中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:13
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:13 シオンの魔法講座

「は?何だって?」
休日の昼下がり、食後のお茶を飲んでいたシオンは、トリーシャの台詞に間抜けた返事を返した。
「だからぁ、シオンさんに魔法を教えて貰いたいな、って。」
「あ〜、何でそんな話になったんだ?」
気の無い声で、トリーシャに尋ねる。因みに、トリーシャのほかに、マリア、クリス、シェリルが一緒に来ている。
「あのね、以前シオンさんが使った誓約魔法みたいな、現代では失われた魔法に関する論文を課題に出されてるんだ。それで、調査ついでに教えて貰えたらなぁ、って思ったの。ダメ?」
「・・・まぁ別に教えるのは構わないけど。」
上目遣いに見上げてくるトリーシャの視線に負けるかのように、承諾する。承諾されたトリーシャ達は手を取り合って喜び、早速シオンを引っ張っていく。
「アリサさん、そんな訳なんで、ちょっと出掛けて来ますね。」
「ふふ、気を付けてね、シオン君。」
「行ってらっしゃ〜いっス。」
アリサとテディに見送られ、シオン達は店を後にした。

「ンで、何でエスナまでいるんだ?」
ローズレイクの辺に来た一行。シオンは先ず何時の間にやら其処にいたエスナに尋ねた。
「えっと、私も良く解らないんですが・・・。魔法を教えて欲しいと言われまして。」
「あ、エスナさんには私から頼んだんです。」
エスナの台詞に併せて、シェリルが補足する。何となく疲れた顔で、シオンが呟く。
「・・・まぁ良い。で、何を教えるんだ?」
「えっとね、先ずは誓約魔法に関して教えて欲しいな。」
トリーシャの言葉に頷き、説明を始める。
「誓約魔法ってのは、異界の存在と誓約を結び、その力を行使する術の事だ。」
「精霊魔法みたいな物ですか?」
クリスの言葉に軽く首を振る。
「似てはいるが、違う。そうだな・・・召喚魔法と精霊魔法を組み合わせたようなもの、と言えるかも知れん。召喚魔法は異界の存在を呼び出し、その力を行使する。精霊魔法は、精霊そのものでは無く、精霊の持つ力を呼び出し、行使する。誓約魔法は、異界の存在の力そのものを引き出し、行使する魔法だ。」
「シオン、その力そのものってどういう事?」
「そうだな・・・例えば、炎の精霊イフリートと誓約を交わし、魔術を行使したとする。すると、召喚魔法の場合イフリートそのものが精霊界より顕現し、その力を何らかの形で行使するだろう?誓約魔法の場合、イフリートの持つ炎の力そのものを呼び出すんだ。」
シオンの説明に、一同は怪訝そうな顔を見せる。ちょっと考えてからエスナが質問する。
「要するに、存在では無く、炎なら炎、水なら水そのものを召喚する、と言う事ですか?」
「まぁそう言う事だ。」
エスナの言葉で、取り敢えず納得する一同。それをノートに纏めていたトリーシャが、次の質問をする。
「えと、魔法の使用方法も教えて貰えるかな?」
「ああ。誓約魔法は、先ず呪文と呪印によって異界に至るゲートを開き、誓約を結んだ相手の力を捉える。そして、引き出した力に、呪文をもって形を与える。そして、発動となるわけだ。」
シオンの言葉を、ノートへ書き留めていくトリーシャ達。シオンは言葉を続ける。
「この魔法で大前提となるのは、異界の存在と誓約を交わしている事。注意点として、制御力が伴わなければ、術を発動させる事が出来ない事。これは、誓約魔法の特徴故の事だ。」
「あの、それは何ででしょう?」
「誓約魔法に決まった効果と言うのは無いんだ。力を異界から引き出したら、後はそれに呪文で形を与えなければならない。だから、一種類の力で何種類もの効果を表す事も出来るし、逆に言えば、力に特定の形を与える事の出来る制御力が無ければ、何も出来ないって事になる。」
「なるほど・・・。」
シェリルの質問に、出来るだけ解り易く説明する。その甲斐あってか、シェリル達は大体理解できたようだ。
「まぁこんなものか。こいつの紀元とか、その辺は俺にも解らない。唯、かなり昔に召喚魔法から枝分かれした物だと言う説は聞いた事があるがな。」
シオンの説明が終わり、後はトリーシャ達のノートを書く作業だけが残った。それも間も無く終わり、トリーシャ達は次の要求を出した。
「それじゃ、シオンさん。次は、実際に魔法を教えて欲しいな。」
「それは良いんだが・・・。誰に何を教えるんだ?因みに、誓約魔法は教えんぞ。」
シオンに出鼻を挫かれ、言葉に詰まる。が、直ぐに気を取り直し、クリスがシオンに言う。
「えと、それじゃ僕達に合った魔法を教えて貰えるかな?」
「あ、マリアもそれで良い☆」
「私もそれでいいです。」
「ボクも。」
「合った魔法と言われてもな・・・。エスナ、如何思う?」
「え、私ですか!?」
いきなり話を振られて、狼狽するエスナ。シオンはそれを半眼で睨む。
「お前以外にエスナはいないだろうが。」
「あ、そうですね。・・・えと、クリスさんとシェリルさんは理論構築と術式制御が上手いですから、合成魔法なんかは如何でしょう?」
「まぁ妥当だな。トリーシャには攻性精霊魔法なんか良いかもな。・・・って事で良いか?」
シオンに聞かれ、頷くトリーシャ達3人。一人名前を出されなかったマリアは、頬を膨らませてシオンに詰め寄った。
「ちょっとシオン!何でマリアの名前が出てこないのよう?」
「お前は教えん。」
そんなマリアに、シオンは冷たく言い放つ。尚も言い募ろうとするマリアの言葉を遮るように、シオンが理由を説明する。
「マリアは確かに魔力が強い。でも、制御力が全く伴ってないんだ。以前制御力を鍛える方法を教えたよな?マリアは当面アレをやって、制御力を高める事。通常の魔法で暴発を起こさなくなったら、新しい魔法を教えてやるよ。」
「ぶ〜☆解ったわよ・・・。」
シオンの言葉に、渋々ながら従うマリア。どうやら、自分の制御力の無さを多少は自覚しているらしい。
「解れば宜しい。それじゃ、早速始めようか。クリスとシェリルは俺が見るから、トリーシャはエスナに見てもらってくれ。」
シオンの言葉で、魔法の実践授業が始まった。

