中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:28
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:28 朽ち果てた遺跡の中で


「洞窟の探索?」
仕事を終え、さくら亭で昼食を食べているシオンに、珍しくシェリルが提案してきた。何でも、地質調査の手伝い中に偶然深そうな洞窟を発見し、その調査を依頼されたのだと言う。
「はい、如何でしょうか?やっぱり、急な依頼は請けられませんか?」
「・・・そう・・・だな。まぁ今日の仕事はもう終ってるし・・・シェリルも地質調査の仕事は終ってるんだろう?」
「あ、はい。」
「なら・・・うん、請けても構わないかな。」
「良かった・・・。それじゃ、早速準備しなくちゃ・・・!あ、そうそう、洞窟の場所・・・解りますよね?」
「ああ。地質調査に向かった場所だろ?ならわかる。」
「そうですか。集合は午後の・・・2時で良いですよね?それじゃ、後程。」
妙に張り切った様子で店を出て行くシェリルに、やや怪訝そうな目を向けるシオン。そんな心情が、つい口をついて出る。
「・・・何かあったのか、シェリルは?」
だが、その呟きは誰に聞かれる事も無かった。


約束の時間になり、合流した二人は早速件の洞窟へと入っていった。洞穴の入り口付近は比較的保存状態が良かったのか、突然崩れだす、等という事は無さそうだ。
「え、張り切ってる理由・・・ですか?」
洞穴の入り口付近を調べつつ、シオンは先程感じた違和感−妙にシェリルが張り切っている理由に付いて訊ねてみた。
「実は、私今小説を書いてるんですけど・・・」
「ああ、以前雑誌に載った冒険小説の続編か。」
「はい。それで、そのネタがどうしても思いつかなかったんですが、今回の件で何とか書けそうなんです。」
「なるほど。今回の調査のことを、小説のネタにしよう、って訳か。」
納得がいき、何となくすっきりした感じがするシオン。訳を話したシェリルは、やや恥ずかしそうだ。
「やっぱり、駄目でしょうか?こんな付け焼刃のネタでは・・・」
「そうは思わないが・・・。熟考したって話そのものが面白くなければ意味は無いし、逆に言えば、即興で思いついたネタでも、話として面白ければそれで良いと思うがね。」
「・・・そう言って貰えると、少し気が楽になります。」
そう言って、実際に小さく息を付くシェリル。その様子に、シオンは軽い苦笑を漏らした。
「シェリルは何でも硬く考えすぎだな。勿論、それは悪い事じゃない。だけど、もう少し柔軟な考え方も出来るようにすべきだな。・・・っと、其処気を付けて。段差になってるから。」
「柔軟な考え方・・・ですか。そうですよね、頑張ってみます。」
「ああ。」
頷き、微笑みかけるシオン。シェリルは顔を真っ赤にしながらも、決意を示すかのように深く頷き返したのだった。


