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光と闇の交響曲Episode:04
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:04 マジックパニック

「さて、今日の業務はこれで終わりだな。」
依頼伝票を片付けながら、シオンが嘆息混じりに呟く。
「お疲れ様っス、シオンさん。」
テディが労う。アリサは今お茶をいれる為に台所に行っている。
「今日は結構大変だったからな。まぁ大変だった理由はマリアとエルの喧嘩の所為なんだけど。」
苦笑しつつ言うシオン。今日の依頼をマリアとエルと一緒にやったのだが、案の定と言うか何と言うか、仕事中だと言うのに大喧嘩を始めてしまったのだ。シオンが必死に宥める事で何とか治まったのだが、暫くマリアは塞ぎ込んだままだった。
「やっぱりあの二人を一緒の仕事に割り当てるのは無理があるっスよ・・・。」
喧嘩に巻き込まれたテディが情けない声で言う。シオンが溜息混じりに答える。
「まぁな・・・。仕事中なら喧嘩しないだろうし、こういったことをきっかけに、喧嘩しなくなってくれれば、と思ったんだがな。些か考えが甘かったか・・・。」
「でも、決して無駄な努力ではないと思うわ。今は失敗していても、その失敗の積み重ねが、何時かきっと身を結ぶと思うの。」
アリサが入れたばかりのお茶を持って現れる。出されたお茶を一口飲んでから、シオンが言葉を発する。
「そう・・・なってくれれば良いんですが。あの二人は根本の価値観からして対立してますからね。」
「そうっスね。魔法を使えないエルフに、魔法が大好きな女の子・・・最悪の相性っス。」
「もうテディ、そんな事言っちゃ駄目よ。」
そんな事を話していると、外から「御免下さい」と言う声が聞こえてきた。
「こんな時間に、誰だ?」
疑問に思いつつ、ドアに近づくシオン。返事をしつつドアを開けると、其処には見覚えの無い初老の男性が立っていた。
「失礼いたします。私、ショート家の執事を務める者で御座いますが、シオン様はご在宅で御座いましょうか?」
「シオンは俺だけど?」
やたらと丁寧な執事の言葉使いに戸惑いながらも答えるシオン。
「あ、貴方がシオン様で?実は、貴方様に相談したい事がありまして。」
「相談?まぁこんな所で立ち話もなんだから、中へどうぞ。」
そう言って、執事を案内する。今までお茶を飲んでいた場所に執事を連れてくると、早速話を促す。
「それで、相談ってのは一体?」
「は、それがマリアお嬢様のことなのです。」
「マリアの?」
執事の話を要約すると、こう言う事だった。
何時も仕事が終って帰ってくる時間になっても、マリアが戻ってこない。心配したショート氏は執事に命じて捜させている途中なのだと言う。執事は闇雲に探し回るよりは、知り合いを当たっていった方が効率よく捜せると思い、こうしてジョートショップに来たのだと言う事だ。
「おかしいな、マリアはもう随分前に帰ったんだが・・・。」
「そうっス、エルさんと喧嘩した後、報告会に出ないで帰って行っちゃったっスよ。」
シオンの言葉をテディが肯定する。執事はそれを聞き落ち込むが、すぐさま立ち直り、シオンに提案をしてきた。
「あの、シオン様。如何でしょう、マリアお嬢様を捜すのを手伝って頂けないでしょうか?依頼という形をとるのであれば、きちんと報酬も支払いますが・・・」
執事の提案に渋い顔をするシオン。こう言ったマリア絡みの突発的な出来事は、碌な結末を迎えない事を身に染みて理解しているからだ。とは言え、手伝ってくれている仲間を見捨てる事などシオンに出来る筈も無く・・・
「フゥ・・・解りました。手伝いますよ。あぁそれから、報酬なんていりませんよ。」
そう言って立ち上がるシオン。傍に立て掛けてあった剣を腰に佩く。一応の用心だ。
「それじゃちょっと行ってきますね。アリサさん、テディ。」
「はい、行ってらっしゃい。」
「行ってらっしゃいっス。」
アリサとテディに見送られながら、シオンはジョートショップを後にした。

「さて、あの気まぐれお嬢様は一体何処に行ったのやら・・・。」
街を歩きながら、微かに呟く。当ても無く歩いている訳ではなく、マリアの居そうな場所−つまりは、魔法関係の場所を虱潰しに当たっているのだ。
「学園には居なかったし、魔術師組合にも顔を出してない・・・。となると、後は夜鳴鳥雑貨店か図書館辺りか・・・。」
先ずは図書館に行く事にする。時間の関係で、図書館のほうが先に閉まってしまうからだ。

