悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−
Episode:21 アレフの逃走劇
シオンは走っていた。そう、走っているのだ。直ぐ隣にはアレフがいる。後ろの方からは、凄まじい音と声を上げながら、沢山の女性陣が追い掛けて来ている。
「・・・何で俺はこんな所を走っているんだろうな・・・?」
「おい、シオン、喋ってる暇があるなら走れ!」
「こいつはこいつで無闇に偉そうだし・・・。何でこんな事になったのやら・・・。」
そんな呟きを残しながら、シオンは只管に走っていた・・・。
事の発端は、朝のジョートショップ。先日の戦闘で得物を壊してしまったリサの頼みで、彼女用の武器を作っている時だった。作っていると言っても、殆ど完成しているのだが。
カランカラン♪
「シオン、いるか!?」
最後の仕上げの為の準備をしようとしたところに、息を荒げながらアレフが駆け込んでくる。嫌な予感がしながらも、取り敢えず返事だけはするシオン。
「・・・まぁ居る事は居るが・・・。今度は何をやらかした?」
「今度はって、何時も何か騒動を起こしているみたいじゃねぇか・・・って、今はんな事言ってる場合じゃないんだ!頼む、匿ってくれ!」
「やだ。と言うか帰れ。店に無意味な厄介事を持ち込むな。」
「んな即答で拒否しなくたって良いだろうが!せめて理由を聞くとかさぁ。」
真顔で拒否され、思わず涙ぐむアレフ。それでも諦めずに縋り付く辺り、ある意味良い根性していると言えるだろう。その時、店の奥からテディが出て来た。物音を聞いて、料理中のアリサに変わって様子を見に来たのだろう。
「如何したんっスか・・・って、アレフさんじゃないっスか。」
「お、テディ。お前からもシオンに頼んでくれ!俺を此処に匿ってくれってさ!」
「はぁ・・・イマイチ良く解らないっスけど、匿うくらい良いんじゃないっスか?シオンさん。」
「・・・まぁ理由位は聞いてやる。あまりに馬鹿馬鹿しかったらその場で叩き出すからな。」
「ぐっ・・・いや、実はな・・・デートをダブルブッキ「出てけ。今すぐに。」
最後まで言わせる事無く、アレフの台詞に被せるようにして通告するシオン。その声は呆れのあまり冷たく冷め切っていた。テディも呆れた様な視線でアレフを見ている。居た堪れなくなったアレフは、開き直ったように声を張り上げた。
「せめて最後まで言わせてくれよ!冗談抜きにやばいんだ!」
「自業自得。ほれ、さっさと殴られるなり何なりして来い。幾らお前がアホでも、女性二人に殴られる・・・と言うか引っ叩かれる位じゃ大したダメージでもないだろう?」
「そうっス。寧ろそれ位されて当然っス。天罰っス。」
「二人じゃないんだよぉ!え〜と・・・確か10人くら「一度死んで来い!」
またも戯けた事をほざくアレフの台詞を遮り、怒鳴りつけるシオン。そのままアレフの首根っこを引っ掴み、店の外に放り出そうとする。
「だあぁっ!待て、待ってくれ!頼む、こんな所見つかったら、マジで殺される!」
「だから一度死ねっての・・・。ったく、何で俺はこんなのの友人やってるんだか・・・ほれ、俺の部屋にでも行ってろ。被害者の女性陣が来たら適当に言っておくから。」
「シオンさん甘いっスよ。少し位痛い目にあった方が良いっス!」
「テディ、シオンが良いって言ってんだから良いんだよ。まぁ被害者ってのが何か引っ掛るが・・・恩に着るぜ、シオン!」
そう言って、早速2階のシオンの部屋に行こうとするアレフ。丁度アレフが2階に消えた時・・・
カランカラン♪
「失礼します!此方にアレフさんはいらっしゃいますか!?」
そんな声を上げながら、一人の女性が店に入ってくる。
「いらっしゃい。アレフは此処には居ないけど?(・・・2階になら居るけどな)」
「そう、ですか・・・。此方に入っていくと言う話を聞いたのですが・・・。解りました、もしアレフさんがいらっしゃったら、私達が探していたと伝えていただけますか?」
「ああ、構わないよ。」
「それじゃ失礼しますね。」
シオンに一礼すると、その女性は店を出て行った。
その後、店の外から『居るって?』『ううん、此処には来ていないみたい。やっぱりさっきの道を曲がったんだわ。』『急ぎましょう!』等と言う複数の女性の声が聞こえてきた。
「・・・10人前後ってのは誇張じゃなかったみたいだな。」
「そうっスね。それにしても、シオンさんってあんなに涼しい顔して嘘つけるんっスね?」
「嘘は言ってない。少なくとも、此処(1階)には居ないからな。見たかと聞かれれば、見たと言うしかないがな。」
「・・・卑怯っス。」
「まぁそう言うな。・・・おい、アレフ!さっさと降りて来い!」
