8月初旬のある日の『さくら亭』では…。
「…という訳で、ティアの認定試験合格を祝して、か…」というナッツの乾杯の音頭を遮るかの様に。
「それとフィムクンとシーラちゃんの婚約祝も合わせてね」「こら、アリサ。私が言おうとしてた台詞、先に言わないのっ」
…以上、アリサとセーラ−シーラの母親−の会話…。
一方、フィムとシーラの二人はというと…アリサの台詞でいきなり注目の的となってしまい、顔を赤くしていたという…。
「……あの…乾杯…したいんですけど…?」…情けない声で呟くように尋ねるナッツくん…。
「あ、ごめんなさい、ナッツさん」「もう、あなたが変な茶々を入れたせいでしょうに」謝るアリサに彼女に突っ込むセーラ。
「…はあ……それでは気を取り直して…あらためて、乾杯っ!」とグラスを上に掲げるナッツ。
『乾杯っ!』とあちこちでグラスを合わせる音が鳴り響いた…。
乾杯の後、今回の主役であるティアの周りにパティ、シェリル、トリーシャ、マリア、クレア、ナッツの6人が集まって来る…。
「昨日はお疲れさま、ティア」「あ、はい。ありがとう御座います」とナッツからジュースが入ったグラスを受け取るティア。
「それでどんな魔法が使えるようになったの、ティアちゃん?」とティアに尋ねるシェリル。
その近くではマリアも興味深々の顔で彼女の答えを待っていたりする…。
「えと、≪ファイア・ボール≫までの魔法が使えますけど」と答えるティア。
「そ、そうなの…」その答えを聞いてちょっとショックを受けるシェリル…学園を次席で卒業したとはいえ、≪ヴァニシング・ノヴァ≫
止りだから無理もない反応であろう…。
「シェリルなら、すぐにマスター出来るって。そーだよね、ナッツさん?」と慰めの言葉をかけるトリーシャ。
「そうだな、基礎、制御ともしっかりしてるから問題なくマスター出来るよ」フォローするナッツ。
「えへ☆ だったらマリアもあっという間だね☆」「その前に基礎を完璧にマスターしろ」容赦ない言葉を口にするナッツ。
「ぶーっ!!」途端に膨れるマリア。
「まあ、マリアは置いといて……だったら、なんでシェリルに教えてやんないのよ?」と疑問をぶつけるパティ。
「ん? まあ、たいした理由はないんだけどね」「じゃあ、なんでさ?」問い掛けるトリーシャ…。
「ティア一人で精一杯だったからさ。魔法だけじゃなくて導師長としての心構えも教えなきゃなんなかったし」と答える。
そして、その後を続けるように。
「先に言っておくけど…頼まれたってシェリルやマリアに魔法を教えるつもりはないからな」と予防線を張るナッツくん。
「どうしてですか?」「しばらく花屋の仕事が大変になるからさ」とシェリルに答える…確かに娘も生まれたしねぇ〜。
「替わりに誰か教えられる人を紹介してやんなさいよ」「その通りですわ」と正論を口にするパティとクレアの二人であった。
その一方、あと二人の『主役』はというと…。
「ところでお二人さん、式はいつ挙げるんだい?」からかうように二人−フィムとシーラの事−に尋ねるリサ。
「え〜とぉ……来月…」…少し恥かしいのか…口ごもるように答えるシーラ…。
「ずいぶんと慌ただしいねぇ…」「まあ、な」こう感想を述べるリサに相づちを打つフィム。
「ママがね、『善は急げ』とばかりにね…無理矢理決めちゃったの…」と真相を話すシーラ。
「なるほど、ね」思わず納得するリサ。
その横では…。
「ふと思ったんだけど…シーラのお袋さん……ひょっとして親バカか…?」「…エル様もそう思われますか…?」…などとエルと
ジュディの二人がしみじみとこんな会話を交えていたという…。
戻って…ティア達の方では…。
