中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:33
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:33 月下終焉〜End Of Cursed Destiny〜


喋る花の咲いていた場所から少し離れた辺りで、リサは激昂してシオンに詰め寄った。その表情からは、返答次第では唯では済まさないと言った心情が窺える。
「如何いうつもりだい、坊や!?あの花を摘んで帰らないと、紅月を如何にかする方法は・・・!」
「リサ。」
「な・・・何だよ・・・?」
シオンが発した声に、思わず言葉に詰まるリサ。シオンの雰囲気が何時もの掴み所の無いソレから著しく変質している。本気で怒っている証拠だ。
「以前にも言ったな?復讐と言う行為を否定するつもりは無いが、ソレを為そうとする者が憎しみの感情に振り回されているようなら話は別だ、と。」
「それはっ・・・いや、坊やの言う通りだね・・・済まない・・・」
「解って貰えればそれで良いさ。それにあの花に言った通り、恐らくあの花を摘んで帰る必要は無い筈だ。・・・俺の推測が確かなら、な。」
「其れは、如何言う・・・?」
「・・・カッセルがあの花を摘んでくるよう言ったのは、ホントにあの花が欲しかったからじゃない。単に、あの花を・・・そして、あの盲目の少女をリサに会わせたかった・・・そうだろ?カッセル!」
シオンの言葉が響くと同時に、物陰からカッセルが姿を現す。出不精の彼がローズレイクから離れたこの場所に現れるのはひどく珍しい事だ。だがそれ以上に、シオンの言葉の無いようにリサは混乱していた。
「私をあの少女に会わせるのが目的って・・・如何言う事だい?」
「シオンの言う通りじゃ。リサよ、あの少女に会って何事か感じる事は無かったかね?」
カッセルの問い掛けに思わず言葉に詰まる。脳裏に浮かんだのは、あの言いようの無い苛立ちだ。
「恐らく、不安感・・・いや、苛立ちのようなものを感じた筈じゃ。」
「!・・・その通りだよ、だけど其れが如何したって言うんだい!?」
「・・・あの娘に会って苛立ちを感じたというなら、其れはお主が迷いを抱いている証拠じゃ。」
「迷い・・・だと?」
愕然とした呟きを漏らすリサに、カッセルは頷きかける。
「そうじゃ。あの娘は自らの境遇を嘆いておらぬ。それどころか、その境遇を受け入れ、前を向いて進む事を怖れてはおらぬ。だが・・・今のお主は如何じゃ?憎しみに囚われてはいるが、己の全てを賭けても尚憎しみ続けるだけの覚悟があるかの?いやそれ以前に、今のお主は嘗て程純粋に紅月を憎む事が出来ていない・・・違うか?その心の迷いが、あの迷いをもたぬ少女に、嫉妬心にも似た苛立ちを与えておるのじゃよ。」
カッセルの言葉に、何一つ言い返すことの出来ないリサ。カッセルの言う通り、今のリサは迷っている。紅月の過去を知った事、自分と別種の物とは言え不幸な状況にあって尚其れを憎む事無く受け入れている少女との出会い、そして何より、シオンやジョートショップの仲間達との生活が、リサの生き方に迷いを与えているのだ。
「私は・・・私は、迷ってなど居ない!」
だが、リサにソレを認める事など出来なかった。当り前だ、復讐の為だけに腕を磨き、今日まで生きていた彼女にとって、迷いを抱く事など許されない筈なのだから。搾り出すようにして放たれたリサの言葉に、溜息をつくカッセル。
「自らの迷いさえ認める事は出来ぬ、か・・・。それでは、未来永劫紅月を倒す事なぞ不可能じゃ。諦めなさい。」
言い捨て、さっさと立ち去ろるカッセル。その背に向かってリサが声を投げかける。
「ま、待ってくれ爺さん!話が違うじゃないか!」
「己が迷いすら認められぬ愚か者には何を言うても無駄じゃからな。」
あっさりと言い捨てると、カッセルは二度と振り返る事無く立ち去っていった。
「私は・・・迷ってなどいない・・・私は・・・どんな事をしてでも、紅月を討つんだ!!」
自分に言い聞かせるかのように叫び、リサもまた歩き出す。が、シオンがソレを遮った。
「リサ、これから俺に付き合ってくれないか?」