「さて、図書館に来たのは良いが、イヴは何処かな・・・?」
図書館に着いたシオンは、先ず司書であるイヴを捜す事にした。結構広い上に本棚で入り組んでいる館内を当てなく捜すより、人に聞いたほうが早いと判断したからだ。
「え〜っと、あぁ居た居た。イヴ、ちょっと良いか?」
目当てのイヴを見つけて、少しだけ早歩きで近づく。以前一回だけ走ったのを注意されて以来、同じ愚を犯さないよう気を付けているのだ。
「シオンさん?こんな時間に如何なさったの?もう直ぐ閉館だけど。」
「あぁ、別に本を借りに来たとかそういうんじゃ無いんだ。今日此処にマリア来なかった?」
「マリアさん?・・・いいえ、今日は見てないわ。」
その答えを聞き、やや落胆するシオン。その様子が気になったのか、イヴが質問してくる。
「マリアさんがどうかしたの?」
「いやな、仕事の時間はとっくに終ってるのに、まだ家に帰ってないって執事の人が来てね。で、俺も捜してる途中なんだ。」
「そう言う事。でも、マリアさんなら魔術師組合とか、そっちの方が居る可能性が高いのではなくて?」
「そっちはもう行ったんだ。後魔法が関係してて、行ってないのは夜鳴鳥雑貨店だけなんだ。まぁ何にせよ、仕事邪魔して悪かったな。もし見かけたら、ジョートショップに来るよう伝えてもらえるか?」
「ええ、解ったわ。」
そうイヴに頼んで、図書館を後にする。後は夜鳴鳥雑貨店だけである。
「ったく、何処ほっつき歩いてんだか・・・。」
苛立たしげに言い、走って夜鳴鳥雑貨店に向かう。今度こそ見つかってくれと思いながら。

「マリアちゃん?ああ見たよ。」
「ホントかっ!?」
雑貨店の主人の言葉に、思わず身を乗り出すシオン。それを見て主人が慌ててお押し留める。
「落ち着けって。今から30分ほど前だったかな。何か色々買って行ったよ。」
「何を買ったか解るか?それと、何処に行ったとか。」
シオンの問いに暫し考え込む。やがて思い出したのか顔を上げて話し始めた。
「何処に行ったのかまでは解らないけど、買ったものは思い出したよ。確か・・・」
主人の上げた品物を聞き、蒼ざめるシオン。その様を見て、主人が心配げに話し掛ける。
「お、おいシオン?どうかしたのか?」
「・・・最悪だ・・・。有難う、オッサン。悪いが急ぐんで、行かせて貰うよ。」
主人の問い掛けには答えず、直ぐに走り出すシオン。
「あの馬鹿、なに考えてやがるんだっ!」
マリアが買ったもの、それは大規模の魔術儀式に使用するものだった。

「ハァハァハァ、クソっ此処にも居ないか。」
夜鳴鳥雑貨店を出てから、街中を走り回ったシオンだが、マリアを見つける事は出来ないで居た。
「クソッ、時間が無いってのに・・・。」
「シオンじゃないか、どうかしたのか?」
「え?」
急に声をかけられて、振り向くシオン。其処には、買い物帰りなのか紙袋を抱えたエルが立っていた。
「如何したんだよ、そんなに慌てて・・・」
「エル、お前マリア見なかったかっ!?」
何か言おうとしたエルを遮り、問いただすシオン。普段のシオンとはかけ離れた剣幕に驚くが、マリアの名前が出た途端顔を背けるエル。
「何でアタシがマリアの事なんか・・・」
「今はそんな事をいってる場合じゃないんだ。もし知っているなら教えてくれっ!」
シオンの様子を暫し見ていたエルだが、シオンの様子から何かを見て取ったのか呟くようにして言った。
「・・・誕生の森。ついさっき、そっちの方に向かうのを見たよ。」
「誕生の森か・・・。有難う、エル!」
そうお礼を言いながらもさっさと走り出すシオン。直ぐにその姿が見えなくなってしまう。
「・・・何だったんだ、一体・・・」
一人残されたエルは、暫し呆然としていた。

