悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−
Episode:24 シオンの受難
ある晴れた日、マリアは自室で何かを探し回っていた。
「あれぇ〜・・・おっかしいなぁ、何処いっちゃったんだろぅ・・・?」
ベッドの下やクローゼットの中、ソファーの下やクッションの下等、考え付く限りの場所を探し回るが、目的の物は一行に見当たらない。
「ん〜・・・もしかして、ジョートショップに忘れてきちゃったのかなぁ・・・」
そう思い至ったマリアは、早速出かける準備をする。
「急がないと・・・もしアレがシオンに見つかったら、また怒られちゃう・・・!」
「ただいま〜。ふぅ、今日は結構疲れたな・・・。」
此方はジョートショップ。午前の仕事を終え、シオンが帰ってきたところだ。シオンの声を聞いて、奥のキッチンからアリサが出て来た。
「お帰りなさい、シオン君。今日のお仕事は終わり?」
「ええ、今日は午前だけです。・・・ん?アリサさん、何です、これ?」
アリサの質問に答えながら、ふとテーブルの上に目を遣ったシオンが見つけたのは、一本の小瓶だった。よく見るとラベルが貼ってあり、『疲労回復用ドリンクポーション』と書いてある。
「何かしら・・・?心当たりは無いけど・・・」
「夜鳴鳥雑貨店の試供品か何かですかね?ちょっと飲んでみようか・・・。」
「大丈夫?」
「多分。別段毒性は感じられませんし・・・。」
ほんの少し舐めてみて、毒が無い事を確認すると、一気に飲み干す。
「ん〜、別段変わった味はしないし・・・かといって疲れが取れるような感じはしないけどなぁ・・・。」
そんな事を呟くシオン。と、シオンの傍にいたアリサの様子が少し変わってきた。
「シオン君・・・」
「え?何です、アリサさん?」
「シオン君・・・キスしましょう?」
「は?」
何を言われたか咄嗟に理解できず、呆けるシオン。アリサはそんな事には構わずに、心なし潤んだような瞳で、シオンに迫る。
「ちょっ、アリサさん!?」
「ふふ、シオン君・・・」
「し、失礼しますっ!」
「あっ、シオン君!?」
なおも迫ってくるアリサに手を出すわけにもいかず、慌てて身を翻し、店から逃げ出す。後ろからアリサが追ってくるような気配がしていたが、敢えてそれは無視した。
「なっ、何だったんだ、今のは・・・?」
暫く走って、アリサが追ってきていない事を確認すると、立ち止まって原因を考えてみる。考えられる原因は、一つしかなかった。
「・・・やっぱりこれ、だよなぁ・・・?」
咄嗟に持ってきたあの小瓶を眺める。とは言え、眺めているだけで何が解ると言うものでもないのだが。考え事しながら歩くシオンの視線の先に、アルベルトが見えた。
「よぉ、アルベルト。巡回中か?」
手を挙げて挨拶するシオン。それを無視するかのように押し黙るアルベルト。怪訝そうにもう一度声をかけようとしたとき、アルベルトの様子が急変した。
「おい、アルベ「シオンっ!」
「な、何だよ?」
「俺と付き合え!」
「あ゛?」
あまりに唐突な言葉に、硬直するシオン。その間にも、異様に目を血ばらせたアルベルトがにじり寄って来る。もう少しでアルベルトの手がシオンに届くと言う所で、いきなり横合いからアレフが飛び掛ってきた。
「アレフゥゥキィィィック!!」
「グハァッ!」
不意打ち気味に炸裂した飛び蹴りがアルベルトを吹っ飛ばした。
「あ、アレフ・・・助かったよ。」
「ふっ、気にするなシオン。これも愛するお前の為だ!」
「おひ・・・」
アルベルトのみならず、アレフもおかしくなってると知り、いきなり脱力するシオン。そんなシオンの肩に手を置きながら、アレフは更におぞましい事をのたまった。
「さぁ、シオン!二人で幸せな家庭を築こう!」
「・・・ん・・・で・・・い・・・」
「ん?如何したんだい、マイハニー?」
「一度死んできやがれぇぇぇぇっっっ!!!」
「んぎゃああぁぁぁっ!!」
魔力の塊をアレフに叩きつけ、吹き飛ばす。吹っ飛ばされたアレフは、哀れ空の藻屑と消えた。
「はぁはぁはぁはぁ・・・何だってんだ、一体?」
言い様の無い疲れを抱えたまま、シオンはその場を歩き去った。
「兎に角、さっさと原因を探らないと・・・」
そして、シオンの受難は始まった。
「シオン!俺と一緒に暮らそうぜ!」
「戯けた事をぬかすなぁっ!」
飛び付いて来るピートをハリセンの一撃で黙らせ・・・
「シオンさん、愛してます!一緒に妄想の世界で暮らしましょう!」
