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悠久幻想曲 ANOTHER STORY熾天使[HP]


悠久幻想曲


ANOTHER STORY


















第二章














〜ハジマリノトビラ〜



















深い闇。



















静寂の中。



















月の欠片さえも見えない雲の多い夜。










強い風と湿った空気が陰湿でさえあった。









暗い緑の積もった森も悲しみにざわめき、









葉の揺れはそこから逃げるかのようにたなびく。





























っいん









小さい、本当に極僅かな金属音。




注意しなければ森の泣き声にかき消されて届かないほど小さな音。




それは一つではない。




大量に連続して聞こえてくる。



深夜を湛える深淵の生命の中において、それは異質だった。



悲哀を植えつけるざわめきは、或いはそれが原因かもしれない。





























きい









少し、大きい音。









寒気すら覚える圧倒的な重量の中で起こった、逃れられぬ死への前奏曲。




その場に最も相応しくない、もしくはその場だからこそ必然なのか、














がっ!









争いの音。




光のない世界で、月の女神でさえ止められぬ人の過ち。














さしゅっ









絹を引き裂くような音。


漆黒が支配する世界の、枯れた命を敷き詰めた床が音もなく揺れる。









ありえない光を反射して、きらりと翻る物があった。


ある一点を中心として、綺麗に弧を描く。




何度も、何度も。




その度に異なる音が発せられる。


ある時は金属音。


またある時は、柔らかい物を切り裂く音。














光は、ひとりでに踊っているのか?














違う。









弧の中心。


そこに、





























一人の青年が立っていた。




黒い頭髪。


黒い瞳。


薄汚れた旅装束。


青く輝き、辺りを照らす剣。


美術品のように整った顔に苦悩を色濃く浮かべ、


それでもとまる事無く進む。


静かな、静かな死神。


全ての始まり。


止まっていた歯車。


結末を知る者。


終局を司る者。


『希望』



















ならば、


青年は何もないところでその死神の鎌を振るっているのか?




違う。


確かにそこに存在する。


黒い物。


人であり、人ならざる存在。


幾つもの影。


暗闇の中で、神に背く者。









世界中の沈黙を集めたこの場所で、




二つの存在は争っていた。




命をかけて。














なぜ?


それに答える者はない。


ただうごめく影達が、青年が振るう導きの扉をくぐり、死地へと赴くだけ。









一つ、また一つとその気配が失われていく。


それは後になにも残さず、自ら灰となり消えていった。




その場面は、およそ現実感という物がなかった。


華奢な青年がそれとなく振る蒼い閃光に巻き込まれ、


人を殺す事に関してのみ全てを奉げて来た影がその悲しい生涯を閉じて行く。


ただそれだけ。









舞っているような青年と、


光に群がる虫達のように、そして春を目前にした雪のように寄っては消える影。




見えるのは、青年が持つ剣の光のみ。




湿った空気も、この場所の雰囲気に比べれば可愛げのある物だ。














そして、数刻と経たず影は消えた。









無数に存在した影たちは、一人残らず消え去った。









風に流れなかった灰のみが、おびただしいまでにそこに寄り集まる。














動く物が他にいなくなっても、青年はまだ美しい顔を苦悩に歪めている。









それは、おそらく目の前に現れた存在に対する物に他ならなかった。





























青年と、同じ。


黒い頭髪。


黒い瞳。


薄汚れた旅装束。


赤く輝き、辺りをねめつける剣。


美術品のように整った顔に絶望を色濃く浮かべ、


それでも振りかえる事無く進む。


静かな、静かな死神。


全ての終わり。


動きつづける歯車。


結末に立つ者。


始動を司る者。


『闇』



















手に持つ剣の光は、禍禍しい赤色をしていた。









初めて、空間にはっきりと意思のある音が現れた。


「さすがだな」


赤い光が、ゆらりと動く。




青年に向けて、矢のように差し向けられた。














「俺はお前なのだから、解りきってはいた事だな」









青年が、口を開く。


寸分違わず、同じ声で。


「私は、貴方ですから。









…運命、という言葉は得意でしょう?」



















「そうだな」









悲しみと、後悔と、迷いは消せない。









その姿に、違うところがあった。


赤い光を持つ者は、その自分の光に照らされて見えた顔が明らかに黒ずんでいた。









赤い光が、再び下へと切っ先を戻す。



















「ならば、これも運命だとわかっているはずだ」



















「…」




ふっ


二色の正反対の光が消える。


ぎいいいいっ!!


