中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:19
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:19 生誕の祝福を君に〜激闘編〜

リイムは一人ドラゴンに相対している。7匹のファイアードラゴンの中では、最も体格の良いものを相手に選んだようだ。
「さて・・・幾ら火竜種の中では最下級に位置するファイアードラゴンとは言え、手を抜いている余裕は無いか・・・。」
呟き、剣を抜き放つ。その剣を眼前に構え、呪文を唱え始める。
「我、汝と契約を結びし者なり。我が血、我が魂を持ちて為されし契約の名の下に・・・雷光の刃よ、その真なる力を解き放て!ライトニングロード!!」
ライトニングロード−剣の名を鍵と為し、剣にかけられた封印を解き放つ。其処に存在していた刃は砕け散り、生み出された雷光が刃を形成する。それこそが、雷神の加護を受けた聖剣の真の姿だった。
「行くよ・・・。リゼリア流聖剣技・・・聖牙・流水!」
流れるように繰り出される連撃が、ドラゴンの体を捕らえる。
『グガァァァッ!!』
苦悶の叫びを上げながら、それでも火炎のブレスで反撃するドラゴン。そのブレスを軽やかにかわし、剣に気を込める。
「悪いけど、止めを刺させて貰うよ。雷華光舞・崩爆!!」
雷の刃に気を込めたままドラゴンに突き刺す。直後、刃に込めた気と雷の魔力とが、ドラゴンの体内で爆発を起こす。その爆発は、ドラゴンを跡形も無く吹き飛ばすほどの威力を持っていた。爆発が収まった後、未だ雷光の刃を形成したままの聖剣を鞘に収めながら、周囲を見渡した。
「ふぅ・・・。さて、他のメンバーはどうなっているかな?」

此方はエリス。リイムと同じ様に一人でドラゴンに相対している。
『ガアアァァッ!!』
吐き出される炎の吐息をかわしながら、自分の戦い方を考える。
「・・・ドラゴンの生命力に、生半可な魔法は意味ないですよね。ならばっ!」
ドラゴンと距離を取り、両手に握った杖を頭上に掲げた。
「月の女神の祝福を受けし杖よ、我が呼び声に答え、その力を我に与えよ!」
エスナが呪文を唱え終わると、魔杖ルナティックジェネレーターの先端部に付けられた三日月を象った宝珠が輝きを放ち、エスナの体を包み込む。やがて光が収まったとき、エスナの魔力は大幅に上昇していた。満月の時にのみ起こる魔力の肥大化現象−ルナティック・ハイ−を人為的に引き起こしたのだ。
「輝ける光を司りし精霊アスカ、根源たる物質を司りし精霊オリジンよ・・・我が身、我が力を触媒と為し、汝等が力、一つと為りて我が敵を滅ぼさん・・・レイ・ヴァース!!」
突き出された両手から爆発的な光が生まれ、やがてそれが閃光の槍と為りてドラゴンを貫く。オリジンの力で威力を増した槍はドラゴンの心臓部を容易く撃ち抜き、アスカの力で生み出された光は、炎を上回る熱量を持ってドラゴンを内側から焼き払った。心臓を貫かれたうえに体内を焼かれたドラゴンは、あっさりと絶命した。
「久しぶりに使うと疲れますね、これ・・・。えと、他の皆さんは?」

「さ〜て、どうやって料理する?」
「・・・出来れば一撃で片を付けたいな。アルベルト、少し時間を稼いでくれ。」
「OK!」
蒼司とアルベルトの自警団組は、アルベルトが囮で蒼司が止め、と言う形を取るようだ。
「行くぜっ!ジ・エンド・オブ・スレッド!!」
