中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:27
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:27 Anniversary


「ンじゃ、行くぞ!蒼輝真刀流・奥義・・・疾風・乱!!」
掛け声と共に蒼司が無数の斬撃を放つ。衝撃波を伴った音速の乱撃を、シオンは全て最小限度の動きのみを駆使し、紙一重でかわす。俗に言う『見切り』と言うやつだ。全ての斬撃を避けきると、一旦距離を取って軽く息を付く。蒼司も刀を納めながら、何とも言えない溜息を漏らした。
「全く・・・俺の技の中では1、2を争う速度の技だぜ・・・こうもあっさり避けきられると、自信無くすよ・・・。まぁそれは良いとして、もう体調も元に戻ったみたいだな?」
「ん、そうだな。かえって前より調子が良い位だ。不思議と体が軽いからな。」
そう言って、軽くストレッチをするシオン。二人は今ローズレイクの辺で、シオンのリハビリを行っていたのだ。ファランクス強奪事件の後、シオンは1週間の間昏睡状態にあった。つい先日目を覚ましたのだが、流石にいきなり激しい運動を伴う仕事は出来ない為、クラフト系や事務関係の仕事をしつつ、簡単なリハビリを行っていた。そして、つい最近以前と同じかそれ以上に動けるようになった、と言う訳だ。
「そういや、その髪切らないのか?」
「ん?あぁ、別段邪魔でも無いしな。切るのも面倒だし。」
そう、シオンは先の一件で伸びた髪をそのままにしているのだ。襟の辺りで無造作に束ねているが、それでも髪の一番先は膝よりやや上の辺りまで来ている。大体シーラよりやや長い位だろうか。元々シオンは中性的な顔立ちの為、その長い髪も似合ってはいる。もっとも、知らない人間が初めて見た時に、男だと判別する事は最早不可能な状態になってしまっているのだが、シオン本人は気にしていないらしい。
「ンじゃ、そろそろ店に戻るか。」
そう言って歩き出すシオン。蒼司もそれに続いて歩き出した。


「あれ?あそこに居るの、パティじゃないか?」
ジョートショップに帰る途中蒼司がパティを見つけた。かなり大きめの買い物袋を両手に抱え、フラフラと歩いている。普段は颯爽と歩く彼女からすると、凡そ考えつかない事態だ。
「・・・何かあったのかな?お〜い、パティ〜。」
「え・・・?あぁシオンに蒼司じゃない。もう大丈夫なの?」
「ああ、俺はな。そっちこそ、顔色が悪いが・・・大丈夫か?」
「あはは・・・やっぱりそう見えちゃう?」
そう力無く笑うパティは、ホントに体調が悪いようにしか見えない。思わず顔を見合わせるシオンと蒼司。一つ頷くと、シオンが徐にパティの額に手を当てた。
「ち、ちょっとシオン!?」
「動くなって。熱を測るだけだから・・・って、凄い熱じゃないか!?」
軽く触れただけなのに、それと解るほどパティの額は熱くなっている。
「そんなに驚かなくても、ちょっと熱っぽいだけだから・・・大丈夫よ。」
「『ちょっと』じゃないだろうが!蒼司、悪いが荷物の方頼めるか?」
「おう、任せろ。」
言われるままにパティから荷物を引っ手繰る蒼司。慌てるパティを、シオンがさっさと背負ってしまう。
「ちょっとシオン!恥ずかしいから降ろしてよぉ!」
「体調悪いんだから暴れるな。ったく、頑張るのは良いが、無茶はあんまり褒められたものじゃないぞ?」
「うぅ・・・あんたにそれを言われたくないわよ・・・」
「ハハハッ、そりゃ言えてる。無茶するって事に関しては、シオンの方が上手だな。」
「・・・お前等ね・・・」
ジト目で蒼司と背中のパティを睨みつけるシオン。だが、それ以上は何を言うでもなく、さっさと歩き出した。
「あ、おいちょっと待てって!」
馬鹿みたいに笑いこけていた蒼司が、慌てて追いかけて行った。


カランカラン♪

「いらっしゃい・・・って、シオンに蒼司じゃないか。ん?背中に背負ってるのは・・・パティ?」
「よぉ、リサ。この馬鹿の部屋何処?」
「2階の奥だけど・・・どうかしたのかい?」
「熱があるんだよ。それも結構。蒼司、悪いが荷物を置いたらトーヤを呼んで来てくれ。」
「あいよ。」
軽く返事をすると荷物をリサに手渡し、店を走り出て行った。手渡された荷物を取り敢えずカウンターの内側に置き、パティを背負ったままのシオンを部屋まで案内した。