「・・・良し、これで此処の罠は解除した。もう通っても平気だ。」
少し中まで進んだ所で突然立ち止まり、しゃがみ込んだかと思うと、何事かごそごそやっていたシオンが立ち上がりながらそう言った。
「ここにあったのは、どんな罠なんですか?」
「ん?これは、一定のラインを越えると左右から槍が飛び出す仕掛け。まぁ古典的ではあるけれど、効果的な罠ではあるな。」
「成る程成る程・・・メモメモっと・・・。」
シオンの説明を持参したメモに書き連ねるシェリル。その間に、シオンは周囲に他の罠が無いかを確認する。少しして確認が終ったのか、シオンが先に進み始める。シェリルもそれに続いた。
「そう言えば、良くある大岩が転がり落ちてきたり、天井が下がってきたり、と言った罠って無いんでしょうか?」
歩きつつ、シェリルが訊ねる。此処までそれなりに進んできたが、遭遇した罠はどれも小規模の物ばかりで、大掛かりな仕掛けは一つも無かったのだ。冒険小説なんかも良く読むシェリルには、それが少々意外だった。
「まぁ世界中探し回れば、何処かにはあるかも知れないが・・・絶対数は少ないな。」
「そうなんですか?」
「少し考えれば解るさ。こういう場所に仕掛けられている罠ってのは、須らく最奥にあるであろう遺跡・・・と言うか、建造物を守る為にある。或いは宝だとかな。だけど、天井が落下したり、岩が転がってきたり、なんてのは、侵入者を仕留めるどころか、罠が作動した際の衝撃で建造物そのものなんかを壊しかねない。実際、罠の衝撃で宝のある部屋が崩れ、探索不可能になった洞窟もあるらしいしな。それに、そんな大掛かりな真似をしなくても、侵入者を仕留める事は出来るんだから。」
「・・・そう言われてみれば、そうですよねぇ・・・」
シオンの説明に、つくづく小説と現実との差を感じてしまうシェリル。どうやら彼女としても、岩が転がってくるような大規模な仕掛けを待ち望んでいたようだ。そんなシェリルを見かねたのか、シオンは少し辺りを見回してから言った。
「・・・まぁもし岩の罠を仕掛けるなら、こう言った場所が最適だな。」
「・・・え?それは、どうしてですか?」
「地形的に最適なのさ。通路は狭すぎず、かといって自由に動き回れるほど広い訳でもない。更に、多少の段差はあれど地面は比較的平らだ。こう言った場所で岩を転がせば、侵入者は否応無しに先に走って逃げるしかない。ンで、その走る方向に更に一つか二つ罠を仕掛けておけば完璧だな。」
「確かに、この幅じゃ横に避ける事も出来ないですしね。・・・そう言えば、岩を壊したりって言うのは無理なんでしょうか?例えば、シオンさんならそう言う事だって出来ますよね?」
シオンの説明をメモりつつ、ふと思いついたように質問するシェリル。その問い掛けに、シオンは苦笑しつつ答えた。
「随分と過激な事を言うな。まぁ確かに壊す事自体は出来なくは無い。だけど、それは基本的にタブーだ。」
「何でですか?効果的な気もするんですが・・・」
「確かに、その罠自体には有効な手段だ。だけど、そんな岩を砕く程の衝撃を与えて、万が一にでも洞窟自体が崩れてしまったら如何する?」
「あっ・・・そう・・・ですよね。大規模な罠が無いのと殆ど同じ理由ですね?」
「まぁそう言う事だ。良くトレジャーハンターに求められるのは慎重さと同じくらいの大胆さだ、なんて言われるが、後先考えずに行動するのは、慎重だとか大胆だとか、そんな事以前の問題だからな。」
そう言って苦笑するシオン。この後も、罠を見つけてはシオンが解除し、シェリルに講義し、シェリルがそれをメモする、と言った感じで、順調に奥へと進んで行った。