ドラゴンに突進し、いきなり大技をぶちかます。爆発的な威力を秘めた一撃は、必殺とまでは行かないまでも、その動きを鈍らせるには十分過ぎるほどの傷を与えていた。
「やれやれ、いきなり覚醒技をかますかよ・・・。さて、こっちも行くとするか。」
アルベルトの相変わらずの猪突振りに苦笑しつつ、腰に佩いた刀のつばに埋め込まれた宝珠に手を添える。
「我、守部たる守代、剣部たる神代の当主たるその名に於いて・・・妖刀不知火よ、汝を束縛せし鎖を解き放たん!」
呪文を唱えながら、刀を抜き放つ。宝珠が光ったと思った瞬間、刀が変化し始める。刃は真紅に染まり、身の丈の2倍近い長さになる。つばや柄等は、禍々しい装飾を施されたものへと変化していた。
「アルベルト、避けろよ!蒼輝真刀流・妖技・・・斬神翔破!!」
アルベルトへの忠告の後、変化した刃を大上段から振り下ろす。発生した巨大な真紅の衝撃波が地面を抉りながら一直線に疾る。
「あ、あぶねっ!」
ドラゴンに意識を集中していたアルベルトは、間一髪のところで衝撃波をかわす。アルベルトに動きを止められていたドラゴンは、避ける事も出来ずに直撃を喰らってしまう。
『グガァァッ!!?』
ドラゴンに当った衝撃波はその巨体を真っ二つに切り裂く。その様を見届けた蒼司は、刀を封印し直し、鞘に収める。
「フゥゥ・・・流石に、封印解除すると疲労が半端じゃないな・・・。」
「お前、なんちゅう武器を使ってんだよ・・・。」
疲れたような呟きを漏らすアルベルトに苦笑を返しつつ、蒼司は他のメンバーの戦闘に視線を向けた。

リサとエルの熟練コンビは、がむしゃらにブレスを吐き続けるドラゴンに対し、攻めあぐねていた。エルは接近戦しか出来ないし、リサもナイフで致命傷を与える為には至近距離まで接近しなければならないからだ。
「流石に、このまま逃げ回るって訳にもいかないね。如何するか?」
「どちらかが囮になるってのは如何だ?」
「それしか無いか・・・。」
二人は顔を見合わせ、取り敢えずドラゴンから一旦距離を置く。一つ頷くと、エルがゆっくりと前に歩み出た。
「アタシが隙を作る。とどめは任せたよ。」
「解った。あんまり無茶するんじゃないよ。」
そんな会話を交わしつつ、少しずつ間合いを詰めていくエル。ドラゴンのブレスの射程ギリギリの所に来ると動きを止め、ゆっくりと気を溜め始める。
「スウゥゥゥ・・・ファイナル・ストライク!!」
気を込めた一撃を地面に向けて叩き込む。爆発的な威力を秘めた一撃は、地面を砕き粉塵を巻き上げる。その粉塵は、エルがドラゴンの懐に飛び込むに隙を作るのに十分役立った。
「ハアァァァッ!」
ブレスを吐く為に下がっていたドラゴンの頭部を、下から思い切り蹴り上げる。
「リサ、今だ!」
「解ってる!これで止め!!」
エルの声を受け、今だ巻き起こる粉塵の向こうからリサが突っ込んでくる。そして、蹴り上げられたドラゴンの首にある急所−逆鱗に、その手にしたナイフを突き刺す。
『ガァアアァッ!!』
断末魔の悲鳴を上げて倒れるドラゴン。だが、倒れた拍子にリサのナイフが折れてしまう。
「あっちゃ〜・・・まぁ目的は果たせたからいいんだけど・・・。」
「戻ってからまた買えばいいじゃないか。」
そんな会話をしつつ、二人は他の戦闘へと目を向けた。

ピートとメロディ、それにシェリルの3人は、戦闘開始直後から積極的に攻め込んでいるのだが、ドラゴンのダメージはそれ程大きくは無かった。
「ちくしょう、硬過ぎるよ!」
「ふみぃ、シオンちゃんから貰った爪が、あんまり効かないのぉ〜。」
