中央改札 交響曲 感想 説明

Lunatic Emotion 夢幻忌憚皐月


カインがジョートショップに住むことになり早一週間がすぎた。
今現在さしたる問題もなく時が過ぎているようだ。
ただ住むことになったカインは別段ジョートショップに来る依頼を
こなすわけでもなく一日中エンフィールド内の王立図書館より借り受けてきた
本を読み過ごしているようだ。
アリサもそれに対し何かを言うこともなくそれぞれ問題なく過ごしているようだった
が、それに対し文句が内ではなく外からならば出てきていた。
アルベルトだ。
アルベルトにしてみれば突如表れた男が本来自分の居るべき場所を取ったのみならず
働くでもなく本を読みふけっているような男など許せないと言うことだ。
最もカインが住むことになった直後にアリサにゆうにジョートショップの年収で
1000年分はあるだろうという大金をアリサに渡しているのだが。
もちろんその際アリサは断ったのだがカインの一言で貰い受けることになったのだ。
ちなみにその一言はというと。

「ほう、アリサお前いつから俺に遠慮できるようになったんだ。ん?」

という暖かい言葉であった。
そのおかげかジョートショップは今までの自転車操業より脱出できたのだが
やはりアリサはアリサであったと言うべきか変わらず店に来る依頼を受けているのだった。
付け加えるのであれば常にその傍らにいるテディにしてみれば自分の御主人様が今までよ
ずっと楽しそうな表情をしているので別段不満はないようであった。
そして今日もまた変わらずアリサは菓子作りに励みテディはそれを見ながら涎を垂らしカインは図書館へと向かうのであった。




                ******




カインが向かう先の王立図書館の歴史は古い。一説によればこの街ができるまえから
あったという話もあるのだから最低でも100年は下るまい。
図書館へとたどり着いたカインはまずカウンターへ行きそこにいる人間に話しかけた

「イブ、本を返しに来たぞ」

簡潔ではあるが内容を確実に伝える言葉だ。
その言葉を聞き事務仕事をしていたイブは顔を上げた。
黒真珠の線を思わせるような美しい髪を手で後ろに流しエメラルドの瞳でカインを
見る。ちなみに唯一カインの顔を見て頬を赤らめなかった女性でもある。

「あら、カインさんまた来たの。ええ確かに借りていた本のようね」

本を受け取りチェックしながら話すイブ。
その手つきは慣れているのだろう全く淀みがない。

「それで何か新しく借りていくのかしら?」
「ああ」
「そう、なら行きましょう」

そう言葉を切り返事を待たず立ち上がり歩き出すイブ。
カインも無言で付いていく。
無言のまま歩く二人。共に話しにくいからと言うわけでもない。
イブにしてみれば不必要なことを喋らないだけ。カインにしてみれば話しかけてこないのだから放っておくそれだけだ。
だからといってイブは別段カインのことを嫌っているわけでもない。
むしろ好ましいと思っている。それは男女の仲のようなものではなく好印象であるだけなのだが。
アレフのようにわざわざ図書館に来てまでいちいちモーションを掛けてくるわけでもなくでもなく図書館内でも騒ぐわけでもない。
それに何よりカインの持つ知識は自分おも圧倒させるものだったのだ。
以前イブがかなりの年代物の本の内容の解読に難航していた際にカインはその本を
一読しただけで解読して見せたのだ。
それ以来自分ではどうしても時間が掛かりすぎるような本があった際にはカインに
その本の文字と内容などを教えて貰ったりしている。
付け加えるならばカインが利用する本は地上部分の一般人向けの本ではなく
地下にある魔導師ないしは科学者、学者などの本当に専門家達が扱うような本やそれ
らの人間達ですら扱えない扱いきれないような本を利用するのであった。
それに乗じて返す際に未整理の本も整理できるようになるのだからイブにしてみれば
うれしい限りであろう。
だからと言って彼女はそれを表情に出したりしないが。
どうやら目的の場所に着いたようだ。
既に其処には陽の光など届かない。純粋にランプの明かりのみだ。
辺りには埃臭い匂いが充満しむせかねない。

「いま鍵を開けるわ」

そういい目の前の扉を開けるイブ。
開けられた部屋の中からはさらに強い埃の匂いが溢れてきた。
無言で中に入るカインとイブ。
部屋の中には広大な空間が広がっている。どう見ても地上部分の図書館より広い。
地下の分の本だけで何百万冊とあるだろう。
初めて見る者はそれだけで言葉を失い立ちつくしかねない。
最もカインは初めてみた時は、ほうと僅かに感心して見せただけだった。
カインが先導する形で地下館内を歩く二人。
五分ほど歩いただろうかカインが立ち止まり一冊の本を手に取る。

