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光と闇の交響曲Episode:06
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:06 自警団第3部隊隊員・守代蒼司

「シオン君、ちょっと良いかしら?」
今日の依頼の確認をしているシオンに、アリサが話し掛ける。
「はい?何でしょう?」
「実は、一つ急な依頼を請けてもらいたいのだけど・・・。」
「依頼、ですか?まぁ構いませんが・・・。」
アリサの台詞に少し怪訝そうな顔をするシオン。アリサがこんな風に経営に口を出すのは珍しい事だ。
「自警団の第3部隊からの依頼なの。内容は、会ってから説明するとの事よ。」
「自警団、ねぇ・・・。何を考えているのやら・・・。」
理解できないと言った風情のシオン。本人にその気は無いとは言え、自警団とは現在対立関係にあるのだ。その相手に態々依頼してくる理由が思いつかない。
(・・・問題無いとは思うが、一応警戒しておくか・・・。)
そう思いつつ、シオンは今日の仕事の準備を進めた。

「じゃぁ今日の仕事の分担は・・・クリスとシーラは俺と一緒に自警団からの依頼を請けてもらう。パティはラ・ルナのウェイトレスの仕事を頼む。」
「それは良いけど、自警団の仕事って?」
パティが尋ねる。彼女もシオンと同じような事を考えているのだろう。少し心配そうだ。
「詳しい事は解らない。まぁそれ程危険は無いだろう。」
「そう?それなら良いんだけどね。それじゃ早速ラ・ルナに行ってくるわ。」
そう言ってジョートショップを出るパティ。
「それじゃ、俺達も待ち合わせ場所に行こうか。」
「ええ。」
「うん。」
シオンの言葉に立ち上がるシーラとクリス。自警団からの依頼とあって、二人もやや緊張気味である。それを見て微かに苦笑しながらも、シオンは特には何も言わず、そのまま店を出た。

3人は自警団側から指定された陽のあたる丘公園にやってきた。普段は人で賑わうこの公園も、朝早くとあってかあまり人影はない。
「依頼主ってどんな人なの?」
「確か、第3部隊の隊員って話だけど・・・。」
「あ、シオン君、向こうから来る人がそうじゃないかな?」
シーラとシオンが話しているときに、丁度依頼主が現れた。
「いや、済まない。ちょっと遅れてしまったね。」
そう言いながら近づいてきたのは、アルベルトとは全く違う雰囲気の青年だった。
「取り敢えず自己紹介と行こうか。俺の名前は守代蒼司。自警団第3部隊の隊員だ。」
そう言って軽く頭を下げる。シーラ達も自己紹介をした。
「シーラ・シェフィールドです。宜しくお願いしますね。」
「クリストファー・クロスです。宜しく。」
「二人の事は良く知ってるよ。エンフィールド一のピアノの演奏者と、学園の天才だろう?」
蒼司の言葉に真っ赤になって照れる二人。どちらもあまり自分に自信を持つタイプではない為、誉められる事に慣れてないのだ。
「ンで、そっちがフェニックス美術館盗難事件の最有力容疑者のシオン・ライクバーンさんだよね?」
明らかな揶揄を交えてシオンに話し掛ける蒼司。その台詞にシーラとクリスが反論しようとするが、それより先にシオンが口を開く。
「宜しく、無能揃いの自警団員君?」
冷静に放たれたシオンの台詞に苦笑する蒼司。明らかにシオンのほうが上手である。
「はは、どうやらこの手の言い合いでは勝てそうも無いか。改めて宜しく、シオンさん。」
「シオンで良いよ。忠告しておくが、あまり悪趣味な真似はしない方が良い。その内命を落とす事にもなりかねないよ。ンで、依頼の内容は?」
蒼司が差し出した手を握り返しながら、素っ気無く質問する。問われた蒼司はやや表情を引き締めて、依頼の内容を話し出した。
「依頼の内容は、雷鳴山での薬草摘み。自警団にストックされてる薬草が切れてしまってね。それで補充しに行く事になったんだけど、人手が足りなくてね。ジョートショップに依頼する事になった、と言う訳さ。」
「それなら、トーヤ先生の所に行って分けてもらった方が早いんじゃないかしら?」
シーラが質問する。異性が苦手なシーラだが、蒼司に関してはあまり意識していないようだ。
「それだと今度はクラウド医院に数が足りなくなってしまうんだ。」
「どちらにしろ、薬草摘みには行かなきゃならないって事ですね?」
クリスが蒼司の台詞を補足する。それに頷く蒼司。
「そう言う事。それじゃ、早速行こうか。」
そう言って先に歩き出す。シオン達もそれに続いた。

