中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:01
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:01 出会い〜エンフィールドにて〜

木々が生茂る森の中、一人の青年が走っていた。その青年は体のあちこちに大小様々な傷を負っており、その足取りは酷く危なげな物だった。
「はぁ、はぁ、はぁ・・・くそっ、この傷で無理矢理転移したのがまずかったか・・・。ヤバイな、目が霞んで来た・・・。」
そう呟きながらも、必死に歩を進める青年。だがその時、盛り上がった木の根に足を引っ掛け倒れてしまう。
「・・・ぅあっ・・・く、くそぉ・・・体に、力がはいらねぇ・・・」
必死に立ち上がろうとするが、一向に体は持ち上がらない。大きな傷からの出血と、このような状態で歩きつづけた事による疲労とで、すでに体を持ち上げるだけの力も青年には残っていなかった。
「・・・ここで、死ぬのかな・・・?本格的に目が霞んで、来た・・・」
呟く声も、酷く弱弱しい。その声を聞けば、大抵の人間はもう手遅れだと判断するだろう。
「・・・疲れたな・・・もう・・・如何でも・・・い・・・い・・・」
そのまま、ゆっくりと意識を失っていく青年。完全に意識を失う直前に、誰かの声を聞いたような気がしたが、それを確認するだけの力も意志も無かった。

その日、ジョートショップの店長であるアリサ=アスティアは朝から奇妙な感覚をもてあましていた。誰かに呼ばれているような、そんな感覚。昼を過ぎ、その感覚が強くなった時、アリサは行動を開始した。呼びかけるような感覚に従って、街の直ぐ傍にある森まで来ていた。ここにくるまで、当然の様に同居人?の魔法生物・テディは反対していたが、如何しても行くことを説得すると、しぶしぶながらも諦めてくれた。その後はテディの誘導に従って此処まで来たのだが、先程から奇妙な感覚は更に強まっていた。
「御主人さま、こんな所に人なんているっスか?」
奇妙なアクセントを付けてテディがアリサに尋ねる。犬のような(こう言うと本人は怒るが)外見に違わず、鼻の利く彼にも、別段人の匂いは感じなかった。
「解らないわ、でも・・・こっちに来なければならないような、そんな気がするの。」
アリサは申し訳無さそうに言う。本来テディは視覚障害者の為に生み出された介護生物だ。それ故、アリサがテディに対して申し訳ないなどと思う必要は無いのだが、アリサにとってテディは家族の一員である。その思いが、彼女にテディに対して申し訳ないという感情を抱かせたのだ。
「まぁ御主人さまがそういうならそれでいいっス!それじゃ御主人さまは此処で待ってて欲しいっス。ボクが先に言って様子を見てくるっス!」
そういうと、さっさと先に行くテディ。辺りに鼻を利かせながら進むと、異常な匂いを嗅ぎ取った。そしてそれが血の匂いであり、その匂いの発信源に怪我をした人間が倒れている事に直ぐに気が付いた。
「たたた、大変っス、御主人さまぁ〜っ!人、人が倒れてるっス〜!」
そう大声を上げながらアリサの所に戻るテディ。かなり気が動転しているようだ。
「まぁ大変っ、テディその人は何処に?」
テディの声を聞き、直ぐに反応するアリサ。テディにつれられてその人物の所に良くと、先ずは触って傷の確認をする。生まれた時から弱視だった為か、触れる事で大体のことは解る。そして、倒れている人物−先程の青年−の傷がかなり深いことを察し、テディに人を呼んでくるように頼む。アリサは青年の直ぐ傍に座り、様子を見ながら小さな声で話し掛けた。それは話し掛けるというより、自分に対して確認しているようであった。
「私を呼んでいたのは、貴方?もしそうなら、貴方は・・・」

