中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:29
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:29 エンフィールド大武闘会〜前編〜


「おはよう御座います。」
「あら、おはよう。今日はゆっくりしてたのね?」
「ええ、今日は仕事も休みですしね。」
朝のジョートショップ。そろそろ朝というには相応しくない時間になって、シオンは起きてきた。アリサが煎れてくれたコーヒーを飲みつつ、パンを頬張る。平和な光景だ。が、その光景も突然の闖入者によって壊される事になる。
「シオンさん、何ボケっとしてるっスか!?」
「・・・なんだよ、テディ。起き抜け位ぼ〜っとしてても文句言われる筋合いは・・・」
「何言ってるんっスか、今日は年に一度の武闘会の日っスよ!ぼ〜っとしてる暇なんて無いっス!早く見に行くっス!」
「何だよ、その武闘会って?」
テディが何故興奮しているのかイマイチ良く解らないシオン。そんなシオンに、アリサが助けを出す。
「シオン君は知らないのよね?エンフィールドでは、年に一度コロシアムを使って、武闘会が開かれるの。毎年凄い人気なのよ。」
「へぇ・・・。それでテディが興奮してるのは解った。でも、何で俺まで見に行かなきゃならんのだ?」
「シオンさん、興味無いんスか?結構な腕自慢が沢山出るっスよ?」
「・・・俺はあんまりそう言うのは好きじゃないんだ。」
色々と言ってくるテディに対し、申し訳無さそうに言うシオン。テディはそれが不満だったが、アリサにも窘められて、渋々引き下がった。
と、その時、ドアベルが鳴る。

カランカラン♪

ドアベルを鳴らしながら入ってきたのはリイムだ。食事中のシオンに変わり、アリサが応対に出る。
「シオン、居るかい?」
「あら、リイム君。おはよう御座います。シオン君ならリヴィングの方に居るわよ。」
出迎えたアリサに会釈しつつ、リイムがリヴィングに入ってくる。
「如何したんだ、今日は?」
「うん。実はね、武闘会の事なんだけど。」
「またその話か。ンで、何だ?」
「シオン、出る気は無いかい?」
「あ゛?」
突然のリイムの提案に、唖然とするシオン。先程までシオンを武闘会に誘っていたテディもこれには驚いている。
「・・・お前な、俺がこう言った見世物めいたものは嫌いだって知ってるだろうが?」
何とか声を絞り出したシオンに対し、リイムは苦笑しつつ一枚のビラを差し出した。
「まぁまぁ・・・先ずはこれを見てよ。」
「何々・・・武闘会実施要項・・・」
「その下の方。優勝者には3万Gの賞金が出る、ってあるよね。」
「・・・成る程、そう言う事か。・・・そうだな、そう言う事なら出てみるのも一興か。」
リイムの言いたい事を理解したシオンは、やや考えた後に頷いた。これに驚いたのはテディだ。
「シオンさん、出場するんスか?さっきまで興味無いって言ってたのに・・・」
「別に興味が湧いた訳じゃない。この賞金があれば、借り受けた保釈金の返済が楽になるだろ?」
「あ、そう言う事っスね!」
納得するテディ。シオンはリイムが持ってきたビラで出場手続きの方法を確認すると、それを持って立ち上がった。
「まぁそんな訳なんで、ちょっと行って来ますね。」
「ええ、行ってらっしゃい。頑張るのは良いけど、あまり無茶はしちゃ駄目よ?」
アリサの言葉に頷き、シオン達は連れ立って店を出て行った。