「この地方だと、精霊魔法は主に身体能力向上に用いられているようですが、精霊魔法の効能はそれだけではありません。精霊の力を攻撃に用いる攻性魔法も存在しています。」
トリーシャに教えるのはエスナだ。トリーシャは普段より何倍も真面目な顔で聞き入っている。
「攻性精霊魔法は、その使い方と術者の能力次第で、物理魔法を上回る破壊力を生み出す事もあります。実際に、使ってみますね。」
そう言い、トリーシャからやや距離をおく。トリーシャは、エスナの動きの細部まで見逃さないよう、しっかりと見詰める。
「炎界に住まいし火の蜥蜴よ、汝が内に生まれし灼熱の吐息持て、我が眼前に在りし全ての敵を焼き尽くせ・・・サラマンドラ・ブレス!!」
エスナの呪文の完成と共に、凄まじい勢いで燃え盛る炎の柱が生み出される。トリーシャは呆然とそれを見ていたが、我に返ると慌ててその炎を消そうとした。
「・・・はっ!大変、早く火を消さないと・・・」
「大丈夫ですよ。よく見てください。」
エスナの台詞に、やや落ち着きを取り戻して言われるままに炎を良く見てみると、勢いはあれど周囲の草花を一切燃やしてはいなかった。それどころか、かなり近くにいる筈なのに、全く熱さを感じないのだ。不思議に思い、エスナに説明を求める。
「攻性精霊魔法の最大の特徴・・・それは、対象以外には一切の影響を及ぼさない事です。だから、あのような炎が燃え盛っているのに、全く熱くないでしょう?」
「ホントだぁ・・・。凄いんだねぇ・・・。ボクも使えるようになるのかな?」
「大丈夫ですよ。トリーシャさんは精霊魔法を使えますよね?要はその応用だと思えば良いんです。」
そう言いつつ、トリーシャに呪文を教える。
「効果の形態を鮮明にイメージしつつ、今教えた呪文を唱えて下さい。そして、それをあの炎に向かって撃ち出すようにイメージする。やってみてください。」
「よ〜し・・・。水底に眠りし水の乙女よ、水より生まれし汝が槍を持て、我が敵を撃て・・・ウンディーネ・ランス!」
突き出されたトリーシャの両手から、水の槍が撃ち出される。それは先程エスナが生み出した炎の柱に直撃する。だが、それは炎を打ち消すだけの勢いは無く、呆気なく蒸気と化してしまう。
「ありゃ・・・。失敗・・・かなぁ?」
「いえ、成功ですよ。初めてですから、威力が足りなかっただけです。慣れてくれば、呪文を唱えずともアレくらいの炎を生み出したり、それを打ち消せるほどの水流を生み出す事も出来るようになります。後は練習あるのみ、ですね。」
「うん、ボク頑張るよ!」
そう言って、早速練習にかかる。エスナはそれを微笑みながら見守っていた。

