中央改札 交響曲 感想 説明

Lunatic Emotion始音崩常
皐月


柔らかい日差しが窓辺より入り込むいつもと変わらないさくら亭。
そしていつもと変わらず店の隅の席を陣取り入り込む日差しをライト代わりにし本を読むカイン。
以前の出来事からカインに対する皆の評価は最低の物となっているがそれを全く気にしてないカインは
静かな表情で本を読んでいるのだった。
ただ過程はどうであれ結果としてはシーラを救ったためカイン自身を排斥しようとするようなことはないようだ。
既に昼食時は過ぎさくら亭の中に居るのはカインとパティとリサの三人ぐらいだ。
最もパティはランチの後かたづけのため厨房の奥へと行っているため実質的に
さくら亭の中にいる人間と言えばカインとリサと見ても良いだろう。
店の中に静かに紙が動く音が響く。
おそらくそれは平和な光景と呼べるものだろう。
がそういうものは得てして長くは続かないものだ特にこの街に魔法をこの上もなく至上とする少女が居る限りは・・・・・・。
それはちょうどカインが一冊本を読み終え新たな本に手を掛けた時に響いた。
カウベルの音、誰かの来訪を告げるもの。
入り口より大きく日差しが入り込みカウンター内の酒瓶が光を照り返す。
僅かな風に揺れる金髪が同様に光のグラデーションを作る。
さくら亭の中へ跳ねるように入ってきた少女はわき目もふらずカインの元へ向かった。

「カイーン!ねぇねぇマリアに魔法教えて!」

輝かんばかりの笑顔で言うマリア。
その後ろではリサが顔に手をやりため息をこぼしていた。
それを知ってか知らずか誰に対してもいやアリサだけは例外だがカインは本より
目を離さずただ一言呟くように言った。

「断る」

それは拒絶と言うよりは面倒なことをしたくないといった韻だ。
それを幼いながらに気づくのかマリアはなおも引き下がらない。

「ぶぅー。どうしてぇ良いじゃない減る物じゃないんだしぃ」

頬を膨らませ抗議する姿は誰もが笑みをこぼしそうな程に愛らしいがカインにしてみれば煩いのが来たその一言だった。

「教えて教えてぇ。マリアに魔法教えてよぉ」

最初の一言のみでそれ以降は沈黙を保つカイン。
それでもマリアは引き下がらない。
それにしてもカインにこのような口を利くのはエンフィールド中を探してもマリアくらいだ。
他の人間は恐れるかアレフやアルベルトみたいに敵意を込めるか等といったその二つ
のみではないが大抵そんな感情が向けられるのが常だった。
それを考えるとこのマリアという少女はかなり変わっていると言えるかも知れなかった。
まだ続くマリアのだだっ子。それを完璧なまでに無視し本を読み続けるカイン。
それを端から見ながらリサは妙に笑いがこみ上げてくるのを我慢していた。
不意にカインの手が止まる。
普段であればただ黙々と本を読み進め読み返すというような事をしなかったカインがだ。
それが今回は珍しく手を止め同じページを読み返している。
カインが笑った。それは陰湿な笑いではなく悪戯を思いついた子供のような笑みだったが
それを見ていたリサはカインと出会ってから今までの経緯を思い出し嫌な予感に身を震わせた。

「マリア。魔法を教えて欲しいと言ったな」
「教えてくれるの!!」

目を輝かせ言うマリア。
リサはそれを聞きながらああと天を仰いだ。

「止めときなよマリア。あんたが魔法を使うとろくな結果にならないんだから」
(ましてや今回はカインが絡むんだもう最上級でろくな結果にならないだろうね)

と最後の部分は言葉に出さず心の中だけで思うリサ。
だがマリアという少女にその言葉は逆効果だった。

「ぶぅー。そんなことないもん!今回はカインも手伝ってくれるんだし成功するもん」
(だから心配なんだよ!)