「それは?」

やはりイブもこの青年が見る本に興味があるのか訪ねる。
無言で本の中身を見せるカイン。
それは今まで見たことのない文字で書かれた本だった。

「蒼穹の書。本来天使どもが所蔵している秘本のはずだが・・・」
「そう」

それを持ち同じようにその隣にある本を手に取るカイン。

「これもだ。魔天の書これは魔族どもの秘本だ」

それもまた手に取りその後いくつかの本を借り受けカインは図書館を後にした。
  



                 ******



図書館から出ると真っ先に強い日差しが降り掛かってくる。
どうやら思っていた以上に館内で時間が過ぎたようだ。
カインは眩しげに目を細めるとこれからどこへ行こうかと思案する。

(店は・・・アリサが掃除をすると言ってたな。だが図書館はイブが仕事を持ってくるだろうし・・・さくら亭に行くか)

僅かな錯誤の中行き先を決めるとカインはさくら亭へと向かった。
今はちょうど真昼時一番日差しが高い時間であり一番太陽が近い季節でもある。
街の人間それぞれが思い思いに涼しげな格好をしざわめきながら歩いている。
が、そのざわめきもカインがその脇を通るだけで沈黙に変わる。
誰もが振り返るのだカインのその人外な美しさに。
陽光を受け煌々と輝くような黒髪に妖しくも至高の美しさを持つアメジストの瞳
それら全てが崩れることなく絶妙の配置を成している美貌。
声を掛ける者はいない誰もが知らずの内に知るのだあれはこの世のものではないと。
が当の本人はと言うと飄々としたもので自分の顔がどれ程のもなのか気づいているのか
気づいていないのか黙々とさくら亭への道成を歩く。
さくら亭の前にたどり着く。逡巡もなく戸を開けるカイン。
カウベルが鳴り中の人間に来訪を告げた。
そしてまた沈黙が訪れる。
カインは店の隅の席を陣取ると借りてきた本を広げた。
その一挙動に誰もが感嘆のため息をもらし見つめる。
その中ではじめに動いたのはパティだった。

「ご注文は?」

流石のパティも頬を赤らめカインを直視しないようにオーダーを取る。
それを気にした風もなくカインは言い放った。

「水」

今度は別の意味で沈黙が訪れる。
よもやさくら亭にまで来て水の一言のみで終わらせるとは誰も思わなかった。
が誰もがこの青年が自分たちと同じものを食べるとは想像できなかったのも確かだ。

「あんたねぇ水ってのは何よ!」
「・・・水は水だろう。化学式で表すなら・・・」
「んなこと聞いてないわよ!」
「?じゃあなんだ」
「普通食べ物を頼むもんでしょうが!」
「塩」
「くー。分かったわよ!水と塩ね!」

どすどすと床板を踏みならしながら厨房へと向かうパティ。
それを見送ることなく本へと目を落とすカイン。
これはなかなか滑稽な物かも知れない。
カインのページをめくる音のみが響く中ようやく他の面々も慣れてきたのか
談笑へと耽る。
どれくらいの時が過ぎただろうか未だ本を読み続けるカインにその目の前にある
バケツに入った水と丼に盛られた塩が凄まじく違和感があるが何も問題なく
時は過ぎていたのだった。
いつの間にか店の中にいる人間も顔変わりしている。
窓より差し込む日差しも今は低く影を長く作っていた。
そしてカウベルがなる。
柔らかく吹き込む風を背に入ってきた少女。
風にその髪が流れる。

「おっ!シーラ。いやぁまさかこんな所で巡り会えるとはね。やっぱり神様が俺達に
 出会えと告げているんだよ。どうこれから?」

アレフが目を輝かせ言う。その後ろでパティがぶつくさ言っているがアレフには
届いていないようだ。

「あ、そのごめんなさい。この後もすぐピアノのお稽古が・・・」

若干身を引きつつシーラが断る。
いつもの光景だ。シーラがカウンターへと進みアレフがエスコートで椅子を引く
苦手そうに椅子に座るシーラに再びくどくアレフ。
いつもと変わらぬ光景。
異変に気づいたのはカインだった。

(んっ?)

