中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:11
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:11 紅く染まる月

カランカラン♪

「大変、大変だよー!!」
その日の仕事を終え、アリサの手料理を食べていたシオン達は、突然店に飛び込んできたトリーシャの声に、口に含んでいた物を吐き出しそうになった。
「・・・いきなり何なんだ、トリーシャ?」
「ご、御免ね、シオンさん。でも、それどころじゃないの!アルベルトさんが・・・!」
「アルベルトがどうかしたのかい?」
仕事が終った後も残って一緒に食事を取っていたリサが尋ねる。
「あのね、詳しくは解らないんだけど、アルベルトさん辻斬りに会ったんだって。それで、その人凄く強い人だったらしくて、アルベルトさん今ボロボロの状態で医院に運び込まれちゃったの!」
「まぁ・・・。アルベルトさん大丈夫かしら?」
トリーシャの説明を聞き、アリサが心配そうに言う。それに答えるように、シオンが冷淡な事を言う。
「ま、アルベルトなら大丈夫でしょう。何せ頑丈さが取り柄みたいな奴ですから。」
「そうっス。ご主人様が心配する事は無いっス。」
テディもシオンに便乗して言う。アリサにちょっかいを出すアルベルトは、テディにとっても敵なのだ。そんなシオン達に、アリサは困ったように笑うだけだった。
「・・・トリーシャ、その辻斬り犯の特徴解るかい?」
「え、え〜と・・・御免なさい、ボクも詳しい事は解らなくて・・・。」
「そうか・・・。いや、解らないならいいんだ。」
口ではそう言うが、あからさまに落胆するリサ。それを見て、トリーシャが思い出したように言った。
「あ、そうだ!リサさん、アルベルトさんなら何か知ってるかも!」
「アルベルトか・・・そうだね、会いに行ってみるか。それじゃアリサさん、そう言う訳なんで、今日はこれで失礼しますね。」
そう言って立ち上がるリサ。そのままジョートショップを出て行こうとするのを、シオンが呼び止めた。
「待てリサ、俺も行く。」
「如何したんだい、坊や?こう言う事に首を突っ込むのは嫌いなんじゃなかったのかい?」
「好き嫌いの問題じゃないさ。何となくだが気になるんだ。嫌な予感がするんだよ。」
「そうかい?まぁ好きにしな。」
「それじゃアリサさん、ちょっと出掛けて来ますね。・・・トリーシャは如何するんだ?」
シオンがトリーシャに尋ねる。其処には、もし良ければ家まで送るが、と言ったニュアンスが含まれていた。
「ん〜シオンさんに送ってもらうのは魅力的だけど・・・でも今日は良いや。外に此処まで送ってもらった自警団の人がいるから。」
その言葉に頷くと、ドアの前で待っていたリサと共に、アルベルトがいるクラウド医院に向かった。

「トーヤ先生居るかい?」
医院に着いたシオンがそう声をあげると、ドアが開いてトーヤが顔を出す。
「・・・誰かと思えばシオンにリサか、珍しい組み合わせだな。で、如何した?」
「トーヤ、アルベルトに会わせて欲しい。それとも、会えないほど重傷なのかい?」
前に立つシオンを押し退けるようにしながら、リサがトーヤに話し掛ける。そのリサの態度に不信なものを感じたトーヤだが、リサの質問には答えた。
「別段深い傷があるでも無し、面会は出来るが・・・?」
「それなら、会わせてくれ!」

