中央改札 交響曲 感想 説明

Wedding Bell
REIM


 ようやく秋への足音が聞こえ始めた9月のある日の事。

 (…あんまり…実感がわかないなぁ…)鏡に写った『もう一人の自分』を見ながらこう心の中で呟くシーラ…。
 「あら? どうされたのですか、シーラ様?」そんな彼女を見て首を傾げるクレア。
 その声で手を休めて一斉に顔をシーラの方に向けるミュン、トリーシャ、ジュディの3人…。
 今、彼女達はシェフィールド邸の客間の集っていた…。
 「くす、今、『夢みたい』って思っていたんでしょ?」シーラの表情を見て、こう言い当てるミュン。
 「え…どうして分かったの…?」「どうしてって? 私もそうだったから」とウェディング姿のシーラに悪戯っぽく答える。
 その後、
 「まあ、今までと違う生活になるから…そう思うのも無理もないですけど」と続けるミュン。
 「そ、そうかな…?」「きっとそうですわ、お嬢様。ミュン様のおっしゃる通りですわ」元気付けるかの様にジュディ。
 「でもさ、それってそんなもんなの? ボクはすごく嬉しいことだって思うけど?」いまいち理解出来ないトリーシャ。
 なにしろ、彼女はやって来た幸運を素直に喜べるタイプなのだから無理もない事であろう。
 「そうですわね、トリーシャ様の言う事も一理ありますわ」とトリーシャに同意するクレア。
 「それはそうだけど…でもね、やっぱり、ちょっと…ね…」少し不安げに呟くシーラ…。
 「まあ、無理もない事ですけど…」これはクレア。
 その時、ミュンはというと…まだ不安げな表情を見せるシーラの姿を見て…ほぼ1年半前の事を思い出していた…。
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 「……あの…ナッツさん…夢じゃないんですよね…?」…あの日、私、すごく不安だったっけ…。
 でも…ナッツさん、私の不安を取り除く様にキスしてくれて……ちょっとびっくりしたけど。
 それで『これは夢じゃない』と思えたんだ…。
 「まだ夢だと思うかい?」という夫の瞳は…紫水晶みたく、とても優しい瞳だったわ。
 「ううん…夢…じゃないです……あなた…」この時の私の顔は…まったく曇りもない『最高の笑顔』だったと思う。
 「それじゃあ、そろそろ行かないと…あいつら、文句言い出し始めるぞ」「はい」
 …そのまま、腕を組んで…二人でVirginRoadを歩いて行ってたっけ…。
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 とまあ、自分達の結婚式の時の事を思い出していたミュンは…次のような答えを導き出していた…。
 …あの時、夫のおかげで全て『現実』だと思えたんだ…と。
 だから、
 「それじゃあ、ここへフィムさんを呼びませんか?」と彼女を元気付ける為に提案したとしてもおかしい事ではないであろう。
 「えっ!? そ、それは……ちょっと…」驚きつつも恥かしいのか、俯きながら小声で呟くシーラ…。
 でも…。
 「あ、それって名案だね♪」「そうですわね、さすがはミュン様です」とミュンに同意するトリーシャとクレアの二人。
 「それでは、私がお呼びしてまいりますわ」「あっ、ちょっと待って、ジュディ!?」と呼び止めるシーラだったが…その声を
 無視するかの控室代わりの客間を後にするジュディ。
 結局、彼女を見送るはめになったシーラちゃんはというと。
 「ど、どうしよぉ〜。まだ心の準備が出来てないのにぃ〜」おろおろと慌てていた…。