「?・・・何をしようってんだい?」
「そんなに身構えなくてもいいだろう?あの花にもう一度会いに行くんだ。」
シオンの提案に、怪訝そうな表情を浮べるリサ。今更あの花に会って何になると言うのだ。口にしてそう言ったわけではないが、その表情が如実に語っている。
「まだ今日が終るまでには十分時間はある。焦った所で、何が変わる訳でもあるまい?」
「まぁ・・・それはそうなんだけど・・・」
結局リサはシオンに押し切られる形で、再び喋る花に会いに行く事になった。ぶつくさ言いつつも歩き出すリサを見ながら、シオンは嘆息する。
「カッセルも随分と過激な事をする・・・。荒療治・・・か。何にせよ、今日中には片が付くだろうな・・・どんな形にしろ、な・・・。」
シオンの微かな呟きは、先を歩くリサには聞こえなかった。誘っておきながら立ち止まっているシオンを呼ぶリサの声に手を挙げて答えつつ、シオンもまた歩き出した。


「あら、貴方達は・・・」
「今晩は。また来させて貰ったよ。」
近づいてくるシオン達に気付いた花に挨拶するシオン。花に真面目に挨拶をする人間と言うのも、普通傍から見ると滑稽な物だが、シオンがそれをすると、何故か自然な事に見えてしまうから不思議なものだ。
「またあの歌を聞かせて貰えるかな?」
「ええ、御安い御用ですよ。」
笑顔(のような雰囲気)で花が歌おうとしたとき、シオンが近づいてくる気配に気が付いた。暫し待つと、シオンの視線の先に現れたのは先程家に戻った筈の盲目の少女だった。これには流石に怪訝そうな表情を見せるシオン。リサもそうだし、花も驚いたような雰囲気を纏っている。
「如何したの?こんな時間に・・・」
「今晩は。お花さんに、どうしても伝えたい事が出来たの。それで・・・」
「でも、それならまた明日でも良かったんじゃ・・・?」
「ううん、今日じゃなきゃ駄目なの。」
何処か興奮するかのような少女の様子を不思議に思いつつ、花は少女が落ち着くのを待って話を聞いた。
「それで、一体何があったの?」
「あのね、以前からお母様に探して貰っていた、私にも出来る仕事が見つかったの!それでね、その働き先に行くのに、明日の朝にはこの街を発たなきゃならないの。」
「まぁ・・・!」
少女の話した内容に、花も驚きの声を上げる。詳しい事情は解らないながら、シオンも大体の事を理解した。少女が探していた盲目の人でも働ける職場を、彼女の母親が見つけた。そしてその働き場所に明日の朝発たなければならない。この喜びを友達・・・とも言える存在である花に伝えるには、どうしても今晩中に訪れる必要があった。・・・こんな所だろう。そのシオンの推測は、ほぼ正しかった。
「良かったわね・・・!」
「うん!お花さんとお別れするのは辛いけど、これで私もお母様や皆の役に立てるんだわ・・・。まるで夢のよう・・・!」
心からの満面の笑みを浮べ喜ぶ少女と、それを心から祝福する花。シオンはそんな少女達の様子を微笑ましげに見ている。唯一人、リサだけが他とは違う反応を見せた。
「なぁ・・・ちょっと良いかい?」
「え?あ、貴方は・・・先程の?」
「ああ。まぁ私の事はこの際如何でも良いんだ。あんた、働き先が決まったって随分と喜んでるけど、それってあんたのお母様とやらに体よく追い払われてるって事じゃないのか?」
少女の喜びに水を指すようなリサの言葉。それを聞いても、シオンはリサを止めようとはしなかった。
「お母様は、そんな事をなさる方ではありません!」微かな嘲りさえ含まれるリサの物言いに、流石の少女もややむっとして言い返す。
「何でそんなに自信たっぷりに断言出来るのさ?」
「私は・・・確かに目が見えません。でも、だからこそ見えるものもあります。私は・・・姿を見ることが出来ない分、その人の心を見る事が出来るんです。」
「人の心が見えるだって?ハンッ、そんな物があてになるもんかい!」
自分の中の苛立ちをぶつけるように、言葉を吐き出すリサ。そんなリサに、少女は悲しげな表情を浮べた顔を向ける。
「・・・如何して、貴方はそうも自分の心を追い詰めようとするんですか?」
「!?・・・私は、別に自分を追い詰めてなんか・・・」