「でもさ、なんで試験受けなきゃなんなかったのさ?」ティアに向かって素朴な疑問をぶつけるトリーシャ。
「あ、はい。ナッツさんが『一応、受けておいた方がいい』と言われたから」と答える。
「どーして? だって導師長の方がエライんでしょ?」不思議に思い、こう尋ねるマリア。
「えと、私も初めて教えてもらったのですけど…」と前置きしてから、
「『正魔術師』の名称は『称号』とか『階級』とかの意味だけじゃなく『技能レベル』の意味も含むだそうです」と続ける。
「ふぅ〜ん、そーなんだ」理解するトリーシャ。
「あ、あと『導師』も同じだそうです」と付け足すティア。
「なぁんか、ややこしいよぉ〜」いまいち理解出来なかったのか、頭を抱えてうめくマリアちゃん…。
「ところでティアちゃん…これからどうするの…?」とティアに尋ねるシェリル…。
「え…?」「だって、魔法覚えたのだから……もう…」後を続ける事が出来ない…。
「それなら大丈夫だよ。少なくても私、学園を卒業するまでここにいるつもりだから」安心させるかの様にこう答えるティア。
「よかったね、シェリル」「え…ええ…」トリーシャに向かって、ほっとした顔を見せるシェリル…。
なにしろ、シェリルが学園を卒業するまでの間、ほぼ毎日の様にティアの勉強を見ていたのだ…彼女の事を妹みたいに感じても
おかしくはないだろう…。
「あのさ、シェリル……今、ティア、学生寮にいるんだけど…まさか、知らなかったのか?」「………はい…?」きょとんとした
顔になるシェリルちゃん…。
「あは…あははは…そ、そーだよね…学校やめるつもりだったら…」…ジト汗をたらしながらトリーシャ…。
「…シェリルってば…やっぱ、どっか抜けてる…」しみじみと呟くマリアちゃん…。
それに対して。
「マリアちゃんに言われたくないわっ!!」と絶叫するシェリルちゃんであった。
ほぼ2時間が過ぎた頃…。
「……トリーシャちゃん……大丈夫かしら…?」…誰ともなく尋ねる様に呟くシーラ…。
「唯樹と一緒なんだし…大丈夫じゃないのか…?」彼女の独り言にこう答えるフィムくん…更に…。
「…もっともトリーシャを酔い潰した人のセリフじゃないけどね…」「ははは…そ、そうかな…?」と続けるフィムくんとバツ悪そうに
笑うシーラちゃん…。
…それにしてもシーラがトリーシャを酔い潰すとは……珍しい事があるもんだなぁ…。
「それで……一人で歩けるかい、シーラ?」「…ちょっと…ムリかな…?」ついさっきまでフィムの背中の上で酔い潰れていた
シーラが甘えた声でこう答える…。
「ホントに…?」「うん、本当にムリだもん」実はもう一人で歩けるのに…歩けないふりをして、おんぶされたままでいたかった
シーラちゃんであったりする…。
ちょっと説明すると……フィムはトリーシャと差し違い(!)で酔い潰れたシーラを背負って家に連れて帰るところであった…。
「でも、ちょっと意外ね」「なにが?」とシーラちゃんの呟きにこう尋ねるフィムくん。
「う〜んとね、ティアちゃんのことなんだけど」「ティア? 学生寮どうこうの話か?」と『?』マークを顔に張り付かせる…。
「うん。実はね…私、てっきり、リオくんのところに行くと思ってた」「…………それはそれで問題がなくないか……?」
…半瞬の沈黙の後、こんな突っ込みを入れるフィムであった…。
(リオ「へ…へくちっ!」 ティア「くしゅんっ!」←二人同時に)
その頃…『さくら亭』では…。
「久しぶりね、あなたとこうやって飲み明かすのも…」「そうね、何年ぶりかしら?」とグラスを傾けるセーラとアリサの二人。
……彼女達がいるテーブルの上には………8本ものワインの空き瓶があったりする…。