大衆食堂『さくら亭』では、今日も何時もと変わらない光景が展開されていた。
「なぁシーラ、今度一緒にリヴェティス劇場に・・・」
アレフがカウンター席に座っているシーラに声をかける。何のことは無い、何時ものようにナンパしているのだ。
「え、えと・・・私は・・・」
シーラは話し掛けられて焦っている。彼女は男性が苦手なのだ。
「全く、アレフも良く飽きないわねぇ。」
呟きながらもグラスを磨く手を休めないのは、さくら亭看板娘のパティ。
「全くだね。シーラの様子を見てれば脈なしだって解りそうなもんだけど。」
パティの呟きに答えたのはさくら亭の居候、リサである。
「あの、御二人とも、アレフさんを止めないんですか?」
困ったようにそう言うのはシェリル言う少女だ。シェリルの問いに、パティが答える。
「無駄よ、止めたって。止めて聞くようなら初めからナンパなんてしないわよ。」
パティの台詞を聞き、半ば納得してしまうシェリル。アレフのナンパ振りはエンフィールドに住む者なら誰でも知っている事なのだ。
「アレフ君、シーラさん困ってるよ、止めようよ〜。」
頼りない声を上げてクリスがアレフを止めようとしている。この二人、年が離れているがれっきとした親友である。
「何を言う、シーラは困ってるんじゃなくて照れてるだけだって。なぁシーラ?」
クリスの言葉を一蹴し、再びシーラを口説き始めるアレフ。クリスは尚も止めようとするが、それもあまり意味をなさない。
パティとリサがその様子を呆れながら見ていると、店の扉が大きな音をたてて開いた。
「パティ、悪いけど匿ってくれっ。」
そう言いながら店に入ってきたのはエルフの女性−エルだ。やや息を切らしている所を見ると、おそらく走ってきたのだろう。その様子を見て、すぐさまパティは状況を理解した。
「もう、またマリアと喧嘩したのね?匿うのはいいけど、お願いだから店の中で喧嘩しないでよね。」
そう言って、カウンター席の内側にエルを招くパティ。カウンター席の内側には店の関係者しか入れないので、其処に隠れていれば見つからないだろうと思ったのだ。だが、その考えは無駄になった。エルの後を追うように金髪のやや子供っぽい少女が店に駆け込んできたのだ。
「逃がさないわよ、この怪力エルフっ!」
店に入るなり叫んだのはマリアと言う少女。このエンフィールドの有力者であるショート財団会長の一人娘で、無類の魔法マニアでもある。
「喧しい、この爆裂魔法娘っ!一々一々突っかかって来やがってっ!」
逃げ切るのは無理と判断したのか、エルもマリアに向かって怒鳴り返す。この二人の喧嘩は今に始まった事ではない。事ある毎に喧嘩しているので、周りも既に止めるのを諦めている。この二人が喧嘩するのは、エルがエルフでありながら魔法を使えず、魔法と言う物に対して嫌悪感を抱いているのに対し、マリアは魔法至上主義者で、エルフでありながら魔法を使えないエルを馬鹿にしているから、と言う理由がある。
根本から対立する二人を止めるのは無理と考え、店の備品が壊されなければ良いやと諦めるパティ。他の友人たちも似たような考えでいるようだ。
睨み合う二人が今にも飛び掛りそうになった時、突然店のドアが開く。
「皆ぁーっ、大変だー!!」
そう言いながら店に入ってきたのはピートだ。腕には途中で拾ったのだろう、テディを抱えている。直ぐ傍にはメロディも居る。恐らく由羅に頼まれて酒を買いに来た時に、丁度ピートたちと会ったようだ。
「如何したんだいピート?そんなに慌てて。」
リサが尋ねると、ピートの変わりにテディが慌てながらも説明しようとする。
「それが、ご主人さまが森で寝て怪我人が運んでえとえと・・・」
焦って支離滅裂になっているテディを見かね、リサが落ち着かせる。
「こらこら、そんなんじゃ何言ってるか解らないよ。取り敢えず落ち着きな。」
「御免なさいっス。・・・ご主人様が誕生の森で怪我人を見つけたっスが、重くて一人では運べないっス。だから皆さんにも手伝って欲しいっス。」
「何だって!?こうしちゃ居られないね、直ぐに案内しなっ!」
テディの説明を聞き、すぐさま駆け出すリサ。それに続くようにアレフ、クリスの男性コンビとシーラ、シェリルも駆け出す。エルとマリアも喧嘩している場合じゃないと悟り直ぐに追いかける。因みにピートは真っ先に走り出している。
「あ、ちょっと・・・。もう、手ぶらで行ってもしょうがないでしょうが。」
そう言いながら、救急箱を手に店をでるパティ。皆を追いかける前に店のドアにかかっている札を営業中から準備中にしておく事も忘れない。