アレフにたどたどしくも断り続けるシーラが倒れた。
椅子が大きく音を鳴らし床へと崩れ落ちるシーラ。
シーラ!と大きくアレフが叫ぶ声が響く。
その瞬間はどこまでもゆっくりで何よりも早かった。

「おいシーラ!どうしたんだ!!」

アレフがシーラを抱き起こし呼び続けるが返事はない。
一瞬にしてざわめきに包まれるさくら亭。
そんな中カインが立ち上がった。
それだけでざわめきが収まる。
静謐とも呼べる中カインは流れるような足取りでシーラの元へと向かった。
アレフが放心したようにカインを見る。
それを意に介せずシーラの頬に手を当てるカイン。

「呪詛か、これは」
「え?」

一言呟くカインに一言返すアレフ。

「大した使い手だ。ここまで見事な呪詛なんざそうそう無いぞ」

本当に感心したように呟くカイン。
それだけだった。後は座っていた椅子へと戻りまた本を読み続ける。
そして本から目を離さず一言。

「とっとと処置しないとその娘狂うぞ」
「なっ!?」

静かな声で衝撃的なことを言い放つカイン。
今度はもう口を開くことはなかった。

「おい!カイン!お前何言ってんだ!シーラを助けられるんだろ!」

それに対するカインの返事はない。

「おい!!カイン!」

アレフが叫び呼び続ける。
他の人間は誰も動けない。ただ呆然としているだけだ。
黙々と本を読み進めるカイン。この青年の前では何もかも遠い出来事にしかすぎないのか?

「カイン!!」

三言目でようやく顔をアレフに向けるカイン。その目は限りなく冷たい。

「なんで俺がそいつを助けなくちゃならないんだ?」
「なんでって・・・お前シーラが倒れたんだぞ!目の前で人が倒れたんだぞ!」
「それで」
「どうして助けないんだよっ!!」
「理由がない」
「ふざけるなっ!!」
「ふざけてなんていないさ。そいつが倒れた、からどうした。確かに俺は助けられる
 がだからといってどうして助ける義務があるんだ?」

冷徹に言い放つカイン。その言葉に誰もが納得できない。皆がどうしてと目で問うてくる。
いやリサだけは非難はしているがどこか諦めた目だ。

「ちっ。もういい!おい魔術師ギルドに運ぶぞ」

シーラを抱きかかえさくら亭を出るアレフ。それにみんな付いていく。
店の中にいるのはカインとリサのみだ。
しばらく店の中にページをめくる音のみが響く。

「お前は行かないのか?」

カインが本より目を離さず独白するかのようにリサに問う。

「店の中に誰も居ないんじゃ不用心だからね」

そしてまた店の中にはページをめくる音のみが響く。

「どうして助ける気にならなかったんだ」

リサがグラスを磨きながら聞いた。

「どうして助ける気になるんだ?」

虚空に話しかけているような二人の問答。

「・・・こんな話がある。あるところに病人が居た。その病人の掛かっている病は
 どれ程の名医でも直せないものだった。
 死を待つだけの病人の前にその病を治せる力を持った人間が現れた。
 病人は言った。助けてくれと。だが力を持っている男は断った。
 なぜならその力は自らの命と引き替えに相手を治すものだったからだ。
 自分の命を見も知らぬ他人に捧げる気はないそれだけだ。
 だが病人はそれを知ってもなおも言った助けてくれと。
 男は断り続けた。
 病人は最後には男の家族を人質に取り言った。
 助けろと。
 力を持っている男は承諾した。
 そして病人は治り男は死んだ。男の家族は嘆き悲しみそして最後には
 その男が治した病人を殺した」
「・・・それがなんなんだい?」
「治さないのには理由がある。どれ程くだらなくとも理由が。それは力を持たない人間
にしてみれば理不尽だろうが持っている人間にしてみればなぜ俺が?でしかない
 身勝手なんだよ力を持たない人間は。  
 自分たちが苦しんでいるとき力を持っている人間が救うのは当然と考える。
 さっきの奴が良い例だ。
 そして救えなければ自分たちでは何もせずただ諦め痛罵を浴びせる。
 ・・・・・・吐き気がするよ」
「だけどそれは仕方がないことだろう」
「その仕方がないことで男は死んだ」
「シーラはその病人とは違う」
「同じだ。俺にしてみればただの他人だ」
「アリサさんの大切な人の一人だ」
「幻だ。アリサの見る世界を見ることもできないのに自分が作ったアリサの姿を
 投影しているだけだ」
「アリサさんとシーラは違う」
「当然だ。だがそれでも近づこうとする人間は誰も居なかった」
「近づけばアリサさんは傷つく!!」
「傷つけることを恐れ近づかなかった結果があの仮面のアリサだ。
 アリサと再会した後お前達と話しているあれがアリサとは俺は気づかなかった。
 ただ白痴の笑みを浮かべ誰もが望む言葉を返している人形。
 それがアリサになっていた。
 皆殺しにしてやろうかと思ったよこの街の人間全て!
 誰もがアリサを人形に仕立てていた!
 男も女も老人も子供も!
 あいつが俺の前でもあの笑みを浮かべることしかできなくなっていたら
 本当に貴様等を皆殺しにしていたよ!」
「・・・」
「何がアリサさんは優しい人だ!なぜ気づかないそれがお前等の望んでいる
 事をしている人形でしかないと!
 ゴーレムと一緒だ!ゴーレムは戦うため!アリサは喜ばせるため!
 俺はこれほどまでに人を憎んだ事など無いよ!
 それだというのに貴様等は言うあの女を助けろと!
 俺にしてみればアリサを人形にした一人にしか過ぎんと言うのにだ!
 単なる憎悪の対象にしか過ぎんと言うのにだ!」

