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悠久幻想曲 ANOTHER STORY
熾天使[HP]


悠久幻想曲


ANOTHER STORY


















第四章














〜ツムギイト〜



















近く纏うは紬糸







遠く歩むも紬糸







紡いだ糸を辿りつけ







指先手先に柔らかく







望まざるともなお堅く







もがき絡まり締めつける







時を紡いだ過去の糸







罪を繋いだ過去の糸







一人の男を絡めとり







悲壮な宿命を願うのか







過酷な未来を鎖すのか







どちらに伸びるか紬糸







希望に伸びるか紬糸







破滅に伸びるか紬糸







紡いだ網のその中に







一人の男を絡めとり







苦しむ様を嘲笑うのか…






































「ラディ〜!」
「おはようございま〜っす!」

朝早くのジョートショップはこれでも人の流れがあったりする。
入って来たのはトリーシャとマリア。
トレードマークの黄色いリボンは珍しくトリーシャの頭を飾っていない。
高めで結ってあるポニーテールが少し新鮮な感じだ。
マリアは言うに及ばずいつものとおりである。
今日は学校は休みなのだった。

最近ラディは毎週この時間、この二人の日曜学校に費やしている。
なぜそんなことになったかといえば、
成人が着々と近づくにもかかわらずまったく変わらない(魔法のトラブルではなく)マリアに業を煮やしたドクター他多数が、
共通の知人であったラディに無理やり世話を押し付けたのが始まりである。
やがてもとよりラディにいろいろと教わっていたトリーシャが加わり、
そのトリーシャが原因で息抜きが多くなり…。


最後は息抜きがメインになってしまったというわけである。


マリアは相変わらずだが、クラウド医院での勉強も時間があるときはちゃんとこなしているし、
大きな魔法を欲しがるのは何時もの事だがそれも無茶は言わなくなってきている。
成長には個人差があるのは当然だが、マリアの場合、とことん大人になるのが遅いタイプのようだ。


「お〜っす」
二階から今目覚めましたと言わんばかりに気だるそうに降りてくる青年が一人。

彼がラディである。

茶色の髪を後ろに無造作に束ね、それなりに整った顔立ちを隠すように前髪をたらしている。
百年の恋も一発で冷めるような顔…なはずなのだが、
不思議と不自然さを感じさせず、ある種カリスマのような物は失われていない。


ラディが上から降りてくるのと同時に、物音を聞き付けて台所からアリサが顔を覗かせた。
アリサは焦点の多少合わない目を少し細めて、邪気の無い子供のような笑顔で笑った。
「あら、マリアちゃん、トリーシャちゃん。今日もご苦労様」
日曜学校、とはいっても殆ど遊んでいるのと同じような物なのだからご苦労様も何も無いのだが、
それを知っていてもアリサは気にした様子はない。
ちょっとばつが悪そうに視線を交わす。
そのまま一言二言挨拶を済ませると、三人は連れ立って外へ出ていった。

アリサはそれを見送ると、後ろでまだ少し寝ぼけ眼のテディに振り返った。
「ラディ君が拾ったっていう人…大丈夫かしらね…?」
先日門の前で行き倒れていた人物のことだろう。
今その人物は、クラウド医院で治療を受けているはずだ。
気絶したまま目を覚まさなかったと聞いているが、怪我はたいしたことも無いらしい。
「目を覚まさないって聞いたけど」
ふと思い出したようには聞いていたが、それはどこか空々しさをも感じさせる口調だった。
半分寝ているテディには気づくすべは無かったが。
「え〜っと、何とかという名前の人っスね」
まったく答えになってはいないのだが、アリサもまたそれを気にしている余裕は無いらしい。
「大丈夫じゃないっスか?本当に危なかったらラディさんが見に行くと思うっス」
「そうね…」
どちらかといえば、それは無理矢理納得した口調であった。
テディには気付かれぬようにそっとため息をつく。
それは先程と多少違い、心配と、そしてもう一つ別の不安と緊張が混ざっていた…。
(まさか…、と否定できそうにもないわね…)