パティを自室のベッドに寝かせ、布団をかけた所で、丁度蒼司に連れられたトーヤが姿を見せた。
「ふむ・・・診察するからお前等は下で待ってろ。」と言うトーヤの言葉に従い、シオン達は1階に降りた。
「しかし、パティも間が悪いねぇ。」
「何かあるのか?」
「いやね、今日はパティのご両親の結婚記念日なんだって。しかも、さくら亭開店20周年記念日でもあるんだよ。」
「へぇ・・・。20周年って事は、パティが生まれる2年前に此処は開店したのか。」
「そうらしいね。まぁそれで、夕方から常連さんとかを呼んでさくら亭のお祝い。ンで、夜は家族で結婚記念日のお祝いをするんだ、って朝から張り切ってたのよ。」
「それはまた・・・間が悪いとしかいいようが無いな・・・。」
シオン達は何とは無しに2階に視線を向ける。その視線には、深い同情の気持ちが感じられた。
「今日中に良くなってくれれば良いんだけどねぇ・・・」
「残念だが、それは不可能だろうな。」
「トーヤ!」
丁度リサが呟いた時、診察を終えたトーヤが降りてきた。その表情は、やや険しい。パティの症状があまり思わしくなかったのだろうか?
「如何だった?」
「うむ・・・典型的な風邪だな。熱はあるが咳等はしていないから、恐らく明日には回復しているだろう。だが、今日中に良くなるかと言われれば、答えはNoだ。これが逆に咳等だけだったなら、今日中に普通に動けるようになっていただろうが・・・」
「何とまぁ・・・ホントに間が悪いな、パティの奴。」
トーヤの説明に、ますます同情的になる3人。取り分け、パティが朝からどれだけ張り切っていたかを知っているリサは、その度合いが強かった。
「如何にか為らないかい?」
「幾らなんでも無理だ。秘薬の類でもあれば何とかなるだろうが・・・生憎、その手の薬は手元に無い。」
「そうか・・・」
残念そうに呟くリサ。それを見て、普段は冷静なトーヤも、やや同情的になるが、彼にもどうしようもないのだ。
「取り敢えず、今日はゆっくり休ませる事だ。誰か一人、付いていてやれ。ほっとくと勝手に動き出しかねんぞ、あの様子だと。」
「それなら・・・シオン、頼めるかい?」
「ああ、それは構わないが・・・。同性のリサの方が良いんじゃないのか?」
「良いんだよ。あんたの言う事の方が、パティも良く聞くと思うよ。」
「そうか?それじゃ取り敢えず様子を見てくる。」
「ああ。あ、ちょっと待ち。・・・っと、はい氷水とタオル。」
怪訝そうにしながらも、取り敢えず渡された氷水入りの容器とタオルを持ってパティの部屋に向かうシオン。残ったリサ達は、呆れたような溜息を漏らした。
「・・・ホントに奴の鈍さは変わらんな。」
「ドクター、あいつに効きそうな薬って無いのか?」
「無理だな。馬鹿につける薬は無いのと同じ様に、朴念仁につける薬も存在しない。」
「ま、これでパティも大人しくなるでしょ。蒼司、悪いけど店を手伝って貰えるかい?」
「あいよ。」
「それでは、俺は戻らせて貰おう。まぁシオンが居れば大丈夫だとは思うが、もし何かあったら直ぐに呼んでくれ。」
「ああ、ありがとね。」
そう言って、トーヤは店を出て行く。それを見送ったリサと蒼司は、店の仕事に戻った。