リサの剣幕に押され、トーヤはリサをアルベルトのいる寝室に案内した。
「アルベルト、起きてるかい?」
「あ?誰かと思えばリサ・・・に犯罪者まで一緒じゃねぇか。何だ、俺の事を笑いにでも来たのか?」
リサに続いて部屋に入ったシオンの姿を見るや否や、すぐさま敵意を剥き出しにするアルベルト。シオンはそれに対して苦笑を浮べただけだった。
「別に喧嘩を売りに来たわけじゃない。あんたに聞きたい事があってね。」
「聞きたい事?」
「ああ。あんたを襲った辻斬り野朗の事を詳しく聞きたいんだ。」
リサの問いに怪訝そうな顔をしながらも、アルベルトは話し始めた。
「・・・俺たちは、此処何ヶ月かになって出没し始めた、奇妙な人影を捜査していた。奴は決まって満月の夜に現れ、何をするでも無く暫くうろついた後、突然姿を消すのだという。何もしないからと言って放っておくわけにも行かないからな、俺たちにお鉢が回ってきた訳だが・・・」
「その辺の事情は如何でも良い!私はその辻斬り野朗の特徴が聞きたいんだ!」
「如何でも良いって・・・まぁ良い。奴は着物を身に付け、此処ら辺では珍しい刀を持っていた。何よりも特徴的だったのは、まるで血に濡れたかのように紅い瞳だな。」
「!!アルベルト、そいつを何処で見たっ!?」
アルベルトが特徴を話した途端、凄まじい形相で詰め寄るリサ。アルベルトは気圧されながらも、何とか答えた。
「お、俺が遭遇したのはエレイン橋だが・・・最も目撃証言が多いのは誕生の森辺りだ・・・」
アルベルトが言い終わらないうちに、リサは医院を飛び出していった。
「おい、あいつは一体如何したんだ?」
「さぁ?俺にも解らんよ。ンじゃ、精々養生しろよ。」
そう言って、シオンは先に出たリサを追っていった。後に残されたアルベルトは、訳がわからず呆然とするだけだった。

「さて、どっちに行く?奴が満月の夜にしか現れないというなら、そろそろ夜が明ける。どちらか一方しか行けないぜ?」
「そうだね・・・確率的には森の方が高そうだ。誕生の森に行くよ!」
シオンの問い掛けに答えたリサはそのまま走り出す。シオンもそれを追った。
(・・・幾らなんでも焦り過ぎだ・・・。相手が誰だか知らないが、フォローし切れるか?)
走りながら、シオンはそんな事を考えていた。

誕生の森に着いた二人は、其処が普段とは明らかに違う雰囲気に包まれている事に気付いた。
「・・・こっちを選んだのは当りみたいだな。雰囲気が違いすぎる。」
シオンがそう呟いた時、あたりを覆う雰囲気が更に変化する。それまでの張り詰めた雰囲気から、更に硬質のそれへと・・・。
「其処にいるのは誰だ・・・?」
『!?』
突然、重苦しい空気の壁の向こう側から声がかけられる。それは二人には聞いた事の無い男の声だ。
(馬鹿な・・・何の気配もしなかっただと!?)
そう思いつつも、反射的に構えるシオン。と、男の顔を見たリサが態度を豹変させた。
「見つけた・・・やっと・・・見つけた・・・」
「リサ?」
「やっと見つけたぞっ、紅月!!」
普段はおろか魔物との戦闘時でさえ見せないような激しい表情で男−紅月を睨みつけるリサ。紅月はそんなリサを何の感情も読み取れない紅い瞳で見続けていた。
「私は貴様を倒す為に此処まで来たんだ・・・。いくぞっ!!」
叫ぶや否や抜き放ったナイフを凄まじい勢いで繰り出す。だが、紅月はそれを体捌きのみでかわしきる。
「くっ!」
「・・・女、それまでだ。それ以上やるなら容赦はせんぞ。」
それまで何の感情も見せなかった紅月が、初めて感情を顕にした。急激に膨れ上がる殺気に気圧されながらも、リサは再び叫びと共に斬りかかる。
「ふざけるなぁっ!!」
先程のそれを上回る速さと鋭さの連撃を、紅月はいとも容易く捌き切る。一旦距離をおき、腰に佩いた刀をゆっくりと抜き放つ。
「警告はしたぞ・・・。」
「リサっ、後ろに飛べ!!」
「っ!!」
紅月の台詞と共に発せられたシオンの叫びに、反射的に従うリサ。飛び退った直後、それまでリサがいた空間が、恐ろしいほどに鋭い斬撃が薙ぎ払う。それを見たリサは怒りを一瞬忘れ、冷や汗を流す。
「リサ、一旦下がれ!下手に飛び掛って倒せる相手じゃない!!」
「来るんじゃないっ!」
剣を抜きつつ、前に出ようとしたシオンを制止するリサ。切羽詰ったような声に、思わず従ってしまう。
「リサ・・・。」
「悪いね、こいつだけはどうしても私の手で倒さなきゃならないんだ。」
そう言って、三度ナイフを構える。先程の斬撃を見た所為か、多少落ち着きを取り戻したようだ。
「女、貴様では俺には勝てんぞ。諦めて立ち去れ。」
「何度も言わせるんじゃ無いよ・・・。喰らえ紅月!!」
構えたナイフとは違う、小さな投げナイフを数本同時に放つ。意表をついた攻撃に、紅月が一瞬体勢を崩した。一瞬とは言え、リサ達のような達人レベルの人間には十分な勝機となる。リサは全身全霊の一撃を叩き込む。
「これでとどめだっ!!」
必殺の一撃が紅月を捉えたと思われた瞬間、紅月が崩れた体勢のまま刀を力任せに振りぬいた。
「ぬぅあぁっ!!」