窓の外を何気なく見つめる。


そこは、何の心配も要らないような青空だった。






























…そう。






























そのときまでは。















(…あなた…。私、やっぱり…)

























「ラディ〜、今日はどうする?」
「あ〜、そうだなぁ」

三人は連れ立って歩きつつ、いつもの様に騒々しく歩いていた。

「たまにはまじめに勉強してみる?」
「お前らに教えたってどうせ右から左じゃねぇか」
トリーシャの一見まじめそうな言葉に軽口でかえすラディ。
舌を出してやられたという表情をしているあたり、あながち間違ってもいないのだろう。
「マリア、魔法の勉強ならいいよ!」
「お前はこの前教えてやった穴掘りが出来るようになるまでだめだ」

一応、まじめに勉強するときもあるらしい。
しかし、二人とも自分の好みの勉強以外はそれこそ右から左なので、結局のところ雑学と魔法学に終始する。

「え〜〜!だって、あれ地味なんだもん」
「あほかお前は。派手な魔法だけ覚えてどうするんだよ。
そういうやつに限って基礎がなっちゃいねぇんだから」
「ぶ〜〜」
マリアは膨れて見せるが、一向に取り合わないラディ。
「ラディさん、ボクには?」

トリーシャも魔法学校の生徒である。
成績が中の上な人間としては、せめて後一ランクを望むのも自然なことだろう。

「トリーシャは優秀だからな。教えてもいいんだが、結局こいつに時間とられるの目に見えてるんだよ」
先程と正反対のことを言いながらにっこり微笑む。
優秀に微妙に力が入っているあたり、心底そう思っているとは考えにくいのだが。

「ぶ〜〜〜〜〜!!」
さらにむくれるマリア。

実際、トリーシャは飽き易いが根性が無いわけではないので、基礎的な練習もきっちりこなす。

個人的な相性もあるのだろうが、魔法においてありがちな飛躍的上昇を望む教育において、
基礎を大切にするラディのような人間にもついていけている。

よって、トリーシャはあまりにも上位の魔法は使えないが、
下級から中級魔法の使い方は下手な教師よりも上になっていた。

「あ、そうだよラディさん!!この前、ルーンバレットがやっと25個だせるようになったんだよ!」

…訂正するところがひとつあった。
どうやら、すでに並みの魔術師など比較にならない実力があるらしい。

「お〜〜っ、えらいえらい」
にこやかに笑って(さり気にマリアへの皮肉もあるのだが)トリーシャの髪を柔らかくなでる。
「ふふふ〜〜」
ほにゃらとした顔になるトリーシャ。
「あ〜〜、いいなぁ」
マリアはうらやましそうだ。
何だかんだいって、結構人気があるのである。
「んじゃ、次は新しい魔法でも覚えてみるか」
「ボクかわいいのがいい、かわいい魔法!」
「ぶ〜〜っ、マリアにも教えなさいよぉ!!」
とたんに騒ぎ出す二人。
「あ〜〜、分かったからいっぺんにしゃべるな!鬱陶しさがステレオになる!」
「わ〜〜い!」
ぴょんと両サイドからラディに飛びつく。

年頃の女性(一応)に抱きつかれるのはさすがに恥ずかしいらしく(周りの男の視線がいたいというのもあるが)、
ごまかして大声を出しつつ、飛びついてきた二人を引き剥がす。

「っかし、トリーシャ。かわいい魔法って、たとえばどんなやつだ?」
心当たりが無いのか、心底困った顔をする。
「ふふふ、まぁ、冗談だけどね」
にこりと微笑むトリーシャ。