「あの、蒼司さん、質問しても良いですか?」
薬草のある場所に向かう途中、クリスが蒼司に話し掛ける。
「ン?なんだい?」
「シオンさんの事です。自警団では、まだシオンさんが犯人だと思ってるんですか?」
「それはまた・・・微妙な質問だな・・・。」
苦笑しつつ答える蒼司。それを不思議に思ったシーラが、質問を重ねる。
「どうして、微妙なんですか?」
「・・・自警団と言う組織そのものの総意として答えるなら、シオンはまだ最有力容疑者のままだね。俺個人の意見で言わせて貰うなら、シオンは犯人じゃ無いと思ってる。個人レベルで考えれば、彼は犯人じゃ無いと思ってる人のほうが多いね。」
蒼司の台詞に複雑そうな顔をするクリスとシーラ。仕方が無い事とは言え、友人が今も疑われ続けている事が心苦しいのだろう。対照的に、シオンは全く持って気にしていなかった。
「シオン、君の意見を聞きたいんだが、良いかな?」
「意見って・・・今更何を聞く気だ?」
話の流れで蒼司がシオンに話し掛ける。どうやらずっと尋ねたいと思っていた事のようだ。
「今回の件に関して、だよ。君を犯人とするには十分な証拠が挙がってると思う。個人的な感情は抜きにしてね。その事について如何思うか、それを聞きたいんだ。」
蒼司の台詞に考え込むシオン。やがて考えが纏まったのか、口を開いた。
「現状で俺が犯人だと決定付ける証拠は二つ。目撃証言と俺の部屋から発見された盗難品。先ず盗難品に関してだが、これは決定力に欠けるな。」
「それは何故?」
「先ず最初に、ジョートショップが普通の建物である事。別に侵入者対策をしてある訳でも何でもないんだ、美術館に忍び込んだ奴なら簡単に侵入できる。」
「そっか、それならシオン君に罪を着せる為に、シオン君の部屋に盗難品を置いたって言う可能性が出てくるわね。」
シーラの台詞に頷きつつ、言葉を続けるシオン。
「そう、その時点で決定力は弱まる。次に、置かれていた場所・・・と言うより位置だな。最初の発見者は誰だ?」
「確か、アリサさんだと聞いてる。これは現場にいたアルに聞いたから間違いないよ。」
蒼司が答える。
「そう、先天性の弱視であるアリサさんが最初に気付く・・・これは要するに、ドアを開ければ直ぐに目に付く位置に置かれていた事を意味する。さて、態々盗んだ品物をばれ易い場所に置く馬鹿がいるか?答えはNoだ。もしそれをするなら、敢えて見つかるように置いたとしか考えられないよな。これで更に決定力は弱まったな。」
「・・・。」
シオンの台詞に沈黙する蒼司。自警団でも話題に上がっていた捜査上の不可解な点を次々と指摘され、流石に軽口を叩くような雰囲気では無くなって来ている。シーラとクリスは既に話を追うので精一杯のようだ。
「盗難品に関しては、取り敢えずこんな物か。次は目撃証言だな。先ずは、目撃場所。聞いた話によると、目撃場所は全部街灯の無い場所だそうだな?」
シオンの言葉に無言で頷く蒼司。シオンはそれを確認すると、続きを話し始める。
「さて、当日は生憎の曇り空。月明かりも街灯の明かりも無しに、どうやったら相手の顔を正確に判別出来るのかな?」
「別に正確にシオンだと言ったわけじゃない。唯、背格好がシオンに似てると・・・」
蒼司が反論しかけるが、シオンがすぐさま切って返す。
「ほぅ、と言う事は、だ。目撃証言はあくまで参考程度の影響力しかもたないって事になるな。それでよくも俺を犯人扱い出来たものだな。」
明らかな侮蔑を込めてシオンが言う。別にシオンは自警団が嫌いな訳ではない。唯、不審な点は沢山あるのに、それに目を瞑り、あやふやな状況証拠と不確かな物的証拠だけで人を犯人に決め付け、それ以外に捜査しようとしない態度に腹を立てているのだ。
そんなシオンに、完全に圧倒されている蒼司。自分達でも不可思議に思っていただけに、その言葉は耳に響いた。
「シオン君、それだけ解っているのなら、無罪を主張できるんじゃ・・・?」
シーラの問いに首を振るシオン。それを見て更に質問しようとするシーラとクリスに説明する。
「確かにこれらの点を説明すれば、一時判決を覆す事は出来る。だけどそれだけだ。決定的な証拠が無いのと同じように、無罪を証明する決定的なものが無い。だから真犯人を見付けるなり何なりするか、無罪を完全に証明する証拠が無ければ意味が無いんだ。現時点で怪しいのは俺だけだからな。罪は軽くなるだろうが、逮捕される事に変わりは無い。」
「真犯人に心当たりは?」
シーラの問いに再び首を振る。
「流石に、まだ解らないさ。まぁ、その内見つけてみせる。アリサさんや俺の為に、そして手伝ってくれる皆の為にも、な。」
そう言って、笑顔を向けるシオン。笑顔を向けられたシーラやクリスはかなり照れている。シーラに至っては、完全に真っ赤になってしまっている。
蒼司は、その様子を見ながら何やら考え込んでいたが、暫くすると目的地に着いた事を皆に報せた。
「・・・っと、着いたみたいだな。」
「へぇ・・・雷鳴山にこんな所があったんだ・・・。」
クリスが感嘆の声を上げる。其処は一面に草花の咲き乱れる、他の場所とは明らかに違う雰囲気をもった場所だった。
「これは・・・祝霊地か・・・。」
「祝霊地って?」
シオンの呟きを聞き、蒼司が質問する。それを聞き、呆れたような表情をするシオン。
「お前等・・・知らずに此処の薬草使ってたのか?祝霊地ってのは、精霊や神霊の祝福を受けた土地の事だ。そこで育った薬草は、通常の物よりも大きな効果を持つんだ。」
「へぇ・・・だから昔から此処の薬草を使ってたのか・・・。」
シオンの説明に、心底感心したような声を上げる蒼司。実際、この事を知っているのは自警団でも団長とリカルド、ノイマンくらいのものだろう。その程度の認識しかないのだ。
「全く・・・。ンで、どの種類の薬草を捜すんだ?」
「あぁ、えっと・・・こういうやつなんだけど。」
そう言って、1つの薬草を取り出しながら説明する。
「これと同じのを出来るだけ沢山。あればあるだけ欲しいんで、宜しく。」
「ん、OK。じゃぁ早速手分けして探そうか。」
シオンの言葉で、散り散りになって探し始める一同。暫くは会話も無く、唯薬草を探す作業だけが続いた。

