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悠久幻想曲 ANOTHER STORY
熾天使


悠久幻想曲


ANOTHER STORY


















第三章














〜アヤマチノソラ〜



















藍色の風。







悪夢の記憶。







凍りついた時。







まるで…。







焼きついたように離れない光景。







立ちすくむ人影。







泣き崩れる人影。







二度と笑わなくなった。







二度と動かなかった。







その綺麗な瞳を開く事なく、







清んだ声を発する事なく、







眠るように…、







今までの苦しみが嘘のように、







静かに、静かに…。




















そして、動き出すのはとある青年の物語。




















ぎんっ!



さわやかに広がる春の空と風の下で、毎日の恒例となった『剣戟』の音が響き渡る。

エンフィールドの自警団第一部隊隊長、『英雄』リカルド・フォスターと、
同じく第三部隊隊長、『剣皇』ヴェイユ・レンダースの一騎打ち…もとい、訓練である。

ほぼ毎日のように続けられるこの二人の訓練は、今はちょっとした名物にすらなっている。
二人とも尋常ではない剣の使い手であるのだ。

訓練しなければならないはずのほかの団員も、最近ではこれを見学する事が多くなっている。
達人の技を見て学ぶと言う名目の下、大武道会にも匹敵するほどの試合が見れるのだから、これを逃す手はない。

最近では部外者の見物人まで来る始末で、当人達はあまり快く思っていないようだが。

ただ、巷で噂されているようにリカルドは後継を作るつもりではないらしく、ただ純粋に剣士の血が騒ぐといったところか。



がぐっ!!

「つっ!」
「ちぃ!」

静まり返った場で、高く響くのは互いの音のみ。

切りこまれれば受けとめ、切り払えば流される。
踏み込みはフェイントで相殺され、一瞬でも隙を見せれば忽ち劣勢に持っていかれる。
特に真っ向からの切り結びは凄まじく、剣にしてある鉄の被せものが砕け散る事も珍しくないほど。

剣舞、と称しても良いかもしれない。まるで何か申し合わせでもしたかのように一度も攻撃が入らない入れさせない。



二人が通常より少し広い間合いで止まる。
一呼吸、二呼吸。
見物している団員の鎧が、ちゃり、と小さい音を立てた。
刹那、二人がすべるように動く。
剣皇は上から断ち切るように、英雄は真横から切り裂くように。
最後の踏み込みをしようとした瞬間、剣皇の姿が掻き消えた。
限界まで体制を低くし、持ち上げていた剣もいつのまにか地を這う様に滑らされている。
英雄は幾らの逡巡も見せず、そのまま剣を横に振るう。ただし、その体は少し横に流れていた。

二人の動きがぴたりと止まる。



「また、引き分けですね」
ヴェイユは自分の肩口に当てられたリカルドの剣とリカルドの胴の前で止められた自分の剣を交互に見、嘆息した。

稽古用の剣なので刃に被せ物がしてあるが、それでも本気で当てられたら相当痛い。
二人ほどの実力者でもなければ、とてもではないが今のように本気で打ち合う事などできないだろう。

今の攻防だけでなく、それ以前に既に二時間近く打ち合っていてもなお二人の動きは乱れる事はなかった。

リカルドは、すでに齢五十を超え、もうすぐ後半に届こうかと言う年齢だが、その体力や運動能力は全く衰える事を知らない。
その堂々とした姿はまさしく『英雄』と呼ばれるに相応しいものだった。
対してヴェイユは、幼い頃…七歳くらいから傭兵として鍛えられた戦闘のプロである。
どうやら生まれて数年の時点で親が売ったらしい。

なんの理由があったのか多く語ろうとしないが、傭兵を辞めこの街に流れ着いた時、
まだ生きていた元第三部隊隊長、ノイマンとの出会いによって自らも自警団の中に身を置いた。
最初反撥こそあったものの、その傭兵とは思えぬ性格と、なによりも献身的な活動により、今ではもう街の一員として完全になじんでいた。

第三部隊は、ノイマンが死去した際廃隊の危機に追いこまれた事もあったのだが、
ヴェイユと仲間達の活動により、地下組織『物言わぬ柱』の活動の暴露というおまけつきで乗り越えている。

もう二十歳であるのに、青銀の髪と瞳の童顔に、多少低い身長とどう見ても十六程度にしか見えないヴェイユと、
いくら体躯が良いとは言っても流石に外見の老化を抑えきれないリカルドの、
一見して戦闘に似合わないこの二人が今自警団の中では、いや近隣の数多の英雄の中でも一、二を争っていた。