「嘘です。貴方の心は、今も悲鳴を上げているではないですか。」
言い募る少女にリサが何か反論しようとした時、シオンがそれを制した。
「・・・言い合いは其処までだ。どうやら・・・決断の時が来たみたいだぞ。」
シオンの言葉で、リサは周囲の空気が変質していた事に気付く。空気が澱み、張り詰めていく・・・それは、紅月がこの世界に現れる際の現象だ。やがて、切り裂くような殺気が周囲を満たしていく。

「・・・来るぞ!」
暫しの時を挟んで発せられたシオンの警告と同時に、周囲の殺気が一点に凝縮し、人の影を造る。その影がやがて色を持った人の姿−紅月となった。
「紅月!!」
「・・・女、また貴様か・・・。次に我が前に立ち塞がりし時は、容赦はせぬと言った筈だな・・・?」
「ほざけっ!!」
以前と同じ感情の読み取れない瞳をリサに向ける紅月に、リサは叫びと共に飛び掛ろうとする。一時は倒すのではなく、成仏させる方法に納得したリサだが、実際に敵を目の前にし、感情を押えきれなくなったのだろう。だが、シオンがそれを制した。
「待て、リサ!」
「なんだい!まさか手を出そうってんじゃないだろうね!?」
「そんなつもりは無い。以前俺が渡したダガーの使い方を説明しようと思ってな。」
「・・・使い方?」
「そのダガーの刃は唯の飾りに過ぎない。その刃を外して、『アストラル・イグジスト』と唱えれば、リサの精神力を糧にして、光の刃を形成する。その刃なら、霊体である紅月を切る事も出来る筈だ。」
「へぇ・・・ありがたいもんだ。それじゃ・・・『アストラル・イグジスト』!」
リサが早速シオンに教えられた通りにすると、ダガーの柄からショートソード程度の長さの光の刃が生み出された。それを見て、僅かに眉を顰める紅月。
「ほぅ・・・魔法の武器か。だが・・・貴様に我が斬れるか?」
「今確かめてやるよ!!」
光の刃を振りかざし、紅月へと切り掛かる。紅月も腰に佩いた鞘から刀を抜き放ち、リサを迎え撃つ。
「っはあああぁぁっ!!」
「ぬんっ!」
大上段から振り下ろされた光刃を、振り上げた紅月の刀が弾く。だが、リサは弾かれた勢いを利用して真横からの斬撃を放つ。
「はっ!」
「ちぃっ!?」
刀を振り上げた姿勢では回避が間に合わず、咄嗟に身を後ろに倒す事で回避する紅月。が、その頬には一筋の切り傷が出来ている。尤も、霊体故か血は流れていないが。
「・・・我に傷をつけるとは・・・中々に腕を上げたものだ。」
「まだまだぁっ!」
紅月の感嘆の言葉には耳を貸さず、更に追撃をかけるべく切り掛かるリサ。リサが紅月の間合いに入った瞬間、紅月が発する殺気が急激に膨れ上がる。
「だが・・・未だ未熟!!」
下段から高速で振り上げられた刀を身を捻って避けるリサ。が、振り上げた勢いはそのままに、大上段からやや軌道を変えた斬撃が、リサを襲う。これを光刃で何とか受け止めるリサ。だが腕力の差はハッキリしている所為か、徐々に押し込まれていく。
「うっく・・・!」
「成る程、動きは以前より鋭くなっている。だが・・・鋭さに比べてその動きはあまりに単調。それでは容易く動きを見切る事が出来る。そして・・・貴様には絶対的な腕力が足りぬ・・・!」
「っく・・・黙れぇ!!」
叫びながら、押し切られる直前の腕から力を抜き、相手の刀を受け流す。体勢を崩した紅月に蹴りを入れて体を離し、相手が体勢を整える前に横薙ぎの斬撃を放つ。
「貰った!」
完全に捉えたと思った瞬間、紅月の体が霞むように消える。
「な!?」
「・・・所詮、我流の剣ではその程度か・・・」
「後ろ!?」
リサが後方から聞こえた声に反応し、振り返ったときには、紅月はその刀を大上段から振り下ろしていた。
(殺られる!?)リサが心の内でそう思った瞬間、横合いからぶつかって来た何かに吹っ飛ばされる。一瞬、強い衝撃に息が詰まるが、それも直ぐに回復し、自分にぶつかった者の正体を見る余裕が出来た。
「坊や、何故助けた!?」
「幾ら傍観者に徹すると言ったって、流石に仲間が殺されかけているのを黙って見ている訳にもいくまい?」
そう、リサを救ったのはシオンだった。紅月の姿が霞んで消えた瞬間、シオンはリサを救う為に走り出していたのだ。