「何気に恐ろしい事を言うなぁっ!」
怪しい目付きで迫ってくるシェリルを魔法で眠らせ・・・
「シオン君、僕に大人の世界を教えてくださいっ!」
「由羅に訊けえぇっ!!」
素っ頓狂な事をほざくクリスを由羅の家に誘導し・・・
「シオンさん、ボクと一緒に夜明けのコーヒーを飲もうよ!」
「子供にはまだ早い!」
抱き付こうとするトリーシャをトリーシャチョップで迎撃し・・・
「シオン君、私の後妻となる気は無いかね?」
「俺にそっちの気はねぇぇっ!!」
トチ狂ったリカルドを、素手のファイナル・ストライクで昏倒させ・・・
「シオン、アタシと結婚してぇ!」
「嫌だぁぁぁっ!!」
ストレートに迫ってくるパティを転送魔法でさくら亭に強制送還し・・・
「シオン!私の熱い想いを受け取ってくれぇ!」
「冗談じゃないわぁっ!!」
物陰から飛び出してくるリサを当身で眠らせ・・・
「ふみゃぁ、シオンちゃん、メロディを抱き締めて欲しいのぉ~!」
「意味も知らんで言う事かぁぁっ!」
野性の本能で飛び掛るメロディをマタタビで釣って家に送り返し・・・
「あんたはアタシと付き合うべきなんだよ、シオン!」
「嫌だって言ってるだろうがぁぁぁっ!!」
身勝手な事をのたまいながら迫るエルをマーシャル武器店に放り込み・・・
「はぁはぁはぁはぁはぁ・・・今日は・・・厄日か・・・?」
「やぁシオン。」
「うわぁあぁぁぁっ!?」
走り回って目当ての図書館に辿り着いた時、いきなり後ろから声をかけられ、思わず飛び退るシオン。視線を後ろに遣ると、其処に立っていたのはリイムだった。大仰に反応され、所在なげに立っている。
「え〜と、どうかしたのかい?」
「り、リイム・・・お前は大丈夫なんだな?」
「何が?」
「いや、実はな・・・」
今日の一連の出来事を簡単に説明する。始めは神妙な顔で聞いていたリイムも、話が進むに連れて笑いを堪えるのに必死になっていった。
「ぷ・・・くくく・・・そ、それで原因を探る為に、図書館に来たって訳だ・・・」
「笑い事じゃないぜ・・・」
「ふふ、ゴメンゴメン。でも、多分此処で調べるまでも無いと思うよ。」
「と言うと?」
「今朝マリアちゃんに会ってね。彼女がとある本を持ってたんだ。何の本だと思う?」
「・・・魔道書か?」
「はずれ。正解は恋の御呪い全集。惚れ薬を作るとか何とか言ってたから、多分それが原因じゃないかな?」
「って事は、この瓶の中に入ってたのがその薬って事か・・・。でも、惚れ薬なら効果が違うだろ?」
「まぁその辺はマリアちゃんだし、って事で説明つくと思うけど?」
リイムのその台詞に、これ以上無いと言うほどの説得力を感じるシオン。脱力しかける体を立て直し、マリアを探す為に走り出そうとする。
「はぁ・・・早く探さなきゃな・・・。って、そう言えば、何でリイムは平気なんだ?」
「ん〜多分このペンダントの御蔭だろうね。これには、あらゆる呪いを弾く効果があるから。」
「へぇ・・・まぁ良い、ンじゃそろそろ行かせて貰う。」
「ああ。頑張ってね。」
リイムに軽く手を振ってから、マリアを探して走り出す。その背中を見送りながら
リイムは・・・
「男性陣やアリサさんは兎も角、女性陣は何時もの行動がより積極的になっただけのような気もするけど・・・それでも気付かないんだから、シオンの鈍さも筋金入りだね・・・」
何となく呆れたような呟きを漏らしていた・・・。
「此処には・・・居ないか・・・。屋敷の方にも居なかったみたいだし・・・何処に行ったんだ?」
彼方此方を探し回っても、マリアの姿は見えなかった。なるべく人目に付かない様隠れながらの行動の為、疲れる事この上ない。いい加減苛々し出した所に、大きな本を持って走るマリアの姿が目に映った。
「見つけた!おい、マリア!!」
「え・・・?あ、シオン!」
シオンの上げた声に気が付いたマリアが走り寄って来る。この時シオンは苛立ちと疲れで失念していた。自分が今どういう状態にあるのかを・・・。
「マリア、呪いの本を・・・」
「シオン、マリアを抱きしめてぇぇっ!!」
「って、忘れてた・・・!」
飛び付いて来るマリアを上手く捌き、その手に抱えられた本を上手く回収する。そして、間髪入れずにに転移魔法でその場から逃げ出す。取り残されたマリアは、ひどく悔しがっていた。
「さて、此処なら大丈夫だろ・・・。」
ローズレイクに転移してきたシオンは、早速手にした本−「恋の御呪い全集」とやらを開いた。ぺらぺらとページを捲って行くと、マリアが作ろうとしたであろう惚れ薬の作り方が書かれたページを見つけた。
