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光と闇の交響曲Episode:31
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:31 『涙』の意味、『笑顔』の意味


「で・・・俺に如何しろと・・・?」
昼下がりのジョートショップ、其処のリヴィングの椅子に座りながら、シオンは困惑した表情でぼやく。
「いや、あの・・・何とかしてくれると助かるんだけど・・・」
シオンの前で、これまた困ったような表情で立ち尽くしているクリスがポツリと呟く。
「言っておきますけど、私まだ成仏なんてしたくないからね?」
クリスの肩に掴まって『浮遊』している少女が言う。その姿は後ろの景色が見える程度に透けている。・・・要するに、この少女は幽霊だったりするのだ。
「・・・取り敢えず、こう言う状況に陥った理由を説明してくれないか?」
困惑した表情で尋ねるシオンに、クリスは事の次第を説明した。


事の始まりは今朝、クリスが図書館に赴いた事から始まる。新入荷したと言う神聖系魔法の教練書を借りるのが目的だった。
朝早く赴いた事もあって、クリスは首尾良く本を借りる事が出来た。が、問題はその後だった。帰宅し、本を開いた途端、突如虚空にクリスと同じ位の年の少女が現れたのだ。そして、呆然とするクリスに一方的に憑依したのだった。


「本から現れた少女・・・ね。その本は持っているか?」
「あ、これです。」
クリスが差し出した本を暫く眺めるシオン。パラパラとページを捲り、内容を確認する。
「その本、見てもあまり意味は無いと思うよ?その本、偽物だもの。」
「ふむ・・・どうやら君の言う通りだな。」
そう呟くと、シオンは本を閉じる。楽しみにしていた本を偽物だと言われ、クリスはやや落ち込み気味だ。
「この本は単純に君がこの世界に留まる為の依り代としての意味合いしか持たない。となると、やはり問題は君の方か・・・。で、幾つか聞きたい事があるんだが?」
「ん〜・・・そうだね、答えられる事なら。」
警戒心を解かせる為か、淡い笑みを浮べて尋ねるシオンに、少女は微かに頬を染めて答える。相変わらず天然のナンパ師ぶりである。
「それじゃ、先ずは名前は?」
「エミリース=フォルセウス。エミリィで良いよ。」
「エミリィ・・・ね。単刀直入に聞くが、君は幽霊・・・と言う事で良いのかな?」
「うん。訳はあんまり話したくないんだけど、もう死んじゃってる事は間違い無いよ。」
あっけらかんと自分が死んでいる事を話すエミリィ。陰りの無いように見えるエミリィの笑顔に、言いようの無い違和感を感じるシオンとクリス。が、取り敢えずそれはおいておく事にして、次の質問をする。
「霊となった理由を聞けないのなら、次の質問はこれだな。今すぐ成仏する気はあるか?」
「あはは、直球で聞いてくるんだね。今はまだ成仏したくないな。願いが適ったら、成仏してあげても良いけど。」
「願い?」
