中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:09
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:09 差し込める陽光の下で〜吉報と予兆〜

「目薬茸?」
休日のジョートショップにて、シオンはトリーシャと話していた。
「うん、何でもどんな目の病気も治せる特効薬になるんだって。これがあれば、アリサおばさんの目も治せるんじゃないかな?」
トリーシャは勢い込んで言う。
「行ってみようぜ、シオン。今日はどうせ暇なんだしさ。」
遊びに来ていたアレフが無責任な事を言う。尤も、今日は休日であり、シオンが暇だと言うのは本当の事だったが。
「目薬茸は確か先天性の弱視には効果無かったような気がするが・・・まぁ良いか。天窓の洞窟ならピクニック代わりにもなるしな。ンで、誰が一緒に行くんだ?」
シオンの問いに、手を挙げて答えるアレフとトリーシャ、シーラ、エル、クリスの5人。因みに、クリスはアレフの付き添い、シーラはアリサに届け物、エルは暇つぶしに来ていたのである。
「結局全員か・・・。それじゃ、アリサさん。ちょっと行って来ますね。」
「ええ、気を付けて行ってらっしゃい。」
アリサに見送られ、シオン達は天窓の洞窟へと向かった。

「で、お前等何しに来たんだ?」
「フン、目薬茸は俺達自警団が探す。これも市民の為に働く我らが任務のうちだからな。素人は引っ込んでな!」
トリーシャの案内で天窓の洞窟に向かう途中、アルベルト率いる自警団ど出くわしたのだ。
シオン達を見てあからさまに敵意を燃やすアルベルトだが、シオンの台詞に顔色を変える。
「まぁそれは良いが・・・。良いのか?俺達より先に洞窟に入ろうとしてる連中が居るようだが。」
「何だと!?」
アルベルトが洞窟の方を向くと、其処には場違いなスーツを着て、奇妙な仮面を着けた男と、その男の部下らしき数人の男達が居た。
「テメェ、何者だ!?」
「おやおや、自警団員のアルベルトさんに犯罪者ではありませんか。私の名はハメット。以後御見知り置きを・・・。」
明らかに馬鹿にしていると言う態度で礼をするハメット。シオンはそれを無視したが、アルベルトは簡単にキレた。
「テメェ、人の事馬鹿にしてんのか!?」
「馬鹿になどしてませんよ。まぁそれは兎も角、この洞窟にあると言うお宝は我々が頂きますよ。」
「お宝、ねぇ・・・。一般レベルで知られている以上、宝と呼べる代物が残っているとは思えないが?」
「そんな事は行ってみなければ解らないでしょう?それに、お宝が無くても、目薬茸を持って帰って病院にでも売れば、それなりのお金にはなりますからねえ。それでは、お先に失礼しますよ。」
「あ、コラ、待ちやがれ!」
一礼し、さっさと洞窟に入っていくハメット一行と、それを追って慌てて洞窟に入る自警団一行。シオン達は呆れながらそれを見ていた。
「・・・何だったんだ、アレは?」
「まぁ気にしたら負けだよ、エル。それより、俺達も行こう。連中に先を越されると、どうなるか解ったもんじゃない。」
「そりゃ言えてる。」
そして、シオン達も中に入っていった。