ガキィィィンッ!!

金属同士がぶつかり合う甲高い音と共に、リサのナイフが跳ね飛ばされる。
「しまっ・・・!」
「とどめだっ、女!」
振り抜いた刀を一気に切り落とす。それがリサの体を捉えようとした瞬間、黒い影が二人の間に割り込んだ。

キィィンッ!

耳障りな音と共に、今度は紅月の刀が弾かれる。流石に刀を手放しはしなかったが、完全にバランスを崩していた。それを黒い影−シオンは見逃さなかった。
「神魔封滅流・斬式・・・爪牙斬!!」
獣の牙か爪の如き鋭い一撃が、紅月の喉を正確に捉える。崩された体勢でかわせる攻撃でも無く、紅月は防ぐ事も出来ずに攻撃を喰らってしまう。そのまま、紅月は吹っ飛ばされ、近くの木に衝突して止まった。
「ぼ、坊や!」
「悪いな。でも、あそこで俺が飛び出さなければリサは間違い無く死んでいた。」
シオンの台詞に、唇をかみ締めるリサ。そのことは、他でもない自分自身が良く解っているのだ。そんなリサの様子を見ながら、シオンは不自然なほどに手応えが無い事に違和感を感じていた。
「・・・まさか、これほどの使い手がいるとは・・・。」
「!紅月っ!」
まるで何事も無かったかのように立ち上がる紅月の姿に、リサが戦慄する。シオンは、それを半ば予想していたのか大して驚いていなかった。
「此処で決着をつけたかったが・・・どうやら今日はこれまでのようだ。」
そう言う紅月の姿が、まるで掻き消えるように薄らいでいく。リサはそれを見て愕然とする。
「き、貴様っ!逃げるのか!?」
「女、今回はその男と時間に救われたが、次は無い。もし再び俺の前に立つならば、その時は確実に殺す。覚えておく事だ・・・。」
リサに対する警告の台詞を残し、完全に姿を消す紅月。それを見ながら、リサは何もする事が出来なかった。

紅月が消えて数分が経ち、森に蔓延していた殺気が跡形も無く消え去っても、リサは膝をつき、項垂れたままだった。
「・・・くっ、何で、私は・・・私は奴に勝てないんだ・・・何でっ・・・」
そのあまりに悲痛な様に、シオンは言葉をかけることが出来ず、唯傍に立っているだけだった。
「くそっ・・・くそっ・・・くそぉっ!」
何時の間にやら空は曇っており、ぱらぱらと雨が降り始めていた。間も無く雨脚が強くなり、丁度森の木々に隠れる位置にいたシオン達も濡れてしまう。それでも、リサは決して嗚咽を止め様とはせず、シオンもそんなリサの傍に立ちつづけていた。
リサの様子を見続けるシオンには、この雨は、その強さゆえに涙を流す事の出来ないリサの代わりに、天が流す涙に思えた。
その日、雨は1日降り続いていた・・・。

Episode:11・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。光と闇の交響曲Epsiode:11をお届けします。
リサのメインシナリオ、完全なシリアスです。あまりオリジナリティは出せませんでしたが、如何でしょうか?
それでは、Episode:12でお会いしましょう。
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