悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−
Episode:25 追憶の欠片〜失われし記憶〜
不思議な空間。まるで、自分が自分で無いような、だけど、自分をはっきりと認識できる、そんな空間。
(・・・あぁ、俺は夢を見ているのか・・・)
ぼんやりとした意識の中で、そんな事を思う。自分で夢を見ていると認識できるのは妙な気分だが、そうと解るのだから仕方が無い。
(何だか・・・意識が・・・薄らいで・・・い・・・く・・・)
これは夢なのだと言う認識だけが、奇妙なまでにはっきりと残ったまま、意識はゆっくりと周囲に溶け込んでいく。
そして、夢は始まりを告げる・・・。
――生まれ来る事が罪ならば・・・――
「この化け物!」「あんたなんか、生まれて来なければ良かったんだっ!」「さっさと死んでしまえ、この化け物めが!!」
投げつけられる幾つもの罵声。その全てが、自分に向けられた物だとはっきりと解る。その中でも、一際耳に残る言葉−忌み子−。
「あんたは忌み子なんだ!」「そうだよ、神様に仇名す罰当りめ!」「殺せ!悪魔の子を殺せぇ!」
向けられる殺意。自身の生まれなど知らない。選んだわけでも無い。それなのに、生まれてきた事それ自体が、罪だと言う。ならば、何故俺は生まれて来た・・・?
『殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ殺せ・・・!!』
何時までも耳に残る呪詛の言葉。その言葉を聞きながら、自身の中で生まれる1つの感情。
−憎悪−。それが、着実に自身の中に息衝いて行く。息衝いた憎しみは、様々な方向へ向けられる。忌み子たる自分に、周囲の全ての者達に、そして、神と言う存在そのものに・・・。
――誰かを想い、愛する事さえ、罪なのだろうか・・・?――
「私は、貴方の味方であり続けます・・・。例え、この世界の全てを敵にまわしてでも・・・。」
向けられる愛情。答える事の出来ない想い。呪われた血故に・・・呪われた道行きを歩むが故に・・・。
「それでも構わない。例え答えてくれなくても、私は貴方の傍に居つづけます。貴方の心が壊れてしまわないように。貴方が、孤独に心押し潰されぬように・・・。それだけが、私が、貴方の為に出来る、唯一の事だから・・・。」
感じたことの無い思い。そして、想い。答えたい。答えられない。答えなければ・・・答えてはいけない・・・。相反する感情。そして、導き出した答え。
「俺は・・・君の事が・・・」
――重ねあう温もりは、その想いは、全てが偽りなのだろうか・・・?――
「ずっと、傍に居ます・・・。貴方が、私を拒絶するその時まで・・・。」
「ずっと、愛し続けよう・・・。君が、俺を拒絶するその時まで・・・。」
重ねあった肌。交わした温もり。少しづつ、本当に少しづつ変わっていく世界。
憎しみは影を潜め、代わりに心を満たす想い。
−愛情−。そう呼べるだけの想いが、心を満たしていく。心地よい感触。自分も、幸せになることが赦されるのだろうか・・・?自分を愛しつづけてくれる、この掛け替えの無い人を、幸せにする事が出来るのだろうか・・・?
――古に繋がれし呪われた縛鎖。それが、“今”を壊していく・・・――
「ワタシハ・・・アナタヲ・・・コロスモノ・・・」
「私は・・・貴方を・・・愛する者・・・」
「ワタシハ・・・テンシ・・・カミノカセニシバラレシモノ・・・」
「私は・・・人間・・・神の枷を外れた者・・・」
彼女の中で相反する感情。神に植え付けられた俺への殺意と、今まで育んで来た俺への愛情。それが、彼女を苦しめる。
自身の呪われた血が、忌まわしきこの力が、彼女を苦しめる枷となる。ならば・・・
「俺を・・・殺してくれ・・・他の誰でもない、君の手で・・・」
――解き放たれた想いは、悲しき結末と贖う事適わぬ罪を齎す・・・――
「どうして・・・貴方を殺す事など出来ましょう・・・?私は、貴方を愛し続けているのに・・・」
「貴方は、生きて下さい・・・。こんなところで、死んでは駄目・・・」
「貴方は、生きるべきなのです・・・だから・・・」
「だから、貴方の手で、私を殺してください。私が・・・私でいられる間に・・・」
肉を切る感触。失われていく温もり。そして、とうに枯れ尽したと思っていた涙・・・。
血塗られた刃を手に、俺は一人立ち尽くす・・・。
「君の居ない生に、どれほどの意味がある・・・?」
――生まれ来る事が罪なれど・・・――
「これが、俺の結末なのか・・・・・・?」
「俺は、誰一人幸せにする事も出来ないのか・・・?」
「ならば、何故俺は生まれて来た?」
「何故、俺のような存在をこの世に産み落とした!?」
答えの無い問い掛け。だが、自身の中に流れる忌まわしき血が・・・
神の・・・魔の・・・そして、人の血が・・・答えを導く。
神を・・・魔を・・・人を・・・全てを滅ぼせ、と・・・
――背負った罪から目を背けはしない・・・――
−殲滅者−。神は俺をこう呼ぶ。
−殲滅者−。魔はそう呼び、怖れる。
−殲滅者−。罪深き者。人にあって人にあらざる者。
それが、俺の中に眠りし忌まわしき力。
罪人の証。永久に続く贖罪。無限の縛鎖。その全てを背負って・・・
――生き抜いてみせる・・・全てが終わりを告げる刻の果てまで・・・――
「・・・オン!シオン!!」
「・・・え・・・?」
強く体を揺すられ、目を覚ますシオン。まだ完全に覚醒していないのか、その瞳には覇気が無い。
「シオン、如何したんだい?君がこんな所で眠るなんて・・・疲れが溜まってるのかな?」
「・・・俺は・・・眠っていたのか・・・?」
リイムに言われ、漸く自分の状況を認識する。さくら亭のカウンターで、シオンは眠っていたようだ。軽く伸びをし、眠気を払う。
「ふぅ・・・疲れていたつもりは無いんだけどな・・・。さて、午後の仕事に行くか・・・。」
「大丈夫なのかい?少し休んだ方が良いんじゃ・・・」
「大丈夫だって、もう十分休んだよ。それじゃ、行って来る。」
「あ、あぁ・・・。」
自分の分の会計をして、店を出て行くシオン。それを見送るリイムの表情は不安そうだ。
「・・・アレは、一体なんだったんだ・・・?」
微かな戦慄と共に呟くリイム。他の客達は気付いていたなかったのだが、先程、眠っている時のシオンの髪が、漆黒のソレに変わったのだ。本来は薄い茶色の筈なのに、である。更に、目を覚まして直ぐのその水色の筈の瞳は、鮮やかな翡翠色に変わっていた。その変化は直ぐに直ってしまい、他の客はおろか、自身も気付いていない様だったが・・・。
「シオン・・・君は・・・一体、何者なんだい・・・?」
本当に微かなリイムの呟きは、誰に聴かれる事も無いまま、空へと消えていった・・・。
Episode:25・・・Fin
〜後書き〜
どうも、刹那です。とても短いオリジナルエピソード、シオンの過去の断片ですね。
かなり断片的な為、よく意味が解らないかも知れませんが、その辺はご容赦ください。
それでは、Episode:26でお会いしましょう。