一方、此方はクリス&シェリル組。シオンが合成魔法を教えている。
「先ず、合成魔法はどういう物かって事が解らなければ意味が無い。クリス、解るか?」
「えと、2種類或いはそれ以上の種類の魔法を合成して放つ魔法。注意点として、複数の魔法を同時に唱えるダブルキャストと混同しない事・・・で良いのかなぁ?」
「正解。注意点に関してもそれで良い。ダブルキャストは正確に言うと魔法の種類ではなく、魔法を使う際の技術だからな。まぁこれを知っているなら、詳しい定義は言わなくても良いな。早速、実践に移ろうか。」
『はい!』
シオンの言葉に、二人同時に頷く。妙に息の合った返事にやや驚きながら、シオンは先ず自分が実践して見せた。
「これから俺が1つ合成例を見せる。それがどの魔法を合成したものか、そしてどのように術式を組み合わせているのかを、しっかりと把握するように。」
その台詞に、二人が頷く。それを見届けると、意識を集中し、魔法の使用体勢に入る。
「それじゃいくぞ?・・・アイシクル・ストーム!」
シオンの両手から無数の氷の槍が生まれ、勢い良くローズレイクの湖面へ突き刺さる。
「さて、今のは何の合成魔法だ?」
「アイシクル・スピアと・・・ヴォーテックス・・・ですか?」
「正解。ンじゃ、構成は読み取れたか?」
『はい。』
再び声を揃えて返事をする。苦笑しつつ、シオンが言う。
「別にそんなに緊張しなくても良いんだが・・・。それじゃ、一人ずつやって貰うか。最初はクリスな。」
「うん。」
返事をしつつ、前に出るクリス。そして、精神を集中し始める。
「クリス、慣れない内はゆっくりとイメージを固めるんだ。焦る必要は無いからな。」
「あ、はい。・・・アイシクル・ストーム!」
クリスの両手に氷の礫が数個生まれ、それがあまり勢いがあるとは言えない速度で、ローズレイクの湖面にぶつかる。それを見て、シオンは頷きつつ言う。
「うん、まぁ最初はあんなもんだろう。ンじゃ次はシェリルな。」
「はい。」
やや自信無さげに前に出るシェリル。そして両手を前に出し、ゆっくりと意識を集中する。すると、傍目にも解るほど、強い魔力が集まっていく。
「ほぅ・・・。」
それを見て、思わず呟くシオン。それだけ、シェリルに集まる魔力は強かった。
「・・・いきます。アイシクル・ストーム!」
シェリルの両手から、シオンにも負けないほどの数の氷槍が、勢いをつけて湖面に突き刺さる。クリスは呆然とし、シオンも驚いている。
「え、あ、あれ・・・?」
どうやら、一番驚いているのは当の本人のようだ。訳がわからずにおろおろしている。
「・・・魔力が強いとは思っていたが、これほどとはな。」
「・・・凄いや・・・。」
シオン達は驚きから立ち直ったが、シェリルはまだ驚きから立ち直れない。それを見かねたシオンは、トリーシャを呼んだ。
「お〜いトリーシャ、ちょっと来てくれ。」
「何、シオンさん?」
呼ばれて直ぐに駆け寄るトリーシャに、シェリルを無言で示す。そのシェリルは、まだあうあう言っている。
「あぁ成る程、ボクの必殺技、『トリーシャチョップ』の出番だね?」
そう言いつつ、トリップ状態のシェリルに近づく。そして・・・
「え〜いっ、現世回帰トリーシャチョップ!」

ポグゥッ!

