悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−
Episode:20 生誕の祝福を君に〜事件解決編〜
「取り敢えず、トリーシャを起こさないとな・・・。」
ヴァルガードが姿を消した後、疲労に重くなる体を引き摺りながら、トリーシャを包む光の膜へと近づく。その膜を破ろうと手を伸ばした時、他のドラゴン達を倒したメンバー達が集まってきた。
「シオン、大丈夫か?」
「ああ、そっちは・・・全員無事みたいだな。怪我をしたのは俺だけか?」
「仕方ありませんよ。対峙した敵のレベルが違うんですから。」
「まぁ・・・な。まぁ良い。さて、確か触れれば割れると言っていたな。」
言いながら、トリーシャを包む光の膜に手を伸ばす。シオンの手が触れた瞬間、光の膜は割れ、眠ったトリーシャがゆっくりとシオンの腕の中に収まる。所謂『お姫様抱っこ』という状態になっている。
「あ・・・」
「ん?如何した?」
「いえ、何でもないです・・・。」
そんなトリーシャとシオンを見てエスナが声を上げる。因みに、声には出さないもののシーラやパティ、シェリル、マリアも複雑そうな顔をしている。だが、そんな彼女達の心境を、朴念仁のシオンが気付く筈も無かった。
「変な奴だな・・・。」
「ん・・・ふぇ・・・?此処、何処・・・?」
「お、起きたか?トリーシャ。」
シオン達が話す声で目が覚めたのか、ゆっくりと目を開けるトリーシャ。だが、まだ寝起きな所為か自分が置かれた状況が飲み込めていない。
「あれ、シオンさん・・・?って、え!?何でボクシオンさんに抱かれてるの!?」
「あ、おい!暴れるな!」
シオンに抱かれているという状況を理解した瞬間、軽いパニックを起こし暴れるトリーシャを落とさないように立たせるシオン。そして、まだパニック状態にあるトリーシャを落ち着かせる意味も兼ねて、現在までの状況を説明した。
「トリーシャ、どの辺まで記憶にある?」
「えと、ボクお父さんが今日仕事だって聞いて、家を飛び出したんだ。それで、門を通ってフサの集落に辿り着いた所で、あの変な格好の人・・・あ、そうそう、シャドウに眠らされたんだよ!其処までしか覚えてないんだ・・・。」
「ふむ・・・。トリーシャはその後、この場にいたドラゴンたちへの生贄として連れ去られていたんだ。」
「うそっ!?」
「こんな悪質な嘘は言わない。」
シオンから説明され、愕然とするトリーシャ。それはそうだろう。彼女からしてみれば、寝ている間にその人生が終ってしまっていたかも知れないのだから。尤も、シオンにはヴァルガードがトリーシャを傷付けるような事をするとは思えなかったが。と、その時、山の下から誰かが駆け上がって来た。
「・・・どうやら、最悪の状況にはなっていなかったようだな。」
「お父さん!」
「隊長!」
下から上ってきたのはリカルドだ。珍しく軽く息を乱している。かなりの長距離を走って来たのだろう。少し息を整えてから、リカルドはシオン達に向き直った。
「シオン君、それにジョートショップの皆さん、ご迷惑をお掛けした。」
そう言って頭を下げるリカルドに、複雑そうな顔を向けるアルベルト。尊敬するリカルドに、頭を下げるような真似をして欲しくないのだろう。そんな事はお構いなしに、リカルドは頭を下げつづける。
「・・・リカルド、謝る相手が違う。俺達は友人を助けるのに当然の事をしただけ。あんたがホントに謝らなければならないのは、トリーシャだろう?こうなった原因は、既に解っている筈だ。」
「・・・その通りだな。済まなかったな、トリーシャ。誕生日なのに、寂しい思いをさせてしまって・・・」
そう言いながら、トリーシャを抱き寄せる。
「ううん、ボクの方こそ御免なさい・・・ボクの我侭で、皆に迷惑をかけて・・・」
トリーシャも、リカルドの胸に抱かれながら、涙ぐんだままで皆に謝った。その様子を見て、皆が微笑ましい気持ちになる。フォスター家の親子は、元の鞘に収まったようだ。
「・・・なぁ、リカルド。誕生日ってのは、何も歳を一つ重ねた事を祝うってだけの日じゃない。その人が、この世界に生まれ、今まで生きてきてくれた事を祝い、感謝する日だと思ってる。そんな日に、たった一人の家族が居ない事の寂しさ、解らない訳じゃないだろう?」
「そう・・・だな。」
「だから、さ。今日位は、トリーシャの為に時間を割いてやれ。もし魔物を退治する必要があるなら、そんな事は他の誰かにやらせればいい。魔物退治の代わりは誰にも出来るが、親の代わりなぞ、誰にも出来ないんだから。」
「シオン君・・・。そうだな、そうさせて貰おう。」
シオンの台詞に、神妙な表情で頷くリカルド。何処か悲しささえ漂わせたシオンの様子に、誰も声をかける事が出来なかった。