マリアの返事に心の中で絶叫するリサ。そんなリサを見ながらにやにやと笑っているカイン。

「そうだぞリサ。マリア自身がやる気なんだ。関係ない奴は黙っていろよ」

軽い口調で言うカインだがその目でよけいなことを言うと、とリサを牽制している。

「ったく、勝手にしな」

言うだけ無駄だと悟ったリサは被害が軽微で済むよう祈りながらグラスを磨き始めた。

「よしそれじゃあマリア始めるか」
「うん!」

おもむろにマリアの額に手をかざすカイン。
カインとマリアの体が淡い光を放ち始めた。

「っつくぅ・・・」

マリアが苦悶の表情を浮かべる。
そして光が消えた。




                ******




陽光が照らす中ざわめきつつ校庭を友人同士で歩く子供達。
エンフィールド学院。エンフィールドに唯一ある学校だ。
その規模はともかく質の高さは大国の学校に比べてもいささかの遜色もない。
そんな学校はいつもと変わらぬ登校風景を見せている。
のだが少し前よりそのいつもを壊す人間がエンフィールドにやってきた。
今まではこの学院に何らアクションは無かったのだがついにその日が来たのだった。
今までざわめいていた生徒達が不意に黙る。
誰もが一様に口をあんぐりと開け目の前の光景を信じられない目で見ている。
陽光を受け黄金の輝きを見せる流れるような髪。翡翠を思わせるような瞳。
耳にはその髪に映える意匠の施された二連の金のイヤリングが下がる。
その活発そうな服装は成りを潜め今は黒と紫を基調とした艶やかな服。
その服もまた意匠が施されている。
少女と大人の狭間にいる微妙な魅力を損なっているがそれにもましてその妖花の如き妖しさ。
それこそ国すら傾けかねない誰おも堕とすような妖しく危険な色香が漂う。
マリアだ。
普段の姿からは誰も想像できないような全てを堕落へと導くような悪魔の如き
色香を醸し出しながら校庭を静かに歩く。
その前にいる生徒達は誰もが御神渡りの如く左右に割れる。
その間を歩く。
静かにその一足すら妖しく。
その姿が校内に消えるても誰一人として動けるものは居なかった。
              



                 ******




教室内は沈黙に包まれている。
誰も言葉を出せる者はいない。
いつもと同じ席、窓辺の席で肘をつき外を見るマリア。
その物憂げな表情を見て思わず感嘆のため息をもらすクラスメイト。
誰もが時を忘れマリアのその表情に魅入っている。
その一つ一つのしぐさがどこまでも扇情的だ。
鐘が鳴り響き授業の始まりを知らせる。
そこでようやく気づき皆が教科書類を取り出す。
が、取り出し終えた後にまたマリアを見つめる。
声一つ聞こえることのない教室の中に響くのは僅かに荒げた息だけ。
誰もが男子も女子もその頬を赤く染め上げ妖しい瞳でマリアを見つづける。
風に流れるその髪の動き一つですら心を絡めとるように妖しい。
戸が開かれる。ガラガラとけたたましい音を立て。
教師が入ってきた。
年輩の女性、生徒たちにはその口やかましさからゴブリン婆さんなどと呼ばれている女教師だ。
普段は教室に入ってもどこまでも五月蝿い生徒たちが今日は声一つ立てていないためおかしく思ったが
教室に入り生徒たちが目を向けるその先のマリアを見てゴブリン婆さんも言葉を失った。
とは言うものの年のせいか生徒たちとは異なり頭を軽く振り正気を取り戻す。
が、それでもこの硬い教師が僅かとは言え我を忘れるほどにマリアに見惚れたのは確かだ。

「マリア・ショート!なんですか!その格好は」

できうる限りマリアを視界に入れないようにしながら注意を促す。
視界に入れないのはまたマリアを視界に入れた際に今度は我を失わずにすむかどうかの確証がないからだ。
凄絶な妖しさと呼べるだろう。
対してマリアは。
変わらず外を見つづけている。
風に流される金の髪。揺れ小さく鳴るイヤリングそれだけがマリアの答えなのかもしれない。
その今まで見たこともない絶対の拒絶とも呼べるそれを見てか流石の女教師もその一言のみで仕方なく授業をはじめた。
がそのような中で授業が進むことなど無く静か過ぎる時がただただ過ぎていった。
そしてチャイムが鳴り響く。
誰も動くことの無い教室だったがチャイムの音の後に沈黙の原因であるマリアが立ち上がった。
静かにいや足音一つ立てることなく教室出るマリア。
それを熱い瞳で見ながら見つづけるクラスメイトたち。
その姿が戸の向こうに消えてようやく時が動くようにちらほらと言葉が聞こえ始めたのだった。




                     ******




屋上へと出たマリアはただ一人その身に風を受けていた。
風が髪を流す。
しばらくそうしていただろうか、不意にマリアは手を顔に当て俯かせた。
小さく笑い声が聞こえてくる。手を当てた顔からくぐもった笑い声それは次第に大きさを増していき
あたりに響く。

「っくくくははははははは!」

子供の悪戯が成功したときに上げる笑い。それは無邪気な響きだ。

「っくくく。おいマリア見たか。あの連中の顔。傑作だぜ」

マリアがマリアに問い掛ける。この奇妙な問いかけは何を意味するのか?