「はぅっ!?・・・え、あれ?トリーシャちゃん?」
頭を叩かれ、我を取り戻すシェリル。それを見届けると、トリーシャはエスナの所に戻り、練習を再開した。
「全く、もうちょっと落ち着け。しかし、二人とも筋が良いじゃないか。この分なら、自分で合成の組み合わせを考えられるかな。良しこれからは自分で組み合わせを考えるように。なに、先程の合成と基本は変わらないから。」
無責任とも思える発言だが、クリス達は素直に従い、構成を考え始める。ちょっと考えた後、シェリルが尋ねる。
「あの、シオンさん?コツとかってありますか?」
「コツ・・・ねぇ。取り敢えず、属性が反発する魔法同士の組み合わせは止めておく事。出来ない事は無いが、制御が難しすぎるし、何より威力がありすぎて危険すぎる。それから、異なる種類の魔法は組み合わせられない。まぁこれは当然か。後は、只管試して慣れるしかないな。」
「そうですか・・・。」
シオンの返事を受け、再び思考に戻るシェリル。その横で、クリスは何かを思いついたようだ。
「シオン君、ちょっと見て貰えるかな?」
「ン?ああ、やってみ。」
「それじゃ。・・・クリムゾン・ストリーム!」
クリスの魔法の完成と共に、爆炎の嵐が吹き荒れる。やがて、それは空へと立ち昇り消えるが、辺りの様子を見るに、威力はかなりのもののようだ。
「ほう、これはカーマイン・スプレッドとヴォーテックスか。随分上手く合成できてるな。」
「良かった。自分でも良く出来たと思うってたんだ。」
シオンに褒められ、嬉しそうにするクリス。シェリルもそれに触発されたように、自分の構想を纏めに入っている。
「まぁこの分なら俺が見て無くても大丈夫だろぅ。俺はマリアの様子を見てくるから、何かあったら呼んでくれ。」
「うん。」
返事をし、練習を再開するクリス。そのクリスとシェリルの様子を見た後、少し離れた所で制御の訓練をしているマリアの所に向かった。

「あ、シオン。」
「如何だ、ちょっとは制御出来るようになったか?」
「当然よ。マリアに不可能は無いんだから☆」
「ほう、それじゃテストしてみるか。」
「任せてよ!」
シオンのテストと言う台詞にも自信満々に答えるマリア。それを見遣りながら、テスト内容を説明する。
「先ず、魔力で光球を作ってくれ。」
「OK。」
シオンの指示に従い、握り拳大の光球を生み出し、それを頭上に浮べる。
「それじゃ、少しずつ輝度を増していって。」
指示に従い、少しずつ供給する魔力を増やし、光を強くしていく。やがてかなりの眩しさを伴うようになった時、シオンが突然指示を下す。
「それじゃ最初の輝度に戻して。」
それに従い、すぐさま輝度を元に戻す。その間、魔力で作られている光球には、欠片の揺らぎも無かった。
「うん、大分制御力は上がったようだな。」
「えへへ☆もっと褒めて良いよ。」
「調子に乗るな。」
そう言いつつ、軽く小突く。そのまま、何かを考えるようにしていたが、やがてマリアに向けて言った。
「・・・まぁこれだけ出来れば上出来か。約束通り、魔法を教えてやる。」
「やったぁ☆それで、どんな魔法を教えてくれるの?」
「付加魔法。要するに、剣や鎧等の武具に、魔法の力を付与する魔法の事だな。」
「えぇ〜、そんな地味な魔法なのぉ?」
シオンの言葉に、不満そうに頬を膨らませるマリア。シオンはそれを無視して言葉を続ける。
「マリアは属性が偏ってるからな、合成魔法は向かないんだ。体質的に。偏った属性でも最大限使用可能なのが、付加魔法だ。まぁ確かに地味ではあるがな。文句があるなら教えんぞ。」
「ぶ〜☆解ったわよ。」
膨れながらも納得する。苦笑しつつ、シオンは魔法を教え始める。
「全く・・・。それじゃ教えるぞ。良いか、先ず・・・」

その日は、1日魔法を教える事に費やす事になったシオン。人に教えると言うのは結構気を遣うのか、ジョートショップに戻ってきた頃にはかなり疲労していた。
「ただいまぁ・・・。」
「お帰りなさい、シオン君。随分と疲れてるみたいね?直ぐ夕飯の用意をするわね。」
そう言って、台所に引っ込むアリサ。疲れてだれているシオンに、テディが尋ねる。
「如何だったっスか?皆さんの魔法は。」
「・・・あぁ、まぁクリス達は想像通りだな。シェリルの魔力の強さには驚いたが・・・。マリアも、制御力が付いてきたからな・・・鍛えればかなりのモノになるんじゃないか・・・。」
シオンの台詞に驚くテディ。それに苦笑しつつも、シオンも(驚くのも無理は無いよなぁ。何せあのマリアだし・・・)などと、かなり失礼な事を考えていた。

Episode:13・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。Episode:13、如何でしたでしょうか?
あまり出番の無かった魔法組のスキルアップのお話です。マリアの覚えた付加魔法に関しては、先の話までのお楽しみと言う事で・・・。
それでは、Episode:13でお会いしましょう。
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