「パティ?起きてるか?」
「鍵開いてるから、入って良いわよ。」
「それじゃ、お邪魔させて貰うよ。」
一言断ってからドアを開ける。シオンが部屋の中に入ると、パティは一応大人しく横になっているようだ。
「ちゃんと寝てるな。感心感心。」
「あんたね、私は子供じゃないんだから・・・」
「そう言う台詞が出てくる辺り、まだ子供だよ。」
そう言いつつ、ベッドの傍に椅子を置き、其処に座る。持ってきた氷水にタオルを浸し、それをパティの額に当てる。
「ありがと・・・。」
「気にするな。俺が意識を失っている間、パティもこうやって看病してくれたんだろ?御相子だよ。」
「うん・・・。」
病気の所為か、何時もより素直な対応を見せるパティ。何となく戸惑いつつ、懐からりんごと小さなナイフを取り出し、皮を剥き始める。
「・・・あんた、それどっから出したのよ?」
「食べようと思って買っておいたんだよ。ナイフは常備してる物。・・・ほれ、食べるか?」
「ん・・・貰うわ。」
器用な手つきで皮を剥き終わり、一口サイズに切り分けると、その一切れをパティに差し出す。
「ねぇ・・・私、今日中に治るのかな?」
「無理だそうだ。・・・聞いたよ、今日は記念日なんだって?」
「うん。あ〜ぁ・・・何でアタシってこうなんだろ?ずっと前から楽しみにしてて、今日だって頑張って用意して・・・なのに、熱を出して寝る事になるなんて・・・。お父さん達だって、凄く楽しみにしてたのに・・・」
「・・・なぁ、パティ。お前の親父さん達だって、熱をおして無茶して祝って貰ったって、嬉しくとも何とも無いだろ?寧ろ心配をかけるだけだ。」
「解ってるわよ、そんな事。」
諭すように言うシオンに、むくれたように答えるパティ。その子供じみた態度に、シオンは小さな苦笑を漏らす。小さすぎて、パティには気付かれなかったが。
「解ってるけど・・・やっぱり祝って上げたいわよ。一生で一度しかない日なんだもの・・・。」
パティの心からの台詞。単なる我侭ではないその言葉に、シオンが少し考え込む。
「・・・今すぐに治す手立てが無いわけじゃない。」
「ホントッ!?」
小さく呟かれたシオンの言葉に、過剰に反応するパティ。ベッドから跳ね起き、詰め寄ってくるパティを制しつつ、シオンは話を続ける。
「落ち着けって。俺が旅の途中で手に入れた秘薬・・・それを使えば、治る事は治る。」
「なら!」
「但し、幾つか副作用がある。」
「どんな?もし軽いものなら・・・」
「先ず、服用後3時間、死人の如く熟睡する。まぁこれは問題無い。」
浮かれるパティの目の前に突き出した手の指を、一本だけ伸ばす。何とは無しに気圧されるパティ。更にシオンは二本目の指を伸ばしながら、説明を続けた。
「二つ目。これが問題。酒や辛味調味料等の、刺激の強い物を摂取すると、薬が過剰に反応し、良くて全身麻痺、最悪脳死状態になる。因みに、これは服用後5時間以内に摂取した場合にのみだ。服用後5時間以上経てば、問題は無い。」
「・・・要するに、薬を飲んだら5時間大人しくしてれば良いのね?」
「ああ。現在時刻が午前11時。夕方からお祝いのパーティーを始めるんだったな?時間的には丁度良いが・・・如何する?」
シオンの問い掛けに、考え込むパティ。5時間何も食べずに居る事は、それ程難しくは無い。だが、3時間も寝っ放しでは、パーティーの準備が出来ない。それがパティを悩ませているのだ。パティが悩んでいる理由を察したシオンは、その悩みを解消する提案をした。
「パーティーの準備なら俺とリサでやっておく。他にも何人か手伝って貰えるかも知れん。だから、その点は心配無い。で、如何する?」
「・・・解ったわ、飲ませて頂戴。」
「なら、少し待っててくれ。シーン・クラビア。」
転移の魔法を唱え、姿を消すシオン。5分ほどして、再び姿を現した。
「お待たせ。これがその秘薬だ。」
「へぇ・・・見た目はそれ程変わってないのね?」
パティの言う通り、シオンの差し出した秘薬は、見た目も臭いも変わった所は見当たらない。見た目だけなら普通の飲料水にしか見えないのだ。
「服用時の注意はなし。そのまま飲んでくれれば良い。何か準備の事でリクエストはあるか?」
「その辺は、リサに聞いて頂戴。元々手伝って貰うつもりだったから、リサには話してあるの。・・・それじゃ、飲むわね・・・」
小さく深呼吸をし、意を決したように一気に薬を飲み干す。すると、糸の切れた人形のように、パティは意識を失って倒れこんだ。
「っと・・・。全く、強情というか何と言うか・・・ま、ゆっくり眠ってろ。起きた時には、準備は終ってる筈だからな・・・。」
パティをベッドに寝かせ直し、布団をかけて部屋を出る。後は手伝って貰える人材を探すだけだ。