出場手続きを終えたシオンは、テディと共に選手控え室に来ていた。リイムはさくら亭の手伝いがあるとかで、さっさと帰っている。どうやら、シオンを誘う事で彼の目的は達したらしい。
シオンは控え室内を軽く見渡し、小さく感嘆の声を漏らした。
「ほぅ・・・結構有名なのも居るな。」
「有名って、何処でっスか?」
「傭兵とか用心棒とか、そっちの方の世界でさ。」
そう言って、数名の名前を挙げるシオン。その中には、テディが聞いた事のある名前もあった。
「勝てるっスか?」
「如何だろうな。まぁ自分に出来る範囲でやるだけさ。」
答えをはぐらかすシオンに、やや不満げなテディ。と、其処にアレフとパティ、トリーシャがやってきた。
「よぉ、シオン。出場するんだって?」
「応援に来たよぉ〜♪」
「後、差し入れも持って来たわよ。」
そう言って、シオンに弁当箱と水筒を示すパティ。早速水筒の中のお茶で喉を潤しつつ、シオンは礼を述べた。
「悪いな、態々。・・・そう言えば、貰って置いてなんだが、差し入れとかって平気なのか?」
「大丈夫みたいよ。ちゃんと運営委員の方に断って来たから。」
「流石、抜かりが無いな。」
苦笑しつつ言うシオン。そんなシオンに、周りの出場者を見回していたアレフが、心配げに尋ねた。
「それで、勝てそうか?」
「お前もテディと同じ事聞くのな。やってみなきゃ解らんさ。」
「でも、シオンさんなら大丈夫だよ。なんたって、お父さんが強いって認めてる位だし。」
「リカルドのお墨付きなら、無様な真似は出来ないな。・・・そう言えば、リカルドも出場してるのか?」
「うん。毎年出てるよ。優勝候補の一角なんだって。他の優勝候補は、レオンって言う剣士と、後は・・・やっぱりマスクマン様かな。」
「ふ〜ん・・・」
テディと同じく、毎年武闘会を楽しみにしている口のトリーシャが、有力選手の名前を挙げる。レオンとマスクマンなら、シオンも聞いた事がある。どちらも何故か闘技場にしか現れない凄腕だ。
「シオンさん、いらっしゃいますか?」
ふと、控え室の入り口で係員がシオンを呼んだ。
「此処に居るけど?」
「あ、シオンさん。そろそろ出番ですので、フィールドの方にいらして下さい。」
係員の言葉に従い、シオンがフィールドに向かう。その背に、アレフが声をかけた。
「頑張れよ!」
「ああ。」
軽く頷き、シオンは控え室を後にした。


「さて、次の試合は・・・シオンVSクラウス!」

ワアァァァァァ!!

アナウンスに続き、観客の歓声が木霊する中、シオンが特設リングの真中でクラウスと対峙する。
「シオンさん、今日は胸を貸して頂きます。」
「ああ、此方こそ宜しく。」
共に一礼する二人。そして、開始のゴングが鳴り響く。
「それでは、試合開始!」

カアァァァンッ!

「てぇぇいっ!」
ゴングと同時に突っ込むクラウス。その手には、身の丈ほどもある根が握られている。因みに、この武闘会で使用する武器は全て大会運営委員側が用意した物を使用する。剣は全て刃を潰した競技用の剣、槍などの代わりには根が用意されている。シオンが選んだのは、やや長めの剣だ。
「・・・ふっ!」
鋭く息を吐きつつ、突き出された根を絡めとり、跳ね上げる。
「うわっ!?」
両手を万歳の状態してしまったクラウスの喉元に、切っ先が突きつけられた。
「勝負あり!勝者シオン!」

ワアァァァァァッ!!

アナウンサーが結果を伝えると、再び割れんばかりの歓声が上がる。シオンは転がっている根を拾うと、やや呆然としているクラウスに手渡した。
「中々鋭い突きだったけど、如何せん直線的過ぎたな。」
「あ、ありがとう御座います。やはりもっと精進しなければなりませんね。」
そう言って頭を下げるクラウスに手を振りつつ、シオンは控え室に戻って行った。