「これか・・・『ラブポーション』ねぇ・・・。どんな風に変質してるかは解らんが・・・これなら何とかなるか・・・」
小さく呟くシオン。と、その背後から誰かが近寄ってくる。だが、薬の効果を消す方法を考え込んでいるシオンはそれに気付かない。また、近寄ってくる方の気配の消し方もかなりのモノだ。手を伸ばせば触れられると言う所まで来て、その誰かはゆっくりとシオンに抱きついた。
「シ〜オ〜ン〜君!」
「うわぁっ・・・って、シーラ!?」
本に気を取られていたシオンは、いきなり抱きついてきたシーラにかなり驚くが、直ぐに落ち着きを取り戻す。シーラは他の薬に当てられた人とは違い、何も言わず唯抱きしめているだけである。だが、シオンには其方の方が厄介だった。変な事を言って来たら問答無用で眠らせるなり張り倒すなり家に送還するなり出来るが、唯抱きついてくるだけだとあまり強く出られない。
「え〜と、シーラ?離れてくれないかな?」
「いや。シオン君・・・私の事嫌い・・・?」
「あ〜、そう言う事じゃないんだが・・・仕方ない・・・」
溜息混じりに呟くと、眠らせる為の魔法を唱える。と、ゆっくりとシーラの体から力が抜け、シオンに寄りかかりながら静かな寝息を立て始めた。
「ふぅ・・・しかし、何で効き方が変わったんだろうな・・・。まぁ良い、さっさと解呪しちまうか・・・」
地面に寝かせたシーラに少しだけ申し訳無さそうに目を遣ってから、解呪を始めた。
「え、え〜と・・・」
その日の夕方。解呪を済ませたシオンは、マリアをジョートショップに呼び出した。普段と変わらないように見えて、その実目が全く笑っていないシオンの様子を見て、マリアはかなりひきつり気味だ。
「さて、マリア?何で此処に呼ばれているか・・・解っているな?」
「あ、あはは・・・何でかなぁ?」
「解らない、と?」
「う、うん。」
「本当に解らないんだな・・・?」
「う・・・し、知らないわよぅ・・・」
「フゥ・・・仕方ないな・・・」
「許してくれるの!?」
溜息をつくシオンの様子に、許してもらえると思うマリア。だが、その後に続けられたシオンの言葉は、マリアを不幸のどん底に叩き落した。
「いいや、如何やら全く反省の色が見えないからな・・・。少しお仕置きをする事にした。」
「お、お仕置きって・・・?」
「全魔力完全封印。」
「嘘っ!?」
シオンの言葉に蒼白になるマリア。魔法至上主義者のマリアにとって、魔力を封印されると言うのは、最早死ねと言われているのと同義だ。何とか撤回してもらおうと、必死で謝るマリア。だが・・・。
「ご、ゴメンなさいっ!謝るから、もうしないから・・・だから、それだけは止めてっ、お願いシオン!」
「駄目だ。これは決定事項だ。安心しろ、何も一生封印しようって訳じゃない。向こう一週間だけだ。・・・大気に散らばりし魔の根源たるマナよ・・・彼の者の内に入りて、その魔なる力に不可視の縛鎖持て、絶対なる封印を施さん・・・」
シオンの唱える呪文が終ると、マリアの体に淡い光が取り付き、それが消えたときには既にマリアの体から魔力が消えていた。
「あああああ・・・非道いよぅ・・・」
「憐れめいた声を出しても駄目。これ位の罰で済ませてやったんだ。これを機に、少しは反省してろ。」
「ううぅぅ・・・良いもん、魔力が戻ったら、真っ先にシオンに仕返ししてやるから!」
そんな捨て台詞を残して、マリアはジョートショップを飛び出して行った。
「良いんスか、あれで?」
「まぁ・・・大丈夫だろ。一週間の罰則で、マリアがどの程度反省してくれるかは疑問だけどな。」
「はぁ・・・。苦労するっスね、シオンさん。」
「・・・言うな。余計疲れる・・・。」
同情するテディの台詞に、言いようの無い疲労感を感じるシオンであった。
一週間後、エンフィールド某所。
チュドオォォォォンッ!!
朝の静寂を破る爆発音。そして、響き渡る怒声。
「マリアァァァァッ!!おのれは反省と言う言葉を知らんのかあぁぁっ!!」
「ひぃぃん、ゴメンなさいぃぃぃぃっ!!」
如何やら、シオンの受難はまだまだ続くようである・・・。
Episode:24・・・Fin
〜後書き〜
どうも、刹那です。Episode:24は『ラブ☆ポーション』のお話です。シオンに他の人が迫る際の台詞が上手く思いつきませんでした。で、結局あんな感じになりましたが、如何でしたでしょうか?どうもギャグ系の台詞は苦手です。
それでは、Episode:25でお会いしましょう。