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光と闇の交響曲Episode:14
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:14 少女の想いと招待状

「シオン君、ちょっと良いかしら?」
仕事を終え、戻ってきたシオンに、アリサが話し掛ける。
「はい?別に構いませんけど。」
「良かった。実はね、届け物をして貰いたいの。これなんだけど・・・。」
そう言って、アリサは二つの包みを示す。1つは大きな袋、もう1つはバスケットを布で包んだ物のようだ。
「これは?」
「こっちはフライドチキンで、こっちは古着よ。これを教会まで届けて貰いたいの。」
「良いですよ。それじゃ、早速行って来ますね。帰りに図書館に寄ってきますから、ちょっと遅くなると思います。」
「解ったわ。宜しくね、シオン君。」
荷物を抱え、シオンは店を出た。

「・・・この音、ピアノ・・・だよなぁ。でも、何処かで聞いた事があるような・・・。」
教会に着いた時、中から何かの音が聞こえてくる。その音を聞いて、怪訝そうな顔をする。何処かで聞いた事があるような気がするが、記憶が一致しないのだ。
「まぁ入ってみれば解るか。」
そう結論付け、教会の扉を開ける。未だ聞こえるピアノの奏者の邪魔をしないよう、ゆっくりと教会の中へと入り、人を探す。すると、神父がシオンに気付き、近づいてくる。
「おや、シオン君ではありませんか。如何したのですか?」
「ああ、神父さん。アリサさんから届け物に来たんだけど・・・。」
そう言いつつ、持ってきた荷物を掲げて見せる。
「おや、何時もすみませんね・・・。アリサさんにもお礼を申して置いてください。」
「ああ。・・・このピアノ、誰が弾いてるんだ?」
「シーラさんですよ。ほら、あそこで・・・。」
神父がピアノのある方をを指差す。其処では、沢山の子供達に囲まれながらピアノを弾くシーラの姿があった。
「・・・シーラのピアノにしては、随分と乱れた音色だな。」
「え?どうかしましたか、シオン君?」
「いや・・・。何でも無い。」
「お兄ちゃんっ!」
神父に返事をするシオンに、一人の少女−ローラが飛びついてくる。飛びつくと言っても、霊体であるローラは物に触れる事が出来ない為、その真似をしているだけであるが。
「ローラ、いきなり飛び掛ってくるなと言っているだろう?」
「良いじゃない、どうせ実際には触れないんだし。」
「そう言う問題じゃ・・・」
「そう言う問題なの。それより、今度デートしようよ。」
「何で俺がローラとデートなんてしなければならんのだ?」
「そんなの決まってるじゃない。私がしたいからよ。」
「お前な・・・。」
漫才一歩手前の掛け合いをローラとしているシオンの後ろから、控えめな声がかけられる。
「あの、シオン君?」
「え・・・?あぁシーラか。演奏はもう終ったのか?」
「うん。あ、そうだ。あのね・・・」
「あ〜、シオン兄ちゃんだ!」
「ホントだ、シオンお兄ちゃん。」
「お兄ちゃん、遊ぼう?」
シオンに何かを言いかけたシーラだが、その声はシオンを見つけた子供の声にかき消されてしまった。
「こらこら、あまりシオン君を困らせる物ではありませんよ。」
「・・・別に構わないんだけどね。でも、遊ぶよりいい物を貰ってきたぞ。」
走ってきた子供達に囲まれて、苦笑混じりに言うシオン。良い物、と言う台詞に、子供達が反応する。それを見て、視線で神父を促す。
「皆さん、アリサさんからフライドチキンの差し入れを貰いました。食堂で頂きましょうか。」
『は〜い。』
神父の台詞に、子供たちは一斉に返事をする。そして、食堂の方へと移動していった。
「お兄ちゃんは?一緒に食べて行かないの?」
「俺は、これから行くところがあるからな。シーラは?」
「え?あ、私はもう帰ろうかと・・・。」
話を遮られた事でちょっと落ち込んでいた所に、突然話を振られて焦るシーラ。不思議そうな顔をしつつ、シオンが言う。
「それなら、家まで送ろう。そろそろ、女性の一人歩きは危険な時間帯だからな。」
「え、でも用事があるんじゃ・・・?」
「別にいいさ。急ぐ用でもないからな。」
遠慮するシーラに、微笑しつつ言う。それならば、とシーラも受け入れた。
「それじゃ神父さん、俺は此処で失礼するよ。ローラ、またな。」
「神父様、ローラちゃん、失礼しますね。」
「ええ、また何時でもいらしてください。」
「じゃぁねぇ〜、シーラさん、お兄ちゃん。」
挨拶を返すローラ達に見送られて、シオンとシーラは教会を後にした。