近隣のみならず遠方にも名は広まり、『双璧』として子の二人は有名だった。

それだけに今の対戦中、周りの大人数の自警団員達の中で、今の二人の動きを目で追えた者は一握りだ。
でもそこまでである。
何があったのかを理解する事など到底無理な速度であった。

ちょうどその時。

「隊長!」
訓練場の扉が勢い良く開き、熱気が外へ逃げていく。
長身の青年、アルベルトが勢いよく駆け込んできた。

団員の視線を一手に集めているが、本人は気にした様子も無い。
というより、気付いていないだけなのだろうが。

「どうした、アル?」
リカルドが剣をしまいながら尋ねる。
「マリアかヘキサがまたなんかやらかしたか?」
ヴェイユからかうように言うが、そのトラブル数もマリアの物は減ってきている。
「残念ながら違うな。…ジョートショップのごく潰…いえ、ラディのやつが、行き倒れを拾ったんです」

前半はヴェイユに、後半はリカルドに向けての言葉だ。
隊長職のヴェイユに乱雑な言葉使いをするのは、彼がリカルドにのみ忠誠を誓っているのと、
第三部隊危機時において協力者だった為友情意識が強いからだろう。

「ラディさんが?」
先ほどこの二人が一、ニを争うと書いたが、それはもしかしたら間違いかもしれない。
ジョートショップに住み込みで四年程働いている流れ者の青年は、今まで一度も他人に本気というものを見せた事が無いのだ。
もちろん戦闘せざるを得ない依頼もジョートショップには来るので、そういうときは戦いもするが、
それも本気を出した様子は全く見うけられず、さくさくと片付けてしまう。
そういう戦い方をする人だという可能性もある訳だが、この街の実力者達の総評は『只者で無い』で統一されている。

「ああ。あの馬鹿野郎、またなんか厄介事でも持ちこむんじゃねぇか…?」

自分一人で旅に一年ばかり出ていたラディは、アルベルトに出会った頃より目の仇にされている。
流れついた当初から一つ屋根の下に住んでいるうえに、アリサを形式上とはいえ見捨てて旅に何ぞ出たのだから、それもしょうがないのかもしれないが、
最近ラディが旅から帰って来てこのかた延々と悪口を言いつづけているアルベルトの根性というか執念というかもすごい気がする。

旅に出ていた大きな理由が実はそのアリサの先天的に悪い目の病気の為であると知っても、それは収まる事を知らなかった。

ライバル視しているのはアルベルトが一方的で、ラディのほうはそれをからかって遊んでいるだけという状況も面白くないのだろう。

「アル、彼はそんな人間ではない」
「は、す、すいません隊長」

面白くない理由その二がこれだ。
リカルドがラディのことを高く評価しているのだ。
アルベルトにはその理由をあまり認めたくないし、だから余計に面白くない。

けれど何だかんだいっても結局の所喧嘩するほど…の典型例にしか見えないのだが。

「しかし、行き倒れか…」
「ラディさんや俺を彷彿とさせるな…」

実は二人とも行き倒れなのだ。

「とりあえず、この街にいるにしろ、身元等確認しておかなければいけないかと思いまして」

犯罪者や特別怪しい者を除いて、この街ではそう言った事は自警団の中でも上の人間がやる。
下の人間がやっても聴取側はなんの問題も無いのだが、相手が気にする場合もあるからだ。

「わかった。…ヴェイユ君、アル、後は頼むよ」
『はい』

二人同じに返事をしたのを確認し、リカルドは早足に出ていった。
後に残った二人は自らの役目を全うすべく、既に稽古を再開している団員達の中に混じっていった。






























「気がつかいないですね〜、先生…」
「ディアーナ、怪我人の頬をつつくのは止めろ」

清潔な寝台で横になっている青年の頬を心配そうにつつく緑の髪に眼鏡をかけた少女と、それを呆れるようにたしなめる整った顔立ちの男。
クラウド医院の医者トーヤ・クラウドとその押しかけ弟子、ディアーナ・レイニーだ。
本当はもう二人弟子らしき者がいるのだが、今その姿は見えない。

病室の中で遽しく色々と作業をしているドクターと、暇そうに腰掛けているディアーナ。
本来なら立場が逆なはずなのだが、何しろディアーナは一日三回はなにもないところで転ぶようなどじをやらかす為、
安心して任せられる事と言えば接客(?)くらいなものだった。

