中央改札 交響曲 感想 説明

光と闇の交響曲Episode:38
刹那


悠久幻想曲SideStory
−光と闇の交響曲−

Episode:38 終わりへと至る前奏曲


エンフィールドの北部に広がる広大な森、『誕生の森』。その森の中心に程近い場所に、シオンは佇んでいた。
「スゥゥゥ・・・」
瞳を閉じ、ゆっくりと息を吸い込んでいく。そして肺が空気で満たされると、今度はそれを一気に吐き出す。
「ハッ!!」
ドンッという音と共に、シオンの力が解き放たれる。強大な力の波動が、木々を薙ぎ倒し、草花を押し潰して行く。更に、周囲の空間そのものがミシリという音を立てて軋み始める。それを確認したシオンは、解放していた力を抑え込んだ。
「フゥ・・・。5%も解放していないのに、周囲の空間に影響を与えてしまうか・・・。せめて、半分位は解放出来るかと思ったが・・・」
呟きを漏らしながら、右手を翳す。翳した右手から光が溢れ、周囲を包んでいく。その光が収まると、薙ぎ倒された木々や潰された草花が、たちどころに元通りになっていく。それを確認すると、シオンは身を翻した。
「・・・さて・・・奴が動くのを待つか・・・それとも、此方から仕掛けるか・・・」


「チッ・・・アレが『オリジナル』の本当の力って訳か・・・解っていたとは言え、これ程差があるなんてな・・・」
無機質な壁に囲まれた奇妙な部屋の中、シャドウが忌々しげに吐き捨てる。その眼帯に隠された視線を、部屋の中央にある奇妙な装置のような物に向ける。
「フン・・・まぁ良い。少なくとも、あの屑どもの思い通りにはいかない事だけは確実だからな。後は・・・俺と貴様の、どちらが生き残るか・・・」
呟きながら、目の前の装置を操作する。幾つかのボタンを押すと、中央のディスプレイのような部分に、映像が映し出される。
「このまま・・・このままあの屑どもの操り人形のままでは終わらねぇ・・・終わらせてたまるかっ・・・」
声に怨嗟の響きを滲ませながら、シャドウは一つのボタンを押す。次の瞬間、エンフィールドを過去数十年間類を見ない大地震が襲った。