「それにしても、シーラは良く教会に行くのか?」
シーラを家まで送り届ける道すがら、シオンがシーラに尋ねる。
「え?ううん、そんなに頻繁に行く訳じゃないわ。本当に偶に、よ。」
「そうなのか。それにしては、子供達に懐かれてるみたいじゃないか。」
「あら、それならシオン君だってそうじゃない。」
「ああ、俺はアリサさんの届け物とかで、良く顔を出すからな・・・。」
何気ない会話だが、シーラは驚いていた。男性が苦手な自分が、こうも自然に話せる事に、である。
「ローラちゃんにも、好かれているのね?」
そう言った瞬間、シーラは自分の胸が微かに痛むのを感じた。尤も、それがどういう意味を持つのかは、解らなかったが・・・。
「まぁローラも教会にいる以上、良く顔を会わせるからな。その所為だろう。」
そんなシーラの様子に気付くわけも無く、シオンはあっさりと言う。そんなシオンに、聞き辛そうにシーラが尋ねる。
「あの、シオン君?これから用事があると言っていたけれど、どんな用事なの?」
「ん?ああ、図書館にちょっとね。記憶に関する本が無いかどうか、イヴが探しておいてくれてるんだ。その結果を聞きに行くだけ。」
「記憶って・・・あ!」
その台詞に、シオンが一時期から以前の記憶を失っている事を思い出す。普段その手の事を気にしているような素振りは見せないが、やはり気になってはいたのだろう。ちょっと気まずそうにしながら、シーラは尋ねた。
「あの・・・私も御一緒して良いかな?」
「あ?あぁ別に構わないけど・・・。時間は大丈夫なのか?」
「うん、それは大丈夫。それに、今日はパパもママもいないから・・・。」
最後の台詞はやや寂しげであったが、シオンは敢えて気付かない振りをした。家庭の内情に、他人が口を挟むべきでは無い、と言うのがシオンの考えだからだ。だから、口に出してはこう言っただけだった。
「それじゃ、行こうか。」
「・・・うん。」
先程より、少しだけ歩調を速めて、二人は図書館へと向かった。

図書館に着いたシオンは、早速司書のイヴを探して辺りを見回すが、それらしき人影は無い。シーラも一緒に探すが、その瞳は好奇心が見え隠れしている。それに気付いたシオンが、視線でイヴを探しながらも尋ねた。
「・・・珍しいか?図書館。」
「え?うん・・・。私、こういう所ってあまり来ないから・・・。」
「本とかはあまり読まない?」
「ううん、そんな事は無いんだけど。ただ、パパが読書好きで、家には沢山の本があるの。だから、大抵の場合はそれで用足りてしまうから。」
「成る程ね。・・・っと、いた。」
そう言ったシオンの視線の先、談話室にイヴはいた。どうやら、其処に放置されている本の片づけをしているようだ。
「よう、イヴ。」
「あら、シオンさん。それにシーラさんも。ちょっと待って、今この本を片付けてしまうから。」
「手伝うよ。幾らなんでも一人じゃ大変だろう?」
「あ、私も手伝うわ。」
「有難う。それじゃ、本の後ろに張ってある番号札と同じ棚に戻して貰えるかしら?」
「解った。」
「はい。」
返事をしつつ、本を棚に戻していく。30分程もすると、談話室に残されていた本は全て片付けられていた。
「有難う、礼を言うわ。それにしても、シオンさんは随分と手馴れているのね。」
「ホントね。もしかして、こう言う事やった事があるの?」
「いや、そう言う訳じゃないんだけどな。まぁそれは良いとして、イヴ、頼んでおいた本はあったか?」
何となく照れ臭いシオンは、本来の用事に話を移す。尋ねられ、イヴはホンの僅かに考え込むが、直ぐに思い至ったのか、返事を返す。
「・・・あぁ、記憶に関する本ね?2冊ほど見つかったわ。ちょっと待っていて、直ぐに持ってくるから。」
そう言って、イヴは談話室を出て行く。二人になったシオンは、何とはなしに周りを見て、ある物を見つける。それは、この街で行われる、音楽コンクール開催のお知らせだった。そして、其処の出演者名に、シーラの名前が載っているのだ。
「なぁシーラ?アレに名前が載ってるが・・・?」
「え?あぁ、実はね、私今度この街で開催される、コンクールの出演者に選ばれたの。ローレンシュタインから高名な先生方もいらっしゃる、とても大きなものでね。これに選ばれるって言う事は、とても名誉な事なの。」
「へぇ・・・。良かったじゃないか。」
「うん。それでね、シオン君に話が・・・」
シーラが其処まで言った時、談話室にイヴが入ってくる。その手には、2冊の本を持っていた。
「お待たせ。この図書館に現在ある記憶関係の本はこれだけね。手続きはしてあるから、そのまま持って帰って結構よ。」
「そうか。悪いな、手間をかけて。」
「礼には及ばないわ。此方も色々とお世話になっているのだから。それでは、私は仕事が残っているから、これで失礼するわ。」
「ああ。ホントにありがとな。」
イヴが持ってきた本を受け取り、立ち去るイヴに礼をする。そんなシオンを、話を中断されたシーラは少し寂しそうに見ていた。
「それじゃ、帰ろうか?」
「・・・え?あ、うん、そうね・・・。」
ちょっと慌てながら返事をするシーラの態度に、怪訝な物を感じながらも、シオンは談話室を出る。シーラもそれに続きながら、シオンに再び話し掛ける。
「あの、シオン君。」
「ん?・・・あぁ、そう言えば何か言いかけてたな。何だ?」
「実はね、これなんだけど・・・。」
そう言ってシーラが差し出したのは、一通の封筒だった。それを受け取りつつ、質問するシオン。
「これは?」
「今度のコンクールの招待状なの。シオン君に貰ってほしくて・・・。」
精一杯の想いを込めて言うシーラ。だが、シオンの返答は意外なものだった。
「・・・悪いんだけど、これは受け取れないよ。」
「え・・・?」
「俺は確実に行けるとは限らないし・・・。どうせだったら、確実に行けて、俺なんかより音楽の好きな人にあげた方が良いと思う。」
シオンの言葉は、完全に善意から出た物である。それだけに、質が悪かった。そのような物言いをされては、シーラも強くは出れないのだ。
「そうだな・・・そう言えば、シェリルが音楽に興味があるって言ってたし、彼女に聞いてみようか?」
そんなシーラの心情など知りようも無いシオンは、何気なく言う。だが、シオンがシェリルの名前を出した瞬間、シーラは先程ローラの事を話したときと同じ、いやそれ以上の胸の痛みを覚えた。そして、その痛みはシーラの心の張り詰めた糸を切ってしまう。自分の意識がブラックアウトしていくのを、シーラは人事のように感じていた・・・。
「明日にでも話して・・・って、シーラ!?」
シオンにしてみれば、いきなり倒れたように見えるシーラを抱きかかえる。心音を確認し、正常に動いている事を確認する。
「・・・心音は正常か・・・。イヴ、ちょっと魔法を使うぞ?」
「ええ、それは構わないけど。」
カウンターからも見えたのか、近づいてきたイヴに一応の確認を取る。
「それじゃ・・・シーン・クラビア!」
魔法を唱え、シオンの姿が消える。後に残されたイヴは、何がなんだか解らずに呆然としていた。