「さて、これだけ集めれば十分だろ。」
蒼司の言葉で薬草摘みを切りあげ、下山し始める。その道すがら、蒼司がシオンに話し掛けた。
「なぁシオン、1つ提案があるんだが。」
「提案?」
「ああ。・・・俺達に協力する気は無いか?」
蒼司の台詞に、驚いた表情を見せるシオン。シーラとクリスも同様だ。
「・・・何を考えている?」
「勘違いしないで欲しい。協力つっても、別に自警団に入れとかそう言う事をいってるわけじゃない。実は、俺を含めた何人かの自警団員が、事件の真相を調べる為に秘密裏に行動を開始している。そこで、情報交換などの協力体制を取らないか、と言う提案なんだが、如何だろう?」
警戒するシオンに、説明する蒼司。それを聞いて、思案するシオン。
「私は、良いと思うけど。捜査とかは私達には手伝えないし、一人でやるより良い結果が出せると思うわ。」
「僕もそう思う。シオンさん、協力したほうが良いよ。」
考え込むシオンに、自分の意見を言うシーラとクリス。二人の言うように、協力したほうが良い結果が出せるのは明白だ。
「・・・捜査に関わっているのは?」
「俺とロビンと言う第3部隊隊員。それから、リカルド隊長とノイマン隊長の4人がメインのメンバーだ。」
「・・・解った、協力しよう。それで、コンタクトの方法なんかは如何するんだ?」
シオンの答えに満足そうにする蒼司。そのままの表情でシオンの質問に答える。
「基本的にはこっちから接触する。多分、今回みたいに依頼と言う形式を取る事になると思う。大体一月に一回程度の間隔で情報を交換しようと思うんだが、それで良いか?」
「ああ。その辺はそちらに任せる。唯、あまり今回のように急な依頼はしないでくれ。通常業務に支障が出るし、下手にあからさまな動きを見せると、真犯人に勘付かれるからな。」
「了解。隊長たちにもそう伝えておく。」
こうして、シオンは極秘に自警団と協力体制を取る事になった。

「そう・・・。解ったわ、自警団からの依頼があったら、直接シオン君に渡すようにするわ。」
「すいません、アリサさん。宜しくお願いします。」
ジョートショップに戻ったシオンは、アリサと戻ってきていたパティの事の顛末を話した。
極秘扱いの事をアリサは兎も角パティにも話したのは、仲間内に話を通しておかないと、いざという時に困るからだ。
「それにしても、思い切った事するわね、あんたも。」
パティが苦笑混じりに言う。多少呆れはしているが、彼女も反対ではないようだ。
「まぁ無茶は承知の上さ。元々自分で犯人を見つけようなんて考える事自体が無茶なんだ。これ位はどうと言う事は無い。」
シオンも苦笑しつつ言う。少なくとも、組織としては未だに自分の事を犯人扱いしている自警団と協力しようというのだ、無茶と言うより他無いだろう。
「シオン君、他の皆には何時説明するの?」
「そうだな・・・。次に会った時に、俺から説明しておく。シーラ達は、俺が説明するまではこの事は黙っていてくれ。」
「解ったわ。」
シオンの台詞に頷くシーラ。クリスとパティも頷いている。
「よし、それじゃ今日の業務はこれまで。皆、お疲れ様。」
「お疲れ〜。」
「お疲れ様。」
「お疲れ様です。」
挨拶しながら帰宅するパティ達。皆が店を出た後、夕闇に染まる街を窓から眺めながら、シオンが呟く。
「・・・恐らく真犯人は自警団にも影響を与えられる人物・・・か。やれやれ、厄介な話だ・・・。」
シオンの呟きは誰に聞かれる事も無く消えていった。

Episode:06・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。今回登場した守代蒼司は2nd主人公に当たります。って第3部隊隊員って時点でわかりますよね。
実は、今回2nd主人公ではなく、オリキャラを出す予定でしたが、急遽予定を変更、2nd主人公の出番となりました。重要度の高いキャラだけにこれからも出番は多くなると思います。
それでは、Episode:07でお会いしましょう。
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