リサは拳を血が滴り落ちるほどに握りしめている。
どのような感情が渦巻いているのか分からない。
それでもそれは激情だ。
カインの胸を抉ってもなおも足りないような言葉を聞きカインの憎悪と哀しみに
満ちた言葉を聞き激情の促すままに手を握りしめる。

「それでも助けて欲しい。身勝手だろうとアリサさんを人形に仕立て上げただろうと
 シーラを助けて欲しい」

グローブが赤くなる中一言一言を選びながらリサは言葉を紡ぐ。
激情を織り込みながら後悔を織り込みながら一言一言を。
涙は流れない。これほどの後悔を心に詰めながら涙は流れなかった。
がそれでも泣いていたのだろう彼女は。
流れる血がそれを物語る。
それをカインは・・・。

「あの女を救うには条件が必要だ」
「えっ!?」

その言葉に顔を上げるリサ。
それを冷たい目で見ながら言葉を続けるカイン。

「あの女に掛けられた呪詛は強力かつ陰湿だ。
 それを完全に解呪するには変わりに呪いを受けるがもの必要だ。
 本来な人形でいいがそんなもんですます気は無い。
 お前が代わりに受けろ。それが条件だ。 
 あの呪いは夢魔の呪法と呼ばれるもの。夢の中でそいつが一番恐れるものを
 徹底的に脚色して見せる。
 大体は一週間で気が狂うがあれほど強力だと一日もあれば十分だな」

いやらしげに笑みを浮かべ説明するカイン。

「・・・あたしが身代わりになればシーラを助けるんだな」
「お前が身代わりになるならな」

せせら笑いながら言い放つカイン。
リサは自らの血で濡れたグローブを見て決断する。

「身代わりにしてくれ」

重い言葉だった。何より万言重ねた言葉よりもその一言が。
その時だけはリサは自分の過去を忘れた。
この今瞬間だけ、あの不器用な少女を助けるそれだけが心を占めた。

「・・・」
「・・・」

無言で手を出すカイン。無言で手を握るリサ。
そして姿が消えた。




                 ****** 



  
カインとリサが問答をしている間シーラを連れたアレフ達は魔術師ギルドにいた。
ギルドの長に事情を説明しシーラを奥の間に寝かせてから早十分。
未だシーラが回復したという言葉は聞こえない。
誰も話すものは居ない死者の沈黙の如く重い沈黙が淀み支配する。
突然シーラの寝ている部屋が騒がしくなった。
回復か否か期待と不安を抱いて止めるギルドの人間を突き飛ばし部屋の中へ入る
面々を待ち受けていたのは。
血を流し倒れる長とその補佐達だった。

「おい、どうしたんだよじーさん!シーラはどうなったんだ!」

無理矢理長を起こし聞くアレフ。誰もそれを止めようとしない。
シーラは未だ眠りの中だ。

「失敗だ。シーラに掛けられている呪詛は儂等の手におえんものじゃ」

気力を振り絞りそれだけを伝える長。
がその言葉は誰もが聞きたくない言葉だった。
長を離したアレフは足早に部屋を出ていこうとする。

「アレフ君!どこに行くの!」

ちょうど部屋と部屋の境目で振り向くことなくアレフは言った。

「カインの奴を連れてくる」
「だけどカインさんは・・・」
「しったこっちゃねぇ!!このままだとシーラが・・・」
「全くホント身勝手だな。お前は」

アレフの言葉を途中で切り部屋に響く神韻の楽器の如き声。
あらわれた。カインが。
部屋の中に雪の如く静かに。
その隣にリサを抱いて。

「お前何しに来たんだ!」
「助けに来たんだがね。一応」

嘲りの笑みを浮かべシーラに近づくカイン。
その後ろにリサが続く。
ざっと辺りを見回しカインは侮蔑の視線を長にぶつける。
最もぶつけられた相手は既に意識を手放している