クラウド医院に転移したシオンは、早速トーヤに診て貰う。そして、診察が終えたのかトーヤが病室から出てきた。それを見計らったかのように、医院にシェフィールド家のメイドのジュディが駆け込んでくる。
「トーヤ様、お嬢様の容態は!?」
「精神的な疲労による一時的な失神だけで、怪我その他は何の心配も無い。目が覚めればそのまま帰宅して結構だ。」
「良かった・・・。」
トーヤの説明に、心からホッとしたような表情を見せるジュディ。シオンもあまり表情を変えてはいないが、ホッとしていた。そうこうしている内に、寝室からシーラが出てくる。
「あ、お嬢様。大丈夫ですか?」
「ジュディ、来てくれたの?有難う・・・。大丈夫よ、ちょっと疲れただけだから・・・。」
「すまないな、シーラ。一緒に居ながら気付いてやれなくて。」
「そんな、シオン君は悪くないわ。私の方こそ御免なさい、迷惑をかけて・・・。」
申し訳無さそうに謝るシオンに、これまた申し訳無さそうに謝るシーラ。そんな二人の様子を見ていたジュディが、突然声を上げた。
「そうですわ!お嬢様、私先に戻って御夕飯の準備をしていますね。シオン様、シーラ様を家まで送って頂けないでしょう?」
「ああ、それは勿論だ。」
「そうですか、有難う御座います。それでは、お嬢様、私は先に帰っておりますので。」
「あ、ジュディ!?」
呼び止めるシーラの声を無視し、さっさと帰ってしまうジュディ。いきなりの展開に、シオンもシーラもちょっと驚いている。
「ほれ、お前等も遅くならないうちに帰れ。」
「あ、あぁそうだな。帰ろうか?」
「う、うん・・・。あの、ドクター、お世話になりました・・・。」
トーヤに促され、シオン達も医院を出て行く。二人が出て行った後、トーヤは一人呟いていた。
「やれやれ・・・どんな名医も、恋の病は治せないとは良く言ったものだ・・・。」