「何だか、随分と広いところに出ましたね。」
30分ほど進むと、シェリルの言う通り妙に広まった空間に出た。広間を挟んで現在位置とは丁度反対側に、先に進む通路が見える。
「ふむ・・・。シェリル、一気に突っ切るぞ。」
「え?如何したんですか、急に。」
「此処は、魔獣を呼び出す魔方陣が作られている。恐らく、侵入者がこの広間に足を踏み入れると同時に作動するんだろう。」
「魔方陣・・・ですか?何処にも見えませんけど・・・」
そう言いつつ、辺りを見回すシェリル。シオンの言うような魔方陣は見当たらない。
「見ただけじゃ解らないさ。其処彼処に立ってる柱、それが魔方陣を描いているんだ。」
「柱で?そんな事が可能なんですか!?」
「出来るさ。魔法建築技術の初歩だよ。まぁそう言う訳だから、一気に走り抜ける。余計な手間は省きたいからな。」
「解りました。」
二人は広間の入り口ギリギリの所に立ち、呼吸を整える。シェリルは自身にシルフィード・フェザーをかけ、身体能力の不備を補った。
「それじゃ、私が先に出るんですね?」
「ああ。その後を、俺がサポートしながら続く。シェリルは唯走る事だけを考えれば良い。」
「解りました。それじゃ・・・行きます!」
掛け声と共に、走り出すシェリル。魔法の助けがあるとは言え、中々の健脚ぶりだ。一呼吸置いて、魔方陣から際限無く魔獣が吐き出される。犬型の素早い魔獣だ。それらがシェリルに飛び掛ろうとしたところを、後ろから走り寄ったシオンが切り払い、或いは魔力弾で撃ち落して行く。そうこうする間に、シェリルは反対側の通路に飛び込んでいた。
「シオンさん!」
「今行く!・・・ふっ!!」
シェリルに答えた後、鋭く息を吐くと同時に、シオンの姿が掻き消える。目を剥く魔獣たちを余所に、シオンは一瞬でシェリルの傍にまで移動していた。
「し、シオンさん!?何時の間に・・・」
「ん?ちょっと音速で動いただけだよ。それより、先に進むぞ。」
「音速って・・・って、待ってくださいよ、シオンさん。」
さらりととんでもない事をぬかすシオンに一瞬呆気に取られるシェリルだが、当のシオンがさっさと先に進んでいってしまった為、慌てて後を追った。
二人が走り抜けた後の広間では、暫くの間魔獣達が唸りながら徘徊していたが、やがてその姿は煙のように消えてしまっていた。


「うわぁぁ・・・綺麗な建物ですね・・・。神殿か何かでしょうか?」
「ふむ・・・多分神殿だとは思うが・・・随分と保存状態が良いな。あれらの罠は、この神殿の建立者が設置したのか・・・?」
二人の視線の先では、随分と立派な造りの神殿らしき建物が鎮座している。その建物は随分と昔に造られた筈なのだが、そんな事を感じさせないほど綺麗な状態だった。
「兎に角、入ってみるか。」
「はい。」