二人ともシオンから貰った魔法の武器を装備しているのだが、通常の魔物は兎も角、ドラゴンほどの大物になるとあまり戦果は挙げられないようだ。
「ピート君、メロディちゃん、もう少しだけ相手の注意を引き付けてくれる?私に考えがあるの。」
シェリルの言葉に一瞬顔を見合わせるピートをメロディ。だが、直ぐにシェリルに向き直ると、大きく頷いた。
「OK、任せてくれよ!」
「メロディに任せてなの!」
返事をすると、二手に分かれてドラゴンに向かっていく。元々小柄な上に動きが素早い為、ドラゴンも上手く狙いがつけられない。その隙に、シェリルはゆっくりと魔力を溜め始めた。
「空に漂いしマナよ、我が身に集いて力となれ・・・よし、ピート君、メロディちゃん、離れて!」
シェリルの言葉を受け、ドラゴンから距離を取る二人。それを見届けたシェリルは、ドラゴンに向けてありったけの魔力を込めて魔法を放つ。
「ヴァニシング・ノヴァ!」
巨大な爆発が、ドラゴンを包み込む。その爆発の光が収まったとき、ドラゴンその巨体を半ば以上抉り取られ、絶命していた。
「すっげぇ〜・・・」
「凄いのぉ〜・・・」
その光景に絶句するピートとメロディ。シェリルも少なからず驚いている。
「シオンさんに教わった魔法の威力増大って、こんなに変わるものなの・・・?」
どうやらシオンの入れ知恵だったらしい。3人はそのまま暫く呆然としていた。

パティとシーラの二人は、ドラゴンに対し果敢に攻め込んでいた。
「たあぁっ!」
「ええいっ!」
パティのトンファーによる連撃は確実にドラゴンの動きを鈍らせる。シーラの手甲は先端部が爪に変化しており、その一撃はドラゴンに対し、確実なダメージを与えている。とは言え、止めを刺すには至っていないが。
『ガアァッ!!』
叫びと共に振り回された尻尾による攻撃を、二人は飛び退いてかわす。
「ああ、もうっ!このままじゃ埒があかないよ!」
「落ち着いて、パティちゃん。一応、手はあるけど・・・。」
「なら、それでいきましょ!」
「あ、パティちゃん!」
言うが早いか、さっさと飛び出していくパティ。仕方なく、シーラは準備を始めた。シーラが目を閉じて意識を集中すると、手甲が変化して腕全体を覆うような形になる。その先端部は、剣のような形になっている。
「てえいっ!」
動きを止めたシーラに向けてブレスを吐こうとしたドラゴンを、パティの一撃が遮る。その間に準備を整えたシーラは、ドラゴンに向かって駆け出した。
「っああぁぁっ!!」
繰り出されたシーラの一撃は、鈍い音を立てながらドラゴンの腹部を貫く。そして、一瞬の間の後、ドラゴンの体内で大爆発が起こる。
『ギャアァゥアァッ!!』
断末魔の悲鳴を上げながら倒れ伏すドラゴン。シーラは既に腕を引き抜いて離れている。
「すご・・・。何、今の?」
「えと、シオン君に教えて貰ったんだけど・・・。」
シオンに教えてもらった、のフレーズで少しむっとした表情を見せるパティ。だが、シーラはそれに気付く事無く話し続ける。
「ファイナル・ストライクで相手に腕を突き刺し、体内でカーマイン・スプレッドを発動させるの。」
「・・・随分と過激な・・・。でも、それじゃシーラの腕も危険なんじゃないの?」
「私の腕は、ほら。この手甲が守ってくれるから。」
「はぁ・・・。まぁいいわ。他の人はどうなってるのかな?」
そう言って、パティは周囲に視線を巡らせた。

『ガアッ!!』
「おわっ、アブねぇな!」
ドラゴンの吐き出すブレスを、間一髪でかわすアレフ。飛び退いたアレフの代わりにクリスとマリアが前に出る。
『アイシクル・スピア!』