「それにしても、アルベルトさんも困ったもんだね。あんなにシオンさんに突っ掛かんなくても良いと思うんだけどなぁ。」
「そうね・・・。何か理由があるのかしら?」
「何にしても、あまり良い事じゃないよね。お父さんもぼやいてたし。」
洞窟を歩きながら、トリーシャとシーラが会話を交わす。その内容は、先程突っ掛かってきたアルベルトに関してだ。ハメットの事は気にしてないらしい。
「なぁシオン、あのハメットとか言う奴、如何思う?」
「如何思うとは?」
「惚けるなよ。あんなあからさまに怪しんでくれと言わんばかりの奴だよ?怪しまない方がどうかしてる。」
「・・・まぁ俺も気にはなっているがな。」
対照的に、エルとシオンは先程のハメットが気になっているようだ。因みに、クリスとアレフは洞窟が珍しいのか、そちらの方に気を取られているようだ。
「彼が今回の事件で如何なる役割を担っているのかは解らない。だが、関係者である事は間違い無さそうだ。そうでなければ、この時期に、都合よく此方に接触を持ってくるような事はないだろう。」
「やっぱりね。で、何か対策を立てるとかしなくて良いのか?」
「構わないさ。と言うより、現状では対策なんて立てようがない。先程も言った通り、彼がどんな役割を担っているのか見当もつかないんだから。それが・・・って、どうやらお客さんらしい。」
シオンの言葉に全員が反応する。それを待っていたかのように、前方の暗がりから一体の魔物が姿を現す。
「ごごは、おでだちの聖域・・・ごれ以上ずずむなら、容赦はじない・・・」
中途半端に濁った声で話す魔物に、シオンは怪訝な顔をする。それに気付かず、エル達はそれぞれの武器を構える。
「げいごぐはした・・・じたがわないなら、いだい目にあってもらう・・・」
そう言い残し、魔物は再び暗がりの中に姿を消した。
「・・・何だったんだろう、今のは?」
「言葉どおりに受け取るなら、この洞窟を根城にしている魔物ってとこだろうな。」
「大丈夫なのかな?結構強そうだったけど・・・」
不安そうなトリーシャの台詞に、苦笑しつつ返事をするシオン。
「まぁそんな心配するほどのものでもないさ。それより、先に進もう。」
シオンの台詞で再び先に進み始める一行。と、少し進んだ所に、かなり大きな湖が見えた。
「うわぁ、大きな湖だなぁ・・・。」
「クリス、お前ホントに大きな物が好きなのな・・・。」
感動したように言うクリスに、呆れたように呟くアレフ。クリスの大きい物好きはこんな所にまで及んでいるらしい。
「・・・ちょっと汲んで来ようか。」
そう言うが早いか、さっさと水辺に近づくシオン。そして、軽く口に含み、毒性が無い事を確かめると、手にした水筒に汲んで戻ってくる。
「如何だった?」
「ん、かなり質の良い水だな。料理とかに使うといいかも。後はお茶とか。ちゃんと苔なんかも生えてたし、毒性に関しては心配なし。それじゃ、先に進もうか。」
そう言って歩き出すシオン。他の皆も歩き出す。
「シオン君、随分と手馴れてるのね。こういった所に来た経験があるの?」
「ん〜、まぁ此処に来るまでは色んな所を旅して周ってたからなぁ・・・。洞窟の探査をした事も何回かあるよ。尤も、この手の知識は冒険者には必須の物だけど。」
並んで歩くシーラの質問に答えるシオン。その台詞にエルが頷いている。彼女も、エンフィールドに来るまでは冒険者のような事をしていたのだ。因みに、リサも似たようなものである。尤も、リサは冒険者と言うよりは傭兵だが。
そんな事を話しながら、一行は更に奥へと進んだ。