二人が中に入って感じたのは、意外に綺麗だ、と言う事だった。立地条件から考えて、この建物が建造されてから大分時間が経っているはずなのに、天井や壁はちゃんとしているし、それどころか埃一つ無いのだ。明らかに異常である。
「・・・最近誰かが住み着いたか・・・?」
「どうします?やっぱり引き返しますか?」
「いや・・・先に進んでみよう。幸い魔法が使えなくなるなんて事は無い見たいだし、危なくなれば直ぐに撤退すれば良い。」
「そう・・・ですね。解りました、行きましょう。」
二人が更に奥に進むと、かなり大きな扉に行き着いた。外観から見て、恐らくこの扉の向こうがこの神殿の中心部、礼拝堂にあたる部分の筈である。
「人の気配は感じないが・・・行くぞ?」
「はい、何時でもどうぞ。」
小さく頷きあい、シオンが大扉を開く。想像通り其処は礼拝堂であった。かなり広い造りになっている。エンフィールドの教会の礼拝堂の2倍近い。辺りを見回しながら、シオン達は礼拝堂の中に入っていく。と、突然二人に声がかけられた。
「この礼拝堂に何用ですか?」
「!?・・・誰だ?」
全く気配を感じなかった事に少なからず驚きながら、シオンが誰何する。声は答えなかったが、やや間を置いてからその姿を見せた。どうやら二人の死角になる位置にある椅子に座っていたようだ。
「・・・私はこの神殿の守部。智天使フェリム・フェシア。フェリシアとお呼び下さい。」
「天使・・・人に使役された天使か。俺の名はシオン=ライクバーン。自分で言うのも如何かとは思うが、別段この神殿を如何こうするつもりは無い。安心してくれ。」
「私はシェリル=クリスティアです。つい今し方この神殿に至る洞窟が発見され、その調査の途中偶然この神殿を見つけたんです。」
其々名乗り合うシオン達。フェリシアと名乗った天使はシオン達の台詞を聞き、少し考え込むような表情になる。
「此処が・・・発見された?妙ですね・・・この神殿は、周囲の空間とは隔離されています。それ故、外界の者が発見する事など適わない筈なのですが・・・。」
「発見されてはまずい物なのか?もしそうなら・・・」
「あ、いえ、そう言う訳ではないのです。唯、この神殿は私にとってとても思い出深い場所なので、出来るならこの当時の姿のままで遺しておきたかったのですが・・・どうやら、それも適わぬようです。」
何処か悲しげに語るフェリシアに、シェリルもシオンもやや同情的になる。と、ふと気が付いたかのようにシェリルが質問する。
「あの、フェリシア様?」
「フェリシアで構いませんよ、シェリルさん。」
「あ、じゃぁフェリシアさん。フェリシアさんは天使なんですよね?それなら、天界に帰ったりとかはしないんですか?」
「・・・私は、天界に帰ることは出来ないのです。」
「え・・・?それは、如何してですか?」
「それは・・・」
「人に使役された天使は、余程の事が無い限り天界に帰る事は許されない。本来神に絶対の従属を誓う天使が、神以外の者を一時的にでも主とするのは、不浄なる行いだって訳でね。」
口篭もるフェリシアに変わり、シオンが説明した。シェリルは納得したようだが、今度はフェリシアが疑問を抱いたようだ。
「・・・シオンさん、どうしてそのような事をご存知なのですか?人には知り得ぬ筈の天界の掟を、如何して・・・」
フェリシアの質問に、シオン自身今気が付いたといった表情をする。何とか理由を考えようとしているが、全く思いつかない。
「・・・・・・何でだろうな?」
呟いたシオンに、シェリルとフェリシアは脱力する。ちゃんとした答えを期待していたのか、フェリシアはあからさまにがっかりしてたりするが、何とか立ち直ると、シオンに向き直る。
「ま、まぁ理由の如何は置いておいて・・・。もしその辺の事情が解っておいででしたら、この神殿の事をお任せしても宜しいでしょうか?」
「それは・・・」
「解っていらっしゃるとは思いますが、私はもう長くはこの世界に留まっていられません。その事は、この神殿が空間隔離から解放された事からも明らか。ですから、私の存在が完全に消えてなくなってしまう前に、この神殿を信頼できる方に託したいのです。」
フェリシアの真摯な願いに、考え込むシオン。何が何だか解らないシェリルだが、先程のフェリシアの言葉に、不穏な単語が含まれていた事に気付いた。
「あの、フェリシアさん?存在が消える・・・って、どう言う事ですか?」
「私達天使は、この世界に顕現する際、契約者を依り代とする事で、この世界での存在を確定できるんです。逆に言えば、依り代たる契約者が居なくなってしまえば、私達はこの世界に留まる事が出来ません。天界に帰る事も出来ず、唯消え去るのみなのです。」
「そんな!?そんな事って・・・!」
「良いのですよ。私達は・・・少なくとも、私はそれを覚悟の上で、望んで契約を交わしたのですから。後悔はしていません。」
「でもっ・・・何とか出来ないんですか、シオンさん?」
消え去ってしまうと言う事に納得できないシェリルは、シオンに訊ねる。先程から考え込んでいたシオンは、シェリルの問い掛けに顔を上げた。
「・・・何とか出来ない事も無い。俺と貴方が再契約を結べば良いだけの事。」
「!それは・・・確かにそうですが・・・」
「まぁ信頼できないと言うなら仕方ないさ。相互の信頼関係があって初めて契約は意味を成すのだから。」
「私は貴方の事を信じられます。私達は一目見ればその方がどのような方か判断できますから。ですが、貴方は私を信じられるのですか?今会ったばかりの、自分とは異質な存在を?」
「・・・目は口ほどにものを言うってね。その真摯な目を見ていれば、信じようと言う気にもなる。時を経ずして他者を理解し得るのは、あんた達の専売特許じゃないんだ。そう言うのは、自分達が人の上位者だと言う傲慢さの表れでしかない。」
怒ったように言うシオンに、小さくなるフェリシア。どうやら、その自覚はあったらしい。そんなフェリシアを見て、シオンは苦笑と共に表情を和らげる。
「・・・まぁそんな訳だから、契約を結ぶのなら、此方としては異存は無い。俺の友人は其方の選択の方が望ましいと思っているようだし、今契約を結べば、態々俺がこの神殿の管理をせずに済む。」
冗談めかしたシオンの言い方に、フェリシアは縮こまるのを止めた。そして、ゆっくりと頷いた。
「・・・解りました。それでは、契約を結びましょう。」
フェリシアの言葉で、二人は契約の儀式を行う。シェリルはそれを少し離れた所から見守った。