カランカラン♪

「ただいま。・・・如何したんだ?皆集まって」
シオンがジョートショップに戻ってくると、リヴィングに何時ものメンバーが勢ぞろいしている。
「いや、俺等も今来た所なんだけどさ。」
「アリサさんに、話しがあるからって呼ばれたんだ。そう言うシオンこそ、何処行ってたんだ?今日は仕事休みだろ?」
「ちょっとな。それで、アリサさんは?」
「今コーヒー煎れてるよ。もう直ぐくるんじゃないか?」
「ふぅん・・・」
相槌を打ちながら、空いている椅子に座る。シーラやパティ、トリーシャの姿が見えないのは、アリサの手伝いをしているからだろう。シオンはそう当たりをつけた。
「そう言えば、今さっき地震があったが・・・家具なんかは大丈夫だったか?」
「ああ、それなら問題無いよ。一応、あんたの部屋も確認しておいた。」
「そうか、悪いな。」
「お待たせ、皆。あら、シオン君も帰っていたのね。」
キッチンの方から、お盆にコーヒーカップを乗せたアリサが出てくる。シーラとパティも同様にお盆を持ち、トリーシャはお茶菓子が入った小さなバスケットを持ってきている。全員に飲み物が行き渡ったのを確認してから、アリサが話を切り出した。
「今日皆に集まって貰ったのは、私から皆に依頼したい事があったからなの。」
「依頼ですか?」
「実はね、皆に今この街で頻発している地震の原因を調べて欲しいの。」
『??』
アリサの言葉に、皆一様に顔を見合わせる。唯一人、シオンだけを除いて。
「アリサおば様、地震の原因と言っても・・・」
「家の研究所に聞いたほうが早いんじゃないかなぁ?自然現象のことでは、マリア達は素人なんだし。」
マリアの言葉に、皆が頷く。確かに、マリアの言い分は正しいように思える。だが、何故かアリサは引かなかった。
「そうね、確かに今回の地震が唯の自然現象なら、私達が気にするような事ではないわ。」
「じゃぁ・・・」
「でもね、私は今多発している地震が、唯の自然現象だとは思えないの。何て言うのかしら・・・こう・・・人為的な、悪意のような物を感じるのよ。」
そんなアリサの言葉に、皆は再び顔を見合わせる。そんな皆に、アリサは言葉を続ける。
「身勝手なお願いだと言う事はわかっているわ。請けてくれなくても構わない。如何かしら?」
顔を見合わせたまま、考え込む皆。僅かな間を挟んで、若干腑に落ちないと言う雰囲気を残しながらも、全員が頷いた。
「まぁ・・・アリサさんには普段からお世話になってるしね。」
「それに、アリサさんの言う事がもしも本当だったとしたら、大変な事になってしまうし。」
「俺等でどの程度の事が出来るかはわかんないけど・・・請けさせて貰いますよ、その依頼。」
「ありがとう、皆。」
嬉しそうな表情を浮べ、礼をするアリサ。と、今まで黙って話を聞いていたシオンが、突然口を挟んだ。
「悪いが・・・俺はパスする。」
「シオン?パスって・・・何で?」
「個人的に、少し調べたい事があってな。それが早く終わるようなら、俺も皆に合流させて貰う。」
「そっか。なら仕方ないな。正直シオンが居ないのは結構痛いが・・・ま、俺等で何とか調べとくよ。」
アレフがそう言うと、皆は連れ立って店を出て行く。シーラ達女性陣はまだ若干寂しそうにしているが、我侭を言ってシオンを困らせるような事をするつもりは無いようだ。そんな彼等に、シオンが声をかける。
「行く前に、俺から助言を一つ。もし誰かに聞くのなら、科学研究所よりもカッセルに聞いた方が良い。」
「?何で?」
「行けば解る。」
「あ、そぅ・・・。まぁ良いや、ンじゃ先ずはカッセル爺さんの所に行くぞ!」
アレフの言葉に、皆が頷く。シオンが居ない間のリーダー役は、アレフが引き受けたようだ。シオンは店を出て行く皆を見続けていたが、やがて全員が視界から消えると、視線をアリサに移した。
「アリサさん」
「?如何したの、シオン君?」
「・・・今まで、お世話になりました。」
「え・・・?」
いきなりの言葉に、唖然とするアリサ。ホンの一瞬だけ笑みを浮べると、シオンは席を立ち、店を出ようとする。アリサは慌てて、シオンに声をかけた。
「シオン君、お世話になったって・・・どうして、そんなお別れみたいな事を言うの?」
「・・・まぁ、一応の保険です。言いそびれる事になったら困りますからね。」
「保険って・・・」
尚も何か言いたそうにするアリサに背を向け、シオンは店を出た。直ぐ後ろから、自分を呼ぶアリサの声が聞こえたが、それを黙殺し、目的地に向かって歩き出した。歩き出す直前、ポツリと呟きを漏らす。
「・・・さよなら・・・」


