ミュンが無事にソフィアを出産してから10日過ぎのこと。
カララン…♪
「こんにちは」とカウベルの音とともにソフィアを抱いたミュンが『さくら亭』に入って来る。
「あら、いらっしゃい。あれ、ミュン一人だけ?」カウンターで仕込みをしているパティが声をかける。
彼女の他にもアルベルトやアレフ、唯樹を含め7人ほど、くつろいでいたりするけど。
「ええ、今日、両親がこっちに来るので今、主人が迎えに行ってるんですよ」とカウンター席に座りながらこう答えるミュン。
「ふ〜ん、そーなの。あ、ハーブティーでいいよね?」「ええ……えと…ど、どうしたんですか…?」…ちなみに最後の台詞は
なにか物欲しそうな目をしている女性陣−クレア、トリーシャ、ローラ、瑞穂の4人−に向けられたものである。
「え〜とね、みんなねぇ、ソフィアちゃん抱かせて欲しいなぁ〜って思ってるの」とうずうずしながら口を開くローラ。
「え、そうなの?」「ええ。別に無理には言いませんが…」ミュンにこう話しかけるクレア……でも彼女の顔には『可愛いから
抱いてみたいっ』と書いていたりするけど。
「くす…いいですよ、クレアさん」とそれを見て苦笑しながら愛娘をクレアの腕にゆだねるミュン…。
「ありがとう御座います、ミュン様」礼を言いつつ、ソフィアをあやすクレア。
すると。
「クレアさん、次、ボクに抱かせてよ」「あ〜、ずるい〜。あたしが先だよぉ〜」「いえ、こういう場合は年齢順ですよ」
「それじゃあ、次はボクでいいんだね♪」「え? どうしてですか?」「だって、ボク、9月生まれだよ♪」「しくしくぅ〜」
ちなみに瑞穂は12月生まれである…。
「もう〜、それを言ったら次はあたしだよ」「なんでだよ?」「だぁってぇ、あたしが一番年上だもん♪」「ひきょーものぉ〜」
…そりゃねぇ、一応『115歳の乙女』だもんねぇ、ローラちゃんは…。
とまあ…トリーシャ、ローラ、瑞穂の3人がそんなこんなやってると。
「へぇ〜、全然人見知りしないんだ」というパティの声が聞こえて来る…。
『へ?』振り返ると…クレアから交代してもらったのかソフィアをあやしているパティの姿の目に入る…。
『パティ(さんorちゃん)、ずっるいーっ!!』と綺麗なユニゾンを奏でる3人であった…。
それから30分ほど過ぎた頃…。
カララン…♪
「いっらしゃ……なぁ〜んだ、あんた達か」と『さくら亭に入って来た二人−もちろんフィムとシーラである−を見て、露骨に
残念そうな顔になるパティ。
「ふぅ〜ん…パティちゃんたらそんなこと言うんだ?」ちょっとだけむっとするシーラちゃん…。
「ところで……なにしてるんだ、あいつらは?」とトリーシャ達−さっきからいた4人+シェリル、マリア、セリーヌの7人−を
指差しながらアレフに尋ねるフィム。
「まあ大したコトじゃないさ。みんなでソフィアの子守りをしてるのさ」答えるアレフ。
「ソフィア? ああ、ナッツのトコの娘のコトか……でもまあ…」「あ? なんだよ?」続きを促すアルベルト。
「いやなあ…あれだけの人数に囲まれても…全然、泣き出さないとはね」と不思議そうな顔をしつつも感心するフィム。
「そーいやぁ、そーだよなぁ」「確かにな」順に唯樹、アレフである。
一方。
「あ、私も抱かせてもらっていいかな?」とトリーシャ−今、彼女がソフィアをあやしている−に問いかけるシーラ。
…結局のところ、彼女も女性陣7人と同じ思いだったらしい…。
問いかけられたトリーシャはというと…最初『どーしよっかなぁ』という顔をしたが…フィムが彼女達のところに来るのを見て、
なにか面白いコトでもを思いついたのか、「うん、いいよ♪」とソフィアをシーラに渡した。
「ありがとう、トリーシャちゃん」と礼を言うと早速、ソフィアをあやすシーラ。