「ふん。呪詛の種類も判別できないのか。夢魔の呪法にゾハルの香を焚いたところで
 無意味だ」

確かにカインの言うとおり部屋の中には香の煙が漂っている。
無造作にシーラの額に手を伸ばすカイン。
そして手が・・・頭に埋まっていく。
誰もがこの異常な状況に声を出せない。
手は手首の辺りまで埋まっている。それだというのに血が一滴も出ないとはどのよう
な魔技が可能とするのか?
手が引き抜かれる。
引き抜かれた手は何かを握っている。
それは球状をしたもの。おぞましい色をしながら輝く。

「これが悪夢の核だ。これがある限り悪夢は終わらない。
 ・・・リサいいな」
「ああ」

すうっとそれをリサの額に近づけていく。
リサはそれを目も閉じずに見届けている。

「ちょっと待て。何をする気だ!」

アレフが叫ぶ。

「この呪いを解く方法。何かを身代わりにすることだ」
「なっ!?おいリサお前正気か!」
「ああ正気さ。こうすればシーラは助かる。カインにはこの街からあたしの記憶は
 全て消してくれるように言ってある。シーラが悲しむことはみんなが悲しむことは
 ない。」
「冗談じゃねぇ!おいカイン俺が代わりになるから止めろ!」
「ちょっ!アレフ君!」
「うるせぇ!止めんなクリス!」
「生憎だが俺はリサと約束したんでなこいつ以外にやる気はない」

アレフの言葉を一蹴しリサの頭へ核を入れるカイン。
それは静かにリサの中へ入っていった。

「・・・これで終わりかい?」
「後は記憶を消すだけだ」
「そうかい」

そしてシーラの元へ歩み寄るカイン。
そんなカインにアレフが殴りかかった。

「てんめぇーーー」

ブンと風切り音を出しながらカインの頬を掠めるか掠めないかの微妙な所を
拳が抜けていく。
それを見ながらカインはアレフに向かって手を向けた。
ガハッと涎をまき散らしながらアレフが吹っ飛ばされる。
それだけで興味をなくすカインは先程と同じようにシーラの額に手をかざす。

「・・・記憶は消したぞ」

リサに向けて言うカイン。
そうかいと一言呟き目を閉じるリサ。

「夢魔の呪法はトラウマになるほどだからな」

それだけ呟き部屋から出ていこうとするカインをリサが呼び止める。

「なぁカイン。呪いはいつ頃から効き出すんだ?」

振り向かずカインは言った。

「もう発動している」
「はっ?」

惚けた顔で聞き返すリサに対しカインは意地の悪い笑みを浮かべ振り返った。

「呪を掛けた本人に送り返してやった」
「へっ?」
「お前に入れないで術者に入れた・・・そう言うことだ」
「いや、だけどあんた・・・」
「気が変わった。それだけだ」

そして硬質的な音を響かせ部屋を出ていくカイン。

「もしお前が核を入れるとき迷う素振りを見せたら気は変わらなかったがね」

それだけがリサも含め惚けた面々に届いたカインの言葉だった。




                 ******



 
その日の夜ジョートショップでは。

「今日は大変だったようね」

アリサが窓辺に座り本を読むカインに紅茶を差し出しながら言った。

「別に。大変じゃないさ。どっちかつうと苛ついたがね」

紅茶を受け取り啜るカイン。
ちなみにあの後すぐにシ−ラは目覚め自分がなぜここにいるのかを聞こうとしていた
が全員惚けていたためしばらく混乱していたと言うのが結末だった。

「おいアリサ!紅茶がぬるいぞ。昔から言ってるだろうが俺の紅茶はちゃんと
 熱さを計れって!つーかテディ何でお前も紅茶飲んでんだ!
 お前なんざ水で十分だ!」
「カインさん。酷いッス」

そう言い残しそそくさ逃げるテディ。
アリサは紅茶を入れ直す羽目になり厨房へ戻っている。
最もアリサ当人は嬉しそうにしていたが。
一人になったカインは窓辺に座りながら本より目をはずし窓の外を見る。
それぞれ家の中に明かりが灯り暖かい光景を作り上げている。
それを見ながらカインはただ微笑を浮かべていた。
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