 しばらくして…。
 「一体、なにがあったんだ?」とジュディに引っ張られて来たフィムが新婦の控室に入って来た。
 一方のシーラはというと…。
 「あ…」思わず、初めて見るフィムのタキシード姿に見とれていた…。
 そんな彼女の視線を感じたのか、
 「ん? なんかヘンなところでもある?」着こなしに自信がないのか、恐る恐る尋ねるフィムくん。
 「え? ううん、ちょっとびっくりしただけ。でも、よく似合ってるわ」「ありがと。シーラもそのドレス、よく似合ってるよ」
 「あ、ありがと…」こんな他愛のない会話していくうちにちょっとだけ元気になるシーラちゃん…。
 「それはそーと、一体、なにが……って、ドコに行くんだ、お前ら?」と出口の方に向かっていたミュン達4人に問い掛ける。
 「えっとね、今、ボク達、おジャマかなぁ〜ってね」代表して答えるトリーシャ。
 「え? そ、そんなことないわ」「というより、こういう新婚さんがいるところには結構居辛いんですよ、私達は」とミュン。
 だが。
 「ふぅ〜ん。というコトは、そー言われたコトがあるんだな」とミュンに突っ込みを入れるフィムくん。
 「な、なにっ、言ってるんですかっ!?」「…そのうろたえ方が雄弁に語ってるってば…」どうやら図星だったみたく…途端に
 うろたえてしまうミュンさんと茶々を入れるトリーシャちゃん…。
 「とにかくですね、私達にはお二人の邪魔をする気はありませんので、失礼させて貰います」「それでは失礼します、お嬢様」
 と言ってミュンやトリーシャの手を引っ張って部屋の外に出るクレアとジュディ。
 そして、
 「あ、待って…」「やれやれ…」引き止めようとしたシーラと肩をすぼめるフィムの二人が残されたのだった…。
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 「それで話を戻すけど…一体、なにがあったんだい?」優しくシーラに問い掛けるフィム。
 「えとね、たいしたことじゃないんだけど……今日のことがね、夢みたいと思って、ちょっと実感がわかなかったの…」と正直に
 自分の胸の内を答える…。
 「なるほどね。で、今はどう思ってるんだ?」とフィム。
 「今はね……『本当のことなんだ』って思ってるの。だって…」「だって?」「フィムくんが白いタキシード着てるんだもん♪」
 と悪戯っぽく満面の笑みを浮かべるシーラ。
 「こら」と言って最愛の女性を抱き寄せるフィム…。
 そして…。
 「ん……」…そのまま、二人の唇が重なり合っていた…。

 それから約一時間半後のシェフィールド邸の庭−ここが式場である−では。
 「ところでパティさん、一ついいですか?」「なに、ミュン?」小声で隣にいたパティに話しかけるミュン。
 「ここエンフィールドでも『ブーケ投げ』はあるんですか?」と尋ねる。
 「そりゃあるわよ。でなきゃ、あのコ達がああまで張り切らないってば」と言って既に『臨戦態勢』にあるトリーシャ、ローラ、
 マリア、瑞穂の4人を指差すパティ。
 「…それもそうですね…」文句なしに納得してしまうミュン…。
 「そーいや、オレ達の時は凄かったよな…」思い出すかの様に口を開くナッツ。
 「そうですね…あの時は白羽ちゃんが撃墜されちゃったし、アンリちゃんも池に落されちゃったし…」と相づちを打つ。
 「はひ? 撃墜された? 池に落された? どーゆうコトよ、それ?」鳩が豆鉄砲をくらった顔をするパティちゃん…。
 「実はですね…」と声をひそめるミュンさん…。

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 時は遡り…1年半前、ベルファークで行われたナッツやミュンの結婚式での事。

 「どうしたんだい、ミュン?」小声で傍らの花嫁に尋ねるナッツ。
 「え? あ…あの…何か…みなさんの様子が少しおかしく見えたから…」ミュンも小声で答えた。
 「? そうか…いつも通りに見えるけど…?」「私も気のせいだと思います…」「そうかもね…それよりもみんな待ってるよ」
 ナッツはミュンの手元に目を向けた…。
 「あ、はい」ミュンは手に持っていたブーケを参列者の列に向けて空高く放り投げると同時に。
 「しらは、あれ取ってくるぅっ!」ばっさばっさと空に舞い上がる青い髪をした有翼人の少女。
 が、次の瞬間!
 「させるかぁっ!!」というライラの声とともに「ひどいですぅぅぅっ!!」という少女の悲鳴が式場一帯に響き渡る…。
 「なにが起きたんやっ!?」「ライラ様が白羽様をパイで撃墜なさいました」とリサの疑問に淡々と答えるセバスチャン。
 「おもしろそうですね」というミレナの的はずれのセリフに対して、
 「どこがやっ!!?」「どこがですのっ!?」と思わず声をそろえるリサと濃いすみれ色の髪を持つ令嬢の二人。
 更に…しばらくして。
 『卑怯者っ!!』「うそぉぉぉぉっ!!?」とライラと気の強そうな濃緑色の髪の少女とのツインタックルをくらい、
   ばっしゃぁぁん!!
 たまたま近くにあった池に叩き込まれるアンリちゃんであった…。

 ところで…ミュンが投げたブーケはというと…。
 「すごいですね、シーリアさん。ブーケを手にしてしまわれるなんて」というミレナの言う通り、濃いすみれ色の髪の令嬢が
 何が何だか分からない表情をしてブーケを手にしていたといた……。
 ちなみに…ブーケをキャッチしようとしていたライラと濃緑色の髪の少女の二人は…その光景をただ呆然と見ていたという…。