「私の事は良いから、あの女の子を助けないと!」
そう言うリサの視線の先では、先程から何が起こっているのか解っていない盲目の少女が立ち竦んでいる。先程の戦闘で、紅月はその少女に手が届く位置に来ている。完全に紅月の刀の間合いに入ってしまっているのだ。だが、シオンはリサの心配を切り捨てた。
「平気だよ、あの娘は。今危険なのは、リサの方だ。」
「何を言って・・・!危ない!」
リサの視線の先で、立ち竦む少女に向けて紅月が刀を振り下ろそうとしている。思わず駆け出そうとするリサを、シオンが抑える。そうこうする間に、紅月の刀が少女に向かって振り下ろされた。
「!!」
思わず目を瞑るリサ。が、暫く経っても何の音もしない。不思議に思って目を開いたリサは、其処に信じられない光景を見た。

「・・・娘、何故避けようとしなかった?」
紅月の質問が、静まり返った空気を振るわせる。紅月が振り下ろした筈の刀は、少女の体に届く事無く静止している。
「避ける事なんて出来ませんよ。私は目が見えませんから。それに、避ける必要もありませんし。」
「何だと・・・?」
事態を把握しているのかいないのか、紅月に話し掛けられた少女は、普段通りの態度で答える。避ける云々の台詞から、自分が刀を向けられている事は把握しているようだ。だが、リサからすれば、少女の態度は正気の沙汰とは思えないものだった。
「何やってるんだい、早く逃げな!!」
「大丈夫ですよ。この方は・・・怖くなんて無いですから。」
そう言って、紅月に対し微笑みかける少女。紅月は、戸惑うように声を発する。
「娘・・・私が恐ろしくは無いのか?」
「恐ろしい事なんて無いです。貴方は・・・とても優しくて、哀しい心の色をしていますから。」
少女の言葉に、紅月は思わずよろめく。そして、その手にした刀を取り落としてしまう。
「・・・斬れぬ・・・私には・・・この娘を斬る事は・・・出来ぬ・・・!」
吐き出すように呟く紅月。同時に、紅月が纏っていた殺気が薄れ、周囲を満たしてた張り詰めた空気も、僅かずつではあるが和らいでいく。そんな中、リサは信じられないと言った表情で呆然と呟く。
「一体・・・何がどうなって・・・」
「あの少女の所為だろうな。あの娘は紅月を怖れていない。憎む事もしていない。紅月を構成する負の感情とは真逆の、正の感情・・・優しさや労わりと言った感情を向けられた所為で、紅月が自分を維持出来なくなっているんだ。」
「何・・・だって・・・?」
「・・・初めに言った筈だ。負の感情によってこの世界に自分を繋ぎ止めている紅月は、人に憎しみや恐怖等の負の感情を抱かれなければ、この世に存在し続ける事は出来ないとな。」
シオンに言葉で、何かに気付いたように愕然とするリサ。その口から、震える声が流れ出す。
「憎まれなければ存在出来ない・・・私と一緒じゃないか・・・!憎む事でしか自分を維持出来なかった私と・・・!」
呆然としたまま、フラフラと紅月の前まで歩み寄るリサ。そのリサを見て、紅月は落ちている自らの刀を拾い、それをリサに差し出した。
「女よ・・・この刀を受け取るが良い。この刀なら、私を一撃の下に消滅させる事が出来る。・・・私自身は覚えていないが、私はお前の弟の仇なのだろう?お前には、私を討つ理由と権利がある。さぁ・・・受け取れ。」
差し出された刀を、だがリサは受け取らなかった。唯、疲れたような笑みを浮べ、自分に言い聞かせるように言葉を紡いだだけだった。
「私は・・・その刀を受け取れないよ。今の私に、あんたを討つ事は出来ないからね・・・。尤も、あんたを許す事も出来そうには無いんだけど。」
そう言うと、再び疲れたような笑みを浮べるリサ。その笑みは、ひどく疲れた様子なれど、何か憑き物が落ちたような感じがした。とその時、優しい歌が辺りに響いた。すると、項垂れていた紅月がその歌に反応した。
「この・・・歌は・・・まさか!?」
「やっぱり・・・貴方だったのね・・・」
紅月の反応を受けて、歌う事をやめた花が嬉しさと哀しさを同居させたような声を出す。その花に、紅月がゆっくりと近付いて行く。そして花の傍らにしゃがみ込むと、その花を優しく両手で包んだ。