「と、兎に角さ、街に戻ろうぜ?戻ってトリーシャの誕生パーティーもやらなきゃ・・・!」
場を明るくするように、やや大袈裟に言うアレフ。普段は迷惑をかける事の多い彼の調子の良さも、今は場を明るくするのに役立っていた。らしくない事を言ったとでも思ったのか、シオンはやや苦笑しながらも、アレフの言葉を否定した。
「いや、まだ戻れない。まだやる事が残っているからな。・・・そうだろう?シャドウ!」
『クククッ・・・気付いたかい?』
シオンが叫んだ瞬間、何も無い空間から声が漏れる。そして、注視する一同の前で、虚空からシャドウが現れる。
「よぅ、久しぶりだなぁ、シオン?ちょっと見ない間に、随分と物騒な魔法を使えるようになってやがるじゃねぇか。」
「ふん・・・貴様にそんな事を言われる謂れは無い。此処にヴァルガード−フレアドラゴンを召喚し、トリーシャを攫わせ、俺達と戦うよう仕組んだのは貴様だな?」
シオンの言葉に、一同は驚く。厳しさを増す視線を無視するかのように、シャドウはシオンだけに話し掛ける。
「ククッ、如何だ?少しは俺が憎くなったか?」
「ああ、この場で八つ裂きにしてやりたいくらいにな・・・。尤も、今の俺の状態じゃ、それも出来ないだろうが、な。」
「良いねぇ・・・怒りが増せば増すほど、氷のように冷徹かつ冷静になる・・・好きだぜぇ、そう言うの。」
「貴様なんぞに好かれたくも無い・・・。さっさと失せろ、どうせ今此処で戦う気なんぞ無いのだろう?」
「ククッ、ホントに冷静だねぇ・・・。まぁ良いさ。確かに、今此処で戦う気はねぇからな。さっさと退散させて貰うとするかな。あばよ、次に会う時は、更に俺を憎むようになるだろうよ・・・!」
そんな台詞を残し、自らの影の中に消えるシャドウ。それを遮るように、蒼司が刀を抜きながら斬りかかる。
「逃がすか!」
「止めろ、蒼司!」
シオンの制止を振り切り、シャドウに斬りつける。だが・・・
「フン・・・雑魚が、付け上がるなぁっ!!」
「!?」
振り下ろされた刀を片手で受け止め、右腕に溜めた魔力を解き放つ。防御する暇も無く、直撃を喰らい、吹っ飛ばされる蒼司。唯の魔力の塊だが、その威力は凄まじい。吹き飛ばされても何とか立ち上がるが、足元は完全にふら付いている。
「くっ・・・何て威力だ・・・!?」
「貴様等如きが、この俺様に勝てるなどと思っているのか?見逃してやろうと言ってるんだ、大人しくしていろ、虫けらどもが!」
嘲りの言葉と共に発せられた凄まじい威圧感に、全員が金縛りにあったように動きを止める。何とか身動きが取れるのは、シオンとリカルド位である。
「フン・・・興が削がれたな・・・。シオン、雑魚どもの躾はしっかりしておけよ・・・!」
蒼司達を完全に見下しきった台詞と共に、影の中に身を鎮めていくシャドウ。その姿が完全に見えなくなってから、金縛りが解けたかのように我に返ったリイムがシオンに話し掛ける。
「何てプレッシャーなんだ・・・。もし万全の状態で戦って、勝つ自信はあるかい?」
「解らないな・・・。だが、今は如何でもいい事さ。奴が戦う意志を見せない限り、影に逃げる事の出来る奴とまともに戦う機会は訪れないだろうし、な。それに、トリーシャの誕生パーティーの時間を、あんな奴にこれ以上割く事も無いだろう?」
おどけたように言うシオンの様子に、シャドウ登場で高まっていた緊張感が解けていく。それを確認してから、シオンは全員を促した。
「さぁ、帰ろうか。姫君の誕生祝いの為に、ね。」
『ハッピーバースデイ!トリーシャ!!』
「ありがとう、皆・・・。」
さくら亭に戻ってきた一同は、すぐさま準備を整え、トリーシャの誕生パーティーを開いた。当然、リカルドも一緒だ。
声を揃えた祝いの言葉に、少し涙ぐみながら答えるトリーシャ。そんなトリーシャに、一同がプレゼントを渡していく。
「ハイ、トリーシャちゃん。これは私とテディからのお祝いよ。」
「お誕生日おめでとうっス、トリーシャさん。」
「ハッピーバースデイ、トリーシャ。これは俺からのホンの気持ちだよ。」
「おめでとう、トリーシャちゃん。気に入って貰えるかどうかは解らないけど・・・プレゼントだよ。」
「おめでとう、トリーシャ!これ、俺とサーカスの皆からのプレゼント!」
「誕生日おめでとう、トリーシャちゃん。パティちゃんと一緒に選んだの。気に入って貰えると良いんだけど・・・」
「はい、トリーシャ、誕生日おめでと!アタシが選んだ物だから、あんまりセンスとかは良くないかも知れないけど、気に入って貰えるかな?」
「誕生日おめでとう、トリーシャ☆マリア、一生懸命選んだのよ?」
「おめでとう、トリーシャちゃん。普段お世話になっているお礼も兼ねて、一生懸命選んだから・・・」
