中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:15
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:15 少年の咆哮

その日、クラウド医院は非常に忙しかった。
「シオン、そっちの薬を取ってくれ!」
「解った。・・・っとこれだな?」
「そうだ。・・・よし、これでいいだろう。次の患者を呼んでくれ!」
「先生、また患者が増えました!」
「順番は変えられん!待合室に居るよう伝えてくれ!」
「トーヤ、もう薬が少ないぞ、如何する!?」
「今ディアーナが自警団に薬を受け取りにいっている。もう戻ってくるはずだ!」
そんな怒号が飛び交う。見渡す限りの病人に、トーヤ一人では捌き切れず、シオン達ジョートショップのメンバーも何人か手伝いに来ていた。

この日、何故か突然風邪が大流行し、朝から医院には患者が押し寄せていたのだ。突然風邪が蔓延した理由は不明。誰かの魔法の後遺症だとか、ショート科学研究所の実験の所為だ、等という論はあるが、どれも決定的な証拠は無い。それ故、今は増え続ける患者を捌き続ける事しか出来る事は無いのだ。しかも、どの患者も症状が重く、診察には時間がかかるため、患者は増える一方だった。
「・・・しかし、何だって急に風邪がひろまったんだ?」
「解らんな。推論だけなら幾らでも立てられるが・・・良し、これで良い。次の患者を呼んでくれ。」
「ハイ。次の方、どうぞ〜。」
会話を交わしながらも、シオンもトーヤも手は止めなかった。と、其処に両手に薬を持ったリイムが入ってくる。
「ドクター、ディアーナさんから薬を受け取ってきました。」
「リイムか、スマンな。其処に置いておいてくれ。・・・ディアーナは如何した?」
「何でも、量が多くて一度では運び切れないので、もう一度いってくるそうです。」
「そうか。」
会話の合間にも、患者の様子を確認し、薬を調合する。そして、それを服用方法を説明しながら患者に渡す。この一連の動作が、休む事無く続いていく。流石は名医と称されるだけの事はあるといえる。
「それにしても、何だって自警団の事務所に、アレだけの風邪薬が備蓄されてるんだ?」
「ああ、何でも、野外演習や遠征なんかで使うらしいよ。・・・っと、これで良いかな。」
トーヤの支持で、薬草から風邪薬を調合していくシオンとリイム。何故この二人がこんな事を出来るのかは謎であるが、その腕は確かなようだ。
「すいませ〜ん、最後尾は此方になっております。」
「順番を守って・・・薬は未だ残ってるからな。」
「ほらそこ、割り込みするんじゃない!」
医院の外では、中に入りきれない病人の整理を、エスナとアレフ、リサが行っている。それでも、割り込み等を行おうとする者はいるようだ。
「スマンな、シオン。お前達も其々の仕事があるだろうに。」
「気にするなって。こんな状態じゃ、仕事なんて無いさ。」
外の声を聞き、若干申し訳無さそうに言うトーヤに、シオンは言う。その顔は、本心からそう思っている物だ。それ故、トーヤもそれ以上は言わなかった。