「あのぉ、奥様……もうそれくらいになされては…?」おずおずと声をかけるジュディ。
「そうっス。ご主人様ももうやめた方がいいっス」これはテディ。
「どうする、アリサ?」「そうね…それじゃあ、あと1本で終わりにしましょうか」……9本目のコルク栓を抜くアリサさん…。
『はぁ〜』…ふかぁい溜息をもらすジュディとテディ……。
「……信じらんない…セーラおばさんはともかく…アリサおばさんが酒豪だなんて…」とかなりひび割れた声で呟くパティ…。
「……ええ…私も信じられないです……」…ほんの5分程前に酔い潰されたナッツを膝枕してやりながら呟くミュン…。
「…そうですね…由羅さんも酔い潰してますし…」と約40分前に彼女達にK.Oされた由羅の額に冷やした濡れタオルを載せて
やりながら二人に同意するシェリル…。
そんな彼らに対し。
「あの、パティ様、ミュン様、シェリル様」「早くご主人様たちを止めて欲しいっス」と3人に助けを求めるジュディとテディ。
「…で…あたし達にどーしろと…?」代表して問い掛けるパティ…。
「それは…パティ様方で考えて頂きたく…」「やだ。あんた達で考えなさいよ」即答するパティちゃん。
「…え〜と、ミュンさん…」「ごめんね、テディくん。私、今、それどころじゃないの」これはミュンさん。
「……あのぉ、シェリル様…?」「…右に同じです…」とシェリルちゃん。
「テディはともかく、なんであんたまで残っているだい? ジュディ?」と水でも飲みに来たのか2階から下りて来るリサ。
「実はリサ様。今、屋敷の鍵をお持ちしていますのが…」「シーラのお袋さんってワケかい?」納得するリサ。
「あらら、シーラも災難……でもないか」「そうですね。今頃はジョートショップで二人っきりですし」と揃って人の悪い笑みを
浮かべるパティとシェリルの二人。
「それはないっス。ボクがジョートショップの鍵を持ってるからありえないっス」と言ってパティ達に鍵を見せる…。
「あ……それって、つまりぃ…」というミュンちゃんの呟きをバックに…10本目の栓を抜くセーラさん…。
という訳で……自宅の鍵を同居人や愛娘に渡していないのをすっかり忘れたまま、明け方まで『さくら亭』で飲み明かしていた
アリサさんとセーラさんであった…。
なお…その間、フィムとシーラの二人がどう過ごしていたかは……定かでない…。
≪Fin≫
[あとがき]
シーラ「…もう、ママのおかげでひどい目にあっちゃった…」
パティ「どーだか」
シェリル「そうですね」
シーラ「あーっ、みんな、信じてないのっ!?」
パティ「だって、ねえ(シェリルに同意を求める)」
シェリル「ええ。『信じて』と言うことが自体が無理だと思います」
ミュン「そうですね。ローラちゃん情報によると……一晩中、ローズレイクにいたとか?」
シーラ「ええっ!? もうっ、ローラちゃんってばっ!!(ローラを探しに行く…)」
ミュン「…カマかけた…だけだったのに…(唖然)」
REIM「あのぉ〜、もしもぉし〜、ミュンさぁん?」
パティ「…あいかわらず…単純なコ…(呆然)」
シェリル「(立ち直って)あ、そう言えば、このお話はどういう理由で書いたのですか?」
REIM「え〜とですね、特に理由はないんですけど…あえて言うなら次回、第31幕へのつなぎ、ですね」
ミュン「そうなんですか…でも、アリサさんの『あれ』はやり過ぎかなと?」
REIM「ははは…」
パティ「まあ、別サイトだとミョーに積極的なアリサおばさんもいるコトだし、別にいいんじゃないの?」
丁度その時、遠くから。
ローラ「あたしがなにをしたっていうのぉーーーっ!!(絶叫&悲鳴)」
シェリル「迷わず成仏してね……ローラちゃん……(合掌…)」