同時に魔法を唱える。生み出された氷の槍がドラゴンを貫くが、致命傷には至らなかった。
「ちっ、もっと威力のある攻撃じゃなきゃ意味無いか?」
「そう言う事なら、これはどう?水の精霊よ、汝の力を我が友に与えん。あらゆる炎を薙ぎ払いし、水の刃となれ・・・ウンディーネ・ブレイド!」
マリアの手のひらから溢れた光がアレフの持つ剣を包む。光が薄れた時、アレフの剣の刃は水色に輝いていた。
「凄い、これが以前シオン君に教えてもらってた魔法だね?」
「そうよ、凄いでしょう?さ、それならドラゴンのブレスだって斬れるわよ☆」
「へぇ・・・。ンじゃ、いっちょやってみますか?」
水の精霊の加護を受けた剣を握り直し、前に出るアレフ。自身の攻撃範囲内に敵が入ったことを察知したドラゴンはすぐさま攻撃に移ろうとするが、クリスがそれを遮る。
「僕が隙を作るよ!アイシクル・ストーム!!」
突き出されたクリスの両手から氷の嵐が生まれ、ドラゴンを絡め取る。元々冷気に弱いドラゴンは、完全に動きを止めていた。
「一気に決める・・・ファイナル・ストライク!」
動きが止まるや否や、アレフが一気に駆け寄り、渾身の一撃を叩き込む。水の刃は、ドラゴンの鱗を容易く切り裂き、一刀両断にする。
『ガアァアッ!!?』
断末魔の悲鳴を上げながら倒れ伏すドラゴン。
「よし、他の連中は如何してる?」
クリス達の所に戻ったアレフは、そう言って周りに視線をめぐらせた。

『如何した、かかってこないのか?』
フレアドラゴンのからかうかのような声にも、シオンは剣を構えたまま動けなかった。
(・・・下手に突っ込めば、炎の餌食・・・とは言え、何時までもこのままって訳にもいかないか・・・)
其処まで考え、シオンは覚悟を決めた。剣を握り直し、静かに気を溜め始める。
「いくぞ・・・神魔封滅流・斬式・・・奥義・魔神千裂斬!」
振り抜かれた刃から無数の衝撃波が生まれ、一斉にフレアドラゴンへと殺到する。衝撃波が地面を抉って生まれた砂埃でフレアドラゴンの姿が隠れ、見えなくなる。
「まだだ!喰らえ、ガトリング・バレット!」
シオンの周囲に無数の光弾が生まれ、その全てが一斉にフレアドラゴンに叩き込まれる。衝撃波と光弾が着弾する際の衝撃でドラゴンの巨体が揺れるが、そんな事はお構いなしに、フレアドラゴンは反撃を開始する。
『この程度では、私は倒せんぞ!死ね!!』
「させるかっ、アクア・ウォール!」
フレアドラゴンの放つ超高熱の炎の弾丸を、水の壁で打ち消す。水の壁を飛び出し、シオンは剣を振りかぶる。
「神魔封滅流・斬式・・・奥義・雷神裂殺衝!!」
稲妻の如きスピードで振り下ろされる刃は、気を伴いながらドラゴンの巨躯に突き刺さる。だが、その強固な鱗に包まれた肉体には、あまりダメージを与えられていない。
「これでも駄目か!?」
『甘いぞ!フレア・ブラスト!!』
「!?しまっ・・・」
シオンの一撃を受けながらも繰り出されたフレアドラゴンの一撃。超高温の炎が槍となりてシオンを貫く。防御する間も無く直撃を喰らったシオンは、派手に吹っ飛ばされ、岩の塊に叩きつけられる。
「ぐあっ!?」
炎の槍の直撃と岩の塊に叩き付けられたダメージはかなりのものだが、ふらつく体を剣で支え、何とか立ち上がる。
「くっ・・・まだやられる訳にはいかない!」
『ほぅ・・・直撃だと思ったが・・・咄嗟に急所を外していたか。流石は『殲滅者』と言ったところか・・・。』
「?何の事を言っているのか解らんが、こんな所で死ぬつもりは無いんでね!」