「まさか・・・このような形で再会出来ようとは・・・!」
「紅月・・・」
「ずっと・・・ずっと捜していた・・・!」
「私も・・・ずっと貴方を待っていました・・・!」
感極まったように、言葉を搾り出す恋人達。と、紅月の体が淡い燐光に包まれ、その傍らに優しげな風貌の、妙齢の女性の姿が現れる。その姿もまた、淡い燐光に包まれている。
「願いが叶い・・・晴れて成仏出来る・・・か。」
シオンの言葉通り、二人の体は淡い燐光に包まれながら、僅かずつ薄らいで行く。そんな二人のうち、女性の方が少女に向けて話し掛ける。
「ありがとう、今まで私の話し相手になってくれて・・・」
「そんな、私の方こそ・・・何時も綺麗な歌を聞かせて下さって、ありがとう御座いました!」
互いに礼をし合い、そして同時に笑いあう二人。境遇も年も違えど、二人は確かに友達であったようだ。
「女・・・リサ、と言ったな。謝って済む問題では無かろうが・・・今は誤る事しか出来ぬ・・・済まなかった・・・」
今度は紅月が、リサに対し謝罪する。そんな紅月に対し、リサはホンの僅かな笑みと共に、言葉を贈る。
「良いさ・・・今更、ね。今は折角再会できた恋人を幸せにしてあげる事を考えてな。それが出来たら・・・許してあげるよ。」
「・・・ありがとう・・・」
リサの言葉に、初めて笑顔を浮べる紅月。そして、紅月とその恋人の二人は、燐光と共に空へ消えていった。残された3人は何を喋る事も無いまま、唯その場で空を見続けていた。紅月達がこの空の先にある場所で、幸せに暮らせる事を願いながら・・・。


「そうか・・・紅月は逝ったか・・・」
しみじみとカッセルが呟く。あれから、街を出るという少女を見送った後、リサとシオンはカッセルの所に報告に来ていた。
「爺さん、あんたこうなる事を知っていたのかい?」
「全てを知っていた訳ではない。唯、リサがあの少女と会う事を狙っていただけに過ぎんからの。このような形で紅月が成仏出来るというのは、流石に予想外じゃった。」
「そっか・・・。」
そこで話が途切れ、何となく黙ってしまう二人。シオンは元から喋っていない。そんな静寂を破るように、カッセルがリサに尋ねる。
「それで・・・お主はこれから如何するつもりなのじゃ?」
「ん?そうだね・・・紅月も居なくなったし・・・これ以上傭兵を続ける理由も無いしね。この街に腰を落ち着けようかと思ってる。私の件は片が付いたけど、坊やの件はまだ片付いてないんだしね。」
そう言って微笑むリサ。その微笑みは、嘗てのような自身の心を無理矢理押し込めた痛ましいものではなく、心からの笑みだった。カッセルとシオンに礼をすると、リサはカッセル宅を出て行った。
「雨降って地固まる、か。」
リサが出て行った後、それまで黙っていたシオンがポツリと呟く。
「ふむ?この場合用法が違うのではないかの?」
「そうか?ニュアンス的には間違ってないと思うが・・・何にせよ、これでリサも落ち着けるだろ。」
「そうじゃな・・・。時にシオンよ、良い茶葉が手に入ったんじゃが・・・如何じゃ?老骨の昔話に付き合うつもりは無いかの?」
「・・・今日は時間に余裕があるしな。偶には老人の暇つぶしに付き合うか。」
こうして、エンフィールドの平和な時は過ぎて行った・・・。


Episode:33・・・Fin

〜後書き〜
どうも、刹那です。リサの話、紅月との決着編です。
ゲームの方と殆ど変わってませんが、元がしっかり完結してるので、変えようが無いんですよね(汗)
因みに、サブタイトルの英文は、32話が『縛鎖の根源』と言う意味で、紅月が今のような状態になってしまった事を語る部分と被せています。33話の方は『呪われた運命の終焉』で、これは紅月とリサの双方に言える事です。憎しみの中でしか生きられない紅月と、憎しみ続ける事でしか自分を維持出来なかったリサが、其々の形での決着をつけた、と言った所ですね。・・・文法的な突っ込みは無しにして下さいね(汗)
それでは、Episode:34でお会いしましょう。
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