《カイーン。もういいでしょ。マリアの体返してよう》

その問いかけに答えたのはマリアだった。
だがその声は誰も聞けるものがいなかった。
大気を震わすでもなく音ですらない。
あえて言うなれば心の声。
それが同じく心に響く。

「まぁ、まてもう少ししたら返してやるよ。・・・そう言えば次は次は魔法実技だったな」
《うん・・・》

そこで何か思案するカイン。僅かに思案したカインはにやりと笑みを浮かべた。

「よしいいぞ。しばらく体を返してやる」
《ほんと!》

喜ぶマリア。だがマリアは気づかなかった。カインはしばらくといったのだ。
これが何を意味するのかは実際はカイン自身にもわからなかった。
なんと言っても彼は面白そうだからといった理由でマリアの体を奪っているのだから・・・。

《マリアおまえ魔法実技全然駄目だろう》
「う、うん」

やはりあまり聞いて欲しくない事なのか言葉をどもらせ言うマリア。
カインは気にした風も無く言葉を続ける。

《次の魔法実技俺がサポートしてやる》
「ほぇ?カインが?」
《ああ。だからおまえは気にせず魔法を使え》
「うん!」

このような目に会っても今だカインを信じるのかマリア。喜びはしゃぐ。

《それじゃあ授業に行くぞ。っとその服何とかしないとな》

確かに今だにマリアの格好は先ほどの深い夜を思わせる服装だ。
先ほどまでのカインが主権であれば妖艶なそれこそ、その歳には早過ぎる妖艶さを持ったマリアであれば
似合っていたが今のマリアでは余りに相応しくない。
あの妖花を思わせるような存在。人の身で持てるものかといえるほどの凄絶な妖艶さ。
それはすでに先ほどのが嘘であったかのように消えうせている。

「けど、マリア服なんて持ってきてないよ」
《ちょっと待ってろ》

そしてマリアの服が輝き出す。
強くない光、輝き。
光が消えると何時ものマリアの服に戻っていた。

「すっごーい」
《良いから早く行けよ》

カインに言われ走り出すマリア。
マリアが実技演習所につくのとほぼ同時にチャイムが鳴り響いた。
 



                           ******




演習所についたマリアは真っ先にクラスメイトたちに囲まれた。
誰もが先ほどのマリアについて聞きたがっているのだ。
が、当のマリアはと言うと。

《マリア、黙っておけ。こう言うのは黙っていたほうが面白いんだ》

というカインの言葉でしどろもどろながらもクラスメイト達をなんとか騙し通せたのだった。
それにしてもカインに言われたとしても黙っているあたりマリアも存外楽しく思っているのかもしれない。
要領得ないマリアの言葉を怪しく思いながらも先ほどのマリアとは
あまりに違うためこれ以上は脈無しと判断してかクラスメイト達は散らばっていくのだった。
何より教師が来てしまったのだし。
演習所についた教師はまずマリアをみた。
職員室でマリアがおかしいと聞いたためにそれを確認しようと思っていたのだが今はカインのマリアではなく
マリア本人が出ているためおかしいなと首をかしげながらも授業へと移るのであった。

「よーしそれでは今日は先日言った様に攻撃魔法の練習を行う。
 何度も言っているが攻撃魔法に関わらず魔法と言うのは一歩間違えれば簡単に
 大惨事を引き起こすものだ各自注意して行うように。
 特にマリアおまえが一番危険だ」