それから2時間ほどが過ぎ、やっと患者も医院内の十数人程度まで減って来た頃、メロディが飛び込んできた。
「ふみゃぁー、シオンちゃん、トーヤちゃん、大変なのぉー!」
「如何したんだ、メロディ?」
「あのねあのね、アリサちゃんが・・・」
「アリサさんがどうかしたのか?」
シオンの質問にメロディが答えようとしたとき、グッタリした様子のアリサを背負ってピートが医院内に飛び込んでくる。
「大変だよ、ドクター!アリサおばちゃんが、意識を失って目を覚まさないんだ!」
「何だと!?・・・くっ、他にも患者は居るというのに・・・。」
そう舌打ち混じりに呟いたトーヤに、医院内の患者たちが言う。
「あの、トーヤ先生。わし等は後でも構いませんよ。」
「そうだよ、アリサさんは意識を失ってるんでしょう?ならそっちを優先させた方が・・・」
「・・・すみません。ピート、アリサさんを病室に運んでくれ。」
「解った!」
病室のベッドに横に寝かされたアリサの顔色は、傍目にも解るほど悪い物だった。
「・・・ふむ。症状としては、他の患者と同じ風邪だな。」
「でも、何で意識を失うんだよ!?」
「落ち着けピート。・・・恐らく、普段の疲れが一気に出たんだろう。体力そのものは、暫く寝ていれば戻る。しかし、厄介なのは・・・」
「厄介なのは?」
「今現在、アリサさんは非常に抵抗力の弱まっている状態だ。こんな状態では、風邪といえど危険である事に変わりは無い!最悪、他の病気を併発してしまう可能性もある、早目に投薬せんと・・・!」
トーヤの言葉に、愕然とするピート。その声は、病室の外で患者の対応に当っていたシオン達にも聞こえてきた。
「トーヤ、どの薬を出すんだ!?」
「・・・この症状なら・・・右側の棚の一番上にある錠剤だ。緑色のビンに入っている。」
「・・・っておい、このビンの中、空だぞ!?」
「他にどの薬が残っている!?」
シオンの返事を聞き、嫌な予感に駆られながらも、尋ねるトーヤ。シオンの返事は、あまりにも絶望的なものだった。
「ダメだ、風邪薬の類はどれも残ってない!」
「ディアーナは如何した!?未だ戻ってないのか?」
「未だ帰ってきてないよ。如何する!?」
「俺、ちょっと様子を見てくるよ!」
シオン達の会話を聞いていたピートは、そう言いながら医院を飛び出していく。そして、5分と経たずに帰ってくる。その後ろには、疲弊しきったディアーナの姿もある。
「ディアーナ、薬は如何した!?」
「そ、・・・それが・・・はぁ、はぁ、・・・残っていた薬が、誰かに盗まれたとかで・・・」
「なっ!?」
ディアーナの台詞に、愕然とする一同。薬が無いという事は、アリサを救う手立てが無い事を示している。
「如何する、トーヤ?」
「・・・仕方が無い、シオン、スマンが雷鳴山まで行って貰えるか?」
「雷鳴山?」
「ああ。雷鳴山の頂上付近に薬の原料となる薬草がある。それを取ってきてくれ。」
そう言いつつ、デスクの引出しからファイルに挟まれた一枚の葉っぱを取り出す。それをシオンに渡しながら、説明する。
「それが原料となる薬草だ。この患者の人数なら、30枚ほどもあれば足りるだろう。」
「解った。リイム、それからピートとメロディも来てくれ。」
「了解した。」
「急ごうぜ!」
「解ったのぉ。」
走り出したシオンを追うように、リイム達も走り出す。余程速く走っているのか、もう既に姿が見えなくなっている。
「・・・間に合ってくれるといいが・・・。」
そんなトーヤの呟きは、誰に聞かれる事無く消えていった。

雷鳴山に到着した一行は、足元に気をつけながらも、頂上目指して急いでいた。
「なぁ、シオンの魔法とかで、おばちゃんの風邪治せないのか?」
「無理だな。魔法で治す事が出来るのは怪我だけだ。・・・魔法も万能じゃないんだよ。」
道すがら、ピートの問いに答えるシオンの表情は硬い。焦っている証拠だ。それはリイムも同じ様で、普段は穏やかな笑みを浮べている事の多いその顔には、厳しい表情が浮かんでいる。メロディも彼女にしては珍しいくらい硬い表情だ。
そんな状態だからか、普段なら余裕で気付いていたであろう敵の気配を、シオン達の誰一人として感じ取れなかった。
「ぐるぅあぁっ!!」
「!」
横合いから飛び出してきたオーガの爪を、飛び退きながらかわすシオン。その攻撃で、シオンは周りを完全に囲まれている事に気付いた。
「・・・この忙しい時に!」
「如何する!?」
「・・・ピート、メロディ、お前等先に行け。」
「え、でも、シオン達は如何するんだよ!?」
「俺達は大丈夫。今は一分でも時間が惜しいんだ。今から連中の囲いに穴をあける、其処から一気に抜け出せ!」
そう言うと、リイムと共に剣を構えるシオン。ピート達は何か言いそうになるが、直ぐに気を取り直す。時間が無いのは確かなのだ。
「いくぞ・・・神魔封滅流・斬式・・・奥義・魔神烈風斬!」
振り払われた剣から生じた巨大な衝撃波の塊が、頂上へと至る道を塞いでいた4体のオーガを纏めて薙ぎ払う。その隙に、ピート達はオーガの囲いを突破した。
「直ぐに戻ってくるからなぁ!」
「戻ってくるのぉ!」
走り去るピート達の声を聞きながら、シオン達はオーガの群れに向き直る。
「さて・・・どれ位で潰しきれるかな?」
「・・・この程度の数なら、5分もあれば。でも、大丈夫なのかい?」
「何が?」
「薬草の種類。シオン、見本を渡してないだろう?」
「ああ、それなら大丈夫。メロディが一緒だからな。」
「?・・・まぁ君がそう言うなら、大丈夫なんだろうね・・・。それじゃ、行こうか!」
「ああ!」
声を掛け合い、二人はオーガの群れに飛び込んでいった。