街を歩いている最中、其処此処で会話を交わす人が見える。恐らく、この頻発する地震に関して話しているのだろう。エンフィールドの街で、これ程地震が頻発した事は、今まで無かった事だ。それ故、会話を交わしあう人々の表情は、些か不安げだ。尤も、地震が比較的多い地域でも、今のエンフィールドの状態は驚きに値するだろう。何せ、数分おき、早いときでは1分もかからない間隔で、比較的大きい地震が起こっているのだから。
「・・・前例の無い事態に陥れば、こうもなるか・・・」
呟き、自分の言葉に苦笑するシオン。
「前例が無いと言っても、100年くらい前までは、普段からこんな感じだったんだが・・・。時が移ろえば、人も変わる・・・か。」
そんな事を呟きならが歩く内に、目的地である教会に近づく。と、シオンの眼に奇妙な人垣が映った。道の外れ、数十人の人が何かを取り囲んでいるようだ。と、その人垣の中心から、声が聞こえて来た。結構離れているのに聞こえてくるあたり、かなり大声で喋っているようだ。
「良いかっ、今この地を襲っている地震は、全てが滅ぶ破滅の予兆なのだっ!!」
「?」
不穏当な内容に、些か興味を持ったシオンは、その人垣に近付いてみた。その人垣の中心では、ボロボロのローブを纏い、フードを目深に被った『いかにも』な人物が、声高に叫んでいる。露出している肌や声の調子から、恐らくかなりの高齢者だろう。
「良いか、今より数刻の後、あの山が噴火する!それは、神の怒りを示すものなのじゃ!!」
「お、おい・・・あの山って・・・」
「雷鳴山だろ?噴火って言ったって・・・」
「いや、わしは聞いた事あるぞ。雷鳴山は、昔は活火山だったらしい。」
ローブの老人の言葉で、周囲にざわめきが疾る。そのざわめきに煽られるように、老人は更に叫ぶ。
「火山が噴火すれば、この街は滅ぶ!だが、それは始まりに過ぎぬのだ!この街を皮切りに、神の怒りが世界を滅ぼすであろう!!」
老人が叫んだ瞬間、比較的大きな地震が起きる。突然の事に、軽い恐慌状態に陥る周囲の人々。偶然と言ってしまえばそれまでだが、この異常とも言える状態が、老人の言葉に真実味を持たせていた。地震が収まると、人々は一斉に縋るような視線を老人に向ける。老人は解っていると言わんばかりに頷き、声高に叫ぶ。
「神のお怒りを鎮めぬ限り、この世の破滅を逃れる術は無い!」
「如何すれば良いの・・・?」
「そうだ、その方法を教えてくれ!」
「神の怒りを鎮めるには、神の怒りを買った者を生贄として差し出せば良い!そう、神の怒りを買いし者・・・即ち、汝シオン=ライクバーン!!」
叫び、それと同時にシオンを指差す老人。それに釣られるように、周囲の視線がシオンに集まる。
「シオンを生贄に?」
「こいつを生贄にすれば良いんだろ?」
「だけど・・・」
「良いじゃない、どうせその人は余所者なんだし。」
「そうだ、考えても見ろ!こいつが来てから、この街は変な事が沢山起きてるじゃねぇか!」
「やっぱりこいつは疫病神なんだ!」
「殺せっ!疫病神を殺せっ!」
口々に勝手な事を言い、終いには殺せとまで言い始める。だが、そんな彼等をシオンは無視し、老人を睨みつける。
「・・・何の真似だ、シャドウ?」
「何の事かな?わしは唯の預言者。シャドウなどと言う者は知らぬな」
「ふん・・・こんな馬鹿共をけしかけて、俺の憎しみを煽るつもりか?幼稚だな。」
「何だとっ!?」
「誰が馬鹿だ!」
シオンの言葉に、老人ではなく周囲の人が反応する。シオンは煩そうに一瞥しただけで、再び視線を老人に戻す。が、一瞬視線を逸らした間に、老人は姿を消していた。
「ちっ・・・まぁ良い、奴の居場所は見当がついている・・・」
呟きながら踵を返し、その場を立ち去ろうとするシオン。が、逃がさないとばかりに、周囲を人々が取り囲む。その眼に映るのは、紛れも無い敵意。
「・・・何の真似だ?」
「五月蝿い!お前を生贄にしなきゃ、俺等は此処で死んじまうんだ!!」
「そうだそうだ!この疫病神め!!」
またも口々に勝手な事を叫び始める住人達。いい加減煩わしさにシオンが切れかけた時、聞き慣れた声が聞こえて来た。
「ちょっと貴方達、いい加減にしなさいよ!!」
「・・・ローラ?」
声に人の輪が崩れる。其処に姿を見せたのは、ローラだった。表情を紛れも無い怒りに染めたその姿は、言い知れぬ威圧感を放っている。気圧される住民達。
「さっきから聞いていれば、身勝手な事ばかり言って!何でもかんでもお兄ちゃんの所為にして・・・恥ずかしくないの!?」
「だけど、こいつは・・・」
「言い訳しないで!お兄ちゃんはね、今まで一生懸命頑張ってきたんだよ?それなのに、あんな怪しい人の言葉を鵜呑みにして、お兄ちゃんを責め立てて・・・何考えてるのよ!!」
ローラの言葉に、些かバツの悪そうな表情を浮べる住人達。だがそれは、自己の行動を反省しての事ではない。あくまで、自己保身の為だ。その証拠に、住人達の眼は卑屈そうに歪んでいる。それを見たローラは、更に怒りの感情を募らせる。
「貴方達の中に、お兄ちゃんに助けられた人がどれだけ居る!?皆お兄ちゃんのお世話になった人ばかりじゃない!!それなのに「ローラ、もう止せ」
シオンがローラに歩み寄り、尚も言い募ろうとするローラを止める。弁護しているシオンに諌められたローラは、不服そうな顔を見せた。
「お兄ちゃん・・・」
「ほら、行くぞ。」
「あ、待ってよ!」
何か言いかけたローラだが、シオンがさっさと行ってしまった為、慌てて追いかけた。二人が教会の中に入るまで、住民達は恨めしげな視線を向け続けていた。