一瞬の後、その光は違いに交差するように現れた。


「…ちっ!」
「…」


光は動く。


まるで申し合わせたように同じ動きを辿る。


それは常人には見る事すらかなわぬほどの速度。




あまりにも速過ぎる為か、周囲一帯に残像のように赤と蒼の光が乱れる。


それは黒い息吹を染め上げた。














ほんの少しの間合いで止まる光。









―赤き滅びの閃光よ―
―蒼き滅びの閃光よ―









そして、同時に口を突いて出た、流れるような言葉。









―闇の紋 光の欠片 星の宿命をその身に宿し―









一つにまとまる。




二人の前に現れる、赤と蒼の光の球。









―全てを否定し 全てを憎み 全ての消滅を願う神の御心と―
―聖と邪の狭間に生まれ 光を信じる全ての恵みの夢を以て―









再び、詩が分かれた。




光の球は心を写し取ったかの様に色を深めていく。




悲しみの蒼と、
否定の赤。









―揺れる魂の混沌たる所以 古と今と未来を駆ける過ちと死への道標―
―全ての罪と翳りを 汚れ無き許されざる者達より救いの泉へと導き―




優しさで見つめ続ける蒼と、
自分を肯定し続ける赤。









―その夢限たる全てを―
―その扉たる心と魂を―




全てを包みこむ蒼と、
助け無しに立つ事を望む赤。









―大いなる―









再びつむがれる、同じ詩。









―『力』と成せ―




刹那の間。


爆発的な光がその場を中心に無限の広がりを見せた。
せめぎあう様に混ざらない赤と蒼。


圧倒的な重量の闇が、無限に引き裂かれる。




人の世にはありえぬ、強すぎる力。









木々の間を通りぬけ、力の象徴が波となる。


取り囲むうように発せられた幾条もの光の帯が、
爆風となりその全てを彼方へと吹き飛ばそうとする。


嵐などよりも数倍強い光は、




しかしそれ以上なにかに影響を与える事は無かった。




ただ寸前と同じく風に揺られる木々。














ほんの、一瞬だけ。









その光が消え去る本当に極僅かな間。





























赤が、全てを飲みこんだ。





























ざっ…





「…お前は、俺だ。…分かっていたはずだぞ」




声が、聞こえた。


無限が残した強烈な残滓を残らず恐怖で揺らめかせながら。




何事も無かったように泣き声をあげる黒い世界に、
初めて足音を残し赤い光が消えかけた蒼に歩み寄る。




「自分すら信じられぬ者が、そんな力を使えるものか…」




赤が、青年の喉につきつけられた。




青年は、身じろぎ一つしない。気を失っているのか。動く気が起きないのか。




「その苦しみ…。お前は、優しすぎた…」




赤い光が、ゆっくりと遠ざかる。



















踏みつける葉の音と重なって。


「とどめを、ささないのですか?」

青年の声は、穏やかだった。


心の苦悩は取り払われていないが、それでも落ち着いていた。









「俺は…」
「私です」




そこで、初めて笑いが漏れた。


それは敗者たる青年のものか、それとももう一人の勝者たる青年のものか。









「また、会うだろう」
「いつか…」


黒い世界で、


この場所で、


心が見えるのは、この二人だけ。














青年が立ちあがるのと同時に、


もう一つの気配は消えた。









何事も無かったかのように歩こうとした青年は、その身に受けた衝撃のせいで再び地面に崩れ落ちる。


驚いたようにじぶんの足元を見つめ。


「…ふぅっ」


あきらめたように苦笑った。









少し前に見た事が幻でなければ多少歩いた所に街があったはずだ。


目的の街。




名前はたしか…









そう、














エンフィールド。















今、こんな所で死ぬつもりは毛頭ない。


約束が、守れなくなるから。




体を引きずるように歩きつづけた。


汚れた体が更に土にまみれていく。


ほんの数十メートルの距離が、今は果てしなく遠く感じられた。


黒い月に照らされて、黒い海を泳いでいるようだった。


気力だけで保った意識で、どうにか人工物に背中を預ける。


傷は歩いている間に癒えたが、失血は回復しない。


たどり着いた所はどうやら門のようだった。


堅く閉じられて誰もいないところを見ると、正門ではなさそうだ。




ずるずると体が滑り落ちる。


体力的にもこれ以上歩けそうもない。


人がいないのは幸いだった。


この程度なら一晩休めば完全に回復するだろう。


ここは純粋な大地の気が強い。




申し訳程度に晴れた雲の隙間からのぞく深淵の月を見つめ、





























そして意識が闇に塗り変わった。





























−−−後書き−−−




こんばんは。セラフです。


いかがでしたでしょうか?
今回は導入部その2と言うことで…。

しかし前回よりは遥かにこれからに近い導入です。


分からない事しかないと思います。

でも、すらっと読み飛ばせないほどではないのであまり混乱はしないかと。




ちょこっとだけ蛇足を…。


実際の所、二人の関係については大体の人が予想したとおりであると思います。

しかし、二人の台詞とそれぞれに与えられた物を見てみると、色々と矛盾が生じます。

まぁ、それはこれから書いて行くとして…。



出番のかなり薄い『影』達について…。

暗殺者、とほぼ同意語です。(もちろん造語ですが)

彼らは…尖兵といったところでしょうか?

消え方とを鑑みれば正体の想像はつくでしょう。



あ、ちなみに…。

ねたばれしてどうするんだと言う心配は全くご無用。

はっきりいって、ここに書くようなことは作者自信が操作ででている物であって、
大した物ではないのですから…。

むしろ、あまりにも大した事でなさ過ぎるので忘れ去る人も多いでしょうから。
まぁそれでは寂しいかな、と。




では、次回また…。


私が描くもう一つの、或いは違った概念を持つ、

「悠久幻想曲」の世界でおあいいたしましょう…。


感想、一言でも良いので(と言うより一言のほうがいいかも)くれるとありがたいです。
お暇な方は是非…。
seraphim@sohgoh.net
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