一方、オーガの囲みを抜けた二人は、頂上付近に辿り着いていた。
「えと・・・どんな感じの葉っぱだったっけ?」
「メロディ覚えてるの。えっとねぇ・・・。」
ピートに答えつつ、周りを見渡す。と、一点でその視線が止まった。
「あ、あったのぉ〜!」
そんなメロディの視線の先では、確かに見本どおりの薬草が群生している。
「でかした、メロディ!」
そう言いつつ、薬草の群生地に近づこうとするピート。と、その時、茂みの中から一匹のオーガが飛び出してくる。
「があぁぁっ!!」
「ピートちゃん、危ないのぉ!」
ピートの後ろにいたメロディが、飛び出しながらオーガに飛び蹴りを喰らわせる。丁度カウンター気味に決まった蹴りは、オーガを容易く吹っ飛ばす。吹っ飛ばされたオーガは巨木にぶつかり、完全に絶命したようだ。
「・・・お〜、すげぇじゃんメロディ。」
「ふみぃ、メロディつよ〜い。」
ピートに褒められ、嬉しそうにするメロディ。気を取り直して薬草を摘もうとした時、オーガがぶつかった巨木が折れ、薬草の群生地に向かって倒れこんできた!
「や、ヤバイ!!」
咄嗟に飛び出すピート。当然、考えなんかある訳も無い。

ガシィッ!!

大きな音を立てて、何とか木を支えるピート。幾ら力持ちとは言え、小柄なピートには幾らなんでもきつ過ぎる。慌ててメロディも加勢するが、それ程力の強くないメロディでは、あまり意味は無かった。
「め、メロディ・・・俺が何とか支えてるから、その間に薬草を摘めるか?」
「ふみぃ・・・ダメだよぉ・・・」
メロディが言う通り、丁度群生地に木が倒れかかっている状態な為、木を退かさないと摘むことは出来ない状態なのだ。
必死になって木を支える二人。だが、じりじりと木が下がってきている。体力が限界に近づいているのだ。シオン達が来る気配も無い。もうダメかと思った瞬間、ピートの脳裏に、苦しむアリサの姿が鮮明に映し出される。それと同時に、トーヤの(この状態では、風邪と言えど危険である事に変わりは無い!)と言う台詞も思い出す。
「・・・こんな、こんな所でぇぇっ・・・」
「ふみぃ?ピートちゃん?」
ピートの呟きを聞いたメロディが声をかけるが、ピートはそれも聞こえないほど集中していた。そして、自信の中から不思議なほど力が湧き出してくるのも。
「こんな所で、立ち止まって・・・いられないんだぁっ!!」
叫びと共に、木を押し返す。僅かとは言え、持ち上がる木を見て、メロディは目を丸くしていた。
「ピートちゃん、すご〜い・・・。よ〜し、メロディも頑張るの〜!」
ピートに触発されるかのように、メロディも気力を振り絞って木を押し返す。ピートほど爆発的な力は無いものの、それでも僅かずつ押し返していく。
だが、此処で体力の限界がきてしまう。急激に力が抜ける二人。支えを失い、倒れる巨木が二人ごと薬草を押し潰そうしそうになった瞬間、ピートの中で何かが弾けた。
「ぐっ・・・があぁぁぁっ!!」
ピートの口から、咆哮が迸る。そして、これまで支える事さえやっとだった巨木を、勢い良く投げ飛ばしてしまう。そのまま、ピートは気を失ってしまった。
メロディが呆然としている内に、下でオーガの群れを全滅させたシオンとリイムが駆け上がってくる。
「二人とも、大丈夫か!?」
「今、何だか物凄い音がしたけど・・・。」
「あ、シオンちゃん、リイムちゃん。」
「メロディ、如何した・・・って、ピート!?」
「何があったんだい?」
気絶しているピートを見て驚く二人。メロディはそんな二人に一部始終を説明した。
「・・・信じられん。こんなに太い木を一人で投げ飛ばすなんて・・・。」
折れ残っている木を見て、呟くシオン。それでも、実際に此処に折れた部分が無い以上、信じるしかないだろう。大体、メロディはそんな嘘をつくような娘ではない。
「兎に角、薬草を摘んで早く戻ろう。ピートは俺が背負うから。」
そう言って、気絶したピートを背負うシオン。リイムとメロディが薬草を摘み、それを持って来た鞄に詰め込む。
「よし、それじゃ近寄ってくれ。・・・シーン・クラビア!」
指定された枚数分詰め込んだ事を確認すると、シオンは転移の魔法を唱える。一瞬後、4人の姿は医院の目の前に転移していた。