「ホンッとに腹立つ!!何なのよアレ!?」
「落ち着けって・・・」
「お兄ちゃん、あんな事言われて悔しくないの!?」
憤懣冷め遣らぬ様子のローラに苦笑しつつ、シオンは溜息混じりに言った。
「・・・気にするだけ無駄だからな。所詮、彼等はああいう人種なのだから。」
「う〜・・・私は許せないよ。だって・・・お兄ちゃん、あんなに一生懸命頑張って・・・それなのに・・・お兄ちゃんが可哀想だよ・・・」
尻すぼみに声が小さくなっていくローラ。終いには、涙ぐんでしまった。
「・・・優しいな、ローラは。その言葉だけで、俺は十分だよ。」
「お兄ちゃん・・・」
優しい微笑を浮かべるシオンの様子に、ローラも泣き止む。今自分が涙を見せれば、目の前の人は余計悲しんでしまうと知っているから。涙を引っ込めたローラは、多少わざとらしい位、明るく振舞った。
「そ、そうだ!お兄ちゃん、この教会に用があったの?」
「ん?ああ、そうだな。神父様は居るか?」
「うん、ちょっと待っててね!」
頷き、隣室へと消えるローラ。直ぐに神父を連れ、ローラが戻って来た。
「シオン君ではないですか。如何したのです?」
「ちょっと頼みたい事があってね。」
「頼み?」
「・・・其処の女神像を破壊させて欲しい。」
「!?」
いきなりな頼みに、唖然とする神父。ローラも呆然としている。驚きから立ち直った神父が、搾り出したような声で尋ねる。
「し、シオン君?いきなり何を・・・冗談かね?」
「冗談でこんな事を言いやしない。・・・駄目か?」
考え込む神父。それはそうだろう。説教台の後ろに聳え立つ大きな女神像は、言わば教会のシンボルであり、信心の証明でもあるのだから。だが、暫し考え込んだ神父は、やがて吹っ切ったような、晴れやかな顔を見せた。
「・・・解りました、シオン君を信じさせて貰いましょう。君がそんな事を言うのだから、大切な事なのでしょう?」
「・・・すまない、礼を言う。」
神父の判断に感謝し、礼をすると、女神像の前まで歩み寄る。
「砕けろ」
女神像に手を添え、小さく呟く。と、手を添えた部分を中心に、女神像に亀裂が疾る。次の瞬間、女神像は木っ端微塵に砕け散った。もうもうと立ち込める煙が晴れると、シオン達の前に大きな扉が姿を見せた。今まであった女神像に、丁度隠されるようになっていたのだ。
「これは・・・」
「神父様、もう一つ頼みたい。」
「何ですか?」
「俺はこれから、この扉の先に行く。俺が戻ってくるまで、誰もこの扉の先に進ませないで欲しい。」
シオンの言葉に、怪訝そうな表情を見せる神父。が、悩むような事でもないと思ったのか、直ぐに頷いた。
「ふむ・・・それくらいなら、構いませんよ。しかし、この扉は一体・・・?」
怪訝そうな呟きを漏らす神父には答えず、扉を開けるシオン。扉の向こうには、明らかに人為的に作られたと解る洞窟があった。そこに足を踏み入れようとした時、ローラが呼び止めた。
「ちょっと待って、お兄ちゃん。」
「?何だ?」
「私も連れて行って欲しいの。」
ローラの言葉に、今度はシオンが怪訝そうな表情を見せる。ローラは必死の表情で、更に頼み込む。
「お願い、足手纏いにはならないから!何でか解らないけど、私この向こうに行かなきゃいけない気がするの。だから、お願い!」
「・・・フゥ・・・止めても無駄そうだな。解った、ついて来い。」
「あ、ありがとう、お兄ちゃん!」
溜息をつきながら承諾し、さっさと歩き出すシオンと、慌ててそれを追うローラ。二人の姿が洞窟の奥に消えると、扉は重い音を立てて閉じた。一人その場に残った神父は、今は壊された女神像に、祈りを捧げる。
「我が主よ・・・彼等を護りたまえ・・・」