「うん。私ね、生まれた頃からずっと病気がちで・・・外を歩き回ったり、友達とお喋りしたり・・・そう言う、普通の子と同じ事ってした事がないんだ。」
「だから、それをしたい・・・と?」
「そ。一週間、ううん、3日で良いの。それさえ適えば、直ぐに消えるから・・・。駄目?」
エミリィの提案に顔を見合わせるシオンとクリス。シオンの方は結論が出たのか、エミリィに向き直る。
「俺としては、その条件でも構わないな。本来、未練を残して霊となった者を成仏させる場合、未練を適える事で自然に成仏させるのが一番だからな。」
「えと・・・もしかして、その遊びに付き合うのって僕の役目なのかな?」
「そうだよ。だって、私を本から解き放ったのは君だもの。・・・嫌・・・かな?」
縋るような目でクリスを見るエミリィ。同年代の少女にそんな目で見られた事が無いクリスは顔を真っ赤にしながらも、何とか頷いた。
「う・・・うん、僕なんかで良かったら、良いよ。遊んだ思い出も無いなんて、そんなの寂しすぎるもんね。」
クリスのその返事に、パァッと表情が晴れるエミリィ。そして、満面の笑顔を浮べたまま、シオン達に礼を言った。
「ありがとう!」
「気にする必要はなかろ。それより、外で遊ぶのに霊体のままじゃ不便だろう。体を持ってみたくは無いか?」
「出来るの?」
「一時的に質量を持たせるだけだからな、簡単だよ。やるか?」
問い掛けに、即座に頷くエミリィ。シオンは苦笑しつつ、彼女に向かって手を翳し、小さく何事かを唱える。すると、一瞬エミリィの体が淡い光に包まれたと思ったら、次の瞬間エミリィはちゃんとした質量を持つ体を持っていた。
「凄い・・・こんな事、200年前の魔導師だって出来ないのに・・・」
「シオン君、時々信じられない位高度な事を簡単に遣って退けるよね・・・」
シオンは簡単等と言うが、実際霊体に実体を持たせる術はかなり高度な魔法技術を必要とする。それをあっさりと遣って退ける辺り、シオンの技量の凄まじさが窺える。
「まぁそんな事は如何でも良いだろ。それより、今まで遊べなかった分、思いっきり遊んでおいで。」
「あれ、シオン君は来ないの?」
「俺は書類整理の仕事がまだ残ってるからな。」
そう言うと、リヴィングのテーブルの上にひろげたままになっていた書類に向き直ろうとする。と、それを阻止するようにエミリィが声をかけた。
「一緒に来てくれないの・・・?」
「う・・・」
エミリィの、子供特有の無邪気な、それでいて何処か縋るような表情に、思わずうめくシオン。何か自分がひどく悪い事をしているような気分になってしまう。
「いや、俺には未だ仕事が残ってるし・・・」
「・・・駄目?」
仕事を理由に断ろうとするシオンに、更に追い討ちをかけるエミリィ。暫くして、シオンはゆっくりと溜息を付いた。
「・・・ハァ・・・解った、俺も一緒に行くよ。但し、今日だけだからな?」
その言葉に、手を合わせて喜ぶエミリィとクリス。こうして、シオンは今日1日クリス達に付き合う事になった。


