悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−
Episode:10 来訪者達
「・・・で、何をしてるんだアレフ?」
休日のジョートショップ、自分の部屋から降りてきたシオンは、椅子に座っているアレフを見て尋ねる。
「いや、暇だったんでね。どうせお前も暇だろ?一緒にさくら亭にでも行かないか?」
「・・・まぁ別に良いか、丁度昼時だし。アリサさん、そんな訳なんで、ちょっと出掛けて来ますね。」
「はい、行ってらっしゃい。」
にこやかに微笑むアリサに見送られて、シオンとアレフは店を出た。
カランカラン♪
「いらっしゃい・・・あら、またあんた達?」
「だから、俺達も客なんだからその態度は・・・って、この遣り取りもマンネリだな・・・。」
「馬鹿やってないで、さっさと座るぞ。」
さくら亭に来るなり何時もの遣り取りを開始するアレフを促し、さっさと何時もの席に座る。アレフも直ぐに座った。
「それで、注文は?」
「トーストセットと紅茶。」
「俺もシオンと同じで良いや。あ、飲み物はコーヒーね。当然ブラックで。」
注文を請けたパティが奥に引っ込むと、急に声をかけられる。
「こんにちは、シオン君、アレフ君。」
「あれ、シーラじゃないか。ん?クリスにシェリルとエル、トリーシャも居るのか。」
振り向いた先にあるテーブルには、クリス達が席についており、こちらに向けて軽く手を振っていた。
「こんにちは、二人とも。」
挨拶する。それに軽く手を挙げて応えた後、シオンが尋ねる。
「や。で、此処で何してんだ?」
「私達、学園の課題をやってたんです。エルさんは此処に来る途中で会って・・・」
「暇だったからね、一緒に来たって訳さ。」
「因みに、後でマリアちゃんも来るんだ。今家に忘れ物取りに行ってるから。」
「ふ〜ん・・・課題ねぇ。シーラは?」
シェリルの説明に納得したシオンは、直ぐ傍に立っていたシーラに尋ねた。
「私は、気晴らしついでに寄ったの。パティちゃんが、良い紅茶の葉が手に入ったって言っていたから。」
「へぇ・・・。」
「因みに、あんたの注文の紅茶も、その葉を使ってるからね。はい、お待たせ。」
シーラと話していると、パティが注文の品を持ってくる。パティ達の話を聞いたアレフが少しだけ悔しそうな顔をする。
「良い葉があるってんなら、俺も紅茶にすれば良かったかな?」
「あれ、アレフ君紅茶飲めたの?僕、アレフ君はコーヒーしか飲まなかったと思ったけど・・・。」
「殆どコーヒーだけどな。別に飲めない訳じゃないんだ。」
クリスの疑問に応えるアレフ。その後も、他愛もない御喋りを続けていた。
カランカラン♪
その時、カウベルが鳴って二人連れの旅人らしき人達が店に入ってくる。
「いらっしゃい。食事?」
「えと、此処は宿屋も兼ねていると聞いてきたのですが・・・」
「ええ、やってるわよ。何部屋?」
「二部屋お願いします。」
「ハイ、それじゃこの台帳に名前を記入しておいて。」
パティ達の様子を見るとは無しに見ながら、話を続ける。
「旅人か・・・。本当なら、俺も此処に泊まる事になってたんだろうな。」
「はは、お前は特別だったからな。アリサさんに感謝しないと。」
「解ってるさ。・・・?」
アレフと話していると、旅人の内の一人が此方をずっと見ていることに気付く。敵意を向けられたりしている訳ではないが、何となく気になったシオンは話し掛けてみた。
「何か用か?」
話し掛けられた相手は躊躇うような素振りをした後、此方に質問を返してきた。
「あの、貴方の名前はシオンと言うのではありませんか?」
「そうだけど・・・?」
「やっぱり、そうだった・・・。シオン様、私の事覚えてますか?」
そう言いながら、被っていたフードを外す相手。フードの下から出てきた顔は、かなりの美少女だった。
「・・・まさか、エスナか?」
「はい!お久しぶりです、シオン様!」
嬉しそうに頷き、シオンに向けて挨拶するエスナと呼ばれた少女。いきなりの展開に、アレフ達は只管呆然としていた。シオン達の会話に気付いたのか、台帳への記入を終えたもう一人の旅人が、此方を向く。
「エスナ、如何し・・・って、君はシオン!?」
「エスナがいるって事は、そっちはリイムか?」
「そうだよ。まさか此処で会えるなんて・・・。久しぶりだね、シオン。」
「ああ、ホントに。」
エスナと同じ様にフードを外し、シオンと楽しげに話すリイムと呼ばれた少年。と、騒ぎを聞きつけたのか、二階からリサが降りてくる。
「随分賑やかだけど、何かあったのかい?」
「あ、リサ・・・。」
「?坊や、そっちの二人は?」
「ああ、自己紹介がまだでしたね。僕の名前はリイム=アーシュレイ。此処とは海を挟んだ隣の大陸にある騎士の国イシュトバーンに仕える騎士です。」