どうやらラディの困った顔を見たかっただけのようだ。
何もいえずに頭をかく。




その後もどこへ行くかと議論しつつ結局馴染みのさくら亭にたどり着いた一行だった。










からんからん

「を?音が変わったな」
さくら亭の入り口に入るなりちょっとした異変に気づくラディ。

「分かる?前の壊れちゃったのよ」
もはや気配で分かるのか、いらっしゃいませの「い」の字もなしにそれを迎えるパティ。

喧嘩ばかりの昔を通り過ぎてみれば、かなりの似たもの同志に見える。


かって知ったるという感じで三人が席に着くと、こちらも心得たように飲み物を出す。
「んじゃ、ま、迷惑にならない程度にごゆっくり」
「はいはい」
おざなりな営業台詞に適当な返事。
これで下手なおしゃべりよりコミュニケーションが取れているのだから世の中は分からないものだ。

「あ、ねぇ」
さくっと厨房に行こうとしたパティを、トリーシャが止める。
「フレースさんは?」
ラディは一瞬ぎくっとした顔をし、パティのほうに一生懸命目配せをする。
しかしそれに気がつかないパティは辺りを見一瞬首をかしげて、すぐにあぁ、と納得した。
「今日はシェリルが来たからって、部屋にいるわよ」
「む!」
とたんにトリーシャの目が発射間際の波動砲よろしくいきなり輝きだす。
「おいこらパティ…!」
「あ…!」
今度は声を出したラディの注意に、しまったと表情をゆがめる。
「…っちゃ〜〜〜」
「ったく。…あ、もういねぇ!」
見ると、トリーシャはすでにその場にいなかった。
「あぁあ、やっちゃったね、パティ」
マリアが二人とは逆に面白そうに言う。


そのフレースという人物は、現在さくら亭にて住み込みの従業員をやっている。

記憶をなくし放浪していたのが、パティや親父さんの好意でここにすみついた。

二十歳をちょっと過ぎたくらいの好青年で、記憶が無い事を気にしてか他人より一歩下がる事が多い。
黒髪黒目に白い肌と、華奢な外見に似合わず体力はあるようで、
隣町まで走って一時間で帰ってくるというようなことをよくやらかしてくれる。

剣もある程度使えるようだが、本人は余り持ちたがらない。
今の自分の名前を決めたのが、その持ち合わせていた剣に記されていた
『FRETH・H』
というものから来ていることが、多少複雑なのかもしれない。


最近ずいぶんと明るくなったのは好きな人でも出来たのではないかとローラとトリーシャがよく話している。

ちなみに、当人に対してそれを問い詰めるのが、二人にとっては一種の娯楽のようなものなのだ。

相手だと思われているのが当然そのシェリルなわけで、
人一倍そういった話題に恥ずかしがりなフレースに気の毒だと、
なるべくトリーシャなんかを遠ざけるようにしていたのだが…。



いや、少なくとも回りはラディとパティの行動をそう思っていた。



それを気にするにはあまりにも暗い表情でパティが口を開く。
何かを我慢するように、あるいは背負った荷物の重さに顔をしかめるように。

瞬間的に重くなった空気に、マリアは何も口を挟めない。

ただ、それがトリーシャやローラ、それに自身が考えるよりはるかに重い意味があることだけは分かった。





「ラディ、悪いんだけど…」





「わぁってる。…あいつには今は無理をさせるわけにはいかないからな…」





「そう…よね。ねぇ、ラディ…」

自嘲気味に首を振り、いつに無い優しい仕草でパティの口に指先でそっと触れる。

「いうなよ。俺もわかってる。

…でも、それはあいつが裁く問題だろ。
たとえどんなに傷が深くなろうとも、あいつがやらなきゃいけないことだ」





「うん、そうだね」










一瞬の、沈黙。










「ねぇ…」


たまりかねたのか、どこと無く遠慮気味にマリアが口を挟む。
はっとしたように二人は今の空気を取り繕った。
「さ、さて!じゃ、頼んだわよラディ!トリーシャがあの二人を見たら、あること無いこと言いふらすからね」
「あぁ、そうだな。…マリア、悪いんだけどちょっとまっててくれな」
「う、うん…」
重い空気は吹き飛んだ。
しかし、二人にある黒い影が見えないほどマリアはもう子供ではなかった。
そして、それに対して自分から何か出来るほど、大人でもなかった。
(何でだろう。…なんか、もあ〜っとする)