「あ、そろそろ一番奥じゃないかな?日が差すようになってきた。」
湖から暫く進むと、今までとは違って日が差すようになり、壁にも苔などが目立つようになってきた。
「どうやら最奥まで来たらしいな。さっきのお客さんが待ち構えてる。」
『!!』
シオンの台詞に、驚いて前を見る一同。其処には何時現れたのか、先程の奇妙な魔物がいた。
「ぜっかぐ、警告じでやったのに・・・。ごごまでぎだら死んでもらうじかない・・・」
そう言って、殺気を膨らませる魔物。エル達も直ぐに反応できるように構えるが、シオンだけは自然体のままだった。
「・・・戦うのは良いけどな、その鬱陶しい変装と喋り方は何とかして貰えないか?」
「シオン、それはどう言う事だ?」
アレフの問いに答えず、魔物を見続けるシオン。その視線の先で、魔物はその姿を変え始めていた。
「・・・くくく、まさか見破られるとはねぇ・・・。俺様も焼きが回ったか?」
今や魔物の姿は、拘束衣のような服装に身を包み、両目を覆う大きな眼帯をした青年の姿に変わっていた。当然、喋り方も普通になっている。
「い、一体どうなってるの!?」
「恐らく、光を操って屈折率を変化させ、本来の姿とは違う虚像を見せていたんだろうが・・・。」
「その通りさ。お前が俺様の正体に気付くかどうか試したんだが、ちゃんと気付いたようだなぁ?」
クリスの問い掛けに答えたシオンに、台詞を続ける謎の男。眼帯で目を見る事は出来ないが、その様子から笑っているであろう事が見て取れた。
「何者なんだい、あんたは?」
「俺様かい?俺様の名前はシャドウとでも呼んで貰おうか。今日の所は顔見せだからな、ここらで引かせて貰う。だが覚えて置くが良い、貴様は何時の日か俺様を憎まずには居られなくって事をな!ひゃぁーっひゃっひゃっ!!」
エルの問い掛けに答えた後、高笑いを残してシャドウは消え去った。後に残されたジョートショップの面々は、どんな反応をしていいのか解らず、呆然としていた。
「・・・シャドウ、ね・・・。厄介な事にならなきゃ良いけど・・・。」
唯一人自分を保っていたシオンは、そう呟いた。その口調には、厄介な事になるだろうと言う諦めにも似た感情が含まれていた。

「さて、シャドウの事は置いといて、さっさと目薬茸を探そうか。」
シオンの台詞にはっとする一同。あまりに印象的なシャドウの登場に、本来の目的を忘れかけていたらしい。慌てて目薬茸を探し始める。
暫くして、エルが声をあげる。
「ん?おーい、これの事じゃないのか?」
「えっと、どれどれ・・・。うん、そうだよ、これが目薬茸だよ!」
エルが示した物をトリーシャが確認し、答える。
「えっと、どれだけ持って帰れば良いのかな?」
「取り敢えず持てるだけ持っていけば良い。余ったらトーヤに渡せば良いんだから。」
「それなら、この辺に見えるの全部持って帰るか?」
アレフの台詞に、見える範囲にある茸を其々の鞄に出来るだけ入れていく。全員の鞄が一杯になる頃には、見える範囲に目薬茸は殆ど残っていなかった。
「まぁこんなもんか。それじゃ帰「ああーっ!?」
帰るのを促そうとしたシオンの台詞に、誰かの叫び声が重なる。声のした方を向くと、其処にはかなり薄汚れたアルベルトの姿があった。傍には同じ様な格好をしたハメットもいた。
「アルベルトにハメット?何やってたんだ、お前等?」
呆れつつ尋ねるシオンに、答える余力すら残っていないアルベルト達。その様子を見て、大体の理由を悟ったシオンは、彼等を無視する事にした。
「どうせアホみたいに戦闘しながら此処まで来たんだろう?ほっといて行こうか。アリサさんが待ってる。」
そう言って歩き出すシオン。他の面々もそれに従った。後に残されたアルベルト達は、体力が回復するまでそこにいたが、やがて回復すると帰っていった。因みに、帰りもまた懲りずに戦闘を行っていたようだが、そんな事はジョートショップの面々には何の関係もない事である。

「ただいま。」
「シオン君、皆も、お帰りなさい。」
「お帰りなさいっス。目薬茸は手に入ったっスか?」
尋ねてくるテディに鞄一杯の目薬茸を見せる。その量にテディはひどく驚いた。
「ンじゃ、さっさと薬を作ろうか。トリーシャ、クリス、手伝ってくれ。」
「うん。」
「解ったよ。」
頷くトリーシャとクリスを伴い、シオンは台所に入っていった。
「・・・あいつら、調合方法なんて知ってるのかね?」
「さぁ?シオンなら知ってるんじゃないか?」
「・・・大丈夫なんスかね、ご主人さま?」
「大丈夫よ、きっと・・・。」
アレフとエルの会話を聞いて、不安になるテディ。流石のアリサもやや心配そうだ。