3人は、外を歩いた事の無いエミリィの為に、先ずエンフィールドの街を案内する事にした。初めて見る光景に心奪われ、はしゃぐエミリィと、それに苦笑しつつも説明したりしてしっかり付き合うクリス。そして、そんな二人を一歩引いた所から見守るシオン。と、そんなシオンに不意に声がかけられた。
「おいおい、シオン、ありゃ如何いう事だ?」
「アレフ?如何いうって・・・?」
「あの女性アレルギーのクリスが、何であんな可愛い娘と自然に喋ってるんだ!?」
「ああ、それはな・・・」
驚いているアレフに、事の顛末を話すシオン。納得し、深く頷くアレフ。
「そう言う事か・・・。なら、俺も一肌脱ごうかな。」
「如何する気だ?」
「ふっふっふ・・・大人の世界ってのを教え「アホかっ!」
ふざけた事をのたまうアレフを取り敢えず殴り付けるシオン。殴られたアレフは多少顔を顰めながらも、馬鹿な真似はしないと約束してからエミリィとクリスに近づいて行った。流石と言うか何と言うか、直ぐに打ち解けるアレフとエミリィ。こうして、4人に増えた一行は街を周ったのだった。


「それじゃ、今日は此処までだな。」
途中参加のアレフを交えて散々遊び倒した一行は、ジョートショップの前まで戻って来ていた。辺りは既に夕闇に覆われており、もう少しでクリスの門限に迫っていた。
「ふぇ〜・・・こんなに疲れたの、久しぶりだよ・・・」
「あはは、楽しかったぁ〜♪明日は何して遊ぼうかな・・・」
既に疲労困憊状態のクリスと対照的に、まだまだ遊び足りないと言った風情のエミリィ。アレフは既に帰宅している筈だ。
「さて、それじゃ元の霊体に戻ろうか。」
シオンが呪文を唱えながら手を翳すと、エミリィの体は直ぐに透き通った霊体に戻る。
「ホント凄いなぁ・・・。あ、そうだ、私これから如何したら良いのかな?」
「媒介にしていた本があるだろう?アレに入っていれば良い。霊体とは言え、クリスと一緒に寝る訳にもいかないだろうしな。」
「それじゃ、そうするね。クリス君、また明日ね!」
そう挨拶すると、エミリィは店の中に入っていく。それを見送ったクリスは、今まで疑問に思っていた事をシオンに尋ねてみた。
「ねぇ、シオン君。何で僕は彼女と普通に接する事が出来るのかな?同じ年代の娘とは全然普通に接する事なんて出来ないのに・・・」
「おいおい、自分の事だろうが・・・。まぁ、多分クリスが精神的に大人になった、って事なんだろうな。」
「大人になった?僕が?」
心底不思議そうな顔で首を傾げるクリスに、苦笑しつつシオンが説明する。
「そんなに不思議そうな顔をする事でもないだろう?クリスはメロディのような、自分より精神的に子供な相手に対しては普通に接する事が出来る。それと同じ事だよ。」
「はぁ・・・」
「相手と自分を比べ、相対的に自分が大人だと認識する事で、相手に対して気負うものが無くなる。クリスが女性に対して苦手意識を感じる理由は、過去の経験から自分より精神的に大人な人物に対して気負うものがあるからだ。自分が成長する事で、相対的に自分が相手より下で無くなれば、自ずと苦手意識は無くなる。道理だろ?」
「そう言われてみれば・・・そんな気もするよ。」
「クリスはもっと自分に自信を持つことだな。自分に相応の自信を持てるようになれば、自ずと他人に対して気負う事は無くなる。まぁこの際だ、エミリィと遊ぶ間に、自分に自信を持てるようになる事だな。それじゃ、お休み。」
「あ、お休みなさい。」
軽く手を振って店の中に入っていくシオンを見送りながら、クリスは何事か考え込みながら、寮へと戻って行った。


翌日も、クリスとエミリィは一日中遊んでいた。噂を聞きつけたトリーシャや、彼女に引っ張られてきたシェリル、ローラ等も巻き込んで遊びまわった。
ただ何をするでも無く、只管談笑するだけでも、エミリィにとっては楽しい物だった。
陽のあたる丘公園で談笑し、ローズレイクでシオン直伝の釣りを楽しみ、リヴェティス劇場で公開中の話題の演劇を観賞し、エミリィに嫉妬した由羅に追い掛け回され・・・初めて外に出るエミリィにとって、その全てが掛け替えの無い思い出となる。

そして、三日目。エミリィが約束した最後に日。この日はピートの誘いを受け、クラウンズサーカスへと赴いた。初めて見るサーカスに目を輝かせるエミリィを見ながら、クリスは物悲しい思いに囚われていた。
沢山の思い出を積み重ねていけばいくほど、別れの時は近くなる。重ねた思い出が大きな物であればあるほど、別れは辛くなる。それでも、今目の前で笑っている少女の為に、クリスは自分のそんな感傷を押し込め、心からの笑顔を見せる。何故自分が、こんなにも楽しいと、そして辛いと感じているのか、その理由をおぼろげに考えながら・・・。