「オメデト、トリーシャ。服とかは良く解んないけどさ、似合いそうなの選んだから。」
「トリーシャちゃん、おめでとう〜。メロディ、お姉ちゃんと一緒に選んだの〜。」
「オメデトさん、トリーシャ。ハイ、これ。私等傭兵の間で、幸運のお守りって言われてる物なんだ。こんな物しかあげられなくて悪いんだけど、さ。」
「トリーシャちゃん、誕生日おめでとう。俺からのプレゼントは化粧品セットだよ。」
「トリーシャ、おめでとう。その、予算の関係でこんな物しか買えなかったんだけど・・・」
「誕生日おめでとう、トリーシャ。あまり長い付き合いとは言えないけれど、僕も心からお祝いさせて貰うよ。」
「おめでとう、トリーシャさん。私からは、精霊の祝福を込めたペンダントを贈らせて貰いますね。」
「皆・・・ホントにありがとう・・・!」
其々から手渡されたプレゼントを傍らに置きながら、礼を言うトリーシャ。そんな彼女の頭をリカルドが優しく撫でる。
「良かったな、トリーシャ。こんなに素敵な友人達がいて・・・。」
「うん!」
カランカラン♪
「すまない、遅れた!」
リカルドの言葉にトリーシャが強く頷いた時、一人遅れていたシオンが駆け込んできた。
「遅いぞ、シオン。折角の誕生パーティーに遅れるなんて何事だよ?」
「悪いな。これを完成させていたんだ。ハッピーバースデイ、トリーシャ。」
真っ先に文句を言ってくるアレフを適当にあしらいつつ、トリーシャに祝いの言葉とプレゼントを贈る。祝福の言葉と共に渡されたのは、布に包まれた大きな長方形の物体だった。
「ありがとう、シオンさん。これ・・・開けてみても良いかな?」
「ああ。気に入って貰えれば幸いだが・・・。」
やはり想いを寄せる人からのプレゼントは別格なのか、最後に渡されたのに真っ先に見ようとする。もっとも、純粋にどんな物か知りたいという好奇心はあったし、他のメンバー達、取り分け女性陣も、シオンがどんな物をプレゼントしたのか知りたいと思っていたのだが・・・。当然、シオンは見る事を了解し、トリーシャが慎重に布を取り始める。
「・・・これって・・・ボク?」
「まぁ、一応そのつもりなんだが・・・あまり上手くなかったか?」
布の下から現れたのは、一枚の絵画だった。その絵の中で、トリーシャが満面の笑顔を浮べている。シオンは上手くなかったか、等と尋ねているが、その出来は、一流と言って差し支えないほどの出来だ。
「ううん、そんな事無い!凄い上手・・・って、これシオンさんが書いたの?」
「ああ。折角の誕生プレゼントだからな、出来れば手製の物を送りたかった。」
驚き尋ねるトリーシャに、あっさりと答えるシオン。他の皆も、トリーシャが手に持った絵を覗き込んで驚いている。
「シオン君って絵が上手だったのね・・・。」
「そう言えば、イシュトバーンにいた頃も絵を描いていましたよね。」
「ふ〜む・・・ホントに大した物だな。一朝一夕で身に着く程度の腕による物ではないな。」
「何か本人以外の人間に妙に好評だな・・・。まぁ自分でも結構良い感じに出来たと思っているんだが・・・。気に入って貰えたかな?」
やや心配そうに尋ねるシオン。それに対し、トリーシャは絵の中の彼女と同じ満面の笑みで頷いた。
「うん!ボク、ホントに嬉しいよ、こんなに素敵なプレゼントを貰えて・・・。ありがとう、シオンさん!」
心から喜ぶトリーシャに、やや照れ臭げな表情を見せるシオン。
「うし、シオンも来た事だし・・・。改めて乾杯しようぜ。ってな訳でシオン、お前乾杯の音頭取れ。」
「俺が?・・・解ったよ。」
アレフに促され、少しだけ台詞を考える。他の皆は既に手にグラスを持ち、準備は整っている。やがて台詞が決まったか、顔を上げるシオン。
「俺は、この街に来てまだ日が浅い。当然、トリーシャとの付き合い自体それ程長くない。そんな俺に、こんな事を言う資格があるかどうかは解らないが・・・トリーシャが生まれ、今まで生きて来てくれた事、こうして出会えた事を祝って、そしてこれからも彼女が幸せであり続ける事を願って・・・乾杯!」
『乾杯!!』
全員の声が重なり、店内に響き渡る。こうして主賓の家出から始まり、紆余曲折を経て開かれた誕生日のパーティーは、日が沈み、日付が変わるまで続けられた。
Episode:20・・・Fin
〜後書き〜
どうも、刹那です。18〜20話の計3話でお送りします、光と闇の交響曲版トラブルバースデイです。
ホントは前後編の2話で収めるつもりだったのですが、色々詰め込んでたら3話分になってしまいました・・・(汗)
19話なんて丸々戦闘シーンだし・・・。少しでも楽しんでいただければ幸いですが・・・如何だったでしょう?
それでは、Episode:21でお会いしましょう。