一時間程が経った後、台所からシオン達が出てきた。その手には、スープのような物が入った深皿を持っている。
「さ、出来ましたよ。これが目薬茸を使った目の薬です。・・・まぁ見た目は唯のスープですけどね。」
言われるであろう台詞を先取りし、深皿をアリサの前に置くシオン。台詞を取られたアレフ達は少しだけ悔しそうにしていた。
「・・・何だか、怖いわ・・・。」
アリサが呟く。怖いと言っても、それは不信から来る恐怖ではなく、今まで長年連れ添ってきた弱視と別れる事によって、環境に変化が出る事への恐怖だ。
「大丈夫よ、アリサおばさま。私達やテディ、シオン君がついてるもの。」
「そうっス。心配無いっス。」
「そうね、それじゃ・・・。」
シーラとテディに促され、出された薬湯スープを飲むアリサ。他の面々は、その様子を固唾を飲んで見守っていた。
やがて、アリサが全てのスープを飲み干すと、待ち切れなくなったかのようにテディが尋ねた。
「如何っスか、ご主人さま?何か変わったっスか?」
「・・・いいえ、何も変わってないわ。」
答えるアリサの声は、安堵と落胆の混じり合った、複雑な音色だった。
「・・・やはり先天性の弱視には効果無し、か。仕方が無い、この目薬茸はトーヤの所に寄付するか。」
「御免ね、シオンさん、アリサさん。ボク、あんまり役に立てなかったみたいで・・・」
多少予測していたシオンも、僅かばかり落胆の色を示す。そんな様子を見ていたトリーシャは、ひどく落ち込んで呟く。
「何を言ってるの、トリーシャちゃん。役に立たないなんてそんな事は無いわ。それに、今まで付き合ってきたこの目と離れずに済んで、少しだけ嬉しい気持ちだってあるんだもの。」
「そうだよ。確かにアリサさんの目は治せなかった。でもそれはトリーシャが悪いんじゃない。逆に、これを使う事で助かる患者が出たとしたら、それは情報を持ってきたトリーシャの御蔭なんだ。トリーシャは十分役に立ってるさ。」
そう慰めながら、優しくトリーシャの頭を撫でるシオン。それを見たシーラとエルはひどく羨ましそうな顔をしている。尤も、シオンは全然気付いていないが。
「アリサおばさん、シオンさん・・・有難う・・・。」
嬉しさと恥ずかしさが綯交ぜになった表情で呟くトリーシャ。それを見ながら、アレフは(絶対シオンは女を口説く素質がある。)等と思っていた。
「でもご主人さま、ボクはご主人さまの目を治す事を諦めないっスよ。」
「ふふ、有難うテディ。」
そんな会話をしながら、ジョートショップの和やかな時間は過ぎていった。

「シャドウ?それにハメットか・・・。シオンはそいつ等が怪しいと思ってる訳か?」
その日の夜、街の人間が寝静まった後、シオンは蒼司と会って今日の事を話していた。
「ああ。ただ、どんな風に関わってくるかまでは解らないが・・・。唯、連中が関わっている事だけは確かだ。」
「そうか・・・。解った、こっちでも少し調べてみよう。それにしても、ハメットか・・・何処かで聞いた事があるような気がするんだが・・・。」
「まぁ何か解ったらまた連絡してくれ。取り敢えず、今日は此処で帰らせてもらう。」
考え込む蒼司に、声をかけるシオン。その声に、一旦考えるのを止める。
「ああ、悪かったな、こんな時間に呼び出して。」
「気にするな。それじゃ・・・シーン・クラビア」
魔法を唱え、自分の部屋に帰るシオン。それを見ながら、蒼司が呟く。
「転移の魔法か・・・便利で良いよなぁ。まぁそれは良いとして、ハメットねぇ・・・何処で聞いたんだっけか・・・。」
結局、思い出す事が出来ぬまま彼は眠りに付く。しかし後日、彼は驚きと共にハメットの正体を知る事になる。

Episode:09・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。光と闇の交響曲版GoodNews、如何でしたでしょうか?
シャドウ登場時に本当は一戦ある筈なんですけどね、さっさと正体ばれてしまったので戦闘は無しです。まぁ洞窟の番人じゃ相手になりませんからね。
それでは、Episode:10でお会いしましょう。
中央改札 交響曲 感想 説明