夜の帳が下りつつある夕暮れ、ローズレイクの辺は夕日に紅く染まっていた。そこでクリスとエミリィは、二人だけで最後の刻を過ごしていた。先程まで一緒に遊んでいた他の皆は、気を利かせたのか既に帰宅している。其々がエミリィに此処からの別れの言葉を贈りながら。取り分け、似たような境遇にあるローラの言葉は皆の心に染みた。それはエミリィも同じだったらしく、共に涙を流しながら、二人は別れを惜しみ合っていた。
「もう直ぐ、約束の時間だね。」
「うん・・・。はぁ・・・楽しかったなぁ。皆に感謝しなくちゃ。トリーシャちゃんにシェリルちゃん、ローラちゃんにピート君、それにクリス君。後、シオンさんにも。」
「そう・・・だね。」
エミリィがシオンの名を出した途端、クリスの表情が僅かに曇る。そんなクリスを心配し、エミリィがクリスの顔を覗き込むようにする。
「・・・大丈夫?なんだか、顔色悪いけど・・・」
「え、あ、うん・・・大丈夫だよ。ちょっと考え事してただけだから・・・」
取り繕うように答えるが、その表情は全く変わらない。クリスは軽い自己嫌悪に陥っているのだ。
クリスは少し前から自覚していた事がある。自分がこの少女に恋心と呼べる想いを抱いている事、そのエミリィが楽しそうな表情でシオンの名を出す度に、シオンに対してほんの僅かな嫉妬心を抱いてしまう事、そして、自分などとは比べ物にならないほど『大人』なシオンに対し、劣等感を感じてしまう事。自覚してしまったが故に、そんな自分に嫌気が挿していた。それが表情に出てしまっていたのだ。
「あはは・・・ゴメンね。ホントは笑顔でお別れを言いたかったんだけど・・・やっぱり、無理みたいだよ・・・」
いったクリス自身、いい訳じみた台詞だと思う。自分の卑しい感情を、友人との別れを惜しむ綺麗な心と刷り返る行為だと思う。だが、彼女との別れがひどく悲しい物であると感じる心に、偽りは無かった。そして、この言葉は、クリスの心の靄を吹き飛ばす結果を齎した。
「そうだね・・・私も同じ。不思議だよね、他の皆と別れてしまう事は何とか耐えられたのに、クリス君と別れるのだけは・・・耐えられそうも無いんだ・・・」
「え・・・?」
思いもよらぬ言葉に、思わず返答に詰まるクリス。そんなクリスにこれ以上無いと言うほど真摯な瞳を向けるエミリィ。
「・・・私ね、クリス君の事・・・大好きだよ。」
「あ・・・」
「・・・あはは、ゴメンね。いきなりこんな事言われたって、迷惑だよね・・・」
「そ、そんな事無い!その・・・僕も・・・君の事、す・・・好き・・・だから・・・」
しどろもどろに、だがなけなしの勇気を振り絞り、自身の正直な気持ちを告白するクリス。暫し訪れる静寂の時、そして、二人は示し合わせたかのように同時に笑い出した。
「ぷっ・・・」
「はは・・・」
『あはははははははっ!』
声を揃え、一頻り笑い合う二人。そんな中、クリスは自分の中の靄が晴れていくのを感じていた。シオンに対して抱いていた僅かな嫉妬心も何時の間にか消えてしまっている。その代わりにクリスの心を満たしていたのは、想いがかなった確かな喜びと、それと同じ位の哀しみであった。
「ねぇ・・・クリス君。一つだけ、お願いがあるんだけど、良いかな?」
「うん、僕に出来る事であれば。」
「あのね・・・最後には、笑顔で見送って欲しいんだ。」
「ちょっと・・・難しいかな・・・。でも、如何して?」
「私は・・・ここに居続ける事は出来ないでしょ?だから、せめて最後には好きな人の笑顔に見送られたいんだ・・・。駄目・・・かな?」
縋るような表情のエミリィ。そんな目を向けられたクリスは、ふとアレフに言われたある言葉を思い出していた。『大人の男は、無闇に涙なんて流さない』と言う言葉。それを思い出し、決心の固める。
「うん・・・。出来るかどうかは解らないけど・・・頑張ってみるよ。」
「あはは・・・ありがと!」
「うわぁ!?」
満面の笑顔と共に抱きつくエミリィに、顔を赤らめるクリス。が、不思議と今まで感じていたような恐怖心とでもいうものは感じなかった。ただ、恥ずかしさと心地良い感じが心を満たしていた。それはエミリィの方も同じ様だ。同じ様に顔を真っ赤にしている。
言葉も無く見詰め合う二人。夕日に照らされ長く伸びた二人の影が、音も無く静かに重なり合った・・・。