ジト目で見てくるテディを適当にあしらいつつ、2階にいるアレフを呼び寄せる。直ぐにアレフが降りてきた。
「ふぃぃ〜・・・助かったよ、シオン。」
「でも、何時までも逃げる訳にはいかないんじゃないかしら?」
「それはそうなんですけど・・・って、アリサさん!?」
何時の間にやら、料理をしていた筈のアリサがアレフの直ぐ後ろに来ていた。
「アリサさん、料理の方は良いんですか?」
「ええ、後は暫く煮込む必要があるから。それより、アレフ君はこれから如何するの?」
「何でも良いっスけど、店は巻き込まないで欲しいっス。」
「同感だな。」
「・・・お前等、鬼だろ・・・?」
血も涙も無い台詞を吐くテディとシオンに、涙目で抗議するアレフ。だが、自業自得な為全く説得力が無い。
「まぁ取り敢えずこいつは放り出すとして・・・?」
「如何したんっスか?」
「どうやら戻って来たみたいだぞ。声が聞こえる。やっぱりこの店を疑ってるみたいだな。」
「何ぃ〜!?」
シオンの言葉に、思わず耳を澄ます。確かに、微かに話し声らしき音が聞こえる。
「お前、どういう耳してんだよ・・・って、んなこたどうだっていいんだ!」
「如何するの?」
「すみません、アリサさん。俺逃げるんで、女の子たちの対応任せて良いですか?」
「それは構わないけど・・・。」
「それじゃお願いしますね。シオン、行くぞ!」
「ちょっとマテ、何で俺まで!?」
「つべこべ言うなって、親友だろ!」
「ちょっとマテ、こらぁぁぁ〜・・・」
シオンの叫びと共に、窓から逃げ出すアレフとシオン。エコーがかかるシオンの叫び声が、そこはかとない哀愁を感じさせた。
「・・・大変っスね、シオンさんも。」
「・・・そうね。」
二人は共に冷や汗を流しながら、そんな事を呟いていた。
「で、こんな事になってるんだよな・・・」
そして話は冒頭に戻る。無理矢理連れ出されたシオンだが、結局一緒になって走っている辺り、ホントに面倒見が良いと言わざるを得ない。
「これから如何するんだ?」
「取り敢えず、さくら亭に行こう!其処で少し休まないと、体力がもたん!」
「だから偉そうに言うなって・・・。」
そんな事を言い合いながら走る二人の目に、さくら亭が見えてくる。二人は走る勢いそのままに、店の中に飛び込んだ。
カランカラン♪
「いらっしゃ〜・・・って、あんた達ねぇ、店に来るのは良いけどもっと静かに入って来てよ。」
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・み、水・・・」
「済まない、パティ。悪いんだが、水とアイスコーヒー貰えるか?」
「まぁそれは良いけど。一体如何したのよ?アレフなんかバテバテじゃない。」
水とアイスコーヒーの準備をしながらパティが尋ねる。内容が内容だけに、呆れ半分苦笑半分で、シオンが答えた。
「このアホがデートをダブルブッキングしたらしくてね。それを切っ掛けにしてか、こいつが付き合っている女性陣に追い掛け回されてんのさ。」
「ダブルブッキングだぁ〜?」
事情を話すシオンの声に、突如誰かの声が割り込んでくる。シオンが声のしたほうに目を向けると、其処には顔を赤くしたリサがいる。手にはビールのジョッキを持っている事から、酔っているだろうことが見て取れた。
「アレフ、今日と言う今日はあんたに言って置きたいんだけどねぇ〜」
「り、リサ・・・今はちょっと簡便「喧しい!ちょっとこっちに来な!」
言い訳しようとするアレフの声を遮り、酔っ払ったリサがアレフを無理矢理席に座らせる。そして、訳の解らん説教を始めた。
「・・・如何したんだ?リサの奴。」
「さぁ?何か仕事で嫌な事があったらしいけど。・・・ハイ、アイスコーヒー。ミルクとか使う?」
「ん、サンキュ。ミルクはいいや。」
暫し流れる平穏な時間。だが、そんな時間は長くは続かなかった。シオンがコーヒーを飲み終えた頃、此方に走ってくる幾つかの足音と、複数の女性の声が聞こえてきたのだ。
「どうやら此処まで来たみたいだな。おいアレフ。如何するんだ?」
未だに説教を受けていたアレフに話し掛ける。リサに睨まれて声を出す事の出来ないアレフは、目線でシオンに返事を返した。
「はいはい・・・。パティ、悪いんだが少しだけ時間稼いでくれるか?」
「まぁそれ位なら。それにしても、あんたも大変ね。」
「ハァ・・・此処まできたら、もう乗りかかった船だからな。リサ、悪いんだが説教はまた今度にしてくれ。アレフ、行くぞ。」
リサに断りを入れてから、アレフを窓の外に放り出す。それに続いて自分も窓の外に飛び出した。そして、再び逃亡が始まる・・・。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ・・・まだ、追って来てるのか!?」