「…」
横たわっている青年の顔は発見された当初、血と泥で酷い事になっていた。
その汚れを落として今は美しい整いすぎた顔に戻っている。



とにかく怪しい青年だった。

目覚めていないのでなんとも言えないが、薄汚れた旅装束から大量に出てきた用途不明の物や、読めない字が書かれた本や紙切れ。
大陸中のありとあらゆる場所が記された手形と地図。
禁忌指定されているような魔水晶や魔導石、護符や呪符の類。
ドクターも以前本で読んだ事があるだけのものも数多くあった。
そしてどんなに力を入れても開けない小さな袋と、どんなに力を入れても抜けない質素な剣。
ドクターに患者の者を盗み見る趣味は無いが、その命が失われてもおかしくないような明らかに新しい怪我の跡や、
(やはりにている…)
どう考えても自分の知っている顔をしている青年に興味がわいたのは確かである。

荷物はディアーナが見る前にさっさとしまった。
この少女はそう言う事に関してかなり軽い考えしか持たない傾向があるので、無闇に関わらせる事は避けた。

「う…」
(似ている…?そんな程度のものか!似過ぎている!いや、本人以外に考えられん!)
ドクターの瞳が、ゆっくりと閉じられた。
(彼…だというのか…?)

「…こ、こは…」

青年の発した小さな声に、考えに耽っていたドクターは気付くのが半瞬遅れた。

「先生!気がついたみたいですよ!」
ドクターは無造作に寝台まで近付き、眼を開いたばかりの焦点の合わない瞳の前に立ち、覗きこむようにして様子をうかがう。
それはクールな彼にしては珍しく、心配が外に出た仕草だ。

目を覚ました青年は暫くぼんやりと天井を見つめ、そして傍らの人影に気がついてゆっくりと瞬きをする。

それは多少まだ夢の世界にいるかのように実体のない物だった。

「大丈夫か?話せるなら自分の事を言ってみてくれ。なんで怪我の跡だらけで門の前に転がっていたのか…。いや、何故ここに来たのか…」




















それが、この街で、エンフィールドで…










長く、想像もしないほど永くとどまる事になるこの街で










青年が最初に発した言葉だった。










それは近くにいたドクターにしか聞こえず、



そのたった一言だけで、





数多の死を見守ってきたこの医者が寒気すら感じた。




























「…運命に、死を…」



























…。




























ソレハ、トアルセイネンノモノガタリ…。




























−−−後書き−−−




こんにちは、セラフです。


冒頭にも書きましたが、いまいち話の区切りがつかめてません。

この随分先まで書き溜めてあるので、本人としてはこれでいいと思っても、
他の人から見ればなんでこんな所で…という所かもしれません。
あまり無理をしすぎてとっつきにくくなるのも困るのですが…。

精進が必要ですかね。



これも先に述べましたが、
一話ごとに何か区切りが明確にあるわけではありません。
サブタイトルは主に先頭部分の詩的伏線による物ですし、それを何処につけても本当はかまわない訳です。
ですから、あまり一話ごとに区切ろうとすると(読み手が)無理が生じます。

なるべく早く書くようにしますので、
できれば流すように読んでください。
あ、今回はこんな風に話が進んだんだな…という感じが望ましいです。
(↑具体的に突っ込まれると何も返せないのですが)


では、次回また…。


私が描くもう一つの、或いは違った概念を持つ、

「悠久幻想曲」の世界でおあいいたしましょう…。


感想、一言でも良いのでくれるとありがたいです。
私自身、慣れない大学生活でいまいち時間が取れずに感想かいてませんけど(大汗)
お暇な方は是非…。
seraphim@sohgoh.net



では、今回の蛇足行きます。
この先は設定資料です。
見なくても別に良いやという人は見ないでください。
見ないと特に話がわからなくなる訳ではありません。


魔導石…鉱山などから発見される天然鉱物。
    術者の消費する魔力を肩代わりし、精神的な疲労を抑える事ができる。
    一度消費された魔力は時間をかけて元に戻る。
    その色や大きさなどで価値や能力が決まる。

魔水晶…人工水晶。
    上記よりも限定された魔力を持つ。
    しかし、その能力の拡大性や汎用性は上記とは比べ物にならない。
    この水晶は珪素からできているのではないので、鉱物的な性質は持たない。

手形……通行手形です。
    ゲーム中言及されてはいませんが、他の場所には国もあると私は考えていますので。
    当然関所なども存在するという仮定です。


時代設定は、アンサンブル後少しです。
1st主=ラディ 2nd主=ヴェイユ
カップリングは、今のところ未定です。

なんで「私的〜」と違って主人公がいるのかというと、
なるべく設定までオリジナルのキャラは出さないほうが混乱しにくいのと、
その状況で仲間を増やす為です。
それと、完成された日常を含める事で、前回のお話のような夢も希望もない設定を
夢の欠片くらいはあるようにするためです。
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