シオンが控え室に戻ると、何故か妙に騒がしかった。控え室の中にアレフ達が居るのを確認すると、シオンは周りに視線をやりつつ、歩み寄った。
「・・・何かあったのか?」
「あ、シオン。一回戦突破おめでとう。」
「ああ、ありがとう。ンで、これは一体何があったんだ?」
勝利を祝うパティに礼を言いつつ、シオンは周りの様子が気になるようだ。大体半数程度の人間が、苦しそうに蹲っている。
「・・・何でも、配給されたドリンクの中に、痺れ薬が混入されていたらしいぜ。」
「・・・それはまた・・・。大丈夫なのか、この大会?」
「去年まではこんな事無かったのに・・・誰がやったんだろ?」
毎年楽しみにしているファンとして許し難いものがあるのだろう、トリーシャがかなり憤慨した様子で呟く。と、其処にリカルドとトーヤがやってきた。
「どうやら、シオン君は無事のようだな。」
「リカルド、それにトーヤも。如何したんだ?」
「俺は診察だ。」
「私は、様子を見に、ね。良く無事だったな。」
「ああ、俺はパティが持って来てくれた方を飲んだから。リカルドは平気なのか?」
「私は、少し口にした時に気が付いてね。取り敢えずは無事だ。」
リカルドがそう言うと、トリーシャが安堵の溜息を付く。其方に軽く眼をやってから、シオンは更に尋ねた。
「・・・犯人に目星は?」
「さっぱりだな。運営委員側に怪しい者は居ない。外部犯だとは思うが・・・」
「そうか。それで、大会は続けるのか?」
「ウム。とりあえず戦える者は続けると言う方針だ。クラウド医師が無理と判断した場合は、棄権してもらうがな。」
リカルドの声に、他の選手の様子を見ていたトーヤが軽く頷く。シオンも取り敢えず納得したのか、無言で頷いた。と、其処に、係員がシオンの出番を告げに現れた。
「もう出番か。やはり棄権者が出てる所為か・・・?」
「行ってきたまえ。犯人の調査は私がやっておく。直に応援も来るからな。」
「そうか?ならそうさせて貰う。」
そう言うと、シオンは控え室を後にした。


「次なる試合は・・・一試合目で華麗な勝利を収めたシオン選手VS代理出場の魔獣・ゴーレムです!」

ワアアアァァァァァッ!!

「これはこれは、犯罪者さんではありませんか。」
「・・・ハメット」
「ふふふふ・・・貴方も運がありませんねぇ。私の可愛いゴーレムちゃんの餌食になるなんて。」
一人悦に入ったように笑うハメットに、シオンは冷たい目を向けている。その視線には、敵意が含まれていると言ってもいい。尤も、自分の世界に入り込んでいるハメットはその事に気付かなかったが。
「それでは、試合開始!」

カァァァァンッ!

「マ゛ッ!!」
良く解らない唸り声(?)を上げながら、ゴーレムが拳を繰り出してくる。重量がある所為か、その勢いはかなりのものだ。岩で出来た拳の一撃を喰らえば、大抵の人は一撃で戦闘不能だろう。
「・・・まぁゴーレムだって事を考えれば、鋭い一撃ではあるな。」
そう呟きながら、あっさりとかわすシオン。それが癇に障りでもしたのか、ゴーレムは躍起になって拳を繰り出すが、尽く簡単に避けるシオン。大振りの一撃を避けると、一旦距離を置く為に後方に飛び退る。それを追って迫るゴーレム。
「・・・そろそろ遊びは終わりにしようか。」
呟き、剣を構えるシオン。そして、鋭く長く息を吸う。やがてゴーレムが剣の射程範囲内に入った。
「・・・っ!」
音にならない鋭い吐息と共に、繰り出された鋭い突きがゴーレムに突き刺さる。訪れる一瞬の静寂と停滞。それを破るかのように、ハメットの哄笑が響く。
「ひゃはははぁっ!無駄です無駄です!私のゴーレムちゃんにそんな・・・!?」
ハメットの哄笑を遮るように、何かが罅割れる音が響き渡る。そして、大きな音を響かせながら、ゴーレムが粉々に崩れ落ちた。
「勝者シオン!」

ワアァァァァッ!!

「・・・そ、そんな・・・?」
「まぁこんなものだろ。じゃぁな。」
呆然としているハメットに背を向け、シオンは控え室に戻っていく。呆然とし続けているハメットは、試合の邪魔になる為、係員によって強制連行されていった。