「・・・便利な物だね、転移の魔法って。」
「んな事言ってる場合じゃないだろう?メロディ、扉を開けてくれ。」
「うん、解ったのぉ。」
ピートを背負っているシオンと、鞄を抱えているリイムに代わってメロディが医院の扉を開ける。中では、薬が無い為帰るに帰れない患者達と、トーヤが待ち構えていた。
「戻ってきたか。薬草は?」
「この鞄の中に。」
「良し、早速調合にかかろう。シオン達も疲れているだろうが、手伝ってくれ。」
「解りました。」
「それはいいんだが、その前に1個ベッドを貸してくれ。ピートを寝かせたい。」
そう言って、背負っているピートを示す。気を失ったピートなんて想像外だったのか、一瞬呆気に取られるトーヤだが、直ぐに気を取り直し指示を出す。
「・・・あ、ああそうだな。其方のベッドを使ってくれ。寝かしたら此方の部屋で調合を手伝ってくれよ。」
そう言って、奥の部屋に入っていくトーヤ。ピートを寝かしたシオンとリイムは、メロディにピートを見ているように言って、トーヤの待っている部屋に向かった。

「う・・・」
暫くして、ピートが目を覚ます。眩しさに細められたその目に、優しく微笑むアリサの顔が映った。
「お、おばちゃん!?」
「ダメよピート君、そんな急に起き上がっちゃぁ。」
アリサに諭され、またベッドに横になるピート。布団から顔を出して、アリサに尋ねる。
「おばちゃん、もう大丈夫なのか?」
「ええ。貴方が一生懸命に薬草を守ってくれた御蔭よ。ありがとう。」
敬愛するアリサに礼を言われ、真っ赤になって照れるピート。二人の間に、和やかな雰囲気が流れる。二人は、暫く他愛も無い会話を楽しんでいた。

「ピートがそんな事を?」
「ああ。」
ピートが寝ていた部屋とは別の部屋で、シオンとトーヤが何事かを話している。
「如何思う?」
「・・・お前は如何思うんだ?」
質問を質問で返され、一瞬言葉に詰まるが、シオンはやがて答えを返す。
「・・・人狼。」
「!?何故そう思う?」
「これが、ピートの体に付着していた。何処にも黄金色の毛を持つ動物なんて周囲には居なかったのに、だ。そもそも、こんな体毛を持つものなんて、人狼位しか思いつかない。」
黄金色に輝く一本の体毛を差し出しつつ、シオンはそう言う。
「・・・確かにな。だが、それだけでピートがそうだとは言い切れまい?」
「とは言え、可能性がある事は確かだ。元々体格に不釣合いな力を持っていた事に加え、今回の爆発的な力、そしてこの体毛・・・。気を配っておいて損は無い筈だ。」
「確かに。とは言え、あまり他人に言える話ではないな。」
「だからトーヤに話したんだ。貴方なら、その手の事にも詳しいだろう?」
からかうように言うシオン。言われたトーヤは微かに顔をしかめる。
「・・・獣医学は専門外なんだが・・・。いや、その前に、人狼は獣医学に含まれるのか、それとも普通の医学に含まれるのか・・・?」
「・・・ははは・・・。まぁ兎に角、この事は俺達だけで考えておこう。下手をすると、ピートへの言われ無き暴力に発展しかねないからな。」
「・・・む、そうだな・・・。」
二人はそんな会話をしている中、もう帰ると報告にきたアリサとピートと一緒に、シオンは帰っていった。
「人狼・・・か。ここの所、問題ばかり発生しているな・・・。突然の風邪の大流行と言い・・・この街に何が起こっている・・・?」
そんなトーヤの呟きは、答えを得る事も出来ないまま、宙に消えていった・・・。

Episode:15・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。今回は今まで出番の少なかった、ピートのお話です。
ピートの正体発覚への布石ですね。ゲームとは展開がかなり違いますが・・・。
それでは、Episode:16でお会いしましょう。
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