会話を交わす間に、異常とも言える回復力でダメージを回復したシオンが、再びドラゴンへと斬りかかる。
『また突っ込んで来るだけか?それでは私には通用せんと・・・』
「そんな事は、百も承知!魔神千裂斬!」
再び無数の衝撃波を生み出し、ドラゴンへと叩きつける。斬撃によるダメージは殆ど無いが、衝撃波によるダメージはそれなりに在るようだ。
『むぅ!?小癪な真似を!クリムゾン・レイン!!』
「イレイズ・シールド!」
上空から降り注ぐ炎の雨を、魔法の盾が打ち消す。更に、魔法を放って動きが停滞したドラゴンの懐に一気に飛び込んで行く。
「ヴァニシング・ノヴァ!」
『ぐうぅっ!?』
超至近距離で放たれた爆発がドラゴンの巨体を吹き飛ばす。翼をはためかせて何とか体勢を立て直し、シオンに反撃を試みるが、全て弾かれる。何時の間にか、薄い光の膜が空中に浮かぶドラゴンを覆うように展開している。
『これは・・・結界だと!?』
「簡単な結界だが、時間稼ぎにはもってこいだろう?」
そう言うと、シオンは複雑な呪印を結び、長い呪を唱え始める。
「遥かな古より紡がれし、滅びの神話の名の下に・・・神なりし者、神如き者、神の傘下にその名を連ねし者、あまねく光に守られしあらゆる命、その全てに等しく終局を齎さんが為に・・・今此処に・・・神々の黄昏を謳わん!ラスト・ラグナロク!!」
呪文が紡がれるたびに、シオンの周囲に膨大な魔力が収束していく。更には、大気中に漂うマナさえも吸収し、やがて魔法は完成する。発動の鍵となる魔法の名を唱えた瞬間、蓄えられた膨大な魔力の全てが解放され、ドラゴンの周囲へと殺到する。超高度に凝縮された魔力は周囲の空間を歪ませ、歪んだ空間は復元の為に想像を絶するエネルギーを放出し始める。放出されたエネルギーと魔力が融合し、そして、全てを飲み込む超爆発が引き起こされた。
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・これで駄目なら、俺には打つ手は無いか・・・!?」
全魔力を放出し、疲労で崩れそうになる体を必死に支えながらそんな事を呟くシオンは、何かの違和感を感じる。だが、その違和感を突き止める間も無く、一条の閃光がシオンの右肩を貫く。
「くっ、うあぁっ!?」
激しい痛みと灼熱感がシオンを襲う。爆発で生まれた煙の向こうに、巨大なドラゴンの影が浮かび上がる。
『・・・今のは流石に危なかったぞ・・・。まさか記憶を失った状態で禁呪を操るとは、な・・・。』
「ぐっ・・・今のを防がれた、だと・・・?空間そのものを崩壊させる最上級の禁呪だぞ?あのタイミングで防げる筈が・・・」
『私の動きを妨げた結界が、魔法の効果が私に届くのを一瞬遅らせてくれた。その一瞬の隙が在れば、私にとって絶対魔法防御を行う事は容易い事だ。』
ドラゴンの説明に愕然とするシオン。慎重を期した事が、かえって必殺のチャンスを逸する事になったと知り、微かな後悔がシオンを襲う。だが、その後悔も体を襲う痛みも抑え込み、よろめきながらも立ち上がる。
「まさか、慎重になったつもりが裏目に出るとはな・・・。だが、まだ終った訳じゃない!」
『ほぅ・・・その傷でよくも立ち上がるものだ。何故、そうまでして戦う必要がある?此処から立ち去れば、そんなにも傷つく必要は無いだろうに。』
「・・・トリーシャは俺にとって大切な友人なんでね。友人を助ける為に戦う事に、理由なんか必要無いだろう?」
心底不思議そうに尋ねるドラゴンの問い掛けに、さも当然の事のように答えるシオン。そして、灼熱の閃光に貫かれ、まともに動かない右手から左手に持ち替え、再び剣を構える。