教師の最後の言葉にあたりから失笑が漏れる。

「ぶぅー。マリアそんなに失敗して無いもん。それに今日は絶対大丈夫だもん!」
《俺がサポートするからねぇ》

カインが文字通り心の中でつぶやく。

「おまえ毎回そう言って失敗しているだろう。まあいいじゃあ一番はマリアだ。全員白線から十分離れろ。
 爆発に巻き込まれるぞ」

教師が言うよりもマリアが一番と聞いた時点で全員かなり離れている。
教師も離れる。

「使う魔法はルーン・バレットだ。よしはじめ!」

その言葉で大きく息を吸うマリア。

(カインお願いね)
《任せておけ》
「るーん・・・」

意識を集中するマリア。
その瞬間今まで感じたことの無い感覚が体を支配する。
それは体の奥深くより心の奥深くよりそれよりも深いところから涌き出てくるような感覚。
何よりも熱く何よりも暖かい。
そんな感覚だ。

これは自分の物だ。

マリアは体でなく心でなくそれを知り分かる。
それがもたらすものは・・・。

「おいなんだあれ!?」

生徒の一人が叫ぶ。
今マリアの周囲には幾つもの紅球が浮かぶ。
淡く輝く球体。それは確かにルーン・バレットの光。
だが数十にも及ぶこの数はあまりに異常だ。
球体が輝きを増す。
目標は15m程先にある薄汚れた的。
今までマリアはその的に当てれたことなど数えれるほどしかない。
何時も的に当てれず悔しい思いをしていた。次は当てると授業のたびに思っていた。
だが今は違う。この感覚にいつまでも浸っていたいそんな思いが湧き上がる。
今このときだけは何もかも忘れていた。
魂が燃え上がるような感覚。心に音が響く、神韻が。

「ばれっとぉー!!」

魔法が発動する。
数十いや数百にも達する数の紅球が放たれる。
それぞれが輝く軌跡を空間に残し翔ける。
美しい光景だろう。輝く軌跡が何よりも。
的に突き刺さる。そして弾ける。
最早その原型を一切留めていない的。
その中で今だ光の乱舞を続ける魔法の紅玉。
学園の一角で生まれた幻想的な光景に誰もが魅入られる。
そして光の乱舞が終わる。
しん、と静まり返る一同。
マリア自身ですらこの光景に言葉が出ない。

《おい、マリア。終わったぞ》

とこの中でカインのみが動けるのかマリアの中で言葉を発する。
その言葉でようやくマリアも気がつき教師に話し掛ける。

「ど、どうマリアの魔法の威力」
「あ、ああマリア合格だ・・・」

今だ呆けている教師。その返事もどこか遠いものだ。
その後も呆けている生徒達が授業を続けるが先ほどの影響が濃く残り幾人も失敗しながら
終業のベルが鳴り響いた。




                    ******




その後の授業でも一波瀾といわず幾つもの波瀾を起こしながらようやくすべての授業は終了したのだった。
学園を出たマリアいやすでにその体はまたカインへと奪われ朝のように妖艶な少女はその足で
周囲の目を集めつつさくら亭へと向かった。
カインがカウベルを鳴らしつつさくら亭へと入るとそこにはトリーシャが既に来ていた。
どうやらパティはこの分では居ないようだ。
なんと言っても僅かに騒ぎを起こせばすぐに怒鳴り込んでくるのだから。

「カインさん!いったい何してるの!」

トリーシャが開口一番に叫び出す。

「うん?トリーシャなんで知ってるんだ?」

確かにあの時さくら亭な中にいなかったトリーシャでは今のマリアがカインだと知る術は無いはずだが。

「リサさんに教えてもらったの」
「ああ、なるほど」

納得したのかそれ以上は何も言わずに何時もの席へと座るカイン。
それに続きトリーシャもその前へと座る。

「で、なんか聞きたいことでも?」

顔の前で手を組みトリーシャに問い掛けるカイン。
それだけだというのにトリーシャは思わず顔を赤らめ唾を飲み込んだ。
軽く首を振り妖しい感覚を振り払うトリーシャ。

「だから何でマリアの体の中にいるんだよ!」
「ああ、それはだなマリアが魔法を教えてくれと言ったからなそれを実践込みで教えただけだ」
「そんなことで・・・」
「別に体を使って何したというわけでもあるまい。気にする事でもないだろう」

飄々と言い放つカイン。
やはりこの若者はどこか違うようだ。

「それにマリアもまんざらではなかったようだが・・・」
「へ?そうなの」
《う、ちょっとはそうだったけどもう返してよう》
「マリアもそう言っている」

聞こえぬ声でつぶやくマリアの言葉の内容とは全く反対のこと言いつつそれを全く表情に出さないカイン。
経験の差というべきか。
それに騙されトリーシャもそれ以上は突っ込めず押し黙ってしまった。