5分ほどで契約の儀式は終った。すると、今まで希薄だったフェリシアの気配が、少しずつではあるがしっかりしたものになっていく。
「・・・契約者を失った天使・・・か。道理で礼拝堂に入った時に気配が感じ取れなかった訳だ。」
「でも、良かったじゃないですか。これでフェリシアさんも消えずに済むんですよね?」
「ええ・・・。あ、そうだ・・・お二人にこれを御渡ししておきますね。」
そう言ってフェリシアが差し出したのは、淡い光を放つ羽根だった。それをシオンとシェリルに一枚ずつ渡す。
「これは?」
「私の翼の羽根です。光の祝福を得た護符としても使用できますし、それがあれば、何処にいようとこの神殿に転移する事が出来ます。」
「凄いですね・・・。良いんですか、こんな凄い物貰っても?」
「ええ。それに、契約者であるシオン様は何時でも私を召喚できますが、シェリルさんもそれがあれば私を呼ぶ事が出来ます。神の加護を離れたが故、あまり強い力を行使する事は出来ませんが・・・私で力になれる事があったら、何時でも呼んで下さい。」
そう言って微笑むフェリシア。シオンは、今初めて彼女が笑った顔を見た事に気が付いた。
「・・・そうやって笑っていれば、ホントに魅力的なのにな。」
「!?し、ししししシオン様!?な、何をっ?」
「いや、そんなに驚かれても困るんだが・・・。」
ふと漏らしたシオンの呟きを聞き、真っ赤になって慌てるフェリシア。その様は天使と言うより、極普通の少女のようである。
「むぅ・・・シオンさんって、意外に女たらしなんですね!」
「・・・何でシェリルが怒ってるんだ・・・?」
普通気が付きそうな物だが、天然記念物級の朴念仁であるシオンには、理由が解らないらしい。

この後、3人はフェリシアの煎れたお茶を飲みながら、世間話に興じた。エンフィールドの事や其処に住むシオン達の友人たちの事、或いはフェリシアの契約者が生きていた時代の事等、話題は幾らでも合った。そろそろ話し疲れて来た頃には、大分時が過ぎていた。シオンが懐中時計で確認した所、既に9時を回っている。シオンは兎も角、シェリルは寮の門限になってしまっているのだ。
「いけない、もう帰らないと・・・。門限破ってしまったし・・・どうしよう・・・」
「それは俺の方から学園に説明すれば何とかなるだろ。兎に角、急いで帰るぞ。」
慌てて帰り支度をするシオン達。支度と言っても、罠を解除する為の道具や何やらが入った小さ目の鞄をシオンが背負うだけだ。直ぐに準備は終る。
「此処、転移の魔法使えるよな?」
「えっと・・・はい、一時的に隔離を解きました。これで転移できます。」
「良し、それじゃシェリル、しっかり掴まって。」
「あ、はい。それじゃ、フェリシアさん。また来ますね。」
「ええ。その時は、お友達も連れて来て下さいね。何時でも歓迎しますから。」
「ン。きっと皆喜んで来るだろうよ。それじゃ・・・シーン・クラビア!」
シオンの転移の魔法で二人は帰宅した。それを確認すると、フェリシアは再び神殿の周囲の空間を隔離する。もし外から見ている者が居れば、大きな神殿がいきなり掻き消えたように見えた事だろう。
誰も居なくなった自身の部屋で、フェリシアは誰にとも無く呟いていた。
「・・・マスター、貴方の言う通りでしたね。出会えましたよ、貴方と同じ瞳の・・・強さと、優しさと・・・そして、悲しみを宿した瞳を持った人に・・・。」
ふと、フェリシアの姿が消える。再び姿を現したのは、礼拝堂。そこで、フェリシアは祈るように言葉を紡ぐ。
「私の選択は間違っていませんよね・・・?あの方の力になって差し上げたい。この想いは・・・間違った物ではありませんよね・・・?」
言葉が途切れる。その視線の先で、フェリシアは嘗て自身の主だった人が微笑んでいるのを、確かに見たのだった・・・。