パティが皆に追いついたとき、既に青年の姿は目の前にあった。取り敢えずクリスとシェリルが魔法で傷を癒し、パティが持って来た救急箱を使ってリサも手当てをする。応急処置程度にしかならないが、何もしないよりはマシだろう。
「まずいね、かなり傷が深い・・・。手遅れかも・・・。」
リサの言葉に焦る一同。リサは戦士としての経験上、この手の怪我には詳しい。その彼女が手遅れかもと言うなら、本当に手遅れになるかもしれないのだ。
「兎に角、応急処置が終ったら直ぐにクラウド医院へ運ぶから、アレフたちは担架でも用意しといて。」
リサの指示に従い、その辺の木の枝等を使って即席の担架を作るアレフとエル。それに青年を乗せてすぐさまエンフィールド唯一の病院であるクラウド医院へと急ぐ。その途中、時折走りながら青年の様子を確かめていたリサは奇妙な事に気付いた。
(妙だね・・・呼吸が落ち着きすぎてる。これだけの傷を負っているなら、もっと息は乱れる筈だけど・・・)
疑問には思うが、それを確かめている暇は無い。リサは取り敢えず自分の疑問は胸の内にしまっておく事にした。

「トーヤ先生、怪我人ですっ!」
皆に先行して走っていたパティが医院の扉を開けながら声を上げる。その声を聞き、直ぐに一人の青年が出てくる。このクラウド医院の医者、トーヤ=クラウドだ。
「怪我人とは穏やかじゃないな。どんな様子だ?」
そう言いながら青年の様子を確かめるトーヤ。彼もリサと同じく呼吸が落ち着きすぎている事に疑問を抱いたが、傷を負っている事に変わりは無い。直ぐに治療室へと運び込ませた。
そう待つ事無くトーヤが治療室から出てくる。一同が直ぐに近づき、説明を求める。
「トーヤ先生、彼の容態は?」
「フゥ・・・彼は一体何者だ?」
トーヤの質問に怪訝な顔をする一同。リサはその問い掛けに共感できる何かがあるのか、落ち着いていた。
「傷口を縫い合わせる先から直ってしまう。はっきり言って異常だぞ、アレは。お前達、何かしたか?」
「いや、クリスとシェリルが応急処置に回復魔法をかけただけだけど。」
アレフの台詞に、考え込むトーヤ。どうやら彼にも全く持って理由がわからないらしい。
「フム・・・まぁ理由はわからんが、少なくとも危険は去った。そろそろ暗くなる。お前達も早く帰れ。」
トーヤがそう言うと、アレフとシーラ、マリアは其々の自宅へ、リサとパティ、メロディはさくら亭、シェリルとクリスはエンフィールド学園学生寮、ピートはクラウンズサーカスへ其々帰っていった。あと残ったのはアリサとテディだけだ。
「彼は目を覚まさないのですか?」
アリサの問いに、少し困ったような表情をしながらトーヤが答える。
「ええ、幾ら傷が治ろうと衰弱していた事に変わりはありませんし、出血した分体力も落ちていますからね。暫くは入院させたほうがいいんですが、生憎今入院患者用のベッドが全部塞がってしまっていて、どうすべきか考えていたんです。」
先日起きた鉱山の落石事故の所為で、クラウド医院の入院患者用のは今完全に埋まっている状態なのだ。如何したものかとトーヤが考えていると、アリサが提案した。
「あのトーヤ先生、彼が私が引き取りましょう。」
「宜しいのですか?アリサさん。」
「構いません。私が第一発見者ですし、目が覚めるまでは私が面倒を見て差し上げたいんです。」
そういうアリサの提案を暫し吟味するトーヤ。結論が出たのか顔を上げる。
「・・・そうですね、まぁアリサさんがそう言うのなら。ジョートショップに運ぶのならこの担架を使ってください。返すのは後日で結構ですから。」
そう言って、青年をキャスター付きの担架に乗せるトーヤ。それを押しながら、アリサはジョートショップに戻っていった。
「ご主人さま、どうして引き受けるって言ったっスか?」
道中、テディが不思議そうに尋ねる。幾ら第一発見者だからって其処まで面倒を見る必要はないはずだ。ベッドが足りない事にしたって、別にジョートショップに行かずとも、自警団事務所辺りの寝室を借り受ければいいだけの話なのだ。テディの疑問も尤もである。
「さぁ、如何してかしらね?」
そう言い、お茶を濁すアリサ。本当は解っていた。自分が何故此処までこの青年に拘ったのか。
暫く青年の傍に一人でいるとき、微かにだが目を開いたのだ。恐らく本人も自覚して否であろうその行動で、アリサはその青年の力になる事を決めたのだ。元々弱視で殆ど物を見る事の出来ないアリサにもはっきりと感じられるほどの悲しみと絶望、孤独感。そういったものが青年の目を通して感じられたからだ。
(あの時の呼びかけがこの人のものであるなら・・・いえ、例えそうでなくても私はこの人の力になってあげたい。)
ジョートショップに帰る道すがら、アリサはそう考えていた。