二人で歩いている時、シオンがふと思いついたように言う。
「なぁシーラ、良いものを見せてやろうか?」
「え?」
「この時間なら、見れるだろ・・・。」
そう言って、シオンはさっさと歩き出す。シーラも慌ててその後を追った。

「此処・・・エレイン橋?」
「ああ。橋の脇から下を見てみな。」
エレイン橋に着いた後、シオンに言われるままに橋の下を覗いたシーラは、其処で淡く光を放つ何かを見つけた。
「わぁ・・・綺麗・・・。シオン君、これは?」
「月光魚。これ位の時間になると、月の光を反射して、まるで魚自体が光っているように見えるんだ。」
「へぇ・・・。」
シオンの説明を聞きながらも、幻想的な光景から目を離せないシーラ。そんなシーラの様子を見ながら、シオンは話し始める。
「・・・これは話そうかどうか迷ってたんだがな・・・。シーラ、今何か悩み事があるだろう?」
「・・・え?どうして・・・」
「ピアノの音。教会で弾いてたよな?あの時、音が酷く乱れてるように感じた。」
「・・・そっか・・・やっぱり解っちゃうかな・・・。私、コンクールに出る事は話したわよね?そのコンクールの課題曲が、どうしても上手く弾けないの。それで、ピアノの講師の方にも注意されて・・・。今日教会に行ったのだって、その練習の気分転換になればと思ったからなの。」
その場の雰囲気ゆえか、普段なら人には話さないような事まで話すシーラ。それを聞いて、シオンは何かが納得いったように頷く。
「それで解った。シーラが悩んでる理由。」
「え?」
「シーラは今、義務感だけでピアノを弾いている。だから気持ちも集中できないし、弾いたとしてもその音は酷く乱れた物になってしまう。」
「義務感、だけ・・・?」
シオンの言葉に、不安そうに聞き返すシーラ。シオンは言葉を続ける。
「今までのシーラは、理由はどうであれ、自分の意志でピアノを弾いていた。違うか?」
シオンの言葉に、無言で頷く。それを見て、更に言葉を続けるシオン。
「ところが、大きなコンクールに出演するという事で、シーラは上手く弾かなければならない、と言う義務感に支配されてしまっている。例え自覚していなくても、今のシーラにとってピアノを弾く事は苦痛でしかないはず。弾いてて苦痛を感じるような事が、上手くいく筈が無い。」
その言葉に、はっとしたような表情をするシーラ。それは、今まで自分の心の中で蟠っていたものが、はっきりと認識できた瞬間だった。
「無責任な言い方かも知れないが、シーラが義務感を感じる必要なんか無いんじゃないか?シーラは、弾きたいからピアノを弾いているんだろう?なら、それで良いじゃないか。コンクールも何も関係無い、シーラのやりたいようにやれば良い。」
シオンの言葉で、シーラの心の中にあった蟠りが消えていく。どこか晴れ晴れとした表情で、シーラが言う。
「・・・コンクールの課題曲の1つにね、『月光』という曲があるの。」
「うん。」
「私ね、その曲を、心から弾きたいと思ったわ。・・・不思議ね、今ならどんな曲でも上手に弾けるような気がするの。さっきまでは、凄く息苦しかったのに・・・。」
「そうか。少しは役に立てたかな?」
「少しだなんて・・・。ありがとう、シオン君。」
頬を赤らめながら、礼を言うシーラ。ちょっと照れ臭そうにするシオンだが、ふと思いついたように言う。
「そう言えば、シーラ、招待状くれるって言ったよな?」
「うん、言ったけど・・・。」
「今更で悪いが、それ、貰えるかな?」
「え・・・貰って・・・くれるの?」
恐る恐るといった表情で尋ねるシーラ。そんなシーラの様子に、ばつが悪そうにしながらシオンが言う。
「いや、ホントは自費で見に行こうかと思ったんだけどな・・・。どうも、自費でチケットを買うだけの余裕は無さそうだから。」
そのシオンの言葉に意表をつかれたような表情をするシーラだが、直ぐに微かな笑みと共に、招待状の入った封筒を差し出した。
「クスクス・・・はい、どうぞ。」
「ありがとう。絶対に見に行くから。」
「うん、絶対に来てね?」
その後、二人は他愛も無い話をしながら、帰路へと着いた。
(私の気持ちには気付いて貰えなかったけど・・・でも、良いよね?今はまだ、解って貰えなくても・・・こんなにも、気遣って貰えているのだから・・・。)
二人で歩いている中、シーラはそんな事を考えていた。

Episode:14・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。Episode:14はシーラのお話です。
他の話に比べて長くなってしまいました・・・。
因みに、私は悠久キャラの中ではシーラが一番好きです。尤も、最後にシオンとくっつくかどうかは、未だ未定ですが。
それでは、Episode:15でお会いしましょう。
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