「・・・ああ、そうみたいだな。よくも体力が保つもんだ。」
「んな呑気な事いってる場合じゃねぇっての!」
「・・・まぁ他人事だし。」
さくら亭を出た後、あても無く街中を走り回りながら、二人はそんな会話を交わす。流石と言うか何と言うか、シオンは息一つ乱していない。そのまま走りつづける二人の前に、大きな屋敷が現れる。マリアの家のようだ。
「・・・如何する?マリアに匿ってもらうか?」
「ぜぇぜぇぜぇ・・・そうしよう・・・どちらにしろ、もう走れねぇ・・・。」
アレフの同意を得たシオンは後方を確認し、まだ視界内に女性陣が入ってきていない事を確認すると、マリアの家の扉の前に立ち、ノックする。すると、暫しの時を置いて扉が開き、マリアが顔を覗かせた。
「は〜い、どちら様・・・って、如何したの?シオン・・・とアレフ。」
「俺はついでか・・・?」
「お前なんぞついでで十分だ。まぁそれは良いとして、マリア、悪いんだが暫く俺達を匿って貰えないか?」
「何で?」
「実は赫々云々・・・。」
此処に至る事情を簡単に説明するシオン。説明を受けたマリアは暫し考え込むが、やがて匿う事を承諾した。
「まぁ匿うのは良いけど・・・もう意味無いんじゃないかなぁ?」
「・・・どうもそう見たいだな。」
そう呟くシオンの視界の端に、凄い勢いで此方に走ってくる女性陣が映る。まだ到着まで間はあるだろうが、姿を見られている以上、匿ってもらっても意味は無い。
「如何する、アレフ?」
「如何するったって・・・俺、もう走れねぇよ・・・。」
多少息は整ってきているが、体力の限界にきているアレフ。シオンは当事者ではないのでどうなろうが知ったこっちゃ無いのである。
「何なら、マリアの魔法で転移させてあげよっか?」
「いや、転移くらい自分で出来るんだけど・・・」
「いいじゃない、別に。マリアは練習できて、アレフ達は逃げられて・・・良い事尽くめでしょ?」
「・・・はぁ、もう如何でもいいよ、俺は。」
「お〜い・・・俺の意見は?」
『無視。』
勝手に話を進めるシオン達に弱々しい声で抗議するアレフだが、あっさりと切り捨てられる。シオンの同意を得たマリアは嬉々として魔法を唱え始めた。
「それじゃ行くわよ?シーン・クラビア☆」
一瞬後、シオン達はその場から消えていた。
「やったぁ☆成功・・・って、あれ?」
首をかしげるマリアの視界の先、其処にいたはずの沢山の女性陣の姿まで消えてしまっている。
「・・・もしかして、やばかったりするのかなぁ・・・?」
そんなマリアの呟きが、誰に聞かれる事も無く、空しく消えていった・・・。
一方、マリアの魔法で転移したシオン達は、またも走っていた。
「・・・結局走るんじゃねぇか。」
「ぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇぜぇ・・・だぁ〜っ、もう駄目だ!」
力尽きたアレフが、遂に足を止める。シオンもそれに習い、立ち止まった。
「もう良い、俺はもう逃げないぞ!」
「なら初めからそうしろよ・・・。」
呆れた様に呟くシオンの声を無視し、迫り来る女性陣に向き直るアレフ。
「さぁ、俺はもう逃げも隠れもしない!」
『アレフさ〜ん、其処を動かないでねぇ〜!』
女性陣が声を張り上げる。その声には、そこはかとなく殺気めいた物が込められている事にシオンが気付いたが、自分の状況に浸っているアレフに教えはしなかった。
「まぁせいぜい死なないようにな・・・。」
そう言い、踵を返すシオン。ある程度離れた所から『うぎゃあぁぁあぁっ!?』と言う蛙が押し潰されたような悲鳴と、物凄い音が聞こえてくるが、シオンは完全にそれを無視した。
「・・・まぁ自業自得だし。あのアホには良い薬だろ・・・。」
そう呟きつつ、シオンはジョートショップへ帰っていった。
あの後どんな展開があったのか、アレフは全身ボロボロの状態でクラウド医院へ運ばれた。
ジョートショップの手伝いが出来るくらい回復したのは、それから2日後の事であった。
「これで少しは懲りたか?」
「ああ、流石にな。今度からは、デートの約束が被らないよう綿密に計画を立てねば!」
「・・・はぁ、こいつのアホさ加減は死ぬまで治らんな・・・。」
「同感っス・・・。」
無意味に元気なアレフを見て、シオンとテディは呆れたような溜息をつくばかりであった。
Episode:21・・・Fin
〜後書き〜
どうも、刹那です。光と闇の交響曲第21話です。如何でしたでしょうか?
アレフメインはこれで2話目ですね。どうも他のキャラと違って、コメディ方向にのみ進んでしまうアレフ。最後くらいには、シリアスな見せ場を作ってあげたいものです。
それでは、Episode:22でお会いしましょう。