かなり広い誕生の森を、シオンは迷う事無く突き進んでいた。
「もう此処まで魔力の波動が感じられる・・・。間に合うか・・・?」
呟きながらも、更に走るスピードを上げるシオン。暫く走りつづけると、微かに人の声が聞こえてくる。それを聞き、一気にラストスパートをかける。
「マリア、止めろぉっ!!」
マリアを視界に収めると同時に、あらん限りの声で叫ぶシオン。その声を聞き、マリアも一瞬身をすくめるが、直ぐに儀式を再開してしまう。そして、儀式が完成した瞬間、凄まじいまでの魔力が収束し、弾ける。
儀式によって収束された膨大な魔力は、炎に姿を転じあたりの森を凄まじい勢いで飲み込んでいった。
「ん・・・イタタ・・・もうッ、一体どうなってるのよっ・・・って、シオン!?」
衝撃に吹っ飛ばされたマリアが意識を取り戻した時、シオンが自分を庇うように抱きしめている事に気付いた。そして、その背中にある火傷にも。
「っつ・・・無事だったか、マリア・・・?」
「シオン、その怪我・・・」
「大丈夫だ、見た目ほど酷くは無い・・・。それよりも、この火を消さないとな・・・。」
そう言いながら立ち上がるシオン。そして、ゆっくりと呪を唱え始める。
「空に在りし水の精霊達よ・・・歪められし力より生まれ出でたる炎を、汝等が水の力持て、速やかに鎮め賜わん事を、我は此処に願う・・・」
シオンが呪を唱えると同時に、周囲に水気が集まり、見る見るうちに炎が消えて行く。ものの数秒で炎は完全に消し止められた。シオンが使ったのは、精霊と直接誓約を交わし、その力を行使する古代魔術の一種、誓約魔法と呼ばれるものである。もしこの場に魔術師組合の関係者がいたら目を見張る事だろう。何故なら、彼が使った誓約魔法は、既に失われて久しい魔法だからだ。
「フゥ・・・被害はそれ程拡がらずに済んだみたいだな・・・。さて、マリア・・・聞きたい事がある。」
周りの様子を確認したシオンは、おもむろに未だ座り込んだままのマリアに向き直った。普段ならばシオンの使った魔法について追求しようとするだろうが、冗談で許される雰囲気ではないと、流石のマリアも悟っていた。
「一体なんでこんな事をした?」
「そ、それは・・・」
穏やかな問い掛け。だが、其処にこめられた感情は明らかな怒気だ。それを察しているからか、マリアは完全に怯えきっている。
「あ、あのね・・・お金、お金を創ろうとしたの・・・それで・・・」
「その辺は言わなくても解る。大方、術の成功率を高める為に儀式を行ったはいいが、儀式そのものを失敗したって所だろう。それは良い。何をやっていたかなんて、この際問題ではないからな。問題なのはその理由だ。特にお金に困っているようには見えなかったが?」
シオンがそういうと、マリアは涙目になりながらも答えた。
「マリアじゃないの・・・。お金があればシオンもお店も助かるから・・・それで・・・」
それを聞いて嘆息するシオン。半ば予想していたとはいえ、こうもはっきり言われては怒るに怒れない。
「ハァ・・・全く・・・。なぁマリア、確かに俺達は今お金が必要だ。でもな、それだけじゃないんだよ。」
「・・・?」
「俺達は一生懸命働く事によって、お金だけじゃなくて、街の人たちの支持も集めているんだ。だから、お金だけ手に入れたって仕方ないんだよ。それにな、努力もせずに望みのものを手に入れたって、碌な結果にならない物だからな。」
そう言って、少しだけ笑う。座り込んだマリアに手を差し出しながら、シオンは言葉を続ける。
「確かにマリアの気持ちは嬉しい。だけど、それは方向性を間違えてしまっているんだ。今俺達がするべきことは何だ?」
「・・・ジョートショップのお仕事・・・」
シオンが差し出した手を見ながら答えるマリア。その答えを聞き、笑顔を浮べるシオン。
「そう、その通り。だからさ、マリア。近道をする方法じゃなくて、一歩一歩確実に進む方法を、頑張ってくれ。そっちの方が、俺にとっては何倍も嬉しいよ。」
「・・・うん・・・うんっ☆」
差し出されたシオンの手を取ったマリアもまた、笑顔を浮べた。

こうして、マリアは無事に自宅へと戻った。森の被害はそれ程でも無く、シオンが後日樹木の精霊に働きかけ、ほぼ元通りに戻った。
自宅に戻ったマリアは随分と叱られたようだ。尤も、それはショート氏がマリアを大切に思っている確かな証拠であったが。
今回の事で、マリアも少しは大人しくなってくれるだろう、シオンはそう思っていた。しかし・・・。

ドッゴォォォォンッ!!

朝の静寂をぶち壊す、凄まじい音が響き渡る。それをジョートショップの自室で聞きながら、シオンは考えていた。冗談抜きに、マリアの魔力を暫く封印しておいたほうが良いかも知れない、と・・・。

Episode:04・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。Episode:04、お楽しみ頂けたでしょうか?
元になっているのはテーマ別イベント「火元はマリア」です。尤も、展開その他は大分変わってしまっていますが・・・。今回出てきた誓約魔法、アレは言うまでも無くオリジナルの設定です。精霊魔法をより強力にした物、と考えて下さい。
次は多分「煩悩もんすたー」を元にした話になると思います。
それでは、Episode:05でお会いしましょう。
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