「おいおい…ほどほどにしないとそのうち泣き出すぞ」と傍に来ていたフィムが苦笑する。
「だぁってぇ、かわいいんだもん♪」「はいはい…」結局はシーラと一緒にソフィアをあやすフィムくん。
「くすくす…」そんな二人を見て優しい微笑みを浮かべるミュン。
「ん? どーしたのよ、ミュン?」「あ、いえ、お二人を見ていたら」「見ていたら?」と続きを促すパティ。
「『娘が生まれたばかりの若夫婦』に見えたから」と微笑みながら続けるミュン。
それを聞くや否や。
「あーっ!? ボク、そのネタでからかおうとしたのにぃーっ!!」とネタを獲られたトリーシャちゃんが抗議の声を上げ、
「言われてみれば…」「確かにミュン様のおっしゃる通りですわ」「そうですねぇ〜」とミュンに言われて、あらためて二人を
見たシェリル、クレア、セリーヌの3人がうんうんと納得し、
「あ、フィムとシーラ、顔真っ赤か〜☆」「きゃは☆ 二人とも照れてるぅ〜♪」「なんか微笑ましいですね〜♪」とマリア、
ローラ、瑞穂の3人がからかい、
「………………」とまあ照れ隠しなのか、顔を赤くしたフィムとシーラが黙って、
ごちん(×4)
『いったぁ〜いっ!!』と二人同時に一番手近にいたマリアとローラの頭に拳骨を落としていた…。
そして、
「セリーヌさん、ちょっとお願い」「はい、わかりました、よいしょっと」とソフィアをセリーヌに託すシーラちゃん…。
「ったく…ミュン、おまえだけにはからかわれたくはなかったぞ」と少しむっとした口調でぼやくフィム…。
「くすくす…でも、事実ですよね? そう思いません、パティさん?」「えっ!? あ、あのっ」「パティちゃぁん〜?」
とミュンに話を振られた上に…シーラにジト目で睨まれるパティちゃん…。
「で、でもさぁ、二人とも結構似合ってたじゃないのっ」「パティ〜?」こう答えた為にフィムにまで睨まれてしまう…。
そんなこんなをやってるところに。
「あのぉ〜、ちょっと痛いのですけどぉ〜」とセリーヌのノンビリとした声が聞こえて来たりする…。
その場にいた一同が振り返って見ると…セリーヌちゃんのポニーテールを引っ張って遊ぶソフィアちゃんがいたりする。
その光景を見て「あ……言うのを忘れてた…」と呟くミュン…。
「あの、何がですの?」問いかけるクレア。
「え、ええ。あの子、ポニーテールとか後ろで束ねた髪とかを見ると…それを引っ張って遊ぶんですよ…」答えるミュン。
「そうなのか…?」「まあ…子供らしくて、かわいらしいけど…」「確かに、な…」順に唯樹、フィム、アレフである。
「あ、あと三つ編みもですね…それでティアちゃんも髪、引っ張られましたから…」と補足するミュン。
「ふぅ〜ん…じゃあ、マリアは大丈夫だね☆」「なにを根拠にそー言えるんだ?」マリアに尋ねるアルベルト。
「だぁってねぇ、マリアはツインテールだもん☆」ときっぱりと言い切ってセリーヌからソフィアを受け取るマリアだが…。
「痛っ! 痛いっ! いたぁいっ!」……ご丁寧にマリアちゃんのツインテールを引っ張って遊ぶソフィアちゃん(笑)。
「あははは〜、ざぁんねんだったわね、マリア♪」と思わず笑ってしまうパティ達。
「大丈夫、マリアちゃん?」「うぅ……大丈夫じゃなぁい〜」と笑いながら気遣うシーラと半ベソをかくマリア…。
「あのさぁ…なぁにやってんのかなぁ〜? シーラさん?」と問いかけるトリーシャ…。
見ると…何時の間にか長い黒髪を後ろで束ねていたりする…。
「あんたねぇ…」「なんか間違ってるぞ…それは…」それを見て…微かに頭痛がして来たパティちゃんとアレフくん…。
「そ、そうかなぁ〜?」と可愛く小首を傾げるシーラちゃん…。
すると。
「あの、シーラさん、ちょっといいですか?」そんな彼女を見てこう問いかけるミュンさん。