洞窟に潜った日から数日後、さくら亭に来たシオンは店内が妙に騒がしい事に気が付いた。

カランカラン♪

「いらっしゃい。おや、坊やじゃないか。」
「リサ?パティはどうし・・・って、何やってんだ、あいつ等?」
言いかけた言葉を途切れさせ、視線を向けた先では、シェリルを取り囲んでパティとトリーシャ、マリアが何事か言い争っている。あまり大声を上げるような真似はしていないが、シーラとエスナもやはり不機嫌な様子だ。
「あんたさ、シェリルの新しい小説ってもう読んだかい?」
「いや、未だだが・・・それが原因なのか?」
「読んでみれば解るさ。」
答えをはぐらかすリサに、釈然としないシオン。と、其処にアレフが寄って来た。
「よ、シオン。ほれ、これが件の小説が載ってる雑誌だよ。」
「どれどれ・・・」
シェリルの新作の小説は、トレジャーハンターの少年とその相棒の少女が、洞窟の奥にある神殿を見つける。其処では神殿の巫女が洞窟に出没する魔物に悩まされており、少年達が力を合わせてその魔物を退治する、と言った内容だった。
「ふぅん・・・結構良い出来じゃないか。何でこれで喧嘩になるんだ?」
「キャスティングに問題があるんだろ。」
「キャスティング?」
首をかしげるシオンに、いきなりパティから声がかけられる。
「ねぇ、シオンもそう思うでしょ!?」
「・・・何がだ?」
いきなり話を振られたって解るわけが無い。だが、パティのみならず、トリーシャ達までシオンが悪いと言わんばかりに詰め寄ってきた。
「あのね、この小説のキャスティングの事!主役の少年がシオンさんをモデルにしてるって言うのは解るよ。でも、何でその相棒がシェリル似で、しかも二人が恋仲だって事になってるのさ!?」
「シオンだって、そんなの納得行かないわよね!?」
「・・・何で?」
ホントに解らないといった風情で訊ね返すシオンの様子に、シェリルは喜び、他の少女達は愕然とする。
「・・・シオン、お前ホントに何も思わないのか?」
「何か思う必要があるのか?小説の設定だろ?別におかしな所は無いじゃないか。」
このシオンの台詞に、今度はシェリルが意気消沈し、他の少女達が活気付く。要するに、シオンがこの設定に疑問を抱かないのは、別段シェリルを特別意識しているからではなく、唯単に設定を設定として割り切って考えているからだ、と言う事が解ったのだ。だからシェリルは意気消沈し、心配していた他の少女達は立ち直った、と言う訳だ。
「お前さ・・・ぜんっぜん、気が付いてないだろ?」
「だから、何がだよ?」
「ハァァァ・・・もう良い、お前に期待した俺等が馬鹿だった。」
「坊やに気付かせるには、間接的な表現じゃなくて、ストレートに言わなきゃ意味が無いって事だね。」
「ストレートに言っても通じるか、怪しいもんだけどな・・・。」
「お前等、何か失礼な事言ってないか・・・?」
揃って溜息をつくアレフとリサを、ジト眼で睨みつけるシオン。そんな3人の後方では、まだ少女達が喧々囂々と遣り合っていた。


Episode:28・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。Episode:28、如何でしたでしょうか?
シェリルメインの話・・・の筈が、オリキャラの方が何か目立ってますね・・・(汗)
それでは、Episode:29でお会いしましょう。
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