「私はエスナ=シュトラーゼンと言います。リイムと同じく、イシュトバーンに仕える魔導師です。」
「イシュトバーンのリイムとエスナ・・・もしかして、『雷光の聖騎士』と『蒼穹の精霊姫』!?」
リイムたちの自己紹介を聞いたリサが、驚きの声をあげる。それを聞いたパティが不思議そうな顔で尋ねる。
「リサ、何?その何とかの騎士とかって。」
「傭兵をしている時に聞いた事があるんだけどね。かなり有名な存在さ。でも、驚いたね。そんな二人と坊やが知り合いだなんて。」
その台詞に、今度はリイム達が不思議そうな顔をする。
「シオン、話してないの?自分の事。」
「シオン君、全然自分の事話してくれないから・・・。」
「そうだよ。それとも、ボク達の事信じられないかな?」
悲しそうに言うシーラとトリーシャ。それはシオンの友人達全員の心境でもある。
「・・・シオン、話したほうが良いんじゃないかな?それが信頼の証にもなるんだし。」
「別に信頼してないって訳じゃないんだが・・・。そうだな、話すか。」
その台詞に、嬉しそうな顔をする一同。
その後、忘れ物を持って戻ってきたマリアや由羅の酒を買いに来たメロディ、その荷物持ちをする為にピートも一緒に来て、結局何時ものメンバーが全員揃う事になった。
「結局全員に話すんだな。まぁ何度も話す手間が省けて良いが。」
「全く、マリアに話さないなんて駄目だからね!」
「そうだぞ、俺だってシオンの事知りたいんだからな!」
「ふみぃ?シオンちゃんどんなお話をしてくれるの?」
もう少しで仲間ハズレにされそうになって怒るマリアとピート。メロディはよく解っていないが、シオンが何かを話すと言う事は解っているようだ。
「それじゃ全員揃った事だし、話そうか・・・。先ず最初に言って置くが、俺が自分の事を話さなかったのは信頼してないからじゃない。俺には4年以上前の記憶が無いんだ。」
シオンの台詞に驚愕する一同。シオンは話を続ける。
「当時の事は良く覚えてないんだが、俺はイシュトバーン首都の近くの森で倒れていたのを、騎士達に保護されたんだ。」
「シオンを発見する少し前、その森から光の柱が立ち昇るのが目撃されてね。その調査に行った所、シオンを発見したんだ。」
リイムが補足する。気さくな性格故か、既にリイムもエスナも皆に馴染んでいる。
「その後、俺は暫くの間イシュトバーンの騎士用の宿舎に泊めて貰っていた。と言うのも、俺の体は疲労がひどくてね。まともに歩けるようになったのは意識を取り戻してから3ヵ月後なんだ。」
「シオン様は、動けるようなると後は直ぐに回復し、恩義を返す為と言って騎士の訓練の相手をして下さったんです。」
「僕達は丁度そのころ知り合ったんだ。驚いたよ、つい先日までは動けなかった人間が、今は腕自慢の騎士達を相手に一歩も引けを取らなかったんだから。」
リイムの台詞に驚く一同。シオンの強さは何度か魔物退治の依頼等で見て知っているが、其処まで強いとは思っていなかったようだ。
「エスナさんは、どうやってシオン君と知り合ったの?」
シーラが尋ねる。
「私は、この後起こった隣国との戦争の中で、シオン様に助けられたんです。」
「戦争・・・もしかして、リゼリア戦争のイシュトバーン戦役の事かい?」
エスナの台詞に、リサが尋ねる。エスナ達はリサがその事を知っている事に驚いた。
「そうですが・・・よくご存知ですね?リゼリア大陸の住民なら兎も角、別大陸の人が知っているとは思いませんでした。」
「ああ、私は傭兵をやっていた時期があったってのは話したよね?その時に小耳に挟んだのさ。」
リサの説明に納得するエスナとリイム。それを確認し、シオンが話を続ける。
「イシュトバーンは会戦当初、敵国バーゼリアに押されていた。そして、戦局を引っくり返す為に、エスナの所属する魔術師団が前線の救援に投入された。」
「けれど、それは敵に読まれてたんだ。街道で待ち伏せされたエスナ達は捕らえられた。戦局が戦局ゆえ、下手に動く事も出来ず、かといって仲間を見殺しにする訳にもいかず悩んでいた所に、シオンが自分が助けに行くって言ってきてね。」
「シオン様に与えられたのは僅か300の兵力。対する私達を捕らえた部隊は4000。十倍以上の兵力を相手に、シオン様は味方に一切の被害を出さずに、私達を救出してくださったんです。」
エスナの台詞に再び驚愕する一同。戦争など経験した事の無い者が殆どだが、それでも十倍以上の兵力を相手取るのがどれほど自殺行為かは解る。それをやってのけると言う事が、どれほど難しいのかも。
「その後、私を含む一部の魔術師団員と、騎士団の一部はシオン様に指揮下に入り、そしてシオン様は数々の戦闘で勝利し、イシュトバーンの英雄となりました。聞いた事がないでしょうか?『黒衣の戦神』と呼ばれる人物の事を。」
最後の台詞はリサに向けられたものだ。リサは頷く。