『友を助けるのに理由は要らぬ、か・・・。気に入ったぞ、人間。』
「!?何を・・・」
急激にその威圧感を消していくドラゴンに戸惑うシオン。そんなシオンを無視し、ドラゴンの言葉は続く。
『私は此処でお前と戦うよう呼び出されたが、殺せとまでは言われていない。お前と戦った時点で、私と彼の者との契約は果たされた。これ以上私がお前と戦う理由は無い。』
「呼び出されたって・・・」
『先程連れて来られたフサとトリーシャという娘も返そう。』
そう言うと、軽く翼をはためかせる。すると、何も無い空間から、突然光の膜に覆われたトリーシャが現れる。眠っているのか、その目は閉じられているが、呼吸はしっかりしている。それを見て、シオンも構えを解いた。
「異相空間に閉じ込めていたのか・・・。」
『そうだ。此処には、連れて来た者を閉じ込めておくような場所など無いからな。その膜は触れれば破れる。娘は眠っているだけだ、安心するが良い。フサも既に彼等の集落へ帰している。』
「何故、急にこんな事を?」
『言っただろう?私はお前が気に入ったのだ。仲間を助けると言った時、お前の目は一点の曇りも無かった。それは、本心からそう思っている証拠。信念と呼べる程に強い想い・・・それを持つ人間は、久しく見ていなかったからな。』
「別に、俺は・・・」
思いもよらぬ賞賛の言葉に、照れて言葉に詰まるシオン。その後に続けられた言葉は、シオンに驚愕を与えた。
『これで私の仕事は終った訳だが・・・人間よ、私と誓約を結ぶ気は無いか?』
「!?誓約を結ぶって・・・それが何を意味するか知らない訳じゃないだろう?」
『無論だ。力量の差に関わらず、絶対の強制力を誓約者に与える・・・。だが、私は先程も言った通り君が気に入った。その生涯を、誓約と言う対価を払って見させて貰おうと言うのだ。私にとっても、君にとっても悪い話では無いと思うが?』
「・・・あんたがそれで良いのならな。解った、誓約を結ばせてもらおう。」
『私の真なる名はヴァルガードだ。では、儀式を始めようか。』
そういい、魔力を解放するフレアドラゴン・ヴァルガード。シオンもまた儀式を行う為に回復し始めた魔力を解放する。
「我、此処に誓約を求める者なり」『我、此処に誓約を請われし者なり』
「汝の真なる名を持ちて、此処に誓約を為さん」『汝の真なる名を持ちて、此処に誓約を受け入れん』
「我が名と汝が真なる名を持ちて、不変なりし誓約を結ばん」『我が名と汝が真なる名を持ちて、永久なりし誓約を交わさん』
「『今此処に、永遠の盟約を交わさん!』」
シオンとヴァルガードの声が重なり、二人を包むように魔方陣が浮かび上がる。その魔方陣が二人に吸い込まれるように消えた時、誓約の儀式は完成した。
『これで良い。私の力が必要な時は、何時でも遠慮無く呼ぶが良い。』
「ああ、そうさせて貰う。」
『フッ・・・これで少しは、退屈とは離れた時を送る事が出来そうだ・・・』
鬼神の如き強さを誇るエンシェント種族、フレアドラゴンとは思えないほど穏やかな声で台詞を残し、自らの住まう領域−幻獣界へと還っていった。
「・・・ハァ・・・疲れた・・・。くそっ、何で俺がこんな疲れなきゃならんのだ・・・?」
心から疲れたような響きを含んだシオンの呟きは、誰に聞かれる事も無く空へと消えていった。

Episode:19・・・Fin
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