「お別れは済んだかな?」
シオンが二人の下に訪れた時には、二人は落ち着いた様子でシオンを待っていた。シオンの問い掛けに、静かに頷く二人。
「・・・そうか。それじゃ・・・成仏の為の儀式を始めよう。」
先ずシオンが何時ものように手を翳し、エミリィの肉体を実体から霊体に戻す。次に、エミリィがこの地に留まる為の現世との繋がりの触媒である本を燃やす。準備が進む度に、少しずつ薄れていくエミリィの体。クリスは目を逸らす事無く、その様を見続けていた。
「彷徨える汝、虚ろなる魂の欠片よ・・・天空の彼方より見下ろせし神々の導きの下に・・・次なる時へと続く転生の輪に汝を導かん・・・」
シオンが呪文を唱えると、エミリィの体を包むように、淡い光の柱が立ち昇り、空へと吸い込まれていく。その光の中、エミリィの体がゆっくりと空へと昇って行く。
「クリス君・・・ホントに楽しかったよ・・・!」
「僕も・・・僕も楽しかった・・・!」
今にも消えそうなエミリィの声に、必死に笑顔を浮べながら答えるクリス。その声は震え、今にも泣き出してしまうのを懸命に堪えているのが見て取れた。そんなクリスに嬉しさと微かな哀しさを内包した笑顔を浮べ、エミリィが最後の言葉をかける。
「・・・ホントに・・・ありがとう・・・!・・・大好きだよ!」
言葉を最後に、エミリィの体が光に包まれ、消える。光の柱が消え去った後には、微かな光の粒子が、まるで雪のように降り注いでいた。
「僕も・・・・・・大好き・・・・・・だ・・・よ・・・っ」
零れ落ちそうな涙を、必死に堪えるクリス。そんなクリスに、シオンが声をかける。
「・・・泣いたって、構わないんだぞ・・・?」
「ううん・・・約束したから・・・最後には笑顔で見送るって・・・。それに、アレフ君が言っていた・・・。大人の男は、涙なんて流さないものだって。だから・・・僕は・・・」
「・・・俺は、そうは思わないけどな・・・」
「え・・・?」
呟くようなシオンの言葉に、思わずそちらを振り向くクリス。その瞳には、今にも零れ落ちそうな程の涙が溜まっている。
「・・・確かに、みだりに涙は流す物じゃない。だけど、大切な何かの為に流す涙は・・・何物にも変え難い、掛け替えの無い物だと俺は思うけどな・・・。」
「でも・・・」
「それに、だ。大人ってのは、涙を流さない者の事を言うんじゃない。流した涙に、責任を持てる者の事を言うんだ。より正確には、己の行為に責任を持てる者の事だ。」
「己の行為に責任を持てる者・・・」
「そう。だから、大切な誰かの為に涙を流す事は、恥ずべき事でも何でも無い。大切なのは、その後。涙を流し、悲しみに囚われて生きるのか。それとも、涙と共に悲しみを乗り越え、これからの未来を生きるのか・・・」
シオンの言葉に考え込むクリス。
「それは忘れろって事?そんな事、出来る訳・・・」
「忘れるんじゃない。乗り越えるんだよ。忘れる事と乗り越える事は違う。そして、涙を流す事で、乗り越える為の強さを得る事だって出来る。あの娘が望んだ事ってのは、そう言う事なんじゃないのか・・・?それとも、あの娘は好きな人に、心を押し殺してまで笑顔を浮べる事を望むような娘なのか?」
その言葉に、衝撃を受けるクリス。シオンの言う通り、エミリィはそんな事を望むような娘じゃない。その事は自分が一番解っていた筈。それなのに、悲しみに囚われるあまり、その事を忘れてしまっていた事に気付いた。
「・・・僕は・・・ぼく・・・はっ・・・!」
堪えていた物が溢れ出し、思わずシオンに取りすがるクリス。シオンは、そんなクリスの頭を優しく撫でてやる。親が子をあやすかのように。そしてクリスは、大声を上げて泣き始めた。
「う・・・うぅ・・・うわあああぁぁぁぁぁぁっ!!」
「・・・良いんだよ、今は泣いて良いんだ。後は・・・その涙を強さに変えていけば良い・・・。あの娘の為にも、笑顔で生きていけるように・・・」
クリスの頭を優しく撫でながら、諭すように言葉を紡ぐシオン。クリスの泣き声は、日が沈みきるまで、ローズレイクに哀しく響き続けた・・・。


今回の件で、クリスは何処か大人びた雰囲気を纏うようになった。今までの引っ込み思案な故の大人しさではなく、ホントの意味での落ち着きを得たように感じる。そしてその所為か、同年代の少女と接しても、以前のように取り乱す事は無く、普通に接する事が出来るようになっていた。が・・・
「待ってぇ、クリスくぅ〜ん!」
「うわああぁっ!誰かたすけてぇぇぇぇぇぇ・・・」
由羅のように、自分より『大人』な女性には、まだまだ弱いようであった。


Episode:31・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。Episode:31、クリスのお話です。
幽霊少女との哀しい恋、ゲームの方だとピートのイベントなんですけどね。クリス君に役を代わって貰いました。と言うか、クリスのネタが他に思い浮かびませんでした(汗)
エミリィを成仏させる前、二人が何をしていたのかは・・・まぁ各自で想像してください。クリス君も15歳ですし、その年ならアレ位はしてもおかしくないですよね?
それでは、Episode:32でお会いしましょう。
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