「シオンの御蔭で、イシュトバーンは戦争に勝つ事が出来た。でも戦争が終った後、シオンは直ぐに旅に出てしまったんだ。奇しくもその日は、一年前意識を失っていたシオンを保護した日。それ以来シオンには一度も会っていない。だから、僕達は3年ぶりの再会って事になるね。」
リイムが締め括る。皆は驚きで声も出ない。それを横目に、エスナが思い出したように言う。
「そうそう、その功績を称えて、シオン様には戦爵の位が与えられているんですよ。」
「戦爵って何だ?爵って事は、爵位の事か?」
アレフの質問に、やや苦笑を浮べながらシオンが答える。
「戦爵ってのは、イシュトバーンにおいて戦功を挙げた者に与えられる名誉爵位みたいなものさ。これを与えられた者は、事実上貴族と変わらない権利を持つ事が出来る。場合によっては、功績に合わせた領土なんかも与えられる場合もある。まぁ俺の場合領土は辞退したけどな。」
シオンの台詞に感心する一同。と、リイムがシオンの台詞の一部を否定する。
「シオン、君にはちゃんと領土が与えられているよ。」
「は?」
間抜けな顔をするシオン。普段あまり表情を崩す事の無いシオンには珍しい事だ。
「陛下の御意向でね。同じ戦爵でも、戦功の大きさによってその扱いが変わるのは知ってるよね?それで、君の挙げた戦功は公爵位にも匹敵すると仰ったんだ。それで、そのクラスの爵位を持つ者が領土を持っていないのも如何かって事で、君には戦死したドルム公爵の保有していた領土がそのまま与えられる事になったんだ。」
リイムの説明に唖然とするシオン。そして、何とか反論を搾り出す。
「ちょっと待て、俺はイシュトバーンに永住するつもりは無いんだから、領土なんて貰っても仕方が無いって言っただろう?」
「ああそれは大丈夫。君が国にいない間は、信頼できる者が管理代行しているから。」
「そう言う問題なのか!?」
反論をあっさりと切り捨てられ、悲鳴じみた声を上げるシオン。
「まぁ良いじゃないですか。帰る場所が一箇所増えたとでも思えば。」
「そうだよ、別に頻繁に帰る必要があるでも無し、気が向いた時に顔を出してあげれば良いんだから。」
リイムとエスナが言うと、もう諦めたのかシオンが悲しそうに言う。
「ハァ・・・。解ったよ、今度の件が終ったらその内顔を出しに行くよ・・・。」
この後、シオンがイシュトバーンを出た後の話や、リイム達の今までの旅の話、エンフィールドの現状などを話し、解散したのは最早深夜と言ってもいい時間であった。
「それにしても、随分と大変な事になっているようだね。」
シーラとマリアを自宅に送り届けたシオンとリイムは、さくら亭への道すがら、今のシオンの状況について話していた。
「それで、犯人に関する手掛かりは何かあるのかい?」
「現状では決定的な事は何もないな。怪しいと思える対象はそれなりにいるんだが、な・・・。」
「そうか・・・。」
シオンの台詞に、リイムが呟く。やはり友人が容疑をかけられていると言うのは、気分の良い事では無い。
「僕達も手伝おうか?捜査なんかに関しては門外漢だからね、手伝えないけど、ジョートショップの方は手伝えると思う。」
リイムの突然の提案に驚くシオン。
「良いのか?旅の途中なんだろう?」
「かまわないさ。元々ちゃんとした目的がある旅でも無いし。何より、あの戦争の時の礼をしたい。」
「それこそ、気にする必要は無いんだが・・・。」
リイムの台詞に苦笑する。4年前、戦争を手伝ったのはあくまで世話になった恩返しである。それ故、シオンとしてはその事を恩に思われても困るのだ。
「気にするよ。たかが3ヶ月世話したくらいでアレだけの事をしてもらったんだから。それにね、例え僕が此処で君を手伝わず、さっさと先に行こうとしても、エスナが絶対に聞き入れやしないよ。」
「?何で?」
エスナの名前を出され、きょとんとするシオン。それを見て、リイムは溜息をつく。
「ハァ・・・そういう鈍い所は相変わらずだね・・・。エスナもそうだけど、彼女達も苦労してるんだろうなぁ・・・。」
「だから何なんだっての。」
「良いよ、それは僕の口から言う事じゃない。それより、明日から店を手伝わせてもらう。恩義云々以前に、友人が困っているんだ、手伝うのは当然の事。それで良いね?」
言い切られ、苦笑するしかないシオン。シオンとて、友人が困っていれば絶対に助けるだろう。
「・・・解った。それじゃ、明日から宜しくな。」
Episode:10・・・FIN
〜後書き〜
どうも、刹那です。Episode:10、如何だったでしょうか?
オリキャラ二人登場です。今回戦爵と言う言葉が出てきましたが、そんなものが実際にあるのかどうかは判りません。例えあったとしても、この話の中のものとは違っているでしょう。あくまでオリジナルの設定と思って下さい。
それでは、Episode:11でお会いしましょう。