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 「……そ、それは…ある意味、凄いわね…」…ミュンの話を聞き終え、絞り出す様にこう呟くパティちゃん…。
 「まあ、今日のはオレ達みたいなことにならんだろうけどな」「そうですね」苦笑しながらこう言うナッツとミュン。
 とか、3人でそんなこんなやってるうちに…。
 「えいっ!」というかけ声とともに…新婦が持っていたブーケが空高く舞い上がった。
 「てへ☆ こ〜んなのマリアの魔法でぇ〜、す〜ぐなんだからぁ〜」「前言撤回。”Scene=Cleaver!”
 問答無用に転移呪文でマリアをどっかに飛ばすナッツくん。
 「一人だけ……例外がいましたね…」ぽそっと呟くミュンさん…。
 「だからってね、いきなし魔法使うコトないじゃないのよ」と呆れるパティさん…。
 一方…。
 「マリアちゃん、大丈夫かな…?」「大丈夫だと思うよ…結構打たれ強いし…」「…それはそれで…問題なくありませんか…?」
 ぼーぜんと呟くローラ、トリーシャ、瑞穂の3人娘たち…。
 「はれ? あんた達、ブーケはどーしたのよ?」彼女達を見て尋ねるパティ。
 それに対して…トリーシャが黙って、とある方向に指を差す…。
 その方向には…ティアが胸にブーケを抱えたまま、顔を真っ赤にして俯いていた…。
 「あらら、残念だったわね、3人とも」と笑いをかみ殺した顔で慰めの言葉をかけるパティちゃん。
 「…後でヤケ食いでもしませんか…?」「賛成〜」「ボクも付合うよ」…よっぽど悔しかったらしい…。
 「…ズルしたみたいですね…」小声で夫に囁くミュン。
 「ズルって? 誰が?」「多分、フィムさんだと思います。シルフィードの力を感じましたし、それも2回も」と答える。
 「なるほどね。一回目はブーケを操り、二回目はシーラの声を送ったってトコか」と推察するナッツ。
 とまあ、多少、些細なハプニングはあったものの、平穏無事に式は終わったのだった。

 その日の夜、『さくら亭』では。
 「はくちゅんっ!」と可愛らしいくしゃみが響き渡る…。
 「マリアちゃん、大丈夫?」「うん…多分……は、はくちゅんっ!」「…でもないか…」順にシェリル、マリア、パティの3人。
 「そうだね、なにしろローズレイクのド真中に飛ばされたしね」これはリサ。
 「魔法なんか使おうとするからだろが」と髪をかき上げながら突っ込むエル。
 「うぅ〜」…ホットミルクの入ったカップを手にしながら身をよじるようにうめくマリアちゃん…。
 「ところでな、パティ。トリーシャはなにやってるんだ?」「ん。今、あそこで瑞穂とローラと一緒にヤケ食いしてるわよ…」
 というエルの問いに…呆れた顔で店の隅を指差すパティさんである…。

 時間は進んで深夜、ジョートショップでは。
   こんこん
 「ん、開いてるよ…で、どーしたんだ、シーラ?」とベットから起き上がって、部屋の扉を開けるフィム。
 「…えとね…なんか眠れなくて…」…小さな声で恥かしそうに俯くシーラちゃん…。
 「…で、抱えてるその枕はなに…?」「え〜とね…」…更に俯いてしまう…。
 そんな新妻の姿を見たフィムはというと。
 「やれやれ…困ったお姫様だな」と苦笑しながら横抱きにシーラを抱きかかえる…。
 「あ…えと…ごめんね…」という少し甘えたシーラの言葉とともに…。
   ぱたん
 とフィムの部屋の扉が閉じられたのだった…。

     ≪Fin≫


 [あとがき]
  パティ「やっと一組、片付いたわね」
  REIM「ははは…(力ない笑い)」
  シェリル「でも本当はこのお話、第15幕前後の予定だったんですよね?」
  REIM「ええ、まあ」
  パティ「そのつもりだったけど…色々と書きたいコトがあったから延びてしまった、と?」
  REIM「…はい、図星です…」
  シェリル「はあ…(溜息)」
  パティ「まあそれは置いといて…これからどーするの?」
  REIM「これからって?」
  パティ「だってさ、予定だとこの『結婚話』をもってシリーズ完結だったんでしょ?」
  REIM「あ、そのことですか。本シリーズはもう少し続けるつもりです」
  シェリル「そうなのですか。それで次のお話はどういう話になるのですか?」
  REIM「次の第32幕は…ナッツやティアといった『導かれし者』達が主役になります」
  パティ「ああ、第19幕に登場した魔法使い達のこと?」
  REIM「ええ、そうです」
  シェリル「どんなお話になるのかしら?(←トリップ寸前…)」
  REIM&パティ「………(絶句)」

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