少し時間をさかのぼる。












とん…とん…。



控えめなノックの音。
「フレースさん、居ますか??」

尋ねてきたシェリルの声を聞いて、
自分の机に向かっていたフレースは微笑みながら顔を其方へ向けた。
「どうぞ」

がちゃ。

そう招くと同時に扉が開く。

「やぁ、こんにちは」
にっこりと何処か儚い笑顔をみて、シェリルの顔が自然と綻ぶ。

記憶を失った悲壮感は今はもう消えている。

やわらかな微笑みが印象的な青年だ。



フレースは弾き語りが非常に上手かった。
何処で習ってきたのか、楽器を持つと自然と旋律が生まれ出てくる。
普通の歌も、彼が歌うとまるで別物になる。
どんなにありふれた話でも、決して飽きさせる事は無かった。

同じ物語を扱う者として、シェリルはその詩に完全にはまってしまったのだ。
一週間に一度くらい、こうしてその本職の吟遊詩人にも負けない詩を聞きに来る。


「今日は、ちょっと自分で歌を作ってみたんですけど、聞きます?」
「はい!」
元気過ぎるくらいに返事をする。
フレースはまた微笑むと、傍らの楽器に手を伸ばす。



リュート。



だれかから譲り受けた物だろう。
彼の年齢よりも年季が入ってはいたが、
下手な新品よりも遥かに丈夫そうで、そして立派な物だった。
二三度弦を爪弾いて音を確認すると、一つ前置きしてゆっくりと謡い始めた。


柔らかな旋律が二人を包む。
途中、ごん、という鈍い音もしたりしたが…。

























しかし、























シェリルは、


そして本人も気が付かなかった。




















その顔に、
若干の罪悪感が混ざっている事を。




















そしてそれが、






























目の前の少女に親しみを感じるたびに大きくなっている事に…。


































−−−後書き−−−




こんにちは、セラフです。

久方ぶりです(をい)
スランプは脱出してませんが、とにかく書いてみることにしました。

ちなみに、前回あたり行っていた書き溜めてあるのはすでに消えております(^^;


さて、今回のお話ですが。

前半ほのぼの、後半シリアスですね。
しかも、いきなり暗くなります。
相変わらず中途半端なところで切れてますけど(^^;


今回あたりから、伏線ラッシュです。
「それぞれの傷」とでも題しましょうか。

今回はアリサさん&フレース君です。


…すいません、調子に乗りました。

続き物になるかどうかも分かってません(汗


ともかく、こんなお話ですが、一人でも楽しんでいただけたら、
へっぽこSS書きの冥利に尽きます。


では、次回また…。


私が描くもう一つの、或いは違った概念を持つ、

「悠久幻想曲」の世界でおあいいたしましょう…。


感想、一言でも良いのでくれるとありがたいです。
お暇な方は是非…。
seraphim@sohgoh.net





今回の蛇足。




フレース君の正体は、大体の皆さん(だからそんなに読んでないってのに)が予想したとおりです。
簡単ですね〜(汗)ばればれです。
まぁ、剣に名前も彫ってあったことですし。(言い訳)
もうちょっと分かりにくくしてもよかったんですけどねぇ。
分かりやすいほうが、読者様の気を引けるかなと。
しかも、どういう道を歩いてきたのかもたぶん想像の通りです。
まぁ、Hですしねぇ(苦笑
ちなみに、先が読めてしまう人がたくさんいると思うので先に言っておきますが。

別に、シェリルが嫌いなわけではないですよ〜。
ただ、本編シナリオが嫌いなので(爆)ちょっといやな役回りをしていただきました。

アリサさんのほうは…まぁ、それなりに(汗
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