控え室に戻ってきた時、シオンは異質な気配を感じ取った。先程までは全く感じなかった物だ。思わず身構えながら、控え室のドアを開ける。
「よぉ・・・。久しぶりだなぁ?」
「シャドウ・・・!」
思いもよらぬ人物の姿に、一瞬硬直するシオン。だが直ぐに気を取り直し、何時でも動けるように体制を整える。
「・・・こんな所で何をしている?」
「くくっ、そんなに身構えるなって。な〜に、痺れ薬くらいじゃ大した騒ぎにならなかったんでね。今度は毒薬でもこの部屋にばら撒いてやろうかと思ってな。」
「貴様・・・!そんな事をしたら・・・」
シャドウの言っている事の危険性に思い至り、怒りに身を硬くするシオン。その様を見て、シャドウは歓喜に表情を歪める。
「くくく・・・心地良いねぇ・・・。まぁ今日の所は帰ってやるよ。じゃあな。」
「!待てっ!」
何故か影の中に消える事無く、走って部屋を出るシャドウ。不審に思いつつも、シオンはそれを追う。
「あれ、シオン?如何したんだ?」
途中、アレフと擦れ違ったが、シオンは取り敢えず無視した。緊急時ゆえ仕方が無い。後ろでアレフが何か叫んでいたが、気にしない事にした。
「シャドウ!」
コロシアムを出て、広まった所にでた所で、シオンがシャドウに追いつく。いや、追いつくと言うよりシャドウが追いつかせた、と言った感じに見える。事実、追いつかれたにも関わらず、シャドウは余裕の態度を崩さない。
「くく・・・そんなに俺と戦いたいのか?」
「・・・いい加減何とかしなければ、次に何をしでかすか解らないからな、貴様は。」
微かに怒気を孕んだ声で言い放ち、虚空から愛用の剣セイクリッドデスを呼び出し、構える。
「セイクリッドデスか・・・。どうやら、まだ封印は解けていないようだな。」
呟き、シャドウもまた虚空から一振りの剣を取り出す。禍々しい雰囲気を纏い、大きく湾曲した殺傷力の高い形状の剣だ。
「以前にも思ったんだが、貴様は一体何を知っている?」
「俺様に勝てたら教えてやるよ。・・・行くぜぇ!!」
咆哮と共に、シャドウが飛び出す。同時に、シオンも突っ込む。高速で交差する二つの影。ホンの一瞬の交差の瞬間に、双方共に10近い斬撃を叩き込み、それを捌く。どちらも驚異的な技量だ。
「っああぁぁぁっ!!」
「ぬぅぅあああぁっ!!」
再び放たれる音速を超えた連撃。ぶつかり合う剣と剣が、耳障りな音を立て、弾き合う。どちらもあまりに動きが速い為、剣技を放つ為の溜めや、魔法を放つタイミングが掴めない。2度目の交差の後、シオンは敢えて距離を取り、タイミングを逸らす。
「!?ちっ!」
「能力は高くとも、動きが単調ならば!神魔封滅流・斬式・・・奥義・狼王裂撃斬!!」
舌打ちしつつ更に速度を上げて突っ込んでくるシャドウの軌道にあわせ、衝撃波を放つ。タイミングは完璧、回避は不可能に思えた。だが・・・
「神魔封滅流・真式・・・虚薙!!」
シオンの眼をもってしても、霞んだようにしか捉える事の出来ない亜光速の斬撃が、空間そのものを断ち切り、目前に迫った衝撃波ごとシオンを切り裂かんとする。
「!?くっ!」
不意に襲った悪寒に従い、咄嗟に身を翻し直撃を避ける。見得ざる斬撃は、シオンの肩口を浅く切るに終った。だが、そんな肉体的ダメージよりも、精神的なダメージの方が大きかった。
「・・・今のは・・・」
「そう、貴様と同じ神魔封滅流の技。」
愕然と呟くシオンの声を遮るように、シャドウが言う。その内容は、シオンには俄かに信じられないものだった。
「俺と同じ・・・いや、俺のよりも強力な技・・・だと・・・?」
「くく・・・精々悩むが良い。また会う時までに、答えを出すようにしておくんだな。」
そう言い放つと、影の中に沈み、消え去るシャドウ。残されたシオンは、混乱する自分を必死に制御していた。
「・・・どう言う・・・事だ・・・?」
そんなシオンの呟きは、誰に聞かれる事も無く、空に消えていく。答えの得られない問いを抱え、シオンは暫くその場に立ち尽くしていた。


取り敢えず考えるのを後回しにする事で、何とか立ち直ったシオンが控え室に戻ってくると、他の選手達も戻ってきている。試合とトーヤの診療が終ったのだろう。
「あ、シオンさん!」
控え室の奥のほうから、トリーシャの声が聞こえる。シオンが其方に歩み寄ると、トリーシャとテディ、そして何時の間に来たのか蒼司の姿があった。
「・・・何か、あったのか?」
「いや、実は「お父さんがね、負けちゃったの!」
何か言いかけた蒼司を遮り、トリーシャが先に言ってしまう。台詞を遮られた蒼司が思わず顔を顰めるが、シオンの眼にはその様子は留まらなかった。
「リカルドが・・・負けた?」


Episode:29・・・Fin
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