「シオン、パティは如何したんだい?」
1階に降りたシオンに、カウンターでグラスを磨いていたリサが話し掛ける。それを聞きつけて、客の居ないテーブルを拭いていた蒼司も近寄ってくる。何時の間に戻って来たのか、リイムとエスナも店の中にいた。
「リイム達も戻って来てたのか・・・。丁度良い、実はな・・・」
先程の事の顛末を説明するシオン。リサ達はそれを黙って聞いていた。
「まぁそんな訳で、これからパーティーの準備をしたいと思う。手伝って貰えるかな?」
「何を言うかと思えば・・・当り前だろ?」
「まぁ俺等も此処の常連だし。」
「僕達は此処の客として、お世話になってるからね。」
「ええ、喜んでお手伝いさせて貰います。」
全員の返事を受け、シオン達は早速準備を始めた。今日は午後の1時で店じまいをし、それから飾り付け等をする予定だという。其処で、シオン達は必要な物の買出しを先に済ませてしまう事にした。必要な物をメモに書き出し、分担して買出しに出る。店の方は経験のあるリサとシオンが担当した。
こうして、準備は進められて行く。


午後4時半。さくら亭の店内は華やかに飾り付けられていた。あの後、話を聞きつけて集まって来たジョートショップの面々も手伝い、予定以上に華やか且つ盛大な物になっている。
「うわ・・・凄いね、これ・・・」
2階から降りてきたパティが、飾り付けられた店内を見て、他人事のように呟いた。
「あ、パティちゃん。もう起きて大丈夫なの?」
「シーラも来てたんだ。うん、もう大丈夫よ。シオンのくれた薬の御蔭。」
「そうなんだ。」
言う通り、パティの顔色は何時もの状態に戻っている。熱が出たとき特有の体のダルさも取れているようだ。
「アタシも手伝うわ。何かする事残ってる?」
「えっと・・・それじゃ厨房のアリサおば様のお手伝いをして貰える?今パーティー用の料理を作ってる筈だから。」
「解ったわ!」
元気良く返事をして駆け出すパティ。治った途端何時もの調子に戻ったパティに苦笑しつつ、シーラは準備に戻った。
そうこうする内に準備は終わり、予めパティとリサが連絡しておいた昔からの常連達が集まり始めた。
そして、午後5時半。さくら亭開店20周年記念パーティーはその幕を開いた・・・。


「シオン、ちょっと待って!」
パーティーが終った後、片づけをして帰ろうとしたシオンをパティが呼び止める。それを見て、気を利かせたアリサとテディは先に戻った。
「どうかしたのか?」
「うん・・・。ちゃんとお礼を言いたくて。」
「別に礼を言われるような事は・・・」
「あるでしょ。薬の事もあるし、準備の事もそう。今回の事だけじゃないわ。今までもよく店を手伝って貰ったり、色々手助けして貰ったり・・・。そういうのも全部含めて、お礼がしたいの。」
真摯な眼を向けるパティに、何となく気恥ずかしくなって目を逸らすシオン。それを誤魔化すように、言葉を紡ぐ。
「助けて貰っているのは俺も一緒だし、それで差し引き0じゃないか?」
「もぅ・・・人が素直に礼を言ってるんだから、そっちも素直に受け取りなさいよ!」
「いや、そう言われても・・・!?」
まだ何か言おうとするシオンの頬に、掠めるようなキスをする。いきなりの事に呆気に取られるシオンを置いて、パティはさっさと店に戻ろうとする。と、店のドアの手前で立ち止まり、シオンの方を振り向く。
「・・・まぁアタシのお礼の気持ちよ。ありがたく受け取っておきなさい!」
そう言って、笑顔を浮べる。そしてシオンに何も言わせぬまま、さっさと店の中に入って行ってしまった。
「・・・やれやれ。まぁ、ありがたく受け取っておくよ。」
苦笑し、呟くシオン。そしてそのまま、ジョートショップへと帰って行った。


Episode:27・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。Episode:27、パティメインの話です。・・・出番はあまり多くないですが。
パティの態度がゲームとかなり変わってますが、このSSでのパティは最初からシオンに好意的ですからね。だから、パティのメイン1、2のイベントは、そもそも成立しなかったりするんです。まぁその辺はSSならでは、と納得してください(笑)
それでは、Episode:28でお会いしましょう。
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