午前11時40分頃。
「すみません…いつも気を使わせてしまって…」と恐縮するミュン…。
「気にしないでね。私が好きでやってることだから」と優しく微笑むアリサ。
今、ミュンは一足先に−ナッツはまだ配達中である−ジョートショップに来ていた。
「そうよ、ヘンに気を使うことなんかないって」と相づちをうつパティ−この後の『修羅場』に備えて休憩中であったりする。
彼女達の他にも…シーラやシェリルも顔を出していたりする…ちなみにフィムはナッツ同様、配達中である。
「そうですよ。今、大変な時期なんですし、みなさん心配してるんですよ」と今年、学園を卒業したシェリル。
「それに困っている人を見るとほうっておくことが出来ないですよ、アリサおばさまは」これはシーラ。
「はあ…そうなんですか…」…溜息をつくしかないミュン…。
「もう少しでお昼御飯が出来ますから…」と声をかけるアリサ。
「それじゃあ、あたし、手伝います」「あ? パティさん、私も手伝います」「じゃあ、私、テーブルの上を片付けておくね」
「あれ、ミュンさん? 急にどうしたんっスか?」順にパティ、シェリル、シーラ、テディである…。
『え?』テディの問い掛けで一斉にミュンの方に目を向ける一同…。
午後12時20分頃。
からんからん♪
「こんにちわぁ〜……って、あれ? ミュンがいないけど…どーしたんだ?」と配達を終えたナッツがジョートショップにいる
面々−フィムとシーラの二人−に尋ねる…。
「え、えとね…」…どう言えばいいのか判らずに口篭もるシーラ…。
一方、フィムの方も『どーしたもんかな?』と思案気な顔をしている…。
「???」その様子を見て、顔中に『?』マークを浮かべるナッツ…。
「…まあ、いずれわかるコトだしな…」「なにがだ?」とフィムに問いかけるナッツ。
「えとね…ミュンさんのことなんだけど…」フィムに代わって口を開くシーラ。
「ミュンのこと?」「うん。今ね、トーヤ先生のところでね…」とシーラが言うや否や。
ガランガランっ!! バタンっ!!
「あ、あのぉ…お話はまだ終わってないんだけどぉ…?」「…あいつ…話を最後まで聞かずに行っちまいやがった…」
慌ててジョートショップから飛び出したナッツを見て呆気にとられるシーラちゃんとフィムくんの二人。
そして。
「でもまあ…慌てる気持ちはわからんでもないけどね」と一人納得して苦笑するフィムくんである…。
6月12日、午後6時……。
「………あれ?……ここは…?…それに…私…?」…うっすらとまぶたを開くミュン…。
「ん? 気がついたみたいだね?」「あ? あなた……ここは一体…?」とベッドの上で上体を起こし、こう尋ねる…。
「ここはトーヤ先生のところだよ、ミュン」答えるナッツ。
「…そっかぁ……アリサおばさん達に迷惑をかけちゃったみたいね…」申し訳なさそうに小さく舌を出すミュン。
「それは明日にでもお詫びすればいいんじゃないかな? それよりも…お疲れ様、ミュン」とねぎらいの言葉をかける…。
「…その子…私達の…?」夫の腕に抱かれている赤子を見て、こう尋ねるミュン。
「ああ、俺達の娘さ」と言って、妻の手に娘をゆだねる。
「くす、髪はあなたと同じ色ね……あ、この子の名前、どんな名前にするの?」娘の髪を優しく撫でながら問いかけるミュン。
「名前? お義父さん達にお願いする? 初孫になるんだし?」とナッツ。
それに対し。
「それは…だめですよ。そんなこと言ったら私のお父さん達よりもあなたの…」こう答えるミュン…。
「……そうだね……それじゃあ、どんな名前がいいかなぁ…」納得すると娘の名前を考え始めるナッツ…。
しばらくして…。
「…それじゃあ……『ソフィア』はどうかな?」「『ソフィア』? その名前は…確か…」と小さく首を傾げるミュン…。
「ああ、亡くなった母さんの名前だけど…だめかい?」これはナッツ。
「ううん、そんなことないわ……今日からあなたは…ソフィア・ティアンズ、ですよ」と娘−ソフィアのこと−をあやしながら
ミュンはこう話しかけたのだった…。
こうして、エンフィールドに新しい住人が増えたのであった。
≪Fin≫
[あとがき]
パティ「今回はと、ナッツとミュンの間に娘が生まれたという話ね」
REIM「ええ、そうなります」
パティ「ふぅ〜ん……で、ソフィアをどんな性格にするつもりよ?」
REIM「それは……今ここでは言えませんね」
パティ「あっそ。それと…今回の話からシリーズ・タイトルを変更するんでしょ?」
REIM「ええ。思うところがあってシリーズ・タイトルを≪フィム&シーラ≫から≪エンフィールド≫に変更します」
パティ「まあ、フィムとシーラが主役って話、あまりなかったしね(苦笑)」
REIM「それだけが理由じゃないんですけどね」
パティ「ふぅ〜ん…でも今は話してくれないんでしょ?」
REIM「ええ、当然じゃないですか」
パティ「(小声で)けち」
け、けちって…パティさんの方がもっとけちって言うか…ドけち……(ばきゃあ!!)