洞窟内に入ったシオンとローラは、最深部目指して走り続けていた。途中、怪しげなレバーを見つけた二人は、そこで立ち止まる。
「・・・如何すれば良いと思う?」
「ん〜・・・右側を上げる!」
「なら、それでいこう。」
ローラの言う通りにレバーを操作し、再び走り出す。塞がれていた筈の洞窟内にどうやって進入したのか、時折魔物が襲い掛かってくる事もあったが、現れた次の瞬間には、シオンに切り裂かれていた。幾つかトラップもあったようだが、発動する前にシオンに無効化された。かなり快調なペースで走る二人の眼に、再びレバーが映った。
「・・・今度は?」
「さっきと同じで、右側を上げる!」
「了解。」
やはりローラの指示通りにレバーを操作し、走り出す。数分ほど走ると、二人の前に石造りの扉が姿を現した。どうやら其処が、この洞窟の終着点らしい。シオンはその扉を押し開く。その扉は、何かの神殿のような造りの建物に続いていた。躊躇う理由も無い二人は、さっさと奥へと進んでいく。と、今度は3つの木製の扉が見えてきた。
「ふむ・・・どこが良いと思う?」
「えっと・・・真中!何でか解らないけど、そんな気がする・・・」
「解った。なら、真中だな。」
頷き、真中の扉を押し開くシオン。奥へと続く廊下の先に、やはり同じ様な木製の扉がある。その扉の前には、棺のような物が置かれていた。
「あ、あの棺・・・なんだか、懐かしいような感じがする・・・お兄ちゃん、開けて貰える?」
頷き、無言で棺を開くシオン。その棺の中にあったのは、眠るかのように横たわる、ローラの体だった。
「私の・・・体・・・こんな所にあったなんて・・・」
「良かったな、ローラ。これでちゃんとした体を持てる。」
「うん!・・・あ、でも・・・どうやって戻ったら良いのかなぁ?」
「本体に自分を重ねるようにすれば良い。直ぐに元に戻れる筈だ。」
シオンに言われた通り、自らの体に重ねるように横たわっていくローラ。二つの体が完全に重なった瞬間、ホンの一瞬だけ、燐光を放つ。その光が収まると、ゆっくりとローラはその眼を開いた。
「・・・おにい・・・ちゃん・・・?」
「ちゃんと体に戻れたみたいだな。気分は?」
「うん・・・ちょっとだるいけど、凄く嬉しいんだ・・・」
覗き込むシオンに、本当に嬉しそうな笑顔を見せるローラ。そんなローラに、シオンもまた微笑を返した。
「ローラ、今からトーヤの所に転移させる。事情の説明は出来るか?」
「ん・・・大丈夫だよ・・・」
「良し。」
頷き、手を翳すシオン。すると、ローラの体が淡い燐光に包まれる。
「ねぇ、お兄ちゃん?」
「ん?」
「私の病気が治ったらさ・・・デートしてね・・・?」
「・・・治ったらな。」
シオンが頷いてみせると、ローラは嬉しそうに微笑む。
「・・・約束・・・だよ・・・」
そんな言葉を残し、ローラはトーヤの元へと転移していった。それを見届けたシオンは、ゆっくりと立ち上がり、目の前の扉に歩み寄る。
「・・・約束・・・か。守れるかどうかは・・・怪しいものだが、な・・・」
呟き、扉を押し開いた。


扉の向こうには、奇妙な部屋が広がっていた。中央に設置された何らかの装置らしき物。それから伸びた無数のコード。他には何も無い。殺風景な石の壁に囲まれたその部屋は、何故か寂しさを感じさせた。
「・・・漸く来たか。」
突如聞こえてくる声。中央に設置された装置の傍らに、人間大の大きさの闇が渦巻いている。声は其処から聞こえてきたようだ。シオンが注視する中、その闇からゆっくりと人が姿を表した。身に纏うのは漆黒の拘束衣、その視線を覆う眼帯には、禍々しい瞳が描かれている。その身から発するのは、圧倒的な邪気。
「・・・お望み通り、来てやったよ・・・シャドウ」


Episode:38・・・Fin
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