「ま、いいかげん飽きてきたしなとりあえずマリアに返すとしますか」
《ほんと!!》

黙ったトリーシャを見て罪悪感でも湧く事など無いカインではあるが
ならば本当に飽きたのだろうとマリアに体の返却を告げる。
それを聞き相変わらず単純に喜ぶマリア。
そして一瞬マリアの体が輝く。

「・・・あれ?」
《どうしたのカイン?》
「いやなんか妙な気配が外に・・・」

その言葉を遮るように爆音が外から響いてきた。
        



                     ******




街中に爆音が響く少し前。
道を行き交う人々は先ほど見たマリアのことをネタにしながらさざめいていた。

「なぁさっきのマリアってさぁ実はマリアの双子の姉とかだったりして」
「ありえるな。どう見てもありゃマリアじゃないぞ」

などと取り留めないことを話ながら歩く住人たち。
彼らは普段と変わらない中に入り込んできた奇妙なことで盛り上がっていた。
それがすぐに崩れ去るものとは未来を知る術を持たない彼らには分からなかったのだろう。
不意に輝く彼らの頭上。
なんだ?と言う暇すらなく爆発は起きた。
その場に居た二人を木っ端微塵にしながら・・・。




                      ******




今だマリアの体を奪っているカインたちが外へ出るとそこはさながら阿鼻叫喚の地獄絵図のようだった。
少し前までは人だったもの欠片があたりに散らばり空気には強い血臭が漂っている。
さくら亭にもそれが付着している。
一緒に出てきたトリーシャその光景を見て気を失う。
確かにこの惨たらしい光景は人の死すら身近ではない少女にはきつ過ぎるものだろう。
そんなトリーシャを放ってカインは一歩踏み出す。
靴越しに柔らかい感触が広がるこの状況では間違いようも無く人の肉片だろう。
どのような手段を用いたのかなぜかカインの中のマリアはその心を閉ざされている。
最も閉ざされていなければこの光景を否が応でも見せられるのだからそれは至極当然かもしれない。
肉片と血溜りの中を歩くカイン。
この惨状の中誰もが先ほどまで悲鳴を上げていたというのにこのマリアの姿をした
少女が一歩踏み出す度に誰もが魅入られた。
この死が漂う中、深い夜の如き人を堕とすような妖絶さをもつ少女はそこに誰よりも相応しいと
言わんばかりにそこを進んでいった。
カインが爆発の起きた中心部つまり吹き飛んだ人間がいた場所にたどり着く。
全て周囲に吹き飛んだのか中心部で在りながらそこだけは汚れていなかった。

「・・・魔力による爆破。遠距離での発動でこの威力・・・無差別か強い魔力を持っているかのどちらかだな」

血臭が漂う中に何を見つけたのか虚空の一点を見つめ呟くカイン。
ざわりと感覚が何かをカインに告げる。
ばっ、と後ろを振り返るカイン。
こちらを見ている野次馬の中の誰かの頭上がまた先ほどのように輝き出す。
輝きの下にいるものはそれに気づかない。
今だマリアいやカインに魅入っている。
それを見ながらカインは右手を突き出した。
右手より放たれる光。
彼らの頭上の光へと向かう。
そしてその二つは高い音を出し合い消え去る。
呆気なく消え去る光ではあったがそれ以上に呆気に取られているのが見ていた人間だろう。
何せいきなりマリアが光を放ちそれが自分に向かってきたと思ったら
自分を超えいきなり自分の頭上で甲高い音が聞こえたのだから。

「・・・無差別と強い魔力の両方か」

すぅと目を細め呟くカイン。

「しかしなぜ?なぜこれだけの術者がこんな真似をする」

誰も聞くことの無い独白。
カインが防いだ以降に輝きは訪れない。
これを行った術者も無意味だと悟ったのかはたまたそれ以外に理由があるのか
それは分からないが唐突に起きた惨劇はこれまた同じように唐突に終わりを告げた。
遠くから聞こえてくるのは自警団の足音だろう。もう数十秒もすればここにたどり着く。
そんな中カインもまた答えの出ない問答を己のうちで繰り返しながら血溜りの中で佇んでいた。
謎を含んだエンフィールドの一日。
それはただ始まりを告げただけだったのだろう。
これから訪れる惨劇の始まりを・・・・・・。
中央改札 交響曲 感想 説明