「はい?」「今、髪形を変えても引っ張って遊んでくれないと思います」「どうしてなの?」逆に問いかけるシーラ。
「えとですね、イヴさんにお願いして…娘を抱いてもらったあと、髪を後ろで束ねてからもう一度、抱いてもらったのですけど」
「それで?」「そのあとは何回やってもイヴさんの髪を引っ張りませんでしたから」と答えるミュン。
「そ、そんなぁ〜」「まあまあ…」それを聞いてがっくりと肩を落とすシーラちゃんと苦笑しながら彼女を慰めるフィムくん…。
「えと、マリアちゃん。ソフィアちゃん、私にも抱かせてもらえるかな?」とマリアに声をかけるシェリル。
「え? いい……あーっ!! シェリルってばっ、ずっるいーっ!!」途端に大声でわめくマリア。
よく見ると…。
「…シェリル…それってセコくない…?」呆れた声でトリーシャ…。
何しろシェリルは……おさげを二本ともほどいていたのだ…確かにトリーシャちゃんの言う通りセコいかもしんない…。
「え? そ、そんなことはないでよぉ〜」と小さく首を傾げながら……それも髪を引っ張られることもなく…ソフィアちゃんを
抱いているシェリルちゃんであった…。
でも…世の中、そんなに甘いものではなく…。
それから数日後…。
この間、ミュンの両親が三泊もして孫娘−ソフィアのこと−を猫可愛がりするという微笑ましい(?)事があったけど…おおむね
平穏な日々が過ぎていた…。
「あと、どの花に水をやればいいのかな?」「えと、右の棚の二段目にあるお花に全部ですね」というナッツの問いかけに
ソフィアをあやしながら答えるミュン。
そうやって開店準備に余念のない彼らに。
「おはようございます、ナッツさん、ミュンさん、ソフィアちゃん」と挨拶するシェリル。
「ああ、おはよう。で、今日はどうしたんだい?」「え〜とですね、お花のことでちょっと教えて欲しいことがあって」ナッツの
問いかけにこう答えるシェリル。
「そうか。でもちょっと待っててくれ。今、準備中で手が離せないんだ」こう切り出すナッツ。
「ええ、すぐ済みますから…あ、ソフィアをお願い出来る?」「あ、はい。いいですよ」とミュンからソフィアを受け取る。
その直後!!
「い、痛いっ!? ソフィアちゃん、やめてぇーっ!!!」というシェリルの悲鳴が聞こえて来た!
「な、なんだっ!?」「ど、どうしたのっ!?」と慌てて彼女の方を見ると。
「……因果応報…っていうのかなぁ…やっぱり…」「…そ、そうですね…」と呟くナッツとミュンの二人…。
二人の目には……この時を待ってましたとばかりにシェリルちゃんのおさげ髪を2本とも力いっぱい、それも楽しそうに引っ張る
愛娘の姿が映っていたという…。
≪Fin≫
[あとがき]
REIM「…今回はちょっと疲れた…」
パティ「そーみたいね…書き上げるのに3週間もかかってるし…タイトルも1週間近く決まらなかったし…」
トリーシャ「それでさ、今回のって前回の話の続きになるんだよね?」
REIM「ええ、前回の第27話からそんなに日が経っていないという前提です」
トリーシャ「そーなんだ……でもさ、ソフィアちゃんってあんまり出番がないよーな気がするんだけど?」
REIM「まあ、彼女の登場は今後の為のネタ振りなので…今後に期待ということにしておいて下さい」
パティ「あっそ。それそーと、そろそろ今までの話に盛り込んだ伏線を整理したほーがいいんじゃないの?」
REIM「確かに…」
トリーシャ「そーだよ。特にっ、ボクと唯樹さんの話、全然進んでいないじゃないかっ(頬を膨らます)」
パティ「…そして…3度目の失恋…(ぽそ)」
REIM「…それもいいかも…(ぽそ)」
トリーシャ「(ブチっ!)」
ずっごぉぉぉんっ!!(←トリーシャチョップで制裁された…)