「ン・・・」
ベッドに寝ている青年が微かに呻き声を上げながら目を開く。その目に自分を覗き込んでいるアリサの顔が映る。
「・・・だ・・・れ・・・?」
まだ意識がハッキリしていないが、それでも尋ねる青年。その問い掛けに、穏やかな笑顔を浮べながら答えるアリサ。
「私はアリサ=アスティア。此処はジョートショップ。エンフィールドの街の何でも屋よ。」
「ボクはテディっス。宜しくっス。」
アリサと一緒にテディも自己紹介する。青年はいきなり現れた(ように見えた)犬のような生物が喋った事に驚いたが、直ぐに自分も自己紹介を返す。
「あ・・・えと、俺はシオン=ライクバーン。根無し草の冒険者です。どうして俺は此処に?森の中で倒れた所までは覚えているんですが・・・」
「貴方が森の中で倒れているのを発見した後、知り合いの皆さんに頼んで病院まで運んでもらったの。それで、治療後にベッドが足りなかったので此処まで運んできたのよ。」
シオンの疑問に答えるアリサ。それを聞き、酷く恐縮したようになるシオン。ふと、思いついたように言う。
「アリサさん、何でも屋って言いましたよね?なら、俺にも手伝わせて貰えませんか?」
「そんな、悪いわ。」
「いえ、手伝わせてください。これだけの事をしてもらって“はいさようなら”じゃあまりにも恩知らずですから。」
「そうですか・・・解りました。それじゃお手伝いお願いしますね。」
笑顔を浮べながら答えるアリサ。彼女にしてみれば世話をして恩を着せよう等と言う考えは毛頭無いのだが、流石に世話になりっ放しというのも、世話されたほうにしてみれば心苦しいのだろう。それを察したアリサはシオンの提案を受け入れた。
「はい。あ、それと、この辺で長期の宿が取れそうな宿屋があれば教えて欲しいんですが。」
「宿屋?」
シオンの言葉に不思議そうな顔をするアリサ。その様子を見ながら、シオンは言葉を続ける。
「ええ、流石に何時までも此処に泊まらせてもらうわけにもいかないでしょう。だから、恩返しをする間泊まる所を探さなければ・・・」
「あら、それなら此処に泊まっていて結構ですよ。」
「へ?」
アリサの台詞に素っ頓狂な声を上げるシオン。彼にしてみればあまりにも突拍子も無い台詞だが、アリサは冗談で言ってるわけではなく、あくまで本気のようだ。
「いや流石にそれはまずいんじゃ・・・」
「構いませんよ。部屋は余っていますし、一人で住むより二人、二人で住むより三人で住んだほうが楽しいですから。」
理由になっているのかなっていないのか怪しい所だが、シオンはアリサの提案に甘える事にした。実際にはアリサに説き伏せられたと言うのが正しいのだが。
こうして、突然このエンフィールドに現れた青年−シオンは、ジョートショップで働く事となる。そしてそれは後にシオンの過去に関わる大きな事件を引き起こす切っ掛けになる事を、まだ彼は知らなかった。

この日、この事件を切っ掛けに、一つの物語が始まる。
悠久なる刻の流れの中に浮かぶ、一つの物語。
物語は語る。一人の青年の数奇な運命を。
彼と彼の関わる人たちが織り成す運命を。
−悠久幻想曲−
この物語は、後世、そう呼ばれることになる・・・。

Episode:01・・・Fin


〜後書き〜
初めまして、作者の刹那と申します。この度はこの様な駄文を最後までお読み頂き有難う御座います。SSを投稿するのはこれが初めてですが、今後とも宜しくお